第十六話 天使様がJKとキスをしたようです。
「……うん、ふあぁ~」
まだ寝ぼけて意識が定まらない中、軽く伸びをする。
そのとき、軽く両腕に触れる感触があった。
右手側の感触は、悪魔のヴィズちゃん。左手側の感触は、天使のヘブンちゃんである。
昨晩、三人で家に帰り、寝床の振り分けも面倒だからと、三人一緒にわたしのベッドで寝てしまったのだ。
一人用ベッドに三人というのは、ちと手狭である。
未だ夢の中にある二人の寝顔を、交互に見た。
改めて見ると、両方とも同じわたしの顔というのは、変な気分である。
なんとなく、ふたりの胸を交互に触り、自分のも触ってみた。
「うーん、他の子のを触ったことないから、感触が似てるのか違うのか、判断できないな」
今度は、ヴィズちゃんに抱き付いてみる。
いつも、ヘブンちゃんに抱き付かれていて、ヴィズちゃんとのスキンシップ不足かなーと思ったからだ。
柔らかい抱き心地、自分と同じ体型だからなのか、妙にフィットする。匂いもなんだか落ち着く感じで、気分がいい。
そういえば、昨日はこの体勢で血を吸われてたんだな。
少し口をこじ開けて、中をのぞく。
犬歯のところが、ちょっと尖ってる。ここらへんは、わたしと似てないんだな。
自分の口の中に指を突っ込み、感触を見る。当然と言えば当然だが、バンパイアとかヴィズちゃんのような牙は無い。
口に注目していたら、なんとなく、なんとなくなんだけど、吸い込まれるような感じがして、ヴィズちゃんの唇に自分のそれを重ねてしまう。
昨日、廻ちゃんにしたせいで、抵抗が無くなってしまったのかもしれない。
ならば、それを煽ったヘブンちゃんのせいだな。
「……ふぁ、うん?」
ヴィズちゃんの瞼が開いた。今ので起こしちゃったかな。
「おはよう、ヴィズちゃん。いい朝だよー」
まだ、ぼぉっとしてる感じで半眼のヴィズちゃんが小首をかしげる。
「なんで、抱き付かれてるの? わたし」
そういえば抱き付いたまんまだった。
「うーん、ぬいぐるみの代わり、というか」
「わたし、そんなぽふぽふしてないよー」
「そこまでではないけど、程よく柔らかいというか、なんか、しっくりきちゃって……」
だんだんと気恥ずかしくなってきて、腕をほどく。
すると突然、背後から腕が伸びてきて、そのまま抱き付かれた。下半身も足で固定されてしまう。
「おはよう~愛香。な~に朝から二人でイチャイチャしてるのだー」
「お、おはようヘブンちゃん」
寝起き一番、ご立腹のようである。
「わたしから抱き付いたことはあるけど、愛香から抱き付かれたこと、無いんですけどー」
「常日頃から抱き付いてくるんで、満足してるかなーと思って……」
「満足しませんよー」
ヘブンちゃんが、わたしの背中に顔を擦り付けてくる。
よだれまで擦り付けられないか、ちょっと心配だ。
「もー、分かったから分かったから」
体の向きを変え、ヘブンちゃんを正面から抱いてやる。
「これで満足?」
「満足!」
明るい声が返ってきた。よしよし良い子だ。
「キスもして」
「ええぇ~」
追加注文がきた。
「廻ちゃんだけじゃなく、ヴィズにもしてたじゃない」
すでにあの時、起きていたらしい。
「見てたのか」
「見てたのだ」
「わたし、キスされてたのか。なになにー? 愛香って、わたしのこと興味あるとか?」
ヴィズちゃんが話に乗ってくる。
「いあ、ちょっと、なんとなーくしちゃっただけだから」
「そーなんだー、てきとーなんだー。どーでもいいんだねー」
芝居がかったようなしぐさで、落ち込んでる風を装うヴィズちゃん。
「いやいや、そんなことないから」
「愛香、わたしとのキスは?」
ヴィズちゃんの方を向いてたら、ヘブンちゃんに頭をつかまれ、無理やり振り向かされた。
「あーっ、もーいいわ。目をつむってよ」
「見てたい」
「恥ずかしいから」
「恥ずかしがってる愛香の顔を見てたいなーって」
「ダーメ。キスしてやらないぞ」
「うう、ごめんなさーい」
観念して、ヘブンちゃんが目を閉じた。
すかさず、唇を重ねてやる。
「はい、満足した?」
「なんか、かるーい、てきとー」
「愛香って、結構軽いのねー」
ヴィズちゃんが茶々を入れてくる。
「軽いとは何よ、もう、本気でしてやるわ」
半分自棄になり、ヘブンちゃんの頭を押さえて、深く唇を吸ってやった。
なんか、甘い感じがする。
舌の感触もやわらかく、気持ちいい。
何秒経過したのか、どちらともなく唇を離した。
「……っはぁ、キス、おもいっきりしちゃった」
「愛香、大好きー」
ヘブンちゃんに、強く抱きしめられた。
こういうの、悪くないかもしれない。
そんなわたしの耳元に、背後から吐息がかかる。
「朝、愛香からわたしにキスしたのよね。なら、次はわたしから、し・て・あ・げ・る」
ヴィズちゃんのささやき声が耳をくすぐったかと思うと、その唇が近付いてきた。
そのまま、その唇は――――わたしの首筋へと向かった。
「って、それキスじゃなくて血吸いじゃないの~。身構えちゃったわよ。……じゃなくて、朝から吸うな~」
思いっきり、ヴィズちゃんの頭を引きはがす。
ヴィズちゃんは、やっぱり悪魔のヴィズちゃんだった。
朝の支度を終えたので、いざ登校だ。
ヴィズちゃんも行きたいというので、今日は三人で向かうことになった。
「やっほー、天ちゃん、ヘブンちゃん、……っと、今日はヴィズちゃんも来てるのか」
道すがら、貧血が治ったのか、元気な姿を見せた輝乱ちゃんと、鉢合わせする。
輝乱ちゃんの姉、法界さんが会長をやる魔術研究会は、教室が壊れてるから、しばらく活動は無いだろう。
これで当面は穏やかな日々が過ごせそうだ。
「わたしは天ちゃんの右腕を組む~」
輝乱ちゃんがわたしの腕に絡んでくる。
「なら、わたしは左でー」
ヴィズちゃんが左に絡んだ。
「なら、わたしは後ろから~」
ヘブンちゃんが背後から抱き付いてきた。
「動きにくいわー。離れろー」
この子らがいたら、平穏な日々は来そうにないなー。
まあ、それも悪くないかな。
今日もまた、波乱万丈な一日が幕を開けるのだ。
以上で、相思相愛、ゆるふわ天竺ヘブンを終わりたいと思います。
読んでくれた方々、ほんとうにありがとうございました。
これが初の連載であり初のラノベとなります。まだまだ拙くはありますが、少しはましになったかなとは思います。近々、新連載を始めたいと思います。
それでは。




