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FF《フォロワー・ファンタジー》  作者: 疎遠
1章 光を喪くした今日を Intertwined_truth
39/43

大人の階段は大体嘘とごまかしでできている

『緊急ミッション!若者に性の喜びを教えてあげよう!』


 ……とまあ、そんな感じで、結局風俗の方針は変わらずと言ったところだった。

 とはいえ、タバコに関する明確な情報筋を得られただけでも前進はしていると言える。憶測で動いていたところにゴールができたわけで、そえーんのテンションも上がりっぱなしであった。

 具体的に言うと、ダイダラと肩を組んでスキップする程度には浮かれている。

 傍から客観的に見ると鬱陶しい限りなのだが、エアリアルやラットも徒労すぎる道行きに終わりが見えて安心しているのか、表情が緩い。元から目的が違うボケ二人は、風俗に行けると言うだけで満足なので言うに及ばずである。

 そんなわけで、『転生者』組としては珍しく全体的に明るい空気だった。

 が。


『……ねえ、おにーちゃん』

「なにかな?妹よ」


 軽やかにステップを踏むそえーんの後方。辺獄の裾を小さく引っ張るホルモンが、首を傾げながらこう言う。



『ふーぞくって、なあに?』



 停止。

 それは正に停止と呼ぶに相応しい。

 場の空気は一瞬にして凍りつき、そえーんの足は中途半端に振り上げられたまま固まる。時計の針は罅割れ、エアリアルの緩んだ頬が不自然に痙攣する。

 性教育。

 それは純新無垢な子供相手だからこそ避けては通れない、全人類共通の難題だった。

 たっぷり一秒かけて足を着地させたそえーんは、静かにダイダラの腕を解き、数歩。

 無言でエアリアルの首根っこを捕まえて蹲る。


「(……しまったァ————!ホルモンちゃんの存在を完全に忘れてたんだけど!!ねえこれどうすんのどうしたらいいの!?ていうか正解ってなに?大人がモンゴル相撲するところとか言うの!?モンゴル相撲通じるかな!?ていうか正直僕もよく知らないんだけどモンゴル相撲ってなに!?)」

「(……ウチも知りませんけど!発端から結末まで全部そえーんさんが原因ですし、自分でなんとかして下さい)」

「(……おおおおおお落ち着け!皆で考えればなんとかなるって!三人集まれば文殊の知恵って言うじゃん!)」

「(……なんで我もしっかり数に入ってるんです?ついでみたいに尻尾握りしめられて、逃げられなくされただけなんですけど)」

「(……なんスか?内緒話スか?よく分かんないけど、俺ァ隠し事とかよくないと思うので全部正直に言うといいと思うっス!)」

「(……勝手に入ってくんな色ボケ異世界人め!正直にってなんて言うんだ、放送禁止用語のオンパレードを推定小学校低学年さんに言って聞かせるつもりか!?物事には良きタイミングというものがあるんです。今は断じてその時では無いッ!)」


 というか、そもそもにして、どうしてたかだか成人したての独身男がこんな命題にぶち当たらなければならないのか。世界の理不尽にそえーんが頭を抱え始めた辺りで、辺獄の猫撫で声が聞こえた。


「風俗って言うのはね、皆が気持ちよくなる場所なんだよ。具体的に言うと、女の子のあな————」

「どらしゃああああああああああい!!!!!!」


 事ここに至ってそえーんは全ての煩悶を放棄。全日本プロレスもかくやのドロップキックで辺獄を吹っ飛ばす。


「痛っだぁ!?またアンタですか暴力しか知らない野蛮人め!今度は一体なんだって言うんだ!!」

「…………、」


 被害者然とした叫びを背に受けながら、そえーんはむくりと体を起こす。丁寧に土埃を落とし、辺獄を振り向いて一秒。

 にこり、と優しげに微笑んで、


「それはね辺獄くん。……頭から!!ケツまで!!こっちのセリフじゃドクソボケがァァあああああああああ!!!!!!」

「ヒィッ!?ちょっ!やめっ……やめて!助走付きの延髄切りはダメ……ッ!?やだこの人本気の殺意を感じるんですけど!!」

「身長一二○センチ女児相手に何を吹き込もうとしてたお前!言え!!」

「なになになに怖い!」襟首を掴まれてガックンガックン揺らされる辺獄は慌てたように、「何って性教育ですが!?正しい知識をお兄ちゃんとして教えてあげようとしたまでですが!?」

