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5-4 最終話 終着

 あり得ないほどの力がこもった一撃がヨシヒロ神を捕える。その速度についていけるのは彼が神であるからであり、そんな彼を押し込んでいるのは奴が神を越えているからだった。

「神楽先輩!!」

 後方から復活したテツヤ様が切り込む。しかし、二人のレベルについて行けないようであり、すぐにまた吹き飛ばされてしまっていた。

「おい、こら! 一人はまずいだろ!?」

「まてよ、哲也。これでも僕は神なんだけど」

 口調とは裏腹にヨシヒロ神は蟲人の猛攻を塞ぐのに精一杯なようだった。


「シウバ! 薬はもうないのか!?」

「これで最後です!」

 残っていたドーピング薬をテツヤ様に渡す。そして俺とマジェスターでマジックアップを重ね掛けした。今まで、これで勝てなかった相手はヨシヒロ神のみである。しかし、そのヨシヒロ神が苦戦している相手なのだ。

「次元斬!!」

 次元斬が避けられる。あれほどの速度で繰り広げられる斬撃が、あれほどの巨体に避けられる。すかさずヨシヒロ神が攻撃を加えるが、それは剣で受け止められてすぐに反撃を受けていた。魔装の剣ですら壊れてしまうそうな威力である。


「マジェスター、援護をするぞ」

「しかし、どうやって……」

 マジェスターの言うとおりであり、すでに我々二人が入り込むことのできる次元を超えている。

「考えろ。突破口は必ずある」

 思考加速を駆使する。二人の戦闘力ではあの蟲人に傷をつけることすら敵わないだろう。であるならば、どうすればいいか。逆に相手の立場からすると、攻撃力のない二人に何をされるとうっとおしいのだろうか。ほぼ、攻撃の効かない距離からの嫌がらせ的なものであればヨシヒロ神とテツヤ様が戦いやすくなるだろうか。しかし、早くしないとテツヤ様のドーピング効果が切れてしまう。できる事を、できるだけやるんだ。妨害になることであればなんでもいい。戦っている二人が有利になるように……。


「アイスバースト!!」

 マジェスターが蟲人の足元を凍らせにかかる。間一髪避けた蟲人は、次のヨシヒロ神の攻撃を避けることができなかった。しかし、それは剣で受け止められる。そこにテツヤ様のヴェノムエクスプロージョンが炸裂した。

「ごふっ!」

 ダメージが通ったのが分かる。しかし、微々たるものだったようであり、その後の動きが鈍くなったわけではない。


 薄暗い洞窟の中の広場での戦いは視界が悪い。今はヨシヒロ神の作り出した光の玉が各所に散っているから影ができて見えにくい事もないが、それでも見えにくいのには間違いない。光の玉の強さがもっと強ければ影ができてさらに見えにくくなるのだろう。しかし、蟲人はこの環境で生活をしているようだ。つまりは蟲人にしか感知できない何かがあると考えたほうがいいだろう。そして、その感知能力を使ってテツヤ様のヴェノムエクスプロージョンを避けようとしているに違いない。つまりは、魔力を感じる力が魔人族よりもさらに強い。もしかしたら蟲人のみの間でしか見たり聞いたりできない信号のようなものもやり取りされているかもしれなかった。で、あるならば…………。

「ヨシヒロ神! この空間を魔力で満たす事はできますか!?」

「魔力で? ……なるほどね!」


 ヨシヒロ神の魔力が洞窟内部に満たされていく。それと同時に蟲人の動きが明らかに鈍りだした。まるで、何も見えていない闇の中で剣を振るっているようである。

「くそっ!!」

 蟲人が毒づく。

「さすが、シウバ様です!」

「よっし! 行くぜ!」

 テツヤ様のヴェノムエクスプロージョンが当たりだした。次々と爆発する魔法のために蟲人は対処が全くできていない。

「ちょっと、これはこれできついなぁ」

 さすがにヨシヒロ神とは言えど、魔力を常に放出し続けるのはしんどいようだ。額からかなりの汗が落ちている。それに攻撃にも参加できていない。


「ぶった切る!! 次元斬!!」

 しかし、それまでほとんどの魔法が当たっていたはずだったが、テツヤ様の次元斬だけは避けられてしまった。

「小人族め、焦ったぞ。しかし、その技は視える」

「多分、テツヤの次元斬は僕が放出してる魔力よりも強くて鋭いんだね」

「なんてこった!!」

 そう言いつつも、ヴェノムエクスプロージョンはしっかりと当たるようだ。徐々に攻撃が通っていくにつれて蟲人のダメージも蓄積されていく。


「ふぅー」

 しかし蟲人ガ=クユが息を吹いた。そしてテツヤ様とマジェスターの魔法が当たるのも気にせずに剣を構える。

「まずい! 避けて!」

 ヨシヒロ神の声が響く。次の瞬間、視界が蟲人の体で覆われた。思考加速をしているために剣が自身を捕えるのが分かる。これは避けられない。とっさにバックラーで剣を受け止めた。しかし、これでは確実に吹き飛ばされる。そして、こいつの力は吹き飛ばされるだけでおさまるとは思えない。受け流すしかない。しかし、この速度は不可能だ。

「がはっ!!」

 空間の反対側の壁まで突き飛ばされた。バックラーが壊れたのが分かる。そして腕の骨は確実に折れている。他に負傷した箇所は……? 冷静になることが肝心だった。回復魔法を腕に掛けつつ、周囲を観察する。しかし、蟲人の追撃が襲ってくるのが分かるだけだった。


「シウバ様!!」

 マジェスターが割り込んでくる。さすがにダメだ。いくらお前でもこいつの斬り下ろしを受け止めることなんでできるわけがない。流星剣にマジェスターの魔力が宿る。蟲人の剣を迎え撃つ形でマジェスターが切り上げた。体格差、腕力の差、それを魔力で補おうとするができ訳がない。俺は、ここでマジェスターもろともに切り殺されるんだろう。思考加速中に考えたのはそういう事だった。




「だから、君たちが死ぬと、彼女が悲しむんだ。それは世界が悲しむのと同じ意味なんだよ。だって、僕が神なんだからね。多分、オリジナルも同じ事を考えてくれると思うんだ」


 目をつぶってしまった俺が次に目を開けた時に見た光景では、俺もマジェスターも無事だった。その代わり、蟲人の剣が肩から胸の中心まで食い込んだヨシヒロ神が立っている。

「おい、蟲人。ガ=クユと言ったか。前に僕を斬ったやつの方がいい太刀筋をしていた」

 ヨシヒロ神が蟲人の剣を掴んで言う。その剣の周りには薄くヨシヒロ神の魔装が召喚されており、体に食い込んだ状態で固定されていた。そして、その魔装が這うようにして蟲人ガ=クユの手に絡みついていく。


「マジェスター。僕が言う権利はないけど、エリナを頼んだよ。もし、別れるような事があったら報告よろしく」

「ぬかせ」

「彼女に、この事は言わないでね」

「了承した」


「シウバ、君にはいつも驚かされてばっかりだ。今回のこの戦い方も僕には思いつかなかったよ。でも、少し間に合わなかったみたいだ」

「ヨッシー……」

「ちょっと、いなくなるけど悲しまなくていいからね、シウぽん」


 そしてヨシヒロ神は渾身の魔力で蟲人ガ=クユを包みだす。しかし、魔装は完全に覆っているわけではなく、一か所、線のような溝があった。まるで、「ここを斬れ」と言っているかのように。


「哲也!! 分かってるだろうな!!」

「先輩…………」

「失敗するなよ! 僕の命を無駄にするな! これが終わったら次を追え! バグは必ず根絶やしにするんだ!」

「…………分かりました」

「哲也、約束だ。あとね……僕の事を覚えていろよ」


 ヨシヒロ神の顔は最後まで笑顔だった。自分の運命を悟ったのだろうか。蟲人ガ=クユが渾身の力で抵抗する。その度に魔装にひびが入るが、それを補強するようにヨシヒロ神の魔装が次々と蟲人ガ=クユを拘束し始めた。

「カグラセンパイ、お世話になりました…………」



 今まで、テツヤ様の次元斬は全て避けられてきた。それはあの蟲人ガ=クユをも斬ることができるのが分かっていたからだろう。そして今回、ヨシヒロ神に拘束された蟲人ガ=クユは避けることはできない。


「次元斬!!」


 蟲人ガ=クユが左右に分かれていく。そして、ヨシヒロ神も共に…………。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 完全に分断したはずの二人に対してテツヤ様が魔法を叩き込み始めた。死体が残らないほどに、粉々に吹き飛ばされていく。

「あああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」


 魔力がほとんど尽きるまで、テツヤ様は魔法を打ち続けた。ヨシヒロ神の死を否定するかのように。二人には俺たちの知らないつながりがあったようだった。



 ***



「シウバ様、行きましょう」

「あぁ、逃げた女王を殲滅しなければ」

 力が抜けたようにテツヤ様は座り込んでいる。

「テツヤ様は大丈夫だろう。先に行きますね」

「いや、俺も行くぜ。奴と約束したしな」

 そこにシェイドが現れる。そして地面に文字を書き出した。

「なになに、女王と3人は把握した。このシェイドについて行け……アレクか」

「おし、行くぞ!」



 こうしてほぼ魔力の尽きた俺たちであったが、逃亡した女王とその護衛である3人になんとか勝つことができ、女王の殲滅は終了した。数時間後、アレクと合流ができた。しかし、まだ生き残っていた蟲人がそれなりの数がいて、これ以上の戦闘は不可能と判断したために翌日まで近くの岩場に潜伏することにしたのだった。そして朝になり、諜報部隊と接触する事ができた。魔力も回復したために俺たちはワイバーンで西で戦っている大同盟軍に合流しようとし、道中でレイクサイド騎士団と合流することができた。



 *

 *

 *

 *

 *

 *

 *

 *

 *




「母は正しかった。全てを囮にしなければ奴らは欺けない」

 ゴゼの大空洞。その一画にはちょっとした探索では分からないほどの通路の先に小さい空間があった。襲撃を予想した女王ガ=メイはここに残りの食糧を詰め込んだ。そして囮の女王を女王の間に待機させ、自身も囮となって地上へ出た。何段階にも囮を使い、さらにその全ての囮が本気で生き延びようとした。そして、本命はここでじっと息を潜ませていた。供は当時最強の蟲人のみである。

「ガ=クキよ。これからどうするのだ?」

「女王よ、力をつけましょう。同胞たちの死が……無駄にならないように……」

 地上に出た全ての同胞は死んだのが伝わってきた。そして奴らはそれで全てが終わったと思い込んでいる。

ひそかに生きましょう。奴らに気付かれないように」


 かつて最強だった蟲人は、復讐を誓う。






 エピローグ





 大同盟軍の宿舎に帰ったレイクサイド騎士団とシウバ達であったが、「大召喚士」ハルキ=レイクサイドは「神殺し」テツヤ=ヒノモトから事の顛末の報告を受けていた。

「そうか、神楽が…………」

「あぁ、逝っちまった。しかし、よく分からん事言ってたな。バグがどうとか……」

「あ…………」

「なんだよ、ハルキ?」

「そうか、テツヤには言ってなかったもんな。この世界の事とか、神楽の位置づけとか……いや、待てよ? これってテツヤに言ったほうがいいのか?」

「なんだよ、ブツブツと。隠し事か?」

「いや……あの……何でもない」

「おいっ!!」

「何でもねーって!」



「ねえ、マジェスター。そろそろエリナの子供が産まれそうだってさ。早く帰りなよ」

 シウバの傷の手当をするために負傷者ようのテントにユーナもきていた。

「それは本当ですかっ、ユーナ様!」

「えぇ、さっき魔道具通信で報告受けたから」

「なんと!? いや、しかし…………」

「いいから、行け。早くしないとヨッシーが攫って行ってしまうぞ?」

「いや、奴は……いえ、そうですね。ではお言葉に甘えて」

「あ、そうだ。ヘテロ様が先に帰るって言ってたからぺリグリンで送ってもらったら?」

「それはいい事を聞きましたっ! では、失礼します! おいっ、ヘテロ殿はどこだぁ!?」

 そして「流星」マジェスター=ノートリオは流星の如く出ていったのである。

「やれやれ、静かにできんものか?」

 隣のベッドではアレクが寝ている。かなり無理をしたためにシウバもアレクも体が動きづらい。なぜマジェスターがあれだけ動けるのか、二人とも理解できていなかった。

「しっかし、お前死んだと思ってた」

「お前とか奴と違って死んだ振りするのも嫌なんだよ。さっさと出てきてやっただろ?」

「おい、誰が死んだ振りしたって………?……………奴?」












「ねぇ先生、バックアップ作動したんだけど、僕どんな状況で死んだんかな? テツヤと一緒に出ていったところから記憶がないからテツヤを探してるんだけど」

「いや、お前本当に一回死んどけよ」





「転生召喚士はメンタルが弱いんです。 第2部」  完









終わってしまいました。

しかし、暴走して第3部をすでに書き始めてるんであとがきって感じでもないんですよね。


おはこんにちばんわ。本田 紬 です。


小説書き始めて半年たちました。明日はF〇15やらなきゃならないんで、書きません。この半年書かなかった事がないというのが信じられませんね。仕事の休憩時間や帰ってから、たくさん書きました。しかし、次を書き始めてるんで、感慨深くもねえな。


「転生召喚士はメンタルが弱いんです。」はなんとなく書き始めてしまった小説でした。

当時は異世界転生とかが大流行いまもしてて、でもそれに否定的な意見もでてて。「いや、問題はそこじゃなくね?」 って思ったのが最初のきっかけでしょうか。

テーマを与えられて面白い話を作ったら、というのと、テーマが面白いっていうのは、どっちが「小説として」面白いんだろうと考えた所、前者だったんですね。平凡なテーマの面白い話が書きたかった。小説書いたこともない奴が何を言ってたんでしょうか。なのであえてテンプレにしました。


紬は人の言うことに影響されやすい性格をしてますんで、何か言われるとすぐに落ち込みます。「見てて飽きない」と苦笑いしながらも言ってくれた人もいたくらいで、メンタル強い人が信じられませんでした。逆に、人の言う事を気にせず、好き勝手やってる人を馬鹿にしてましたね。だから、あいつらはダメなんだって。

そんなねじ曲がった性格が主人公にも乗り移ったんでしょう。

話を書いてみて、意外と書けて、投稿してみようかな? ってなりました。


で、「タイトルを入力してください」


「……………え? タイトル?」


ってなったんです。タイトルなんて考えてなかった。長続きするとも思っていなかった。ですから「こいつ俺よりメンタル弱いじゃん」ってことで「転生召喚士はメンタルが弱いんです。」にしたのですよ。ちょうど、投稿開始した時に書いた話がハルキがセーラとの結婚ができなくて落ち込んでいるところだったもので。


しかし、この適当なタイトルに意外と愛着がでてきました。書籍化の時も編集のMr.KBに無理を言ってタイトル変更はなしにしてもらいました。


第二部がテンプレ以外を書いてみたかった。というよりも書きたかったけど、第一部のコンセプトに合わなかったので書かなかったものを第二部に回したというところでしょうか。あまり人気が出なかったのもそのせいでしょう。そのかわり、紬は第二部の方が楽しくかけてたかもしれません。


第二部の当初の「冒険者は押しに弱いんです。」は逆に悩んでつけたタイトルでした。そして気に入りませんでした。早く変えたかった。でも、そのタイミングで書籍化のお話が舞い込み、「勘ぐる人がでてきますから発表まではそのままで行きましょう」とM崎さんに言われて変えられなかった。変えたかったのに。



後悔は第一部の終了をあっさりとやり過ぎたことですね。巷で打ち切りエンドと言われまくりました。それも仕方なかったんです。むしろエタらなかった事を褒めろ。

ここをきちんとした話で書きませんか? って事を言われてつい、書籍化を考えますって言っちゃいました。今思うとなにしてんの? って感じですね。でも、書籍化を喜んでくれた人が沢山いたので頑張った甲斐があります。願わくば、第一部終了時点まで発売させてもらえることを。



最後に宣伝させてぇぇぇぇぇ!!


2017年2月23日「転生召喚士はメンタルが弱いんです。」が幻冬舎コミックスより発売となります。メインコンテンツのイラストを描いてくださったのが「オパパゴト」や「クロハと虹介」でめっちゃ綺麗な女の人を描いてらっしゃる「白梅ナズナ」大先生です。おまけで私が書いた本編が(ちょくちょく書き下ろしや修正つき)ついてきます。よろしくお願いします!! 本田紬でした。


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