↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
元カジノディーラーの俺、異世界で勇者を沼らせていたら世界が大混乱になった  作者: 越後⭐︎ドラゴン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
3/3

3話

「ちょうど今日、試してみようと思っていたところです」


 俺が卓の下から取り出したのは、数字を刻んだ円形の木盤だった。中央に軸を通し、縁には一から十二までの数字を並べてある。


「何だ、それ?」


「数字を当てる遊びです。数字一つなら六倍、奇数か偶数なら二倍」


「六倍?」


 アルベルトが露骨に食いついた。


「十二個あるのに六倍?」


 ノエルがすぐ気づく。


「店側が有利じゃない」


「その通りです」


「堂々と言うのね」


「利益が残らない店は続きませんから」


 アルベルトは笑って銀貨を一枚置いた。


「九」


 俺は盤を回し、小さな木球を落とした。


 球が跳ね、止まる。


「九です」


 一瞬の沈黙のあと、酒場が沸いた。


「一発で当てた!」


「勇者様すげえ!」


 銀貨一枚が六枚になる。


 アルベルトは満足そうにそれを引き寄せた。


「やっぱり俺、こういうの向いてるな」


「また始まった……」


 エリシアが額を押さえる。


 その後、他の客も参加し始めた。


 アルベルトは最初の大当たりで気をよくし、偶数、奇数、数字と賭け方を変えながら続ける。勝つこともあれば負けることもあったが、賭け金だけは少しずつ大きくなった。


「次、銀貨三枚。偶数」


「増やしすぎでは?」


「まだ勝ってる」


「勝っているうちに帰るのも手ですよ」


「あと一回」


 盤を回す。


 七。


「外れです」


 アルベルトの笑みが消えた。


「もう一回」


「今日はここまでにしては?」


「負けた分を戻すだけだ」


 エリシアがすぐ腕を掴む。


「それをやめなさいと言っているんです!」


 アルベルトは不満そうだったが、俺が盤を持ち上げると諦めた。


「……明日もやるよな?」


「店が開いていれば」


「明日は魔王討伐へ出る日でしょう!」


「出発前に一回くらいできる」


 嫌な予感しかしなかった。


     ◇


 翌日の昼、予感は当たった。


 旅装姿のアルベルトが酒場へ来た。


「一回だけ」


「今日は出発日でしょう」


「昨日の負けを戻したら行く」


 エリシアたちも一緒だったが、全員すでに疲れた顔をしている。


 アルベルトは銀貨五枚を卓へ置いた。


「十二」


「その金、旅の路銀では?」


「全部じゃない」


 エリシアが何か言いかけたが、アルベルトは先に盤を指した。


「一回だけだ」


 俺は念を押した。


「負けても追加しないでください」


「ああ」


 盤を回す。


 球が止まった。


 十二。


「よし!」


 銀貨五枚が三十枚になった。


 アルベルトの顔が一気に明るくなる。


「これだけあれば旅も楽になる!」


「なら帰りましょう」


 エリシアが言う。


「いや、勝った分だけならいいだろ」


「よくありません!」


 俺も首を振った。


「今日はもうやめた方がいい」


「増えた金だぞ?」


「元は路銀です」


 それでもアルベルトは引かなかった。


 勝った金だけだから。

 一回だけだから。

 戻せるから。


 言い訳を変えながら続け、三十枚あった銀貨は二十枚、十枚と減っていく。


「次で戻る」


「終わりです」


「まだ金はある」


 アルベルトが革袋を開く。


 エリシアの顔色が変わった。


「それ、残りの路銀でしょう!」


 店内が静まった。


 俺は盤から手を離した。


「路銀なら受けません」


「少しくらいなら――」


「駄目です」


「勝てば増える」


「負ければ旅に出られなくなる」


 アルベルトは黙った。


 それでも、すでに使った分だけで路銀はかなり減っていた。


 エリシアが袋の中を確認し、深く息を吐く。


「……足りません」


「え?」


「宿代と食料、馬車代を考えたら、魔王領まで行けません」


 アルベルトの顔から血の気が引いた。


     ◇


「勇者アルベルト様!」


 夕方、王宮の使者が酒場へ飛び込んできた。


「なぜまだ出発しておられないのです!」


 アルベルトは答えない。


 代わりにエリシアが言った。


「路銀が足りなくなりました」


「盗賊ですか?」


「本人が使いました」


「何に?」


 店内の視線が俺の卓へ集まった。


 使者は円盤を見て、次に俺を見る。


「……これは?」


「賭け事です」


「勇者様は、これで路銀を?」


「途中で止めましたけどね」


 役人は額を押さえた。


 結局、魔王討伐の出発は延期になった。


 新しい路銀を用意するには、王宮での手続きが必要らしい。


 使者に連れていかれる直前、アルベルトがこちらを振り返った。


「レン」


「何でしょう」


「次は勝つからな」


「まず魔王を倒してきてください」


 エリシアに襟首を引かれ、そのまま連れていかれた。


 静かになった店で、バルガンが卓を眺める。


「お前、とんでもない遊びを持ち込んだな」


「止めましたよ」


「勇者の出発は止まったけどな」


 言い返せなかった。


 ところが騒ぎを聞きつけたのか、店の外にはいつの間にか人が集まっていた。


「勇者様が六倍にした店ってここか?」


「新しい賭け事があるって聞いたぞ」


「俺もやってみたい!」


 バルガンが入口を見て、今度は俺を見る。


「なあ、レン。この卓一つじゃ足りなくねえか?」


「そうですね」


「前の世界じゃ、こういう店を何て呼んでた?」


 俺は円盤に手を置いた。


「カジノです」


「かじの?」


「賭け事をするための店ですよ」


 バルガンが笑う。


「だったら作るか?」


 外の列は、まだ伸びていた。


 前の世界では、俺は誰かが作ったカジノでカードを配るだけだった。


 この世界には、まだ一軒もない。


「……作ってみますか」


「何を?」


「俺のカジノを」


 翌朝、勇者が魔王討伐を延期した噂は王都中へ広がり、酒場の前には開店前から客が並んだ。


完




お試しの短編でした。最後までお読みいただきありがとうございます。反応よければ連載にするかも。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。