エピローグ
ノートにポタポタと増えていく丸い染みで、俺は自分が泣いていることに気づいた。
この生ぬるい5月の空気と、肌を刺すコンスタンティノープルの冬の風。どっちが現実なのかも、俺にはすぐ分からなかった。
手元のスマホが震える。
チャットのプレビュー画面に、卓球部の悪友のメッセージが表示されて初めて、俺は現実に引き戻されたんだ。
〝おーい、玲央! 明日の中間テスト、一緒にあきらめようぜ!″
えっ? 中間テスト?
俺は教科書をめくる。
やっべぇ! 世界史、2ページしか進んでねぇ!
でも、何度読み返しても「ビザンツ帝国滅亡」「コンスタンティノープル陥落」そこで俺の目は止まってしまう。
あれは幻なんかじゃない。あの街で、俺はたしかにエレニに恋してた。
ん……恋?
俺は思い返していた。
あの世界で、俺の運命はエレニに拾われて動き始めた。
コンスタンティノープル陥落っていう歴史イベントに目を奪われてたけど、あれはもしや恋愛攻略イベントだったのでは?
そう考えれば、失恋でゲームオーバーして、現実に戻ってきたのも説明がつく。
おいっ! 先に言え、世界の創造者!
こんなことなら、もっとエレニとアオハルしとくんだった……。
俺はテスト前夜、机に突っ伏して号泣した。
* * *
翌日、容赦なく世界史のテストの時間はやってきた。
あれからテスト勉強は微塵も進まなかった。
だが、俺は少なくとも5点は確実に取る自信があるッ!
歴史オタク教師・増田があれだけ熱弁を振るってたんだ。絶対にビザンツ帝国滅亡ネタは、出題される!
俺は回ってきた問題用紙をめくった。
最初から目がすべる。見事に解けない問題ばかり。
でも、裏面の中ほどに、俺はとうとう見つけたんだ。
〝□□□□年、コンスタンティノープル陥落をもって、ビザンツ帝国は滅亡した″
俺は数字4桁しか入らないその欄に、〝1453年5月29日″をねじ込んだ。




