2-4 若き魔王
前回までのあらすじ!
女王始末!
いや、待って。数が少なくない?
残念、次の王たちは生まれたぜ( *´艸`)プププ ← イマココ!!
「そんでよ、今回のこの魔法は俺のドリュアスがやったんだけどさ、俺ってこれ以外の召喚魔法使えねえのよ。だって、ドリュアスとはそういう契約になってっからさ。つまりは俺は森を出たら役立たずだからと思うだろ? 残念ながら、そうならないように昔に冒険者やってたんだよ。まあ、そりゃもちろん森での依頼が多かったからクソガキはいつも文句ばっか言ってたけど、あいつも最後の方は鎧着たまんまで森の木から木へ飛んで移れるくらいには上達してたぜ? そりゃ、俺なんかと比べるとまだまだだけどよ。だいたいあいつは……」
ウインドドラゴンの上ではルークが何やらずっと喋っているが、風でよく聞き取れない。唯一聞こえるのはルークの前に座っているラッセ殿くらいのものだろう。さっきから、うんざりした顔しているから、話が止まらない事が嫌なのかもしれない。ビューリング殿が頑なに俺の後ろにきてルークと接しないようにしていた理由がよく分かった。
「もうすぐ着くよ!!」
ウインドドラゴンが少しだけ速度を落とす。そうするとようやく全員にユーナの声が聞こえるようになるのだ。いちいち速度を落としていられないから、基本的にはウインドドラゴンの上では会話はできない。しかし残念エルフはずっと話し続けていたようだった。
少し身を乗り出して下を向いてみると、煙が上がっている穴が確認できた。そしてその入り口にはハルキ様やテツヤ様たちの姿が見える。もしかして、もう終わっちゃった?
「遅いぞ!」
俺の姿を見てテツヤ様が笑っている。心配をかけていたのかもしれない。
「なんだ、じいに秘策があるとか言ってたのはルークを連れてきてたのか」
ハルキ様が若干、引き気味の表情で言った。やはりルークはどこでもこんな感じなのだろうか。
「おいおい、ヴァレンタインは秘密を守らねえのかよ。会議で決めた人員以外にもばらしちまいやがって」
「ふぉっふぉっふぉ、これは申し訳ありませんな。ですが、もう秘密にしても意味ないでしょう」
ブルーム=バイオレットが少し食いつきかけたが、秘密が意味ないと言われて納得の表情をしている。どういうことなのだろうか。
「ハルキ、何があった?」
「あぁ、ビューリング。つまりは間に合わんかった。すでに王は生まれている。それも複数だ」
ハルキ様たちがここに着いた時にはすでに多くの蟲人が新天地を目指して旅立っていったそうだ。そして新天地で巣を作り、繁殖を行うという。その新天地を突き止めなければならない上に、それは複数個所に及ぶ。どれだけの新しい女王が生まれたかが分からない。すべての蟲人が死ぬまで抵抗したそうだ。生かしておいて拷問しようにも、前回ヨシヒロ神にされた教訓が残っていたのか、戦闘力がなくなったものは自ら死を選んだようである。
「もっともここから近い国はトバン王国だ。はやく知らせて、国の守備を固める必要がある。女王たちが新天地として我々の国を襲う事もあれば、新天地で繁殖した後に襲ってくる可能性まであって、少数ではどうにもならん」
「確かに、少数精鋭の暗殺は失敗という事だな。じゃあ、別れよう。トバン王国とエレメント魔人国、ネイル国は急いでそれぞれの国に帰って守備を固める、それ以外は新天地の探索と新しい女王の数の把握、できれば繁殖が始まる前に殲滅って感じか?」
「テツヤにしてはえらく頭が回るな。 だが、それでいいと思う。さすがにヴァレンタインやヒノモト、リヒテンブルグにまではたどり着かんだろう。スクラロには怪我してるとはいえ神がいるしな」
もっとも近いトバン王国のラッセは速く帰る事を望んでいるようだ。
「迷惑かけたし、俺が送って行こう。ぺリグリン召喚!」
先日、ヘテロ殿が召喚契約を行っていた最速の鳥だ。ユーナも召喚できるが、人数を乗せねばならないからウインドドラゴンでエレメント魔人国とネイル国を回ってもらうこととし、ビューリング殿にもついて行ってもらう事にした。最終的にビューリング殿はヴァレンタイン王国へ帰り、フィリップ殿たちの騎士団を連れてくるという事だった。ハルキ様、フランさん、テツヤ様、そしてルークは引き続き新たな女王たちの向かった先を探索、可能であれば殲滅するらしい。ルークがいれば、探索は容易だろう。
