第140話 やさしい光(勇者エイシャ視点)
夢を見ていた。
それはかつて、王都で俺達が対峙した魔族達との戦いの最中の夢……。
俺が魔族に吹き飛ばされ、黒騎士に救われて……コウ達を任された時の……夢だ。
俺はその時迷っていた。
コウとリリーナ嬢を守る為にその場に残るか……それともまた戦場へ行って魔族と戦い続けるべきかをだ……。
「エイシャ様……私達を守ってくれるのは嬉しいですけど、今はそれよりもエイシャ様の中で、やらなければいけないと思っている事があるんじゃないですか?」
そんな俺をコウの真っすぐな視線が俺を射抜く。
確かに俺はあの魔族を倒す為にまだ戦わなければならないと思ってはいるが……だからといって、コウとリリーナ嬢を置いてまた戦場に戻る訳には……。
それに俺の変わりに黒騎士があの魔族と戦いに行った……。
最早俺の出る幕は無いのかもしれん……。
そんな俺らしくも無い事を考えていると、コウがふっと笑って言った。
「エイシャ様……やらぬ後悔よりやる後悔……ですよ?」
「!!……随分と……難しい言葉を知っているな?」
正直コウからそんな言葉が出てくるとは思わなかったので純粋に驚いた。そんな俺の驚きに、コウは少し得意そうな顔をする。
「うぐぅ……。はは……教養が無さそうな馬鹿女っぽいのに……そんな馬鹿っぽい君が賢そうな事言ったって、余計馬鹿っぽく見えるよ!!」
そんなコウに、黒騎士に足を折られた痛みで呻いている兄、フェネクスがコウを馬鹿にするように言うが……コウはどこ吹く風だ。
コウとリリーナ嬢の話では、フェネクスが自分達を殺そうと魔族と結託していたらしいが……俄か信じがたいが、二人が言うなら間違いは無いのだろう。
コウはそんなフェネクスを無視して、更に言葉を続けた。
「エイシャ様……。エイシャ様は今……どうしたいのですか……?」
真っすぐと俺を射抜く……優しい目。
その美しい青い瞳に、心の中まで見透かされた様な錯覚に陥る……。
そうだ……俺は………!!
◆
「エイシャ様にはついて行けないわ……。だってエイシャ様って何をするのも正しくあろうとするんだもの……。肩がこっちゃうしつまらない!!勇者様って大変なのね?でも……そんなんじゃ誰もついて来てはくれないわよ?」
場面が変わる。
これは……俺がまだコウと出会う前。
父上の願いで隣国の姫との面会……という名のお見合いをさせられた時の夢だ……。
隣国の姫は、まぁ有体に言えば典型的なお姫様……つまりわがままな人柄で、正直話をするのも疲れるタイプだった。
そんな彼女だが……彼女の方も俺と話すのに疲れたのか、しかめ面で言葉を続ける。
「勇者様って自分への理想が高いから、相手への理想も高くなってるのよね?でもそれじゃあパートナーなんて呼べないわ?いいこと?大切なのは相手の気持ちを理解してあげること……。それは何も恋愛だけじゃないわ?仲間にしろ、友達にしろ……自分の意見を押し付けるだけじゃ、誰もついて来てくれない……」
「……俺は他人に何かを望んだことなど無い……」
「ほら!!それ!!勇者様は自分一人で完璧!!寂しくなんて無いし、それを苦に思った事も無い!!……でも……そんな勇者様に一つ忠告してあげる。……好きな人が出来たら、それじゃあその人は貴方を好きになんてなってくれないわ?だってさっきも言ったけど、肩がこるし、つまらないもの!!……だから、相手が何を考えてるか、そしてその相手が自分に何を求めているか……それを考えてあげないと、貴方は一生一人よ?勇者様……」
そう言って不敵に微笑むフローラ姫を……その時の俺は内心馬鹿にしていた。
俺の事を何一つ知らない小娘が、何を偉そうに俺に語るのか……と。
だが……今ならフローラ姫の言った事も少し解る。
今の俺は一人ではない。
ミリヤにマリフィセント、エルフのソフィアに……そして……コウ……。
俺の傍にはいつの間にかこんなにも人が増えた……。
そして……俺はそれを煩わしいとは思ってはいない……。
ソフィアは置いとくとして、ミリヤは出来の悪い妹の様に思っているし、マリフィセントは悪友の様に思っている。
そして俺は……コウの事が好きだ。
最早かつて憧れた白銀のドラゴンの娘だから……というだけじゃ無い。
この気持ちはそんな……単純なものでは無いのだ。
コウは……他人を思いやれる優しい娘だ。
大人しいが決して冷めている訳では無く、いつの間にか皆の心を救っているコウを見て俺は……そんな彼女を本気で好きになったのだ。
だから、かつてフローラ姫に言われた様に、俺も変らなければいけないのかもしれない……。
あの時、コウに言って貰った言葉……その言葉を胸に、俺は……!!
