デイティクラウド定例報告会
今回は久しぶりにあの二人が再び登場します。覚えている人は一体何人いるのやら…笑
「――以上より、学園内についての報告を終わります」
同時刻、アカデメイアの一室ではデイティクラウド内の定期報告会が行われていた。その中にいるほとんどがAランクの生徒ばかりで、数少ないBランク生徒は一様に緊張した面持ちで席に座っていた。
学園内の報告が終わったのを確認して、司会の男子生徒が会議を進める。
「ありがとうございました。では次に、昨晩学外で起きた《シャドウアイ》のグループとの交戦についての報告です。部隊長、お願いします」
「はい」
呼ばれた部隊長、セシリアはハキハキとした口調でしゃべり始める。
「昨日、人さらいグループである《シャドウアイ》捕縛のため、B地区の倉庫にて交戦。《シャドウアイ》の下位メンバー二十四人と幹部一名を捕縛。ウィンデル治安維持局に身柄を預けました」
それを聞いた何人かの生徒が顔を顰める。治安維持局はセシリア達の上位組織に当たる所だが、職務怠慢や賄賂の横行の巣窟を化して久しい。維持部隊と違い、大人が運営する組織だが、総合的な能力を見てもエリート集団である維持部隊に大きく劣ることもあり、そこに重要な情報源を預けることは仕方のないこととはいえ、歯がゆく感じることだ。
セシリアはその雰囲気の変化を敏感に感じ取ったが、気づかない素振りをして続ける。
「――しかし、その場に居合わせたとき既に《シャドウアイ》と交戦していた《黒龍》と呼ばれる組織のメンバーについては逃走を許しました」
「《黒龍》?聞かないグループですね。ララ、知っていますか?」
「んーん。知らない名前だねえ。セシリアちゃん、それってどんな感じだったの?」
そこでセシリアの話の途中で話の腰を折る女子生徒が二人いた。Aランク生徒であり、この学園でセシリアに次ぐ実力者であるララ・ブリッツとユーリ・アイギスだ。
「昨日確認できたのは三人。そのうち二人については分からないですが、残りの一人、珍しい剣を持った女については、バリアハールで指名手配されていた《剣鬼》と特徴が一致しました」
「へ?誰それ?」
疑問の声を上げたララにユーリは生真面目に答える。
「今から約一年と少し前、東部最大の貿易都市、バリアハールを騒がせた人物ですね。美しい相貌とは裏腹に、その剣技は冴えわたり、鉄すらも斬ると言われていたそうです」
その説明にララは不満げに唇を尖らせる。
「そんなのここにいる人みーんな出来るよ!そのくらいで《剣鬼》とかもてはやされるなるなんて大げさだよー。やっぱり」
「まあ確かに、情報を基にすれば、せいぜい学園ではBランクそこそこといったところでしょう。昨日は部隊長だっていたんですし、そんな相手をみすみす取り逃がすとは思えないのですが…」
「――いえ、昨日取り逃がしたのはその《剣鬼》が原因ではありません。《剣鬼》を従え、そのグループの頭目とされる男が原因です。昨日、私はその男と真っ向から対決したうえで取り逃がしました」
「…!まさか…」
「…へえ、面白いじゃん」
片方は驚愕し、もう片方は獰猛に目を細め、それぞれ違った反応を見せるユーリとララ。
部屋にいた他の生徒達にとっても、セシリアの報告は驚きだったようで、途端にざわざわと部屋が騒がしくなる。
それを司会の生徒は咳払い一つで黙らせ、セシリアに続けてください、と促す。
「はい。向こうは『虚面』の魔術を使った上に仮面を被っていたため、顔などは分かりませんでしたが、上級魔法『嵐衣無縫』を扱い、守護獣として黒い龍まで使役していました」
ざわっとまた部屋が騒がしくなりそうになるが、セシリアのまた、という言葉に全員続きの言葉に耳を傾けようと口を噤む。
「近距離格闘についても練度は高く、相手は上位魔法使い(ハイプリースト)というだけではなく、戦士としての能力も非常に高く兼ねそろえており、Aランク上位相当の敵と考えてます」
「え、Aランク相当!?」
近くに座っていた一人が思わず声を上げるが、誰も注意する様子はない。周りも彼と同様に、驚き、それを指摘するどころでは無かったからだ。
ユーリは様になる仕草で顎に手を当てる。
「Aランク上位…。となるとこれからは各班に一人はAランクの生徒を付ける編成に組み替えた方が良さそうですね」
「それにしてもセシリアにそこまで言わせる相手って初めてじゃない?う~、考えたら興奮してきたー!」
ララの言葉に、セシリアがここで初めて表情を柔らかくする。
「もう、ララったら。それは流石に不謹慎じゃない?」
「せ…部隊長の言う通りです。ララはもう少し体裁や他人の考えというものを知った方がいいですよ」
「う~?そうかな?ごめんね!」
笑顔で反省の言葉を口にするララを見て、部屋に漂っていた緊張も少し緩和した。
こうしてその日、晴れて?《黒龍》はデイティクラウドの正式な危険勢力としてマークされることとなった。
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