3-3 神器の使い手
これまでの状況おさらい
一番北 リヒテンブルグ王国:西の大陸を制覇したリヒテンブルグ王国はネイル国のさらに北に軍を上陸させる。ローレの考えた「邪国」という名前が各国に浸透し、つぎつぎと周辺の部族を併合して軍を拡大させていった。四騎将のうち、3人が率いた軍はネイル国を打ち破り、ネイル城を包囲した。3000のみを残してネイル国からの投降兵6000と「斬空」ライレルの率いる部隊が他の地域を支配する。そして東のトバン王国との開戦間近に北から撤収命令が下った。帰ると最後の四騎将「ババア」アウラにより食糧事情がこのままでは破綻すると指摘され、北の集落周辺のみで狩猟生活を開始する事になる。ヨシュア達はいらないから解放された。
2番目北 ネイル国:帝都包囲戦でイレクト将軍が暗殺され撤退を余儀なくされる。ミランダ将軍が軍を率いて帰ってくると留守をしていたヨシュア将軍が北の「邪国」を討ちに行くと1万を引き連れて出撃、しかし「魔卒者」ローレの率いるテンペストウルフ部隊に打ち破られ敗北、投降する。その後、ネイル城は「邪国」の軍3000に包囲され、その他の領地は奪われてしまった。「邪国」軍がなぜか北へ撤退するが、籠城で疲れ切ったネイル国軍は奪われた土地を奪還する事ができず、領土はエレメント魔人国との開戦時とほぼ同じにまで減ってしまっていた。
エレメントの東 トバン王国:エレメント魔人国の魔王アルキメデスが戦死したのをきっかけにエレメント魔人国は衰退する。ネイル国の将軍イレクトはこれを好機とみてトバン王国との同盟を成立させた。両国を同時に相手する国力のなかったエレメント魔人国はついに帝都まで包囲されてしまう。しかし、謎の暗殺部隊により、包囲中のトバン王国の兵糧庫が焼き払われ、さらには同盟を為したネイル国のイレクト将軍までもが暗殺されてしまった。同盟は空中分解し、トバン王国軍は撤退を余儀なくされる。殿を務めた第2軍将軍であるホーリーは撤退戦でエレメント魔人国の遊撃隊を率いるブルーム=バイオレットを退けるが、その父親譲りの才能に恐怖するのであった。一旦撤退したトバン王国であったが、北から「邪国」が攻めてきているために警戒をする。しかし、開戦間近になり「邪国」は北へ撤退した。「邪国」が占領していたネイル国の東側でありエレメント魔人国の北東部にあたる領域は空白地帯となる。トバン王国はこれに対して第1軍および第2軍の総勢約1万5千を出して占領を試みるが、エレメント魔人国も同時にここに軍を進めていた。1万5千に対して8000の兵を出してきたエレメント魔人国に慢心するわけでもなくむしろ慎重となるホーリー将軍たちであったが、主戦場に着く前に奇襲を受けてしまう。奇襲を行ったのはブルーム=バイオレットの率いる遊撃隊であり、第1軍のジェイド将軍を始めとして多くの将官を討ち取られ、揮系統を乱された第1軍の混乱を収めつつ、ホーリー将軍は全軍を率いて見事に撤退したのであった。
エレメント魔人国:トバン王国とネイル国の両国に攻められ帝都を包囲されたエレメント魔人国であったが、不可侵条約を結んでいるヴァレンタイン王国から派遣された部隊の活躍により、これを退けることに成功した。魔王代理リゼ=バイオレットは現在の状態で自分が魔王に着くには実力不足であると自覚していた。次世代の魔王が育つその時期まで、どんな屈辱でも耐えきると決意したリゼはヴァレンタインに渡り、アイオライ=ヴァレンタインから秘密裏に同盟を勝ち取る事に成功する。そして夫であるジンの仇でもあるレイクサイド領からの支援部隊を受け入れたリゼ=バイオレットは「邪国」が去って空白地帯となった北東の領域を狙ったトバン王国を退かせる事に成功し、国力を大きく回復する事に成功したのであった。
南東 ヒノモト国:ヒノモト国の東にはオーブリオン大陸というヴァレンタイン大陸の2/3程度の大きさの大陸が存在した。いままでそこにはオーブリオン王国という国が存在していたが、この数年でここに巣を作った天災級の魔物「白虎」によって首都を含めて多くの都市が滅ぼされてしまう。国王は騎士団を率いて白虎の討伐を試みるが失敗、ほとんどの王族と騎士団の過半数が討ち死にし、オーブリオン王国の行政は成り立たなくなった。唯一の生き残りである王子ハルト=オーブリオンはヒノモト国に下る事を条件に救援を要請し、「神殺し」の魔王テツヤ=ヒノモトは廃都となったオーブリオンで白虎を討伐する。そしてヒノモト国はオーブリオン大陸の再建に取り掛かるのであったが、魔王は行政にはむしろ邪魔なので誰か相手してあげれる人を探したしたところ、主人公一行(←ちょい役)がいたから魔王弟シン=ヒノモトは彼らに兄を押し付けて島を巡らせたりしていた。
トバン王国とオーブリオン大陸のちょうど中間地点にスクラロ島という島があり、そこに住むスクラロ族は神を信仰する部族であった。「神殺し」を名乗るテツヤ=ヒノモトに怒りを覚える魔王ナトリ=スクラロはオーブリオン大陸への進軍を決意する。彼らの得意な魔法は「魔装」といい、その自らの魔力で編み出した装備に身を包み戦う独特のものであった。
「やっぱり、スクラロ王国の連中は北に進出してきているみたい。」
廃都オーブリオンに設置された仮設行政機関ではヒノモト国の人間が忙しくしていた。
「北の都市「バンシ」にもこっちからある程度の人数は派遣してあるし、もともとのオーブリオン王国の人間が意外にも残ってたからそれで対応しているけど、本格的な戦争になったらライクバルト艦隊だけじゃ何にもできないからね!テツ兄!聞いてる!?」
「え?ああ、スクラロと一戦交えようってんだろ?」
「ちがうよ・・・。」
最近、シン=ヒノモト殿の疲労感が半端ねえ。
「あっちにはカイト達に行ってもらってる。もしここが攻められるとしたら北からしか可能性はないからね。テツ兄もはやいところ合流してもらえるとカイトの負担が減るんだけどさ。」
「あー、分かった。北に行ってスクラロ王国の連中をぶちのめしてくればいいんだな?」
「不必要な交戦は控えてよ!」
旧オーブリオン王国の騎士団はそのほとんどが白虎との闘いで討ち死にしていた。残ったのはごくわずかなハルト=オーブリオンの護衛のみであり、その中には引退間近の者も多かった。元将軍ランドルフ=モートンもその中の一人である。彼は正確に言うと引退していたのであるが、ハルト=オーブリオンがマルセインに左遷されるにあたってお目付け役として派遣されたようなものだった。御年60歳を超えるこの世界では老人である。
「カイト殿、どうですかな。」
ここ数日、北の港町クスへの上陸を続けているスクラロ王国軍であったが、その規模は当初の予想を大きく裏切り、3000を超す大軍となっていた。
「じいさん、こりゃやべえよ。早いところ逃げる準備をしといた方がいい。」
「逃げるなどとは!持ってのほかです!」
「そういう古臭い考えはいいから。俺らだって陸に上がったら役立たずなんだしよ。それにこういう時は陸の上だろうが海の上だろうが勝てない時は逃げねえと死んじまうぜ?」
「私は騎士として逃げるなどという卑怯な行為は・・・。」
「あー、そんなんだから、あんたん所の騎士団は白虎に向って行って全員死んじまったんじゃねえか。じいさんだけが死ぬならかまわんけど、ここには若いもんだって多いんだぜ?」
精鋭が討ち死にした騎士団の生き残りは年寄りか若年だと相場が決まっている。ランドルフが率いている騎士団も今年で成人したばかりの者が多数含まれていた。
「何も馬鹿にしようっていうんじゃねえんだ。なんつったっけな、・・・そう。「戦略的撤退」ってやつだよ。」
「ぐぬぬ・・・、分かり申した。それでここで引くことで勝利が見えてくるのですかな?」
「そりゃあ、一ついい案があるぜ!」
「なんと!?」
どや顔で人差し指を突き立てて笑うカイト。
「テツヤ連れてきて突っ込ませるんだ。多分2000くらいは倒せちまうさ!そしたら残りの1000を俺とあんたの騎士団でなんとかしてる間に2000をたおしたテツヤが残りの1000も倒すってわけだ。」
いい案もなにも、いつもの事だとは言わずにいい笑顔で返すカイト。若干あきれ気味のランドルフ。
「テツヤ様がお強いのは分かりましたが、相手は3000のスクラロ族です。彼らの特徴をご存じか?」
「ん?いやあ、よく知らねえんだけど・・・。」
ランドルフからため息が出る。
「彼らの特殊な魔法の使い方の中で最も厄介なのが「魔装」です。その魔力を込めた召喚装備はアダマンタイトよりも固く、ミスリルよりも鋭い。生半可な破壊魔法など跳ね返すために非常に強い。」
先ほどまでの笑顔が凍り付くカイト。
「お分かりになりましたでしょうか?今までヒノモト国が戦ってきたようなエレメントなどの一般兵とは次元の違うつよ・・・どうされました?」
