クレメンスの奇行
気合を入れなおし、ハルカラントを探しに森を探索する。
今日の護衛騎士はハムだ。
かなり奥まで探してみたが、やはり見つからない。
―――ううう。土地が全然違うんだろうなぁ。この森じゃ見つかりそうにないなぁ。
しょんぽりしながら、足元の小石を蹴り蹴り歩く。
「今日も見つかりませんでしたね」
「そうなのよねぇ。もう半分諦め気分です」
「諦めるなんて、ライラティーヌ様らしくありませんね」
「完全に諦めた訳ではないのですよ? 少しヴォルデマール書庫に篭って調べてみます」
「ヴォルデマール殿のお屋敷を書庫扱いですか」
ヴォルデマールの蔵書は、魔術関係に偏っているので、望み薄ではあった。もう少し、城の書庫を探してみようか。
「そろそろ時間ですし、ラフレモーサを見に行きませんか?」
元気づけようとしているのだろう。ハムが片目をつむりながら誘ってきた。
「そうですね。うふふ。早く咲かないかしら。どんな花なのか、とても楽しみです」
森に行くときは出来るだけ、ラフレモーサを見に行くとこにしていた。
朝顔の観察日記のように、変化をスケッチに残しているのだ。
人の手で育てる事が出来なくても、こうして記録を取っておけば、また野生のラフレモーサを見つけたときにきっと役に立つと思ったからだ。
「あとひと月くらいでしょうか?」
「そうねぇ。来月の満月の日くらいでしょうか」
のんびり談笑しながら森を進んでいると、ハムが緊張した声で剣の柄に手をかけた。
「誰かいます」
「まさか、こんな奥地に」
ハムの視線の先を見てみると、確かにかなり離れてはいるが、人影があった。
―――っていうか、あれ……。
「クレメンス殿ではないですか?」
「ですね。こんな所で何をしているのかしら?」
クレメンスと森は似合わない。
しかもこんな奥地に来るなんて、単なるお散歩とも思えなかった。
「ライラティーヌ様、また何か悪さをして逃げ回っているんですか?」
「違いますよ! わたくしとは無関係です」
クレメンスはキョロキョロしながら歩いていた。何だかとっても怪しい感じだ。
「何かを探しているようですね」
「ですね。やはりライラティーヌ様をお探しなのでは?」
まだ疑ってくるハムを軽く睨んで黙らせる。
「クレメンスが素材に興味があるとも思えませんけど」
「てすが、樹守でもない者がここまでくる理由は素材以外考えられません。やっぱりライラティーヌ様を……」
「それはもう良いですから」
ライラティーヌは、少し間を開けてから考えを口にした。
「……ラフレモーサを探しているのかもしれないわね」
「まさか。此処にラフレモーサがあることは、我々しか知らない筈です」
「此処にあるとは知らずに、探しているのかもしれないわ。秋に咲く事は周知の事実だし」
「確かに、秋になると樹守は念の為に森を探すとダノ爺も言っていましたね」
クレメンスは、時折しゃがみ込んでは、首を振ってまたキョロキョロし出す。
「……必死に探してますわね」
「そう言えば、最近マニュエル様のお加減が悪いとか」
「きっと、それね」
「ラフレモーサを求める程に、お悪いのですか……」
「……」
マニュエルは、領の重鎮であり、サイフォン派の筆頭だ。そんなマニュエルの体調は、多分に政治を左右する問題だった。
「ラフレモーサの場所を教えて差し上げないのですか?」
「……噂を流す事は出来ますか? 興味本位の者が採りに来ない程度のうっすらとした広がりの噂です。心から欲している者だけが、一縷の望みをかけて採りにくる程度の精度の」
「それはまあ、出来ますが。その程度の噂でクレメンス殿の耳に届きますかね?」
「情報を得るのも能力です。噂を掴めないなら、その程度の男だと言う事でしょう」
「何故ご自分で伝えないのですか? 何か思うところがあるのですか?」
ハムの率直な疑問に、思わず考え込む。
「そう言う訳でもないのだけれど、クレメンスは何というか。虐めたくなるキャラクターなのです」
「虐めたく、ですか。それは苦手とは違うのですか?」
「違いますよ。彼はわたくしの良い毒抜きなのです。ある意味とても大切な存在ですわ」
「……ライラティーヌ様の、意外な一面を見た気分です」
ハムが少しひきつっている!
―――嗜虐趣味と思われてる?!
「誤解しないで下さいね。何というか、微妙な関係なのです。決して上手くいっていないとか、仲違いをしていると言う訳ではないのですよ」
クレメンスとは色々あったので、なんとなく素直になる機会を逸してしまったのだ。
だがこれはこれで、良い関係だと思っていた。
悪巧みをしあえるコンラーディンとも、友の様に心を許せるアンヌとも、全身を委ねる事のできるフォルクハルトとも違う。
信頼はしているが、馴れ合う相手ではない。
情が移れば、心が痛むから。
「クレメンスが頭を下げてくれば教えますが、あり得ないでしょう。なのでわたくしはラフレモーサの事は知らないという話にしておいて下さいね。クレメンスはたまたま耳にした真偽不明の噂を頼りに、自力で見つけるのです」
「よく分かりませんが、分かりました」
「頼りにしてます。これはとても重要なお役目ですよ」
真面目な顔をして言い渡すと、ハムはハッとした様に、拳を胸に当てた。
「心得ました」
評価やブクマ、ありがとうございます!
あんまり嬉しかったので、土曜ですが更新しますー。




