第20話:水路橋の突破と伏せられた砲撃
ルーンの隔壁が金属の悲鳴を上げて開き、地底の熱気の洗礼が俺たちを迎え入れた。
俺たちはついに、【大鋳造所の水路橋】へと到達したのだ。
この場所の規模は、純粋な巨大変形建築の極みだった。
目の前に広がるのは古代ドワーフの巨大な地下大聖堂。壁の端は湿った暗黒の中に完全に消え失せている。その中央、底知れぬ奈落の数十メートル上空を、一本の細い花崗岩のアーチ橋が横切っていた。
橋の上には石造りの運河が走り、沸騰した真水と溶けた鉱物の地下川がドロドロと流れている。そこから立ち上る濃厚な蒸気が視界を曇らせ、フレヤの角の紫色の光を歪めていた。
「橋の真ん中に動きがあるわ」
コリンは突如として岩の影に身を隠し、ハンドクロスボウを番えながら、激しい悪態で恐怖を隠そうと囁いた。
「灰の鋳造所の衛兵よ。地底の流刑者ども。見つかったら配管に吊るされるわね。陣地をガチガチに固めてるわ」
俺はフレヤの背中の毛布ハーネスから顔を出し、即座に射線を評価した。
百メートル先、橋の中央の軸線上に、地底ドワーフどもが花崗岩のブロックと巨竜の鱗のタワーシールドで防壁を築いていた。黒鉄の重装鎧を身に纏い、三脚に固定された重クロスボウを構えた6人の兵士。
完璧なチョークポイント。中世のトーチカ(銃座)そのものだ。
フレヤの濃密な炎の主砲は一撃必殺だが、チャージに3秒を要する。開けた地形で十一歳の彼女の肉体はあまりにも脆い標的だ。正面突撃を仕掛ければ、確実にこちらの損害は100%になる。ここは環境の物理法則を逆用すべきだ。非対称かつ間接的な殲滅戦を行う。
俺は視線を真上へと上げた。
ドワーフどもの防壁の真上を、高圧の地下排水管の網が横切っていた。数世紀の歳月と温泉の酸性湿度によって、その黒鉄の配管は激しく腐食している。
「コリン」
俺は幼児の拙い声を使い、袋からもう1枚の金貨を取り出してダークエルフの赤い瞳の前に突きつけた。
「おねえちゃん、あっち。お空(天井)に、矢ぽんってして。音、だして」
コリンは金貨の質量を目にした瞬間、その激しい上昇志向の瞳を輝かせ、敬意の混ざった戦慄を浮かべた。奴は即座に命令を理解した。猫のような俊敏さで左側の影へと滑り込み、遠くの鉄骨に向けてボルトを発射した。
カキィンという鋭い金属音が、洞窟の残響の中に響き渡る。
5人のドワーフ衛兵が、一斉に音のした方向へとタワーシールドを向け、防衛線を逸らした。
だが、分隊長らしき一匹だけは騙されなかった。奴の白い盲目の瞳が、暗闇の中でフレヤの角から漏れ出す紫色の明滅を捉えたのだ。奴は野蛮な咆哮を上げ、三脚に固定された巨大な重クロスボウの銃口を、真っ直ぐに俺たちへと旋回させ始めた。奴の武器のバネはすでに限界まで引き絞られ、俺たちを真っ二つにする鉄の矢が放たれる寸前だった。
「いま、フレヤ」
俺は小さな指で、ドワーフどもの頭上にぶら下がる黒鉄の主配管の結合部を指差した。
「さっきの、ぎゅーってするクギ。あの太いお筒(筒)の、つなぎ目に、ぽんってして」
フレヤは深く息を吸い込んだ。
死者の軍靴を花崗岩の床に強く踏み締め、背中にある俺の体重の軸を固定する。彼女の黒い角が、極限まで濃縮されたドス黒いバイオレットに発光した。虐待の嫌悪、蹂躙された太もものトラウマ、そして喪失の怒りのすべてが、人差し指の先へとチャネリングされていく。
敵の巨大なクロスボウの照準が、フレヤの眉間へと完全にロックされた。分隊長が引き金に指をかける。
『3……2……1』
俺の軍人としての脳がカウントを刻む。恐怖の余地などない。ドワーフが引き金を引くまさに一ミリ秒前、フレヤはエネルギーを解放した。
――瞬閃。
超高圧の圧縮ボルトが蒸気を切り裂き、排水管のリベット結合部へと精密数学のごとき正確さで直撃した。数千度の熱を浴びた古代の鋼鉄が一瞬で液状化し、結合部が完全に破断する。過熱された高気圧が、残りの軍事工作を完了させた。
主配管が凄まじい轟音と共に爆発したのだ。
地質学的な圧力で過熱された数千リットルの熱水と飽和蒸気が、大砲の集中砲火のごとくドワーフどもの防壁へと降り注いだ。炎の爆発ではない。純粋な流体物理の暴力だ。
兵士たちの黒鉄の鎧は、一瞬にして『圧力鍋』へと変貌した。兜の隙間や装甲の継ぎ目から超高温の蒸気が激しい音を立てて噴き出し、一瞬にしてドワーフどもの生体組織を内側から沸騰させていく。
熱湯に遮られた断末魔の叫びは、一秒と持たずに掻き消えた。極限の熱によって鎧の金属が灰色に変色していく中、6人の衛兵は重い金属音を立てて崩れ落ちた。自分たちがどこの三歳の死神に屠られたのかも知らぬまま、その場で絶命したのだ。防壁は破壊され、沸騰した水が奈落へと流れ落ちていく。
コリンは隠れ家で四つん這いになったまま、あまりの身体の震えに革のポーチを指先から滑り落としていた。奴の赤い瞳には、純粋な恐怖と戦慄が刻まれている。奴は丸三日間で100体の死体を見てきたが、三歳児の知略によって生きた人間が一瞬で圧力鍋の具材にされる光景など、見たこともなかった。
俺がフレヤの背中から振り返り、最高に無垢な幼児の笑みを浮かべた瞬間、ダークエルフの少女は恐怖のあまり床を這って後ろへと退がった。奴の階級的な傲慢さは完全に消し飛んでいた。この迷宮の本物の怪物は、環境でも変異種でもない。あの少女の背中に乗っている三歳の赤ん坊だと、その生存本能が理解したのだ。
「通路は開いたよ」
フレヤは冷徹に引き締まった声で言い、新しい軍靴で熱い石を踏み締めながら前進した。
「いい子、フレヤ」
俺は動く方の右手で彼女の肩をパチパチと叩いた。
「おっちゃん(おじさん)たち、スープになっちゃった。次、わるい奴らの、お宝みるの」
『戦利品回収』
溶けた鎧の中で煙を上げる肉体を検分し、俺たちはこのエリート分隊の資産を剥ぎ取り、インベントリへとマージした。
1.**三脚式重クロスボウの引張機構パーツ:**
ドワーフ製の高品質なテンションスプリング。コリンのハンドクロスボウを強化するための工作資材として奴の足元へ放り投げた。奴は俺の目を直視できず、ガタガタと震えながらそれを受け取った。
2.**ドワーフの岩油の瓶3つ:**
熱を強烈に保持する濃厚な化学燃料。フレヤが【濃密な炎】の出力をさらに引き上げるための最高の特訓触媒。
3.**黒鉄貨40枚:**
地底世界で正式に通じる商業通貨。コリンはその黒いコインを強欲に見つめたが、手を伸ばす勇気はなかった。パーティの絶対的な序列が、ここに確定した。
知略は質量を凌駕し、戦略は軍事力を圧倒する。
地図は手に入り、装備は更新され、フレヤの手には高圧の魔術主砲。俺たちの地底征服の進軍は、確実に大鋳造所へと向かってルートを切り開き始めていた。