「魔力を込めた装備だと!!??」
顔のした半分を手で覆い、驚愕の表情を浮かべるカイト。
「まさか・・・それじゃあ、次元斬が通らない相手って事か!?」
「テツヤ様の次元斬が魔力で止められるというのであれば、そうでしょうな。」
カイトは、ばっっと立ち上がり緊急連絡用の魔道具を取る。
「これはテツヤに知らせなけりゃならん!」
「確かに、テツヤ様にとっては天敵ともいえる相手。対策を練る必要がありましょう。」
「違う!」
何が違うのか、ランドルフには理解できない。
「あいつが純粋に剣技で戦える相手なんざほとんどいねえんだ!これは早ければ今日中にでもテツヤがここに来るぞ!次元斬が有名すぎて、皆見落としがちだが、あいつの強さの秘密は次元斬じゃねえ。スキル「不屈」だ!強敵がいると聞いたらあいつは飛んでくるぞ!これで俺が楽できるぜ!ひゃっほう!!」
「・・・・・・。」
いまいちノリについていけないランドルフであった。
「ヒノモト国に神の鉄槌を!!」
「「神の鉄槌を!!」」
クスに上陸したスクラロ軍は実際には3500を超えた。
「ナトリ=スクラロ様、上陸完了してございます。」
「うむ、神も喜んでおられよう。」
スクラロ族は全ての武器防具を己の魔力で生成する事ができるために見た目では兵種が分からない。おのずと得意な魔法も偏ってくるために近距離や遠距離で大まかには分かれているが、優秀な者ほどすべての兵種をこなせる。ある時集団の最前線で戦っていた重装歩兵が急に遠距離攻撃のできる魔法兵へと早変わりするのだ。スクラロ国との戦争をした事がない者にとってはその異常な呼吸の違いが命取りとなりうる。
「明日、バンシに向けて進軍する。本日はここに野営せよ。」
野営の方法も魔力を使う結界を張る。結界を張る係りの者は夜通し魔力を注ぎ続けるのであるが、その代わりに中に入ったものは安眠を約束される。そしてこの3500の部隊に対して結界を張る人間は50もいない。魔力でできる事は魔力で行うという教えのもと、普段から魔力の訓練をしている民族は単純に強い。
「斥候も放て。ヒノモトとオーブリオンの軍を捕えるのだ。奴らの動向を探れ。」
「はっ!」
数名の者が闇に紛れる。南に向かう彼らは途中でオーブリオンの民が来ている服に着替える。文明的な服装をすれば同じ魔人族であり、見分けなどつかない。ただ、その服が薄かったり、着こんでいたりしても本人は常に涼しい顔をしている。常に己の魔力を身に纏わせているためだ。日常生活にまで魔力の訓練を組み込んでいる民族がこれまで世界の表部隊に出てこなかったのは、単に祈祷の結果に過ぎない。
「ヒノモト国、魔王テツヤ=ヒノモトに神の鉄槌を・・・か。」
ナトリ=スクラロはそっとつぶやく。この数年、神のお告げなどないという事は誰にも知られていない。「神殺し」が「神」を殺した頃より、神のお告げを聞くことのできる神器には何の反応も起きなくなった。
「神よ、何故答えてくれないのですか・・・。」
手のひらにはその神器が、そして使い慣れたナトリ=スクラロは今度も神器を使ってみる。
カパッ、ぽちぽちぽち・・・・ぷるるるるるる、ぷるるるるるる・・・。
神器を耳に当てる。しかし「神」からの返事はない。今までは「はい、もしもしヨシヒロです。」とすぐに返事を返してくれた神はもうナトリ達を見放したのだろうか。それとも、本当に「神殺し」に殺されたのか。つながると魔力がごっそりと減る。当初はかなりの力を要した。だが、今では全く魔力を奪われることはない。
「君は私の話し相手だ。たまにこれを使って連絡を取ってくれるといい。コンソール・テレフォンという私の神の力を込めた魔道具だ。相談事でもなんでも話してくれると嬉しい。たまに神として接してくれる人と話したくなる時があるんだよ。」
神のおっしゃる事は理解できない事もあったが、言われた事は全てが正しかった。エレメント魔人国に降伏する時もナトリの要望が全て受け入れられた。しかし、今、神の道標はない。己の意志で行動するしかない。ならば、「神」を殺したなどとほざいている奴には鉄槌を下すのだ。
翌日、オーブリオン大陸北部の町「バンシ」に向かうスクラロ軍はその町の前で布陣しているヒノモト軍と対峙する事になる。その先頭には憎き「神殺し」テツヤ=ヒノモトが満面の笑みで立っていた。
話がごちゃごちゃして申し訳ない。そしてどうやって収束させようか?




