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EP100 【完結】クイーン・コーデリア

クリイム歴1765年   11月 17日 戴冠式




【コーデリア女王】



  私は、ウエストカタリナ寺院に或る運命のロックチェストへ儀式用マントを外して腰を下ろし、姿勢を正してカタベル大主教の祝詞を聴いていた。



 悩み迷いそして苦しみながらも、チャーリーが差し出す手を掴んで、此処まで走り抜けて来た気がする。

 幾度、逃げ出したいと考えていた事だろう。

 私の出生に疑義を呈され、王位継承者の資格なしだと女官たちの噂だけでなく議会でも問題にされていたり、ギボンズの愛人として母と共に私の名を上げられて、思い出すのも悍ましい記事を書かれたりと貶められ続けて来た。



 「陛下もクランベル伯爵も当然俺も、コーデリア殿下の真実を知っていますから、心無い人達の言葉は耳や目に止める必要などありませんよ。」




 そう言ってチャーリーは明るい声で私を励まし、可愛らしい銀細工のキャンディ・ポットから、小さなキューブのハーブ・キャンディーを手渡して呉れた。


 チャーリーの其れは私が20歳に成った今でも変わらない。

 美しいチャーリーの金色の瞳に映っているのは、いつまで経っても10歳の少女の私なのね。



 私は、変わらぬチャーリーの態度が少し腹立たしくもあったけど、嬉しくも或るの。



 そして、アルバート4世伯父さまもアルバート5世伯父さまも、「何としてでもチャーリーを臣下へ加えて於きなさい。」と繰り返し仰って呉れて居たけど、言われる迄も無く私はその心算だった。

 裏表なく仕えて呉れるモノは本当に貴重ですもの。


 クランベル伯爵も大切な臣下だけど、彼は私をいつでも試していて油断が出来ないわ。

 始終、傍に居られたら、私が気疲れしてしまう。

 クランベル伯爵は、私を王位継承者として育てて下さった方だけど、お会いするのは偶にが良いわ。




 最前列で並び私を見つめて呉れているのはフランシス殿下。

 相変わらず、フランクを嫌って排除したがっている人もいるけど、以前より空気が和らいだ気がするの。


 勿論、チャーリーやクランベル伯爵たちの活躍のお陰なのだけど、一番は北カラメルに或るホワイトループズ山脈で、私が即位してから暫くして「金鉱が見付かった」と、言うニュースが飛び込んで来た所為じゃないかしら?


 王領クード植民地のクランシー総督は、色々と大変そうだけど。

 アルバート5世伯父さまが生きてらしたら、御子息のクランシー総督へ、なんて声を掛けるかしら?


 「上手く遣れよ。」かしら。

 案外、「また騒ぎを起こしやがって。クランシーの奴。」って、怒ってたりして。


 如何やらクランベル伯爵は、チャーリーが北カラメルの王領植民地へ放った伯父さまの五人の御子息へ、地質学者たちなどを着けていたらしいわ。

 金鉱発見のニュースで、一気に北カラメル熱が沸騰して、資金を集めてブレイスから出国して行くベンチャーな人々が増えてしまったけど。


 以前、プリメラ大陸の西に或る山々を流れる川から大量の砂金が見付かり、その噂を頼りに海を渡って、大挙してブレイスから人々が押し寄せて行った時のようだと、宮内卿のキューリック公爵が話して下さった。


