表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼師  作者: 宰相トマワ
22/27

炎の塔

現場に着くとそれはそれは酷い惨状だった。建物は崩れおちあちこちから炎が上がっていた。瓦礫の中から人の手足が垣間見えた。近くにはミサイルのかけららしきものが見えた。テロか戦争かが起きたようだった。

「あんたはあっちの建物に登って人を救いなさい。アタシはここを守るから。」

親方は言った。確かにそれが理にかなってるだろう。僕は転がってた漁師のバケツで水を被った後僕らが宿泊しているホテルも入っているあたりで一番高い建物に駆け上がった。

 鍛え上げられた肉体とはいえキツいものはキツい。建物の内部はすでに灼熱で煙たかった。それでも公助は直ぐには来ないことを考えると体力も力もある若い僕が行くしかなかった。

 最上階まで駆け上がってる途中、柱が少し曲がっていることに気づいた。多分熱にやられているのだろう。急がなければと思った矢先、轟音と共に上の階が潰れた。運良く自分のいる階は潰れなかったがこのままだと巻き込まれるのは時間の問題だろう。僕は引き返そうとした。その時だ。

「横綱...?」

声が聞こえた。声の方に行くと桂大国さんが小さい子供を2人庇っていた。桂大国さんは巨大な家具の下敷きになっていた。

「大国さん!!今助けます!!」

僕はそう言い駆け寄った。

「この子たちを助けてやってくれ。」

桂大国さんはそう言った。僕は言われた通り2人を引き抜いた。最後に桂大国さんを引き抜こうとすると

「横綱、もうやめろ!」

と言われた。僕は思わず

「どうして...?」

と言った。

「俺みたいなジジイはもうほっとけ!それでお前みたいな若者殺してどうする!」

桂大国さんは言った。僕は唖然とした。桂大国さんは

「横綱、この俺に立派な大横綱になってるところ見せてください。俺はあっちからも見てます。約束ですよ!」

と続けた。僕は

「...分かりました。」

としか言うことができなかった。僕は2人を抱えて下の階に降りた。

 降りてる途中、上層階が崩落した。今回も運良く自分のいる階にまでは落ちてこなかった。だがもうこれで救えない命が出てしまった。


〜今田 芳樹 (元幕下桂大国芳樹) 43歳 没〜


一応声かけをしながら降りていったがもう殆どの階で人が居ないか、死んでいた。それまでにたまたま生き残っていた足が不自由な老人と腕を怪我した妊婦も担いで低層階へと足を進めた。しかしそこでも予期せぬ事態が起こった。

「ドバババババ!!」

銃撃戦が一階で起こってるようだった。よくも崩壊まで秒読みの建物に攻め入ったな...と思ったが実際にそのせいで僕達は逃げる機会を見失った。僕だけなら逃げることができるだろうが、ここまで来てその選択肢は無いだろう。

「Stop!Stop!オゥケィ?」

僕は合ってるのかも分からない英語をみんなに伝え下の様子を見ようとした。すると桂幕川が僕を見つけるなり寄ってきた。

「横綱..!!」

「今どういう状況か教えて貰える?」

僕は言った。桂幕川は

「テロリストがこの建物漁ってます...!唯一ある勝手口はデカい家具があって動かない状況で...」

と言った。

「なるほどね。実は上の階に助けた人居るから運ぶの手伝って欲しい。」

と僕は言った。桂幕川は

「分かりました!」

と言って2人で上の階に戻った。戻ると桂幕川が妊婦に向かって

「姉ちゃん!?」

と驚いた声を出した。

「この方が幕川のお姉さん?」

僕はきいた。桂幕川は

「僕の姉です。そしてこの2人の小さい子は双子の妹です。」

と言った。となると妊婦は千風の嫁か。そんなことは今どうでもいい。みんなを連れて下の階に降りた。

降りるとテロリストの姿が見えた。まずい。テロリストも僕たちに気づいたのか発砲した。運良く僕たちには当たらなかったが背後の壁に穴が開いた。

「まずったな...」

僕は唸った。その時

「うがああああ!!」

奇声を発しながら銃を乱射する音が聞こえた。見るとライフルを抱えた千風がいた。

「千風関...!!」

僕は思わず声を出した。

「桂小春!!...いや横綱!!俺を置いて先に行け!!」

と言った。僕は

「千風関はどうするんですか!」

と言った。千風関はライフルを構えニカっと笑い

「なぁに心配すんな!俺は大関だ!先に待っとけ!」

と言った。僕は敢えてあまり引き留めず先に進んだ。

 僕は千風の表情を見て察したのだ。強がりでもなんでも無い、最期を悟っている目だった。何か重大な疾患でも隠していたのだろう。徹底して誰にも弱みを見せなかった。番付では追い越した形となったがこの時確実に僕は負けた。

「....お前に託した....」

銃の轟音の中千風がそう呟いたのだけ何故かはっきり聞こえた。でも僕は振り返らなかった。振り返るのはあまりに失礼だ。僕たちは先に進んだ。


〜メレッセ スィサイ (大関 千風 隆三郎) 32歳 没〜


「これがその家具です。横綱!動かしましょう。」

桂幕川が言った。僕と桂幕川は勝手口を塞いでるタンスのようなものをのけた。桂幕川の姉は

「弟を...ありがとうございます。」

と鼻声で言った。千風を見てさぞかし辛いはずなのに本当に優しい人だ。

「とりあえず僕が先に見てこよう。幕川は見張りをよろしく頼んだ。」

僕がそう言うと桂幕川は

「はい。」

と言った。僕は外に出てあたりを見渡した。薄暗い裏路地に人は居ないようだ。ちょっと離れたところに中型トラックがある。この人数を乗せるには十分だろう。運転はしたことなかったが夏殿くんにずっと自慢されてきたからなんとなく分かる。一か八かに賭けるしかなかった。

 僕はみんなを出す為に戻ろうとした。すると悲鳴が中から聞こえた。

「横綱!!敵が...」

桂幕川の言葉を遮るように銃声が聞こえた。見ると桂幕川が血を流していた。

「...クソッ!!」

僕は家具を敵に向けて投げるように転がした後全員を車に誘導した。

「横綱!私が運転します。」

桂幕川の姉が言った。これ以上頼もしいことはない。

「本当ですか!よろしくお願いします。」

僕は言って桂幕川を引っ張り上げた。みんなが乗ると、車は走り出した。

「...横綱」

意識が遠のきながら桂幕川は言った。

「しっかりして。」

僕は返した。桂幕川は薄ら笑いながら自らの妹の頭を撫で

「俺もちゃんとお兄ちゃんできましたかね...」

と言った。

「幕川はしっかりお兄ちゃんやってたよ。だからさ、関取になってもっとかっこいいお兄ちゃんを見せないとダメよね?」

僕は穏やかに言った。桂幕川の脈が落ちて行ってるのが分かる。

「そうですね...」

そう言う桂幕川の目には涙が浮かんでいた。

「...恩返しできなくてごめんなさい。」

桂幕川はそう言うと目を閉じた。

「おい!しっかりしろ!基地に着くまでの辛抱だ!」

僕は言った。けどもう何の反応もなかった。


〜クマリ 泰成(幕下 桂幕川 泰成) 16歳 没〜


悲しむ間も無く車は急ブレーキがかかった。

「嘘でしょ...」

桂幕川の姉は言った。その光景に僕は面食らった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