4-1 壊滅した国のさらに東へ
前回までのあらすじ!
おぉ! ようやく最終章らしくなってきたよ!
やはり飛ぶ蟲人はフラグだったか!
Gも飛ぶしな! ← イマココ!!
三人を乗せたペリグリンは最速で飛ぶ。その日のうちにはトバン王国へと着いていた。正確には、トバン王国があった場所に、である。
そのトバン王国はその形をとどめていなかった。王都周辺には無数の穴が散在し、倒壊した建物が蟲人の威力を物語っている。数万の蟲人が出現したと思われ、壊滅している範囲も広い。
「ここから先の情報はない。西ではエレメント魔人国の軍隊が押されているようだ。すでに三割ほどの被害がでているという」
ぺリグリンの一番後ろでアレクが説明する。ワイバーンやウインドドラゴンと違って、ペリグリンは上空でホバリングができる。
「どこかの穴から侵入するしかないだろうな。しかも女王がどこにいるかなんて分からないし、穴の中に光はないだろう。蟲人たちに見つかる可能性も非常に高い」
「闇雲に突入しても死ぬだけか……」
しかしいつまでの上空でホバリングを続けているわけにもいかず、手ごろな穴の近くに着陸した。しかし、穴の中から蟲人の気配はまるでしない。それどころか、ここら一体に生物はいないのではないかと思われた。
「いかがなさいますか、シウバ様」
「この辺りに蟲人の気配はしない。おそらく女王もここにはいないだろう。考えられるのはどんな状況だ?」
アレクとマジェスターが考え込む。
「俺の予想では二つのパターンがあると思う。一つは今エレメント魔人国と戦っている軍隊と共に行動しているパターン。もう一つは一か所にとどまり続けて次々と蟲人を生み続けているパターン。前者の場合は暗殺は不可能であるし、ハルキ様たちに任せた方がいい。後者であるならば、ある程度の位置の推察ができるはずだ」
ゴゼの大空洞から逃げ出した女王が、俺たちの追跡をかいくぐりつつ潜伏できる場所。そしてこの穴につながっていることも考えると地中であるのは間違いないだろう。しかしトバン王国が壊滅するほどの規模の蟲人を数か月で出産するためにはそれなりの食糧が必要であり、いつまでも地面の奥深くにいるわけには行かない。狩りをするものが地上に出てくる穴が必要で、かつレイクサイド騎士団が捜索した範囲外の場所である。つまりは…………。
「東に向かう。ヒノモトの艦隊が展開している地域の海岸よりも北側しかない」
そこのどこかに女王の巣穴に近い蟲人の穴があるはずだった。
***
「ハルキの言う事が正しかったという事か……」
東の海上、ライクバルト号の上では「神殺し」テツヤ=ヒノモトがトバン王国壊滅の報告を受けていた。一夜にして壊滅した北の大国は、それなりの規模の軍隊を保有していたはずである。それが三千にまでうち滅ぼされ、王都は壊滅したというのであるから、これまで戦ってきた蟲人とは違う種族に進化したと考えて間違いなかった。実際に羽が生えて空を飛ぶ者が目撃されている。
「どうするんすか?」
この船の中でテツヤ=ヒノモトがこのような口調が声をかける人物と言えば、一人しかいない。
「とりあえず、先生が動いてくれるでしょ。僕らは女王をなんとかしに行こうよ」
「ら?」
「お前も来るんだよ」
ヨシヒロ神は完全に傷が癒えた状態でヒノモト国のライクバルト艦隊が展開したところに居座っていた。その神経の図太さはさすがに一万年を生き延びただけはある。
「なんで俺が神楽先輩と一緒に動かなきゃならんのですか?」
「嫌なのか?」
「いや、嫌と言うか……嫌は嫌なんです……が……?」
「うるさい、強制だ」
「…………はい」
「艦隊はこのまま展開させ続けて、万が一蟲人の南下があった場合に備えたほうがいいね。僕とテツヤだけで移動しよう。その方が速いし。あとは皆よろしくね」
「なんで先輩が指示出してんだよ。……はぁ、じゃあ怪鳥ロックを……」
「何言ってんだよ」
そういうとヨシヒロ神はテツヤ=ヒノモトの首根っこを摑まえる。身長はテツヤの方がかなり高いはずであるが、ヨシヒロ神の前ではなぜか姿勢が悪いテツヤはすぐに捕まってしまった。
「いて! 痛えっす」
「行くよ!」
そしてヨシヒロ神のスキルであるワープで二人は艦隊の北、トバン王国の東へと移動するのだった。
***
この地へ移動してからというもの、女王ガ=メイはすでに数万の蟲人を産んでいた。そしてそれらのほとんどが穴を掘って西へ向かっている。すでに小人族の都市をいくつか滅ぼしているという。
「地中に穴を掘って逃げる。我らが穴に入った後に、残る者で穴を塞げ」
小人族が攻めてきた時に女王の口から意外な言葉が出た。天龍すら倒す事ができ、神を退けた蟲人たちは最強ではなかったのか。しかし、女王の予想どおり、新たな女王とともに各地に散らばった同胞はことごとく殺されてしまった。囮となり奥の間で小人族を迎え撃った新たな女王もなすすべなく殺された。しかし、その先の埋められた穴に気付いたものはいなかった。ガ=メイは数名の親衛隊と共に慎重に移動を開始した。もともと数メートルにもおよぶ巨大な腹部を引きずっての移動となるため、あまり速いわけではない。さらには親衛隊がゆっくりと穴を掘りながらの移動だった。しかし、地上からは子どもたちの意思が伝わってくる。そして子どもたちの意思をくみ取り、捜索されそうにない方向を割り当て、突き進んだ。そのうち、子どもらの意思がほとんど伝わらなくなるようになり、女王は声を忍んで泣いた。
「増えろ」
行きついた先で新たな女王が生まれた。おそらくは女王が生まれるのはこれで最後だろう。二人で多くの蟲人を産むつもりだった。数ヵ月後に、新たな女王キ=クルは羽の生えた蟲人を産むようになった。他の女王も進化した蟲人を産めたに違いない。ガ=メイはさらに多くの蟲人を産み、生まれた子どもは周囲の魔物を狩り、そして女王はさらに子を産んだ。
「巣穴に入ってきた奴らがいる」
多くの同胞が西へ行ったあとに、女王ガ=メイの巣穴の付近に侵入した小人族が見つかった。まだガ=メイは蟲人を出産し続けており、そのうち数千がこれを排除に動きだしたようだった。穴の中で小人族は無力だろう。蟲人の多くはそう思っていたという。
だが、この侵入者こそが「邪王」シウバ=リヒテンブルグとあと二人であり、女王ガ=メイの暗殺のために侵入してきた事を、まだ蟲人たちは把握していなかった。