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第26話:異形の人間盾と魔剣の初陣


 バルガスの装甲馬車から放り出された俺たちが足を踏み入れたのは、都市要塞の下層地区スラム――泥と下水のグリスが混ざり合った悍ましい路地裏だった。行商人の馬車は金の灰が舞う黄色の霧の中へとすぐに消え去り、俺たちを置き去りにした。


 ここの空気は重く、アンモニアと死臭が混ざり合った不快な悪臭が肺を焼き尽くそうとする。俺は外套の下で2本の細身の剣の位置を調整し、額にある1センチの小さな角の熱源レーダーを作動させた。大気の魔術静電気は激しく明滅していたが、百メートル先から数十個の混沌とした生体反応と、重い鉄靴の足音が俺のセンサーに引っかかった。


「ダリオ……鉄の臭いと、肉が焼ける臭いがするわ」

 十八歳の大人の女性へと成長したフレヤが暗闇の中で囁いた。キャンバスのフードの下で、彼女の瞳が激しい怒りで爛々と輝いている。

「何かを引きずってるわね」


「聖職者どもの犬よ」

 コリンが湿った石壁に背を預け、敏捷な指先で魔改造クロスボウを番えながら吐き捨てた。

「下層前線の黒鉄の軍服を着てるわ」


 俺たちは工作兵の無音の足取りで瓦礫の山をすり抜け、崩壊した処刑広場の角へと這い出た。

 そこで目撃した光景は、前世の戦場ですら見たことのない、光の女神の教会による純粋な【生体テロ(狂気)】のドクトリンだった。


 黒鉄の重装鎧に身を包み、ルーン銀の刻印を施した4人の異端審問官が、一本の太い鉄鎖を力任せに引いていた。その eslabones(鎖の輪)に繋がれ、不浄なヘドロの中を泣き叫びながら引きずられていたのは、5歳から12歳ほどの十数人の難民の子供たちだった。

 だが、彼らは普通の人間ではなかった。迷宮の濃密な魔力に曝され、肉体が悍ましく変異した【異形の子供たち】だったのだ。

 ある男児の左腕は灰色に鱗化して肥大した肉塊と化し、ある女児の両目は一つに融合して薄緑色の発光液を垂れ流す盲目の単眼と化し、別の子供は軟骨が硬化した異形の脚を岩に擦り付けながら悲鳴を上げていた。


「動け、この呪われた奇形どもが!」

 分隊長らしき審問官が、鉄の刺を仕込んだ鞭を盲目の女児の背中へと容赦なく振り下ろした。肉が裂け、生々しい鮮血が泥の中に飛び散る。

「お前たちの汚れた肉(魔力)こそが、外の防壁の底にある熱泥ピットへ不死者ゾンビを誘い込む最高の『生体デコイ(餌)』になるんだよ! お前たちのような異端の命が、純粋な市民を守るための【人間盾スクード・ウマノ】として役に立つことを女神に感謝するんだな!」


「それだけじゃないぜ、分隊長」

 別の衛兵が、腕の肥大した男児の腹を蹴り飛ばし、石に顔を叩きつけて歯を叩き折りながら下俗に笑った。

「前線でゾンビどもにコイツらが喰い千切られた後、回収班がコイツらの『異形の骨』を大聖堂のミルで粉砕するのさ。魔力を孕んだ骨髄カルシウムは、あの不毛の焦土( Tierras Infértiles )で小麦を育てるための【最高の魔法肥料】になるんだからな! 汚い奇形児の死体が、上層地区の貴族様のパンになるんだ。光の栄光だな!」


『教会の兵站ドクトリン:生体誘引および農業リサイクルカニバリズム』

 俺は外套の下で2本の細身の剣の柄に指をかけながら、心の内で冷徹にその軍事システムを分析した。

『子供たちの変異代謝を利用して不死者を熱源誘導し、その後、骨のリン酸カルシウムを処理して要塞内のカロリー生産を安定させる。異端の肉の再利用に基づいた独裁システム。冷酷で効率的……そして、俺が最初に破壊すべき兵站アセットだ』


「ダリオ……」

 フレヤの囁きが、周囲の泥を蒸発させるほどの猛烈な熱量を帯びて響いた。キャンバスの下の角が激しく脈動している。

「あいつらを焼き尽くさせて。今すぐ、灰にしてやるわ」


「だめだ、フレヤ。主砲の爆音は位置を露呈させる」

 十歳の冷徹なトーンで、俺は目の奥の老兵の瞳で彼女を制止した。

「コリンと路地を封鎖しろ。一人も生かして返すな。前衛の4人は俺が屠る」


 ジェレミアスの2本の剣を、無音のまま引き抜いた。

 魔力を外に放出するのではなく、刃の分子構造の内側へと圧縮してインジェクションする。刃は暗闇の中で下俗な火花を散らさないが、その両刃の切っ先は、空間を陽炎のように歪める超高周波の熱振動を宿し始めた。