 その川の上流に或る山からは、20年経った今でも未だ金が採れているそうだけど、そろそろ枯渇しても可笑しくないそうよ。

 ブレイスで金貨をギニーって呼ぶのは、その金鉱が或るギニアスって場所から採掘した金で、金貨を作ったからなの。

 ギニー金貨は少し重くって、通常1ポンド20シリングだけど、1ギニーだと21シリングなのよ。


 そんな時だったから金に目が眩む人も多かったのかも。


 お陰で私の事を『レディ・ラック』と呼ぶ人々も。



 何はともあれ景気の良い話は人の心を温和にするらしく、私とフランクの仲をじんわりと認めて呉れる雰囲気になって居るの。

 かと言って、国王としての儀礼の他に、伯父さまの葬儀や此の戴冠式の準備も加わってフランクとじっくりと会う時間も取れない始末。


 それに偶に会っても私って、遂、気になって居る(まつりごと)のコトをフランクに話して、その事について議論し合ったりしているから、甘い逢瀬に成らなかったりするの。

 デイジーたちには呆れられているわ。


 でも、私と同じ立ち位置で話し合える人は初めてだし、フランクから「リア」って呼ばれる度に私の心は飛び跳ねるし、フランクの澄んだスカイブルーの瞳に映っている私は、とても幸せそうだから此れは此れでアリだと思っている。






 フランクの私を見つめる視線を感じていると、カタベル大主教の朗々とした声が響き、ブライス王家伝来のエメラルド・クラウンを私の頭上へと恭しく捧げ上げられた。


 私はゆっくりと頭を下げ、ズシリと重い王冠をカタベル大主教から被されるのを受けた。




 「此処に、まごうことなき女王コーデリアを承認するものとする。」

 「「「「「ゴッド・セイブ・ザ・クィーン・コーデリア」」」」」一同






 承認との声が響き渡ると、ウエストカタリナ寺院の鐘が、新たな女王誕生の祝福を知らせる為に鳴り響く。


 そして、幾砲もの祝砲が上げられ、11月の曇天の空を喜びで打ち払おうとしていた。

















          ※※※※※※※※※※






【従者ジーン】




 俺はウエストカタリナ宮殿でチャールズさまを待って居ると、コーデリア陛下が女王として承認された喜ばしい祝福の鐘がウエストカタリナ寺院から鳴り響いて来た。

 思わずソファーから立ち上がり窓から外を眺めてみるが、此処からだと、たゆたゆと水が流れるラムズ川と庭園しか見えなかった。


 (やが)て祝砲の大きな音が上空へと響いて行った。



 チャールズさまは、ウエストカタリナ寺院に或る運命の間から手前のホールで、他の新興の貴族議員達と戴冠の儀が終わるのを待ち、忠誠の儀に移るらしい。


 「生きている間に2度も戴冠の儀を体験するなんて娘達に自慢出来るかも。」


 チャールズさまは、そう能天気に俺にも自慢していた。


 そして、滔々と言うか、やっと俺の呼び方が『仮の主人』チャールズさまから『仮の』が取れ、チャールズさまになった。

 さらば、仮免チャールズさま。



 もう少し修行すれば、『真の主人』チャールズさまと呼ばない事もないけどね。



 先日、チャールズさまが俺に「御免、ジーン。俺は北カラメルに行くのを辞めた。」と、申し訳なさそうに詫びて来た。



 「コーデリア陛下に側で仕えると約束しちまって。」



 そう告げてから、チャールズさまは視線を俺から反らして、壁に掛けている風景画を眺め始めた。


 『やっとですか。』


 俺は密かに呟き、長かったチャールズさまとの10年余りを振り返った。



 13年前チャールズさまと出逢って、初めの一年間はその容姿の美しさに俺も目が眩んでいた。

 俺は、段々とチャールズさまの外見と内面の埋めようもないギャップを知り、完璧だったクランベル伯爵を手玉に取ってクランベルジュースにしてしまえる恐ろしさを目の当たりにし、物事を頼むときの甘えた天然の性悪さに戸惑ったりもしていた。