「どこの世界に初めてからあんな生々しい性教育するご家庭があるんだ!?いやあったとしても僕は絶対認めません!!だってそんなこと教えて、その後どうやって接したらいいか分からなくなるもの!!するにしても、もっとファンシーに!ピュアに!!原型が分からなくなるくらいオブラートに包みまくっていくべきだろ!」


 一息で叫び倒したそえーんが肩で息をする下、最終的に馬乗り状態で揺さぶられ続けた辺獄は「……だって」と、小さく呟いた。


「だって!そんなのになんの意味があるんですか!?」

「……、はあ?」

「肝心なところをぼかした説明になんの意味があるんですか!そんなの何も伝わらない!伝わらないのが分かっててする教育なんて最初から騙そうとしてるのと何も変わらない!!なにより……なにより!」


 一拍、決意を示すようにキッとそえーんの顔を睨んで、


「なにより————性に目覚めたホルモンちゃんから迫られるルートが生まれないじゃないですか!!」

「最初っからそれが目的かテメェ——————ッ!!!!」


 もう往復ビンタしかないのだった。

 コイツが風俗に反対しなかったのもこれが理由か……!とそえーんは砕けるほど歯噛みしつつ、辺獄の頬をタコ殴りにしていく。

 アウトラインを踏み越えたド畜生は、結局暴力で更生するしかないのだ!


 *   *   *   *   *


「……うぶふぅ……」

『おにーちゃん、お顔まっか!』


 そんなこんなで住宅街を突き進むこと数分。

 幸か不幸か、バカの一騒動ではじめての性教育問題は有耶無耶になった。今のホルモンの興味は、蜂の巣に突っ込んだ後みたいになっている辺獄の顔面へ移っている。

 ……なんでもいいが、ボッコボコの顔面指さしてキャッキャする女児というのもどうなんだろう。

 銭湯で躊躇いなくバッチンバッチンやっていたあたりから何となく察していたが、ホルモン(この子)、暴力を一般的なコミュニケーションと誤解している節がある。

 誰の影響かと言えば間違いなく自分達のせいなのだが、挨拶のノリでグーパンとかする女の子に育ってしまったらどうしよう。そんなの絶対社会にとけ込めないし。学校生活とか、ぼっち一直線間違いなしだ。

 勘違いするにしても、辺獄は何をしてもいい人間サンドバッグだ的な方向にどこかで軌道修正してやらなければなるまい。


「……いや待て、なんで僕がホルモンちゃんの将来を心配して……ハッ!まさかこれが父性……!?い、いやだ!独身貴族のうちからそんなもの持ちたくない!」

「また何をブツブツ一人の世界に入ってるん?————で、次どっち行くの」


 あん?と、前を歩く卿の声に顔を上げると、目の前はどん詰まりの壁だった。


「……あれ?おかしいな。おばちゃんの話だとこの道真っ直ぐでつくはずなんだけど」


 地上高で十メートルはあるだろうか、やけに高く組み上げられたレンガ壁は横に長く伸びている。

 それに沿うように左右へ向かう細い道はあるが、壁と住宅に挟まれたそれはどう見ても生活道で、どこかに繋がるようには見えない。行ったところで恐らく堂々巡りになるだけだろう。


「曲がるとこ間違えたんちゃう?」

「いやあ……あんだけ分かりやすい道間違えるか?」

「聞き間違えましたかね。それか、そもそも話自体が間違ってたとか」

「ええ……じゃあまた商店街まで戻んの?嫌だよ僕、流石に体力がもたない」


 エアリアルも交えた三人で壁を見上げてみるが、見上げたところでどうなるわけでもない。

 いっその事、壁の上まで登れば風俗街を見つけられるかもしれないが、レンガ造りに多少の凹凸があるとは言え、十メートルもの高さを命綱無しのロッククライミングは危険すぎる。辿り着けないだけならいいが、途中で落下でもしたらそれこそ目が当てられない。

