あなたを想って 02
降誕祭の礼拝は、厳粛に執り行われた。大聖堂の中は、参列者の持つろうそくであたたかな光に包まれている。
参列していたセルジュは、聖女達の列の中からレイアを見つけた。彼女は髪を結い上げ、他の聖女達と同じ正装に身を包んでいる。レイアは黙って祈りを捧げていた。そうしていると、まるで別人のようだった。
式が終わってセルジュは、談笑する人々の間を縫って、すぐにフランクール家に戻った。
夕食を済ませ、書斎のソファで書物を読みながら過ごしていると、就寝前になってようやくレイアが戻ってきた。
「久しぶり、セルジュ」
レイアと会うのは、一週間ぶりだ。レイアは礼拝の時のままの姿だった。着替える間もなく、今まで仕事が続いていたのだろうか。
「食事に間に合わなくて、ごめん」
「……大聖女の具合は大丈夫なのか」
家に戻らない理由は分かっていた。セルジュは読んでいた本を閉じてサイドテーブルに置くと、レイアに尋ねた。
「病み上がりの職務で疲れたみたいでね。具合は悪そうだったけど、薬も飲んだし、何とか」
「君も休んでいないんだろう。顔色が悪い。早く寝ろ」
「そうする。でもその前に、これ」
と、レイアは羽織っていたケープの内側から、何かを取りだす。
「はい、降誕祭の贈り物」
差し出されたのは、薄い空色のハンカチだった。
「ちゃんと自分で刺繍したから。テオには自分のイニシャルを入れろって言われたんだけど、やめた。重いかなと思って」
セルジュは無言のうちにそれを受取っていた。そこには白い鳥が刺繍されていた。
「セルジュの空色の瞳が綺麗だから、鳥にしたんだ。鳥はいいよね、自由に飛べるから」
セルジュは指先でそっとそれに触れた。自由に飛ぶことができたら、どんなに良いだろう。そうじゃないから、それができないから、憧れる。
「あまり上手くないけど、一応頑張った」
「……確かに下手だな」
率直に言うと、レイアは眉根を寄せて、片方の頬を膨らませた。
セルジュは思わず、小さく笑った。それにレイアは少し驚いた後、つられたように笑顔になった。
もっと上手で、もっと丁寧な刺繍は他でいくらでも見た。だがこんな風に心のこもったものを受取ったのは、初めてだった。
「失礼だけど、まあ笑ってくれたから、いいよ。恥ずかしかったら、使わなくてもいいから」
「……前にも言ったが、君は、俺のことを何だと思っている」
「じゃあ使ってくれるんだ?」
「一応頑張ったと言ったのは君だ。礼を言う」
そう言うと、レイアは嬉しそうにふわりと優しくほほえんだ。
「良かった。じゃあ、そろそろ休む。おやすみ」
「ちょっと待て」
と、去ろうとしたレイアの足を止めて、セルジュはサイドテーブルにあった小瓶を手に取り、それを差し出した。
「これを君に」
「……もしかして、くれるの?」
「気に入らなかったら、破棄しろ」
「セルジュだって、私のことを何だと思ってる? そんなことしないよ」
レイアの手にちょうど収まる小瓶は、透明度の高い薄紫色のクリスタルガラスに、丁寧なハンドカットが施されていた。付属していたタッセルのついた金色のバルブを押せば、柔らかで爽やかな香りが部屋に広がった。
疲労の色が滲んでいたレイアの顔が、ぱっと明るくなった。
「ラベンダー。私が好きだって言ったの、覚えていてくれたんだね」
「眠りの質を上げてくれる。早く寝ろ」
「……ありがとう、セルジュ」
レイアは大切そうに両手で小瓶を包んでいた。
その姿は、いつまでもセルジュの胸に残った。




