3-5 決死の暗殺部隊
前回までのあらすじ!!
蟲人を殲滅!
まずい!
何が? ← イマココ!!
ハルキ様の気になる点はこうだった。
「あの腹の大きさじゃあ、新たな蟲人が入ることができたとしても一人が精いっぱいだ。つまり、成熟した女王はもっと腹の部分がデカいはずで、ゴゼの大空洞にいた奴は生まれたての女王に違いない。つまり、今現在新たな蟲人を生むことができる女王は巣を移動して他のどこかにいる。」
3人の女王が新たに生まれたと思われていた。そしてその一人一人に多くの蟲人が付き添っており、1割程度がもともとの女王の所に残っていたという予想ではなく、新たな女王の一人が昔の女王の身代わりに囮となったのではないかという事だった。であるならば、今までの女王がどこかで蟲人の産卵を続けているはずで、ある程度の戦力が蓄えられるまでは隠れるつもりなのだろうと。
「もし、そうならば少数で潜伏したに違いない」
次世代の女王を犠牲にしてでも全滅を逃れようと考えたのだろう。それはヨシヒロ神との戦いと、こちらを奇襲した時の情報で判断したに違いなかった。
「警戒を緩めるわけにはいかないし、捜索を継続しよう」
しかし、この意見に賛同したのはヴァレンタイン王国とヒノモト国のみであった。ネイル国、エレメント魔人国、トバン王国は蟲人の殲滅はできたと判断し、守備隊を解散させたのである。リヒテンブルグ王国はもともと厳戒態勢とまではいってなかったのと、スクラロ国はヨシヒロ神が警戒に当たるためにもともと守備隊は設置していなかった。
「もし、次の女王が生まれたらどうなる事か分からん」
ハルキ様はそう訴えたが、さすがに考え過ぎだと思われたらしい。そして守備隊を維持する事も経費がかかる。次の蟲人が発見されるまではどの国も深刻に考えることはなかった。そして、レイクサイド騎士団が血眼になって捜索を行ったが、数か月の間は何も見つかることはなかったのである。
そして、数か月たったある日、トバン王国が滅亡した。
***
「いきなり王都に大量の蟲人が出現したらしい! しかも、地下からだ!」
トバン王国の生き残りを収容し、さらには迫りくる蟲人の大軍と死闘を繰り広げるエレメント魔人国から救援の要請がヴァレンタイン王国へと入った。トバン王国はベナ=トバンおよびラッセ将軍の戦死とともに軍隊が崩壊し、いまでは三千しか残らなかった敗残兵をレイドームが率いて敗走しているようだ。そして数万の民間人はエレメント魔人国へと逃げることができたが、そのほかはことごとく殺されたらしい。現在旧トバン王国は蟲人の巣窟となっている。
「ラッセも、ベナ=トバンも死んだって……?」
たまたまレイクサイドの自宅に戻っていた俺たちは、その報せを聞くことになった。数か月前に言葉を交わした者が死んだと言われてもピンとこない。しかし、トバン王国は蟲人の襲撃を受けて滅びたという。
もう少しでお腹の大きなエリナが出産するかもしれないという時期だった。正直、俺もハルキ様の考え過ぎだと思っていたのだ。しかし、それを信じたテツヤ様はこの数か月の間ずっと東の海に艦隊を展開していたままだった。
「シウバ様、ヴァレンタイン軍も動くことになると思います。リヒテンブルグ王国へと帰りましょう」
「マジェスター、お前はエリナのそばに付いていろと言ったはずだ。それにリヒテンブルグ王国にはナノがいる。大丈夫だ」
こうなれば、レイクサイド騎士団に協力して蟲人との戦いに参加すべきかもしれない。
「シウバ! どうする!?」
「シウバ様! このような時にこそ、私は主の傍を離れるわけにはいきません!」
「シウバ様ぁ、私は大丈夫ですから。元気な赤ちゃん産みますから、マジェっちを連れて行って下さい」
じつはいまだに俺の籍はレイクサイド騎士団にあったりする。しかも親衛隊に移動になっている。マジェスターたちもそこであり、マジェスターには自宅を護るという意味も含めて親衛隊で勤務してもらっている。
「うーん、どうしようか」
「シウバ、ハルキ様がお呼びだ」
いきなり後ろから声をかけられた。ここはレイクサイドの自宅であり、かなり驚いて振り向く。
「おい、久しぶりじゃねえか。何してたんだよ?」
そこに立っていたのは特殊諜報部隊副隊長のアレクだった。
「お前と違って忙しいものでな」
「あれ? アレク、バンシの戦いのあとから見なかったよね! 何かあったの!?」
ユーナが容赦ない質問をする。テトから裏事情を聞いている(酒飲んで爆笑しながらばらされた)俺としてはあまりつっこんでほしくない事柄であり、二人して顔が赤くなってしまった。ま、まあ、こいつは何だ、と、友達だからな。
「そ、それよりもハルキ様が何だって?」
「あ、あぁ、第6特殊部隊としての最後の任務だそうだ」
は? 第6特殊部隊?
***
「俺たちは軍を率いてトバン王国があった所に攻め込む。今度はかなりの損害が出るだろう」
険しい顔をハルキ様がそう言う。
「今度の蟲人の中には飛ぶ奴がいるらしい。明らかに進化している。あんな巨体が飛ぶとか意味分からんが、飛行して一方的に叩くという従来の戦い方ができないのは間違いない。おそらくそれなりに死人が出る。さらに、今度の蟲人の本拠地は地中だ。この前のゴゼの大空洞のように分かりやすい所にいるわけではなく、奴らが作り出したデカくて長いトンネルだ」
そして、何故俺を呼んだのかが分からない。
「そこで、頼みがある。第6特殊部隊の最後の命令と思って欲しい」
何を言われるのだろうか。
「女王の暗殺を頼む。場所がかなり閉鎖的なところだ。成功しても、帰ってこれないかもしれないが、お前くらいの実力者でないと頼めない」
そう言うハルキ様の顔は今まで見た事のないものだった。いつものふざけた表情や自信に満ち溢れた顔はどこへ行ったのだろうか。
「ハルキ様、俺が死ぬかもしれないと思ってるんですね?」
「…………あぁ」
「だったら、俺はマジェスターと行ってきますので、もしものことがあったらユーナとエリナを頼みます」
マジェスターはむしろ連れて行かなかったら怒るだろう。ユーナは悲しむだろうけど…………分かってくれるはずだ。
「……分かった」
「俺もついて行きます」
後ろからアレクが言った。
「……行ってくれるか。すまない、アレク」
その日のうちにヴァレンタイン軍は海を渡った。レイクサイド騎士団はワイバーン部隊で先行し、壊滅しかけのエレメント魔人国と蟲人の戦いに参加したようである。エリナの事をユーナに任せて、俺とマジェスターはアレクと共に旧トバン王国へと向かうのだった。