 恐らくチャールズさまは前向きに何かを成せば、女に成る事と筋肉を付ける以外なら、何事も為せると俺やアール先輩たちは思っている。



 今までチャールズさまは、ロドニアから逃げ出そうと、あからさまに後ろへ軸足を置きつつ動いていた。



 俺やアール先輩、エドやライリーやチャールズ・ガーディアンズたちは、チャールズさまを慕っていたが、好意だけじゃあね。

 やっぱり食べて行けないしさ。


 賑やかなロドニアに慣れている俺達は、まして辺鄙なド田舎の北カラメルとかとかへ着いて行けない訳ヨ。


 チャールズさまだって、北カラメル大陸の野生の王国で、ロドニアみたいなカリスマ交渉術は使えないと俺は思うしさ。

 アレが効果あるのは、スレたロドニア・シティ・ボーイズだけだと俺達は結論を出していた。

 野生の王国なぞでチャールズさまの美しさは何の役にも立たないし。


 まあ人外に、チャールズさまが金色の瞳を潤ませても、桜色の形の良い唇を噛んで見せても、ぶっちゃけ稼げないしね。




 それに大恩があるクランベル伯爵さまに不憫な想いをさせたくない。



 クランベル伯爵さまは、ホントに今、幸せそうなんだよ。


 クランベル伯爵さまがチャールズさまを抱き締めると此の所チャールズさまが抱き締め返したりしてるだろ?

 それなりに整ったクランベル伯爵さまの顔の配置が緩んで、ちょっと他人様には見せられない表情に成ってるんだよ。


 クランベル伯爵さまを溺愛している執事のキース氏なんか其の表情を見て『無』に成ってたからね。


 「時代の波がああーっ!」って意味不明な発言をしてスタッフ・ルームでキース氏が嘆いていたもん。



 まあ執事のキース氏みたいな昔から勤めて居る人達やアルバート5世陛下の秘書官をしていたクロード氏や補佐官のアッシュ先輩やバード先輩やヒューイ先輩みたいなクランベル家の縁者の人達は兎も角として、俺みたいな人間には夢みたいなモノも或る。


 孤児に近かった俺が、チャールズさまにいつもくっ付いているお陰で騎士爵などにもして貰えて、ローゼブル宮殿やウエストカタリナ宮殿なんかをロイヤル区域以外はフリーウェイで動けるのって、不思議な気分にも成る。


 それだけで充分だろってアール先輩とかには言われるが、まあ階級的には十分過ぎるけどね。

 やっぱり俺にも家族ってのが欲しいのさ。


 出来ればロドニアでは珍しいレスタード家の家族達みたいなね。

 欲張り過ぎかな。


 でも俺の夢なんだよね。

 それに従者の仕事を遣っていると婚姻とかする暇も無いし、婚姻しても家族と過ごす時間もない。


 夜は、割かしチャールズさまは早く休まれるので暇だけど、従者は朝が早いのだ。

 お陰でその時間に遂、従者仲間とギャンブルばかり遣る始末だし。

 チャールズさまはギャンブルが嫌いだから言えないけどね。



 それにチャールズさまは、人見知りが激しいと思い込んでいるので、気楽に従者の数を増やせない。

 其処ら辺、クランベル伯爵は楽なんだよな。


 使用人は、使用人でしか無いから、従者は比較的楽に増やせる。

 執事とか家令、家政婦長などの上級使用人は全然別枠だけどね。


 でもまあ、チャールズさまがロドニアで腰を落ち着けて前向きに成ったって事は、俺も将来の計画が立てれる様に成ったって事でも或る。


 きっとアール先輩たちも、俺からチャールズさまの報告を聞いて、今頃アレコレと企んでいる事だろう。



 ラムズ川の水面が光った気がして、空を見上げれば鉛色の雲の一部が薄れて、上空から光の帯が地上へと伸びて来ていた。


 その眩い光は、チャールズさまの双眸を思い起こさせた。



 巷ではコーデリア陛下が『レディ・ラック』らしいが、俺にとっての『レディ・ラック』は、チャールズさまだ。


 チャールズさまの存在が無ければ、クランベル伯爵に救われた後でスティーブ・ホームを出ても、俺がクランベル伯爵家に雇われる事も無かっただろう。

 それに俺の様な身分の者が、割と分不相応な生活を営めている。


 何よりもチャールズさまと共に居るとワクワクすることも多いし、、、。



 でも、嫁も子供も欲しいのだよな。

 まあ、その前に嫁探しだよね。





 

 そして敢えて愚痴を呟きつつ、俺は、チャールズさまたちと歩く未来を想っていると自然と口元が綻んで来るのだった。




 さて、久しぶりに俺がチャールズさまへ紅茶でも淹れて上げるとするか。

 たっぷりと林檎のジャムを用意して。





 


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