5-1 猛攻と殲滅
襲い来る蟲人たちを蹴散らすと、テツヤ様が駆け寄ってきた。
「大丈夫か?」
「あ、あんまり大丈夫じゃないですね」
まさかテツヤ様とヨシヒロ神が援軍として駆けつけてきてくれるとは思わなかった。本当に助かった。
「シウぽん、無理は良くないよ」
そしてその呼び方はやめろ。
「まだまだ、出てくるみたいだけど……」
さきほどのヨシヒロ神とテツヤ様の攻撃が凄まじかったのもあり、蟲人たちは攻めかかってこようとはしなかった。
「フル・ヒーリング!」
ヨシヒロ神の回復魔法が三人を癒す。体力ももとに戻った。後は魔力が戻れば全快である。
「なんとなく、嫌な予感がするんだよね。前に僕が戦った時よりも数段強くなってる」
それはヨシヒロ神が一人で数千を倒した時の事だろうか? であるならば、まだ数百残っている蟲人たちはその時の数千と同じくらいの戦力であって、五人に増えたこの状況でも厳しいのかもしれない。特にこれから穴の中に潜入しなければならなかった。狭い通路でどのように戦えばいいのだろうか。
「魔力が回復してないだろうけど、嫌な予感がバリバリするから、突入するよ」
そう言うと、ヨシヒロ神は剣を抜き払って蟲人の集団に突っ込んでいく。
「シウバ、どうする? MP回復ポーションはあと少ししかない」
「今はヨシヒロ神とテツヤ様がいるから温存していこう。多分、女王の所で使わなきゃならなくなる」
蟲人が出てきた穴の周囲ではかなりヨシヒロ神が次々と蟲人の手足を切り払っていた。さらに、そこにテツヤ様が次元斬で斬り込んでいる。二人の周囲には死を恐れない蟲人が絶え間なく襲いかかっていた。先程まで戦っていた蟲人たちよりも高確率で甲殻が分厚く、強そうである。
「ヨシヒロ神の嫌な予感ってのは、案外当たってるかもしれませんね」
マジェスターが流星剣を持ち直した。
「アレク殿、援護を」
「任せろ」
俺も嫌な予感がする。この戦い…………。
もしかすると、誰かが、戻ってこれないんじゃないか?
***
「見てて、セーラさん!! 三大精霊同時召喚!!」
翌日の戦いは序盤より、レイクサイド騎士団が猛攻をかけた。
「凄いですね、ハルキ様! でも私、どうしても蟲人が苦手です!」
「大丈夫だよ! 俺に任せてよ! 行け!! レイクサイド騎士団の精鋭たちよ!!」
6頭のウインドドラゴンが上空を駆け抜ける。先頭はハルキ=レイクサイドとセーラ=レイクサイドの乗り込んだやけに魔力の強いそれである。その暴風に耐えることのできる蟲人はおらず、体勢を崩した所に後方からワイバーンに騎乗した騎士団の破壊魔法が突き刺さる。対空戦では、蟲人は全くレイクサイド騎士団に対応できていなかった。次々と数を減らす蟲人。そして、数が減ればさらに不利になり、レイクサイド騎士団の波状攻撃にも耐えられない。
「一時はどうなる事かと思ったが、さすがはセーラ様だな」
「フィリップ様、ヘテロがあっちで死んでるよ?」
テトの指差した先にはペリグリンが次々と蟲人に掴みかかり、足の爪で羽根を引きちぎっているところだった。その背にはやる気のないヘテロ=オーケストラがげっそりした顔でしがみついている。と言うよりも体を縄で固定して脱力している。
「うむ、奴も十分に貢献した。ヨーレン! お前が第五騎士団も率いろ」
「マジっすか!? 第八騎士団だけでもしんど……」
「何か言ったか?」
「いえ! 行くぞ、おまえらぁぁ!! 続けぇぇぇ!!」
地上では三大精霊をはじめとして、アイアンゴーレムの部隊が暴れている。しかし、他の地上部隊は遠巻きに破壊魔法を放つのみであり、ほとんど戦闘には参加していなかった。
「フィリップ様、私たちは地上に向かう」
「えぇ、シルキット殿。任せました」
自身で召喚したワイバーンでシルキットが部隊を引き連れて離脱していく。向かう先は地上でアイアンゴーレムや三大精霊と戦闘中の蟲人たちだ。奴らには対空手段がほとんどない。
「続け! フレイムレイン!!」
第二騎士団の容赦ない破壊魔法が蟲人たちを焼き尽くす。
「ミランダ、本当にいいのだろうか?」
「よろしいのでは? 奴らが勝手にやっていることですから」
待機中のネイル国軍ではサイド=ネイル12世が、居場所がないかのような顔をして戦局を見守っていた。彼としては、それなりの犠牲を覚悟して出陣してきたのだ。
「いや、手柄を全て取られるわけにはいかん。邪魔はせんが、我らは退路を断つ形で展開するとしよう」
サイド=ネイル12世の戦術眼は健在である。
「地上のあれは、単なる時間稼ぎだろう。上空の戦いが終わればあとは殲滅戦になるはずだ。今のうちにすぐにでも包囲できるように動け。全く、伝説の大精霊をなんだと思っているのやら」
「奴らは穴に入って逃げるだろうね。地上は他の国に任せて、穴の方に罠を張ろうか」
ヒノモト国軍では、着々と周囲の穴の発見と、前日に施行した煙を使っての「駆除」の準備が進められている。
