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ep.49 合宿1

 第二学年 八月七日 土曜日

 山陽自動車道 三木小野インターチェンジ付近


 蝉時雨が暑さに拍車をかける夏の青空の下、小豆島の道場にて催される合気道の合宿に参加するため、一文字達は最上風太の運転する車中にいた。


 車内にはラップ、助手席には佐那、後部座席には一文字を中心に永嶋、正輝が展開していた。

 正輝が無駄にでかいので、一文字は窮々で息苦しかった。


「この前の空手選手権の動画、すごかったやろ?

 勝負を決した上段蹴りの軌道は独特やったから相手の視覚には入ってへんかったんやろうな」

 格闘技、音楽、世間話、風太が隣の佐那に話しかけている。

 実に多彩な内容で、引き出しの多さに正直驚きを隠せない、佐那も楽しそうに応じている。


 その上で、後部座席の一文字達にも気を配り、こちらが興味を引きそうな話題を器用に振ってくる。

「相手がボクシングスタイルで突進力が強い場合、どうやって対処するのがいいと思う?」

「俺やったら、その突進力を反対に利用するな、相手に合わせて勢いよく懐に入り込んで肘打ちを叩き込むな」

 やれやれ正輝の奴が食いつきやがった、

 という一文字も「いや、それよりも、」と言って続いて食いついてしまう。

 一文字は考えさせられる、風太は大人だ、五年も経てば俺もこんな風になるんだろうか?と、


 姫路港からフェリーで瀬戸内海を渡り、新緑の木々の中を抜け、師範・哲彦率いる道場生達は、小豆島の山中にある木造の古びた道場へとやってきた。

 外観は「え、大丈夫?」と言いたくなるようなボロ風だが、中も中々にボロだった。

 練習生は十数人、畳が抜けるんじゃないかと心配してしまうほどだ。


 ともあれ、さっそく練習が始まった。

「諸手取り呼吸法第三法はしっかり脱力して下さい、肘を落とそうと意識しすぎると余計に力んでしまうから注意するように!」

 哲彦の力の入った指導の下、練習生達は、さっそく取り掛かる。


「おい永嶋、先生、なんか妙に力入ってへんか?」

「まあ、山まで来ての練習やからな、気分が高揚しとるんちゃうか」

「先生は野人やからな、ここは自然がいっぱいやから水を得た魚ってやつやな、それより佐那の親父のわりにはなんか老けてへんか?」

「確かにな、顎髭伸ばしてるから老けて見えるんかな?」

「白いもんが、ようけ混じっとるしな」


 緩々と取り組んでいた正輝と永嶋に哲彦の毅然とした言葉が飛ぶ。

「白山、永嶋、技を決めるとき気合を入れて、もっとしっかり声を出すように」

 あたふたと、永嶋と白山は練習に集中する振りを装った。


 道場内での練習が終わると続いて、道場前の広場で剣杖の練習が行われていた。

「では杖の八本の合わせをやります、風太」

 呼ばれると風太は杖を手に師範・哲彦と対峙した。


「一本目は、まず受けが相手に直突きを入れる」

 説明に合わせて風太が鋭い突きを入れると哲彦が左にかわしつつ、返し突きを入れる。

「取りはこのようにかわしながら、返し突きをいれる、受けはこの突きを弾いて再度、突きを入れる、取りは突きを上段で受け、切り返して横面を打つ」

 風太が哲彦の杖を弾き、素早く突きを入れると哲彦は状を上段で受け、そのまま流れる動作で切り返し、風太の横面を打った、正確には寸止めなのだが、


「では、一本目、はじめて下さい」

 師範・哲彦の指示と共に練習生達はきびきびと練習に取り掛かる。

「ほな、正輝君、突いてきてくれる」

「よっしゃ、佐那、気合入れて行くで」

 正輝が突き、佐那が突き返す、正輝がそれをぎこちなく弾き、さらに突く、

 それを上段で受け止めながら佐那が正輝を励ます。

「正輝君、なかなかええ動きやで」

「ほんまか、言うても俺やからな」

「えい」と佐那は杖を切り返し、正輝の横面ぎりぎりで止める。

「最後まで気い抜いたらあかんで」


 佐那と正輝が微笑みながら練習する傍らで一文字は武道おたくのマッチョおやじと組んでいた。

(隣、楽しそうだな・・・)

 いやそんなことより、いつの間にか、正輝君、佐那と呼び合っているのが、なんとなく気に入らない・・・

「岡、ぼさっとせんとさっさと気合入れて突いてこんかい!」

「あ、すいません」

 何かが違う気がした。


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