◆
優しく、あたたかな光を感じて、俺は目を覚ます……。
ここは……どこだ?
俺は確か……魔族にやられて、巨獣刃竜に止めを刺されそうになって……。
「エイシャ様!目を覚ましたんですね……!良かった……!……大丈夫ですか?」
そんな混乱する俺を、覗き込むように現れたのは……他でもない、コウだった。
「……コウ……?なぜ……ここに……?」
などと疑問を口にする俺だが……少し頭が覚醒してきて、今の状況を理解する。
コウと俺を守る様に立つ俺の守護霊。恐らく彼が俺を助けてくれたのだろう。
そしてコウは……わざわざ俺の命を助ける為に、危険を冒してまでこの場に来てくれたのだ。
本来なら……それを叱るべきなんだと思う。
何故なら勇者には替えが効くが、白銀のドラゴンに替えは効かないのだ。
故にコウは、俺を助ける為に無理をする必要など無いし……俺を見捨ててでも自分の身を守るべきなのだ。
だが……俺は危険を冒してまで、俺を助けに来てくれたコウの想いが純粋に嬉しかった。
俺の質問に困った顔をして、どう答えようかと思案しているコウに言った。
「いや……済まない。君は俺を助ける為に……ここまで来てくれたんだな……。ありがとう……コウ」
俺の言葉にコウは一瞬驚くと……安心した様な笑みを作って言った。
「いえ……。エイシャ様が無事で……良かったです……」
そう言って優しく微笑むコウに、俺は見惚れてしまう。
やはり俺は………。
そう思いコウに手を伸ばそうとした時……俺の守護霊が最大限の警戒をするのが解った。
「……傷は癒えたようだな……人間よ……」
傍に一匹の巨獣刃竜を従えて、森の奥から現れた魔族……!!
この魔族は、俺を打ち倒した……巨獣刃竜の群を率いる強大な魔族!!
「さて……前も言ったが、俺は無益な殺生は好まん……。だが……お前たちの仲間によって、俺の家族達が大勢犠牲になった……。まぁ……奴らの口車に乗った俺も悪いのだが……。故に……俺はここでお前を殺すことで、この戦いに終止符を打つとしよう……」
そう言って巨大な左腕を掲げ圧倒的魔力を発する魔族に、まだ体が癒えていない俺はどうするものかと迷っていた。
このまま戦えば……俺はともかくコウを巻き込んでしまう。
だが最早奴は臨戦態勢。このまま逃げる事も難しいだろう。
そう思い冷や汗を垂らし、魔族を睨みつける俺の腕に、柔らかい何かが触れた……。
それは……コウの小さな手だった。
「コウ?」
「エイシャ様……私、何も出来ない訳じゃ無いんですよ?」
そう言ってコウはいたずらっ子の様に微笑むと……次の瞬間俺に強大な力が注がれた!!
これはジャバウォッキーと対峙した時に、コウの中の白銀のドラゴンが俺に力をくれた時と同じ……圧倒的神力!!
「ちょっとだけ、自分の力を使う事が出来る様になったんです!温泉のお陰で体も治りましたし……だからエイシャ様!!」
「……ありがとう……コウ……!君の力があれば……俺は何人にも負けない!!」
コウからの温かくも力強い力を受け取り……俺は一度敗北した強敵を前に立ち上がる!!
敵は強大な魔族と巨獣刃竜だ……。
だが、今の俺は全く負ける気がしなかった……。なぜなら……!
コウから授かった圧倒的な力が、今の俺にはあるのだから!!!