「ラッセ殿、行こう」
「あぁ、助かる」
そして俺たちは3方向へと別れた。
***
トバン王国には若き魔王ベナ=トバンがいる。彼の親族はことごとくエレメント魔人国との戦争で散っていった。先代の魔王が戦場で負傷し、回復魔法が効かないまま命を散らせたのが10年前のことである。その後、魔王となったベナ=トバンの人生は「耐える」ものであった。
ことごとく、主だった将軍が討ち取られてしまっていたトバン王国は、経験の浅い指揮官が兵たちを率いるしかなかった。それをまとめ上げたのは魔王ベナ=トバンであり、若さを逆に武器とすることでなんとか戦いを保たせてきた。堅実に、耐え、着々と力を蓄えることは若さにとって最も不得意な分野であり、それでも国民がついてきたのはベナ=トバンの器がなせたものだったのだろう。
そしてエレメント魔人国がヴァレンタイン王国を攻め、大きく力を削がれるのを待ち、反撃に出たところまではベナ=トバンのシナリオ通りであった。しかし、エレメント魔人国はヴァレンタイン王国の援護のもと力を吹き返し、最終的にはネイル国との離間の計で軍は引き上げざるを得ず、戦争は「邪王」シウバ=リヒテンブルグによって力づくで終結させられた。戦争でようやく育った二人の将軍を失い、多くの兵が死んだにも関わらず、トバン王国の領土は増えたわけでもなかった。ベナ=トバンを支える役割は、ラッセという最も若い将軍が引き継ぐことになった。この二人は幼馴染である。
「ベナ!! 奇襲は失敗だ。女王は始末できたが、新たな王が複数各地に旅だった後だった。ここにも来る可能性がある」
ラッセがトバン王国の魔王館のバルコニーに直接乗り付けたペリグリンの背から降りると、そこには魔王ベナ=トバンがいた。周囲のものは側近だけのようである。ラッセの魔王に対する口調がかなり砕けた感じである。普段はこういった喋り方なんだろう。
「兵をまとめて守備につかせよう。北が要注意だ」
「失敗か。間に合わなかったのだな」
「新たな王たちが何人で、どの方角に向かったかの情報は大召喚士や神殺したちが追っている。我らは万が一に備えて国境へ兵を配備しに帰ってきた」
「うむ、侵略があるようであれば俺も出よう」
「急ぐぞ!」
ラッセが部下たちに命じている。すでに何かあった時のために兵を集めやすくはしていたようだった。だが、兵たちには誰が敵なのか分かっていない。どのタイミングで説明すべきなのかを悩んでいるようだ。とりあえず、ラッセが蟲人たちの事を側近に説明している。蟲のような巨人と聞き、さらにはその戦闘能力の凄さが伝えられる度に腰を抜かしそうになる文官もいるようだ。
「これはこれは、「邪王」殿が我が国に来られるとは」
「お久しぶりですね、ベナ=トバン魔王」
説明される必要性を感じなかったのだろう。ベナ=トバンがこっちに話しかけてきた。
「もしや「邪王」殿は我々を手伝っていただけるのですかな?」
「まあ、成り行きで」
リヒテンブルグ王国はナノもいるし、ユーナも連絡しにいくだろうから大丈夫だろう。それにこの国が最も近いというのは事実だ。南に向かった一団があればここまで来てもおかしくない。
「「邪王」シウバ=リヒテンブルグが我々の力になってくれるというのであれば、これは心強い」
ベナ=トバンがわざと大きな声でそう言った。言質をとったつもりだろう。
「「邪王」だって!?」
「あれが!! まさか!」
「しかし、ベナ様がはっきりと言われたぞ?」
「「邪王」シウバ=リヒテンブルグ……彼がいるのであれば大丈夫なんじゃないのか?」
めっちゃ噂されている。ペリグリン装備として防寒を厳重にしたゴーグルをつけてて良かった。恥ずかしいから顔は出さないでおこう。もはやゴーグルというよりは兜に近いけれども。
「期待しておりますぞ、「邪王」殿」
不敵な笑みを浮かべてベナ=トバンが言う。そんな事をしないでも、手伝ってやったのにさ。でも、まだ本当にこっちに来るかどうかは分からんぜ?
しかし、やっぱりと言うべきか。蟲人の数千の集団がトバン王国めがけて南下してきているという情報が入ったのは、次の日のことだった。