 結局、来た道を戻ってみるしかないか、と溜息をついて、


『……ふんふん。これがこうで……こうスかね?ああいや、こっちか。で、こっちがこれにかかってて……へえ、面白えなこれ』


 なんか、ダイダラが壁のあちこちを触りながらブツブツ呟いていた。


「……何してんの?君」

『ちょっと待ってもらっていいスか?今いいところなんで』


 首を傾げるそえーんだが、ダイダラの表情はいたって真面目。風俗に焦がれるあまり正気を失ったとかでは無さそうだが、一体全体何をしているのか全く分からない。


『……うん。てことはこれをこうして……こう!』


 ペタペタ壁面に這わせていた手で、レンガ壁の微妙に張り出した一石を押し込むダイダラ。

 反応は劇的だった。

 押し込まれると同時、一石は隣合う一石に作用し、それが瞬く間に連鎖する。

 ガゴゴガゴ!と異様な音が鳴り響いて、


「は?え、なに怖い!お前何して————」


 十秒もかからないうちに、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「————あ?」


 その雰囲気は、隠し扉というより隠し通路の入口に近い。

 凡そ二、三メートルといったところだろうか、そえーん達から見て奥側に移動したレンガ壁の一部は半円状になっている。

 それだけならなんの意味もないだろうが、凹みに向かって左側、元々ある壁との間に細い通路が生まれていた。

 理屈で言えば単純なもの、だと思う。

 壁の一部分に元から空洞を作っておき、それを塞ぐ形で更に壁を繋げていく。塞いだ部分に奥へ凹むような仕掛けを作れば、必然隙間が生まれ、入口の完成というわけだ。

 だが、


「なんだこれ……また『魔法』か?」


 そえーんは困惑しつつ呟く。

 壁の材質はレンガだ。つまり石だ。木組みの壁ならともかく、石がひとりでに動く仕掛け壁なんて聞いたことがない。

 そもそも、果たして物理的にそんなもの可能なのか。

 なんて言うか、全体的に胡散臭すぎる。

 脳内で危険信号が点滅しはじめたそえーんは、思わず一歩後ろへ下がるが、


『道が間違ってないなら多分これスよね、娼婦街の入口』

「よくやった兄弟。さあ行くぞ、早く行くぞ、今すぐだ」

「ちょ、待ってズリキチ!一回冷静になろう!?僕はそこ危ない匂いがするなーなんて思ったり————ダメだ話聞いてないコイツ!」

「エロを目の前にしたずりきっつぁんが話とか聞くわけないんだよなあ……」

「風俗ズリキチとか、猪突猛進と意味いっしょやしね」

『ひみつきち、わくわく!』

「うーん、妹が何か勘違いしていそうだけど可愛いからヨシ!」


 理性をかなぐり捨てたズリキチに半ば引きずられるような形で通路の中へ。

 外から見た感じで察してはいたが、内部はかなり狭かった。天井はうっかりすると頭を擦りかねないほど低く、道幅も細い。必然縦列でしか進む方法は無く、ズリキチを先頭にダイダラ、ラット、そえーん、エアリアル、ホルモンと辺獄、卿の順に並ぶ。


「あの、何でもいいんですけど我の尻尾握りしめるのやめませんか?なんかこう、ムズムズするんですが」

「許せ。不安からくる可愛い行動だ。あと天井崩れたりした時に一人になるとか嫌だ」

「疑いようもなく我を巻き込もうとしてますね!?はーなーしーてー!!」


 暴れるずんぐりむっくりの影が、壁面に備え付けられたランプの光で大きく揺れる。

 ランプがある、つまり火が燃えているということは空気があるということであり、進めば恐らく出口はあるのだろうが、それでも不安なものは不安なのだ。


「ホントにこれ大丈夫なのかなあ……もうあの仕掛けからして『魔法』っぽい雰囲気感じちゃうんだけどなあ……そこんとこどうなのよ、ダイダラくん」

『まほー、スか?よく分かんないスけど、ありゃあ別に大したモンじゃないスよ。どう見ても不自然な組み方でしたし、最初からなんかあるなー、とは』

「……、他にあれ見てそんなこと思った人?」


 背後の面々に目線を投げてみるが、一様に首を横に振るだけだった。

 だよなあ、とそえーんはレンガの壁面を眺める。

 どう見ても、とか言われたところで、素人目にはそれこそどう見てもただの壁にしか見えなかったんだが。

 出会った時の話や体つきから考えて、どうもダイダラは建築や工芸方面の職人かなにからしいし、その辺の違いなのかなあ……などと自己完結してみたり。

 そうこうしているうちに、通路を抜けた。


「おお……」


 そこは、正しく一個の街だった。

 立ち並ぶ木造建築に、至る所から漏れる朧気な灯り。全体としてどこか艶めかしい雰囲気を漂わせる街並みは、伝え聞く日本の吉原にも似ている。

 視線を遠くに投げれば、四方は今くぐりぬけて来た物と同じ高いレンガ壁に囲まれ、外界から隔離するようなその造りがアンダーグラウンド感を強めていた。


「……思ってたよりアダルトな感じ……!」

「なんか、想像通りの異世界風俗って感じですね」


 なんというか、軽いカルチャーショックを受けた気分だ。

 ラットと二人、立ちすくんだまま呆けていると、後ろから軽く肩を掴まれた。

 振り向いてみると、全く知らない顔の中年男が立っていた。

 特にこれといった特徴も無いが、皮の防具らしきものを身につけている。その背後には簡素な椅子と机があり、壁際にはさすまたのような物が立てかけてあった。

 門番、のようなものだろうか。


『……、…………?』

「エアくん、『魔法』。効果切れてる」

「自分を翻訳機かなにかと勘違いしてるような当然さできますね……もういいですけど、別に」


 不貞腐れてるのか疲れてるのか、若干投げやりめいた呟きを零しつつ、エアリアルが『魔法』を展開。


「アイーン」

『……なんだこの兄ちゃん、いきなり壊れてねえかい?』

「ああ、気にしないでいっすよ。それしゃっくりなんで」

『しゃっくり』

「そうしゃっくり————で、なんすか?」


 入口の段階からどことなく嫌な予感を覚えていたせいか、無意識のうちにそえーんの口調は警戒の色を帯びる。言葉を交わしつつも周囲に目を配り、いざとなればすぐ逃げられるように頭はフル回転していた。

 だが、門番らしき中年はのんびりとした口調で、


『ああ、そう。それ。兄ちゃん達、ここは初めてかい?だったら手続きせにゃあ遊べんよ。おじさんやってあげるから、ほら』

「……てつづき?」

『そう、手続き』背後の机に向かって戻りつつ、『行きはよいよい、帰りは怖いってね。この街が売りにしてるモノがモノだからねえ、まあそれなりの金が入用になるわけよ。だがまあ、中には金もないのにのめり込んじまうやつがいてね。そうなると当然出てくるわけよ、ヤり逃げってのがさ』

「ヤり逃げて、言い方」

『そういうのを防止するために、この壁があるわけだがね。これもその一環てわけさ。街に入る連中は最初に身元の情報と保証金ってのを払うんだよ。ほら、したら逃げたところで居場所も分かっちゃうし、仮に逃げ切られても保証金で補填ができるだろ?』

「……なるほど?」


 とは言ってみたものの、内心首を傾げるそえーん。

 おかしい。風俗ってもっとこう、秘密の裏社会みたいな、アダルティな仮面舞踏会的な感じだと思っていたのだが、随分と秩序がしっかりしておられる。


(……ハッ!?待て……身元の情報って、僕らそう言えば家なき子だけどいけるのか!?)


 直接的に言ってしまえば住所不定無職である。たまたま金だけは持っているが、それで乗り切れるものなのだろうか。

 というかそれ以前に、これだけ秩序だった街で未成年の立ち入りは果たしてアリなのか。ダイダラはともかく、ホルモンに関してはもう誤魔化しようもなく未成年だ。それを連れ込んだとなれば、一体どういう扱いを受けるのか。

 逮捕、の二文字が脳裏でダンスを始めていた。


「はわわわわわ……!!」

「またなんかそえーんくんが一人で壊れてるけど」

「動画とか撮らないんですね。卿さんにしては珍しく」

「なんかちょっと飽きちゃったよね。さんまも人間も新鮮味が大事かなと思う猥です」

『さんま。ふるくよりひとにあだなす、まのそんざい。まをふうじ、めっするもの……さんますたー!』

「いつの間にか私の妹が汚染されている!?これいつ吹き込んだアンタ!」

「はっはっはっ、いい叫びやで辺獄くん。記念写真撮ろ。セイ、ピース」


 なにやらまた後ろで即興コントが始まっていたが、そえーんにそんなこと構っている余裕はない。

 恐る恐る、門番に近寄って尋ねてみる。


「あのぅ……もし、もしもの話なんですけどね?もしこの街に未成年とか入っちゃったらどうなるのかなー、とか。具体的に言うと捕まっちゃったりするのかなー、なんて……」

『ん?そりゃあまあ、この街は大人以外お断りだがね。別に取って食ゃあしねえさ、悪魔じゃあるまいし』

「あ、そなんだ……」


 カッカッカッ、と快活に笑う姿に胸を撫で下ろす。そんなそえーんに背を向けたまま、中年は『だがまあ』と言葉を続けた。


『大人がガキ連れ込んだって話なら変わってくるけどな。おじさんも実際見たことはないが、一生この街の中に監禁されるって話だぞ』

「いっ……!?」

『当然と言えば当然だけどな。この街の秩序は(こいつ)に頼る所が大きい』ぺちぺちと、レンガ壁を手で叩いて、『入口の仕掛け見たろ?ありゃあ別に酔狂でやってるわけじゃない。この街に秩序を作ろうって時に、上の方々が頭を悩ませてな。なにしろこの世界に生きてんのは人間だけじゃあない。数が少ないとは言え獣人や小人族(ドヴェルグ)なんて異種族もいる。森人(エルフ)なんか百年単位で見た目が変わらないのもザラらしいじゃねえか。となると、もう見た目で計るわけにもいかねえわな』

森人(エルフ)、だと……!?」

「気持ちは分かりますよズリキチさん。私も滾ってきました。ここに来て生まれた、のじゃロリの可能性……ッ!!」

『……おにーちゃん?』

「ああ、そんな目で見ないで妹よ!仄かに感じる嫉妬の視線が気持ちいい!!やっぱりいっぱい見て!罵って!!」

「…………、」


 門番はガサゴソと机の上の書類を整理しながら続ける。


『まあそんなわけで、どこぞの天才大工に白羽の矢が立ったわけだ。そいつの造ったあの仕掛けは、普通の人間にゃあ解除はおろか、なにかがあると見抜くことさえできゃしない。こうして外と完全に隔離されたこの街は、代わりに秩序を得た。成人と認められた者にだけ、大人がこの街に連れてくる形でな。だからこそ、その秘密を認められた者以外に漏らすことは、この街ではなによりも重罪なのさ。苦労して作り上げた秩序が土台から崩れ落ちるからよ』

「…………、」

『はぁー、なるほどっスね。確かにあんな面白いモン、俺の『圏域』でも見たことなかったっスもん』

『なんだ兄ちゃん、お流れさんかい。となるとギリシアか?』

『っス。職人としての武者修行、的な?』

『そうかそうか。まあ楽しんで行ってくれや』


 ほい、と。そこまで言って、門番は数枚の紙を手渡してくる。


『一番上が身元の確認書な。二枚目が保証金の支払い同意書。最後のやつがこの街のルールをまとめたもんだ、外とは違うこともあるから一度は読んどいた方がいいぞ————て、おい兄ちゃん。アンタすごい汗だが、どこか悪いのかい』

「……はっ!?いいいいえいえいえいえ!?別に!?普通ですけど!!そうあの、あれ!多汗症ってやつ!?」


 咄嗟にそう答えるそえーんだったが、目とかバタフライで太平洋を渡る勢いだった。

 どこが悪いかと聞かれれば、もうこの状況全部が悪い。

 なにしろ未成年が二人(内一人は幼女)である。しかも話を聞く限り、今ここで正直に白状したところでもう手遅れ。追い出されるどころか、逆に閉じ込められると来た。

 涙目でエアリアルの元に駆け寄り、頭をつきあわせる。


「(……どどどどうしようエアえもん!!なんか逃げられる便利道具ない!?通り抜けなんとかみたいなやつ!!)」

「(……アイーン)」

「(……ダメだこいつ今壊れてた!!)」

「(……大丈夫っス。いざとなれば俺の親方が教えてくれたことにするっス)」

「(……おまっ!?まさか自分の親方に全部の罪を押し付けるつもりか!?さっき隠し事とか良くないって言ってたのはどうした!!)」

「(……現実は残酷っス。男には大事な人を犠牲にしてでも進まなければならない時がある……!)」

「(……自分の欲望に忠実すぎるドクズかお前!ていうかやだよー。進みたくないよー。もういいじゃん、場所はわかったんだし、今度またお前一人で来なよ。今日はもう適当言って帰ろう。タバコの情報だけ僕に教えてさよならしよう?ね!)」


 もうこうなったら、なんとしてでもバレないうちにここから逃げ出すしかない。そもそもそえーんはこの街そのものに用があるわけでもないし。

 なにより、何かあったら犠牲になる親方さんが可哀想すぎる。嘘、ダメ、絶対。

 よし!と気合いを入れて立ち上がるそえーん。

 伝家の宝刀、おばあちゃん危篤作戦を発動しようと口を開いて、


『そう言えば兄ちゃん達、全員この街初めてらしいが————誰から壁のこと、聞いた?』

「こいつ!こいつの親方から教えてもらいました!!そうだよな兄弟ッッッ!?!?!?」

『ウッスッッッ!!!!!!』

Special Thanks

『人外魔討伝〜三魔〜』

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