「情報によると女王は腹がでかいだけで、戦闘能力ないらしいからね。きっと足も遅いはずだよ。この軍に同伴してるとしても地下にいるのは間違いないさ」
シン=ヒノモトの予想通り、女王キ=クルはこの集団とともに地下に潜伏していた。前日に全滅した旧トバン王国で待ち伏せていた部隊が全て窒息死した意識は伝わっていても、その手段までは伝わらない。不安とともに地下に潜伏するが、それが同胞たちにも伝わる。しかし、警戒をしたところで、逃げ場は地上しかなかった。そして地上では、上空の蟲人を完全に駆逐した大召喚士の率いる人類最強の騎士団が、地上の蟲人の殲滅に取りかかろうとしていたのである。
「くっ、トバン王国を滅ぼし、我々の半数を殺したあの蟲人どもを、こうも簡単に…………。」
ブルーム=バイオレットの言うとおりに、本人もふくめて「簡単に」とは誰も思っていなかったが、それでも圧倒的な戦果を見ると、そう言いたくなる気持ちは分かる。
「口を慎みなさい。あなたが総大将なのですから」
「はっ、申し訳ありません!」
苛立ちはこの若武者を成長させるのだろうか? しかし、この経験は彼にとって大きな糧となるのである。
「これは間に合ったのか?」
怪鳥ロックによる精鋭部隊の輸送に意外と時間がかかり、戦場にたどり着いた時にはすでに二日目であった。「統率者」ナノ=リヒテンブルグは戦場の後方でテンペストウルフを降ろし、陣形を整えさせて「斬空」ライレルと共に突撃のタイミングを測る。
「すでに我らはいらなかったかもしれませんね」
他にもここにはヴァレンタイン王国軍が向かっているのであるが、すでに戦場の上空ではほとんどの蟲人が落とされてしまっており、さらには対空手段を持たない地上の蟲人たちが破壊魔法で徐々に数を減らし始めていた。それはいかに四万を超す蟲人の群れであろうとも、なす術がない。
「最終的に突撃を敢行するはずだ。その時に乗り遅れるな」
「はっ!」
少数とはいえ、世界最強と言われる騎馬軍団が戦闘態勢へと入る。
「ハ、ハルキ様、一方的すぎますね」
「そ、そうだね、セーラさん。ちょっとやりすぎたかな?」
「いえ、敵を叩くときには容赦なくです」
「あ、うん」
すでに空中戦が終わろうとしている。上空で戦っていた騎士団のほとんどが地上の蟲人の殲滅へと向かっていた。
「まぁ、まじめな話、たかが蟲でしょ? きちんと対策をすればどうとでもなるよ。あいつらの怖いところは繁殖力と駆除に対応する進化、それに意外性だから」
前世で飛んできたGを思い出しながら、ハルキ=レイクサイドは語る。
「それじゃあ、きちんと女王も始末しないと……」
「あ、うん。多分、この集団に付いて来てるんだと思うけど、俺だったらもう一人女王を隠しておくよね」
「それは…………」
「そっちはシウバに任せた。それにテツヤも向かってるらしいから心配いらない。問題は………」
この時のハルキ=レイクサイドの予想は何だったのだろうか。それはセーラ=レイクサイドも聞くことはなかったが、常に不安とともに生きている大召喚士の取るに足らない心配だったと信じたいところである。
その日の夕までに、エレメント魔人国を攻めた蟲人、総勢五万は殲滅させられた。ここでも最後まで逃走せずに襲い掛かってくる蟲人に、共存という事が考えられた人物は皆無であったという。最終的に、蟲人は世界から絶滅し、消え去ったと言われている。
「隊長!! 大変であります!」
「どうした!?」
「我々、後書きに移動しているであります!」
「うむ、前書きを読みたくないという読者様の意見を取り入れつつも、F〇15を買う理由を作るという自称「神の一手」を発動した作者の卑怯な行動だな!」
「前書き茶番は前書きでやってこそ! という意見もあると思われますが!」
「馬鹿者! 茶番はどこでやっても茶番だ! 前書きにはあらすじを書かねばならん!」
「しかし、あらすじで羽目を外すとまたしても何か言われます!」
「言われるのが運命だとM崎さんが言ってた! 仕方ない!」
「作者メンタルが!!」
「どうせ、何言ってもすぐに崩壊するだろうが! 無視だ!」
「しかし、あの作者がこれで落ち着くとは思えません。さりげにここに重大な情報とかを入れてくるのではありませんか? 完結まであと4話を想定しているとか、第3部は来週まで書く気がないとか!」
「なんと!? そんな事を書いたら、後書きを読んでない読者が不利益を被ってしまうではないか!」
「前書きでしたら、強制的に目に入ります! しかし、この後書きでは!! 例えばもうちょっとで出版社様から書店特典の話を発表してもいい日が近づいて来てるとか! 分からないままではないですか!」
「あぁ!! なんてことだ!」
「あとは、書籍化で新たに書き下ろしたフランとジンのたたk…………」
「それ以上は言うなぁぁぁぁ!!!!!!」
書籍化系統の発表は前書きでしてもいいよね?