頭痛と胃痛はオトモダチ
まさかこんなことになるだなんて思いもしなかった。
こんなことになると分かっていたならあんなクソみたいな仕事下っ端に押し付けて俺がボスと姫の護衛についたのに……!!
ボスが負傷して戻ったという知らせに慌てて屋敷に戻ると脇腹から血を流したままのボスがボスにしがみついて泣いているリヒトを宥めているところだった。
なんだ、そりゃ。
なんでアンタ怪我なんかしてんだよ。つーか姫はどうしたんだよ。
どっかに預けてんのか?そうだろ?そうだよな。
でもだったらどうしてリヒトは泣いてんだ?ボスが怪我したからか?
浮かんでくる悪い考えを一つ否定してはまた新しい不安が浮かんでくる。
グルグルと堂々巡りに陥りそうになった――――いや、既に陥っていた俺の思考を遮るようにボスの指示が下った。
「何してやがる。ボサッと突っ立ってる暇があったら情報を掻き集めてきやがれ」
「無茶言ってんじゃねぇえ!!その前に何がどうなったか説明しやがれ!なんでアンタが怪我してんだよ!姫はどうしたんだ!?」
「うるせぇ!リヒトが起きるだろうが」
アンタの声も十分デケェよ!!
あまりにもいつも通り過ぎるボスの態度に鬱々とした考えが一気に吹き飛んだ。
理不尽ともいえる無茶な命令にいつものように叫んだおかげで狭まりかけた視野が開けた気がした。
大丈夫だ。ボスはまだ落ち着きと冷静さを取り繕う余裕がある。なら、姫も無事だ。
俺に向けられたいつも通りの口調や命令がたとえ取り繕われたものであろうと、この姿が見られる間は大丈夫だ。
すぅっと視野を狭めていた焦燥や怒り、戸惑い、不安が引いていくのが自分でもわかる。
「ボス」
「俺だと知っての、初めからアイツを狙っての襲撃だ。
アジトと戦力を正確に調べ上げろ。早急にだ」
「御意。
……ボス」
「クスリ付きの弾が掠っただけだ。問題ない」
「そうか。ならい………薬だと!?」
「テメェは一々叫ばねぇと会話もできねぇのか」
「誰の所為だと思ってやがるこのクソボス!!解毒はしてあんだろうな!?」
「抉りだした」
「えぐっ……!?」
頭痛い。なんだ抉ったって。あの大量の血は自業自得かこのクソボス。マジふざけんな。
薬盛られたつったってアンタ一通り毒には耐性があんだから、しばらく動きを封じられる程度だろ。つーか護衛は何してやがった護衛は。
簡単に攫われやがったじゃじゃ馬姫といい、負傷して戻りやがったクソボスといい俺の胃は鋼鉄製だとでも思ってやがるのか?頭痛だけじゃなく胃痛までオトモダチとか全く笑えねェぞ。
あー、転職してぇ。どうしてあんな滅茶苦茶な野郎に忠誠なんぞ誓っちまったんだ。14の俺。ソイツだけはやめとけ。将来すんげー苦労するぞ。
血も涙もない夜の支配者だなんだと世間で言われてるが、ただの親バカ、嫁馬鹿だぞ。
しかも常識なんてもんはカケラも持ち合わせてねぇから常に振り回されるぞ。常識ってなんだっけ?とか本気で思うようになるぞ。
抉ったって。馬鹿だろ。ぜってぇ馬鹿だろ。つーか止血ぐらいちゃんとしろ。全然止まってねぇじゃねぇか。なんで普通に立って歩いてやがんだ。化け物か?顔色くらい変えやがれ。つーかどうして薬付きだってわかった。逆に怖ぇよ。
言いたいことは山ほどあるが、とりあえず。
「アンタと姫を襲ったバカのことは俺が早急に正確に調べ上げてやる。
だからアンタはちゃんと医者に診てもらってリヒトと一緒に大人しく、くれぐれも大人しく安静にしてやがれ」
「ふざけ」
「い い な ?」
この聞き分けのないクソボスを黙らせるとしよう。
ボスと姫の相手よりリヒトの子守の方がはるかに楽なのはきっと俺の思い違いじゃない。
「センパイ。お疲れ様」
「おぅ。ってなんだ?」
「何って胃薬。胃潰瘍でリタイアとか私許さないから」
「……」




