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第28話:補給強奪作戦と黒鉄の戦術



 金の灰が舞う真夜中、第3セクターの路地裏は、腐ったヘドロと硫黄の悪臭に満ちていた。

 視界を埋め尽くす黄色い霧の向こうから、ガタゴトと重い鉄輪のきしみ音が近づいてくる。


 教会の黒鉄装甲で固められた補給馬車だ。

 イタロの持ち出したスケジュールの通り、護衛は周囲を歩く6人の重装兵のみ。下層地区が完全に恐怖に屈服していると油断しきった、極めてスカスカな陣形だった。


『作戦配置:完了』


 俺は外套の下で2本の細身の剣の柄に指をかけ、額にある1センチの小さな角の熱源センサーを最大に開いた。

 頭上の崩れた物見櫓の屋根には、魔改造クロスボウを構えたコリン。

 俺の隣には、軍事圧縮主砲をいつでも解き放てるフレヤが控えている。


「ボス……馬車がチョークポイントに入るぜ」


 闇の中から、28歳の巨漢――イタロが野太い声で囁いた。

 奴は削り取られた女神の紋章の入った重装鎧を軋ませ、凹んだタワーシールドを構え直す。


「よし」


 俺は一切の幼児性を排した十歳の冷徹なトーンで応じた。


「イタロ、前衛を叩き潰せ」


「了解だ」


 巨漢の騎士が、ヘドロを蹴立てて路地裏の真ん中へと突撃した。

 補給馬車を牽引する2頭の軍馬が、闇から現れた黒鉄の質量に気づいて激しく嘶く。


「教会の狂信者どもッ! 俺の盾を喰らいな!」


 ドンッ!!!


 凄まじい金属衝突音が、不浄な路地裏に響き渡った。

 イタロの放った渾身のシールドバッシュが、先頭の軍馬の胸骨を粉砕し、数トンに及ぶ装甲馬車をその場に強制停車させたのだ。

 馬車は激しく横転しかけ、黒鉄の装甲板が花崗岩の壁に擦れて激しい火花を散らす。


「な、何事だ! 敵襲――」


 御者台の兵士が叫ぼうとした瞬間。


 ヒュンッ!


 頭上の闇から、空間を引き裂くような高張力の風切り音が響いた。

 コリンの放った魔改造ボルトが、御者の眉間を正確に貫通し、後頭部から脳髄を撒き散らして即死させた。奴は人形のように御者台から泥の中へと転がり落ちる。


「右翼の2人をやる! フレヤは左翼を牽制しろ!」


 俺はヘドロの上を影のように滑り進んだ。十歳の小柄な体躯は、混乱する兵士たちの死角へと完璧に入り込む。


 引き抜いた2本の細身の剣。

 刃の分子構造の内側へと圧縮された魔力により、両刃의切っ先は無音のまま、空間を歪める高周波の熱振動を宿していた。


 1人目の重装兵が、イタロのタワーシールドに剣を叩きつけている背後にチェックイン。


 パキンッ。


 外科手術のような正確さで、俺は細身の刃を奴の膝裏へと滑らせた。

 超高波を宿した鋼鉄は、黒鉄の装甲ごと膝の腱をバターのように滑らかに切断する。


「が、あぁぁぁッ!?」


 兵士が悲鳴を上げてヘドロの中に片膝を突いた瞬間、俺の左の刃が奴のうなじの隙間へと滑り込んだ。

 熱振動が頸椎を一瞬で融解させ、溢れ出た鮮血がジュウジュウと音を立てて蒸発する。奴は声帯を失った血の泡を吐き出しながら即座に絶命した。


「このガキ……何者だッ!」


 隣にいた2人目の重装兵が、恐怖に顔を歪めて俺へとクロスボウの銃口を向けようとする。

 だが、遅い。


 俺の軍人としての脳は、奴のトリガーに指が引き金にかかる一ミリ秒前を完全に予測していた。

 身体を低く沈め、奴の懐へと潜り込む。クロスボウの矢は俺の頭上を虚しく通り過ぎ、背後の壁へと突き刺さった。


すれ違いざま、俺は2本の細身の剣を奴の脇腹の装甲の継ぎ目へと突き刺した。


 ――ズブ。


 高周波の熱が、奴の肋骨を硬質の粘土のように焼き切りながら、内臓を内側から沸騰させていく。

 兵士はバイザーの隙間からドロドロの焼けた血を噴き出し、ドサリと床のヘドロへと崩れ落ちた。


左翼では、フレヤの【濃密な炎】のボルトが音もなく放たれ、残りの兵士2人の胸の装甲を綺麗に消し飛ばし、心臓を炭化させていた。イタロの正面にいた最後の1人も、奴のタワーシールドの容赦ないエッジで頭蓋を叩き割られ、ピクピクと痙攣しながら絶命した。


 わずか数十秒。

 教会の精鋭分隊は、一切の抵抗もできぬまま、下層の泥濘の中で全滅したのだ。


 路地裏には、鉄が冷えるジュウジュウという音だけが残された。


「……信じられない」


 イタロはシールドにこびりついた教会の兵の血を拭いながら、十歳の俺の戦闘速度を限界まで見開いた瞳で見つめていた。

 奴の脳裏にあった「幼児」という仮面は完全に消し飛み、本物の『冷徹な将軍』への恐怖と敬意がその身体を硬直させていた。


「教会の重装甲が、まるで濡れた紙のように引き裂かれた……。あんた、本当に人間なのか?」


「仕事の時間だ、イタロ」


 俺 es 剣を鞘に収めながら、感情の抜け落ちた声で告げた。


「コリン、上から降りてこい。死体の剥ぎ取りを始めるぞ」


「言われなくても行くわよ、不気味な怪物」


 コリンが物見櫓から猫のような敏捷さで飛び降り、ニヤリと強欲な笑みを浮かべた。奴の狂暴な物欲が再点火している。


『戦利品回収』


 横転した装甲馬車の鍵をイタロの軍刀で叩き割り、内部に格納されていた教会の最高級の兵站物資を、俺たちのインベントリへと確実にマージした。


1.**ルーン銀の長剣4本と、防衛用ルーン銀の矢箱(60発入り):**

 教会の高位騎士が使用する、魔力伝導率が極めて高い希少金属の武器。コリンのクロスボウの弾力をさらに工作強化するための最高のレア素材だ。


2.**白小麦粉の袋3つと、最高級の塩漬けの牛肉:**

 不毛の焦土において、貴族しか口にできない本物の「綺麗な食料」。これまでの焦げた蕈の糧食とは比べ物にならない、パーティの健康度を跳ね上げる最高のロジスティクス物資。


3.**教会の第3セクター検問所の【通行印章】:**

 これがあれば、下層地区のバリケードをイタロの先導なしでも自由にフリーパスできる、極めて重要な進行アイテム。


「本物のパンが食える……」


 フレヤは白小麦粉の袋を愛おしそうに抱きしめ、その十八歳の瞳に純粋な歓喜のドパミンを浮かべていた。地上の神殿にいた頃の飢えのトラウマが、この兵站の勝利によってまた一つ上書きされていく。


「これで下層の移動ルートは掌握した」


 俺は通行印章を戦術袋へと仕舞い込み、十歳の冷徹な瞳を教会の防壁の奥へと向けた。


「イタロ、次の補給線の位置を案内しろ。光の教会は、自分たちの兵站が、俺たちの戦闘力へと変換されている現実に、間もなく shadow その血を以て気づくことになる」




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