 俺の無音の魔剣術が、地上のヘドロの中で最初の初陣を迎える。


 十歳の小柄な体躯を活かし、俺はヘドロの上を影のように滑り進んだ。衛兵どもは異形の子供たちの悲鳴をなじるのに夢中で、背後の空間が収縮していることに気づきすらしない。


 ――1人目の重装兵の背後にチェックイン。


 ――パキンッ!


 外科手術のごとき高速の逆交差クロス。超高波を宿した細身の刃は何の抵抗もなく、黒鉄の装甲とルーン銀の結界を濡れた紙のように切り裂き、兵士の脊髄と肺を真っ二つに両断した。

 熱い鮮血が、滑らかな断面から凄まじい水圧で噴き出し、路地の壁にジュウジュウと音を立てて激突する。兵士は悲鳴を上げる間もなく、泥の中にドサリと崩れ落ちて即死した。


「な、何だと……!?」

 分隊長が振り返ろうとしたが、それよりも早く、十歳の俺の脚が奴の膝関節へと軍事的な踏み込み(サイドキック)を叩き込んだ。バキィ、という生々しい破砕音と共に膝が逆方向へと折れ曲がる。


 奴が泥濘の中に崩れ落ちた瞬間、俺の右の刃がヘルメットの喉の隙間へと精密に突き刺さった。刃の熱振動を奴の頸部へと直接解放する。極限の熱が一瞬で奴の声帯を融解させ、頸動脈の血液を沸騰させた。奴はバイザーの隙間から、沸騰した血と膿の泡をブツブツと吐き出すだけで、脳を内側から調理されて即座に絶命した。


 残りの2人は絶望的なパニックに陥り、クロスボウを構えようとしたが、フレヤとコリンのペリメーター(路地封鎖)は完璧だった。コリンが闇から放った魔改造ボルトが1人の左目を正確に貫通して脳髄を爆砕し、北の路地へ逃げようとした最後の1人は、目の前に現れたフレヤの工作用短剣を胸のド真ん中に突き刺され、黒鉄の装甲ごと心臓を炭化されて崩れ落ちた。


 処刑広場は、再び絶対的な静寂に包まれた。残されたのは、鉄が焼ける臭いと、沸騰した体液の悪臭だけだ。


 異形の子供たちは泥の中でガタガタと震えながら、暗闇の中で血の滴る2本の剣を構える黒い軍服の十歳の少年を、その発光する奇形の単眼で見つめていた。


 影から這い出てきたコリンは、十歳の俺の凄まじい外科手術的な戦闘速度( esgrima )を目の当たりにし、その指先から工具の袋を滑り落としていた。奴のテレーザのようなプライドは完全に消失し、脳裏には絶対的な恐怖が上書きされていた。俺がバンカーで七年間磨き上げた隠密魔剣術が、一切の閃光も音も残さない完璧な屠殺技術であることを理解したのだ。


「死体を検分しろ」

 剣を鞘に収めながら、俺は一切の幼児性を排した声で命じた。

「重装甲からルーン銀を剥ぎ取り、ポーチから教会の軍用糧食を回収しろ。こいつらの肉はゴミだが、装備は最初の【地上の戦利品ルート】だ」


『戦術工作:成功。生体アセット(奇形児のネットワーク)の獲得:完了』

 俺は泥の中で震える異形の子供たちを見つめ、心の内で冷徹に戦術をマージした。

『下俗な英雄的ヒロイズムでこいつらを救ったわけじゃない。魔力の変異を宿したこの浮浪児どもは、要塞の下層地区の隠し通路と、防壁における不死者ゾンビの流動パターンを完全に掌握している。こいつらは俺の新しい目(斥候)であり、光の教会を内側から解体するための【反乱インテリジェンス(網)】となるのだ』


 金の灰が舞う黄色の天空を、俺は冷徹に見つめた。

 地上のゲリラ作戦は、最初の6匹の聖職者の犬を屠って幕を開けた。都市要塞のマップは、十歳の工作兵の指揮のもと、奴ら自身の異端審問官の血で塗り替えられようとしていた。



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