3-7 黒狼と守り神
前回までのあらすじ!
怪鳥の捕獲!
ババアが気持ち悪い!
交渉成立! ← イマココ!
「さすがはフォレストさん……」
首都リヒテンブルグの冒険者ギルドではギルド長が俺たちに対して尊敬のまなざしで接するようになっていた。今回の事でヴェルテたちがSランクの内定をもらったのである。主にグレーテストホワイトベアの討伐と怪鳥ロックの入手を評価されてのことだった。短期間での昇格に感動したのだろうが、ギルド長が今までは単に恐れていただけだったというのがよく分かるからちょっと複雑ではある。
「あいつらもそろそろ一人前の冒険者だろう。怪鳥ロックに乗れるようになって帰ってきