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十字架屋敷の殺人  作者: 藤村
第一章 謎編①

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第3話 始まりの手紙

 一通の(ふみ)が、冒険者ギルドに届けられた。

 差出人は、かの有名な大富豪【レイン・ルクシオン】。

 受付嬢たちはその名を目にした瞬間、ざわめき立った。


「まさか、あのルクシオン様が?」

「一体、誰に宛てた手紙なのかしら?」

「羨ましいわ。ルクシオン様からの手紙だなんて」


 受付嬢の一人が手紙を裏返し、宛名を確認する。

 すると、そこにも驚くべき名が記されていた。


 【アラン・エドガー】


 Sランクパーティ【太陽の煌めき(シャイニング・ライツ)】のリーダーである。


 彼らの活躍を知らない冒険者はいない。

 かつて、王都に一頭のドラゴンが襲来した。

 ワイバーンのような下位種ではない。

 成熟した、正真正銘のドラゴンだった。


 白く輝くダイヤモンドのような鱗。

 巨体を空へ浮かせる二対の大翼。

 青い炎の吐息によって、王都はみるみる焼き焦がされていった。


 その危機に現れたのが、【太陽の煌めき(シャイニング・ライツ)】だった。


 彼らは別のダンジョンから帰還したばかりだったにもかかわらず、疲弊した様子ひとつ見せず、ドラゴンを圧倒した。


 結果として討伐には至らなかったものの、撤退させることには成功する。


 以後、彼らはティラス王国の王都を守った英雄として、広く尊崇されることとなった。


「ああ、なんてこと。なんだか凄いことが起きそうな予感がするわ!」


 アラン宛てに届いた、ルクシオンからの手紙。

 これはきっと国家レベルの大事になる。

 受付嬢たちは、ギルド内の空気が塗り替わっていくのを肌で感じていた。

 日常が非日常へと転じる瞬間を、全身で味わっているのだ。


「まずは落ち着きなさいな」


 洒落たカップ片手に、一人の老婆がのんびりと声をかけた。

 名はザーヤ。

 冒険者ギルドを取り仕切る古株の一人である。

 長い年月を生きてきた者だけが持つ落ち着きが、彼女にはあった。


「その手紙は私が預かるよ。アンタら、浮ついて手紙を無くしそうだからねぇ。もしそんなことになったら、ギルドの面目が丸潰れってもんさ」


 ぐうの音も出ない正論だった。

 確かに今の状態で配達業務を行えば、アラン宛ての手紙だけでなく、他の冒険者に宛てられた手紙まで紛失しかねない。


 そうなれば責任の取り方は決まっている。

 つまり、クビだ。


「……分かりました。では、ザーヤさん。お願いします」

「ああ。しかと任されたよ」


 かくして、ザーヤは冒険者ギルドをあとにする。


 実際のところ、ザーヤの胸もわずかに高鳴っていた。

 だが若い娘たちほどではないということも、彼女はよく自覚していた。


 それに、これはあの子たちのためでもある。

 万が一この手紙を紛失した場合、事態は予想を上回る大事になるに違いない。


 そのとき誰が責任を取るのか。

 そんなもの、自分一人でいい。


(もう十分、長生きしたからねぇ)


 ザーヤは胸の内でそう呟きながら。

 ゆったりとした足取りで、アランの邸宅を目指した。


#


「なに? あのルクシオンから手紙だと?」


 アランは大げさな反応で驚いてみせた。

 ルクシオン家という名は、アランの目から見ても嫉妬するほど眩しいものだったからだ。


 若き青年が、たった一代で巨万の富を築き上げ、その名を全世界に轟かせた。


 青年の名はレイン。

 目端が利き、耳が早く、人当たりもいい。

 口を開けば言葉は丁寧で、彼と話した者は、たいてい上機嫌になって帰っていく。


 少なくとも直接対面した者の中に、彼を嫌う人間はいなかった。


 ゆえに彼はありとあらゆる商談を成功させ、わずか十年という短い歳月で億万長者となった。


 現在は絶海の孤島に【十字架屋敷】なる建造物を建て、時折、そこから海を眺めて暮らしているのだという。


 一人で住むには広すぎる屋敷だが、そこにはもう一人、付き添いの男がいる。


 幼少期のレインと親しかった、近所の男だ。

 名はザグレイ・ギーマン。

 一時は冒険者パーティの治癒術士として活躍していたが、結婚して家族ができたのを機に、危険な仕事からは身を引いた。


 今ではレインの世話係を務めつつ、時折は実家に戻り、家族と穏やかな日々を過ごしているらしい。


「まさか、この俺にルクシオンから手紙が来るとはな。予想もしていなかったぜ」

「ええ」


 ザーヤはこくりと頷いた。


「うちの娘たちも、朝早くから大騒ぎでね。かくいう私自身も、いい歳だというのに、胸が躍るような気分ですよ」


 ザーヤが言うと、アランは「ククッ」と笑みを浮かべた。


「そりゃあそうだろうな。これは国が動くレベルの大事だ。きっと、とんでもなくデカい案件に違いねぇぜ。特別だ。お前にも内容を聞かせてやるよ」


 自慢げに唇の端を釣り上げて、アランは手紙の封を破った。


「ああ、私なんかが国家機密めいた話を聞いてしまってよろしいので?」

「気にするな。俺とザーヤの仲だろう?」


 実は、二人は旧知の仲である。

 ザーヤも昔は冒険者をしていた。

 その(よしみ)だ。


 二人でSランクモンスターの討伐を成し遂げたこともあり、当時の二人を、周囲の冒険者は【風神雷神】などと呼んだものだった。


 とはいえ、二人の歳の差は二十以上も離れている。

 ザーヤが先に一線を退いたのは、至極当然のことだった。


「えーと、どれどれ?」


 アランは封を破り終えると、その場で文面を読み上げはじめた。

ここまで読んで頂きありがとうございます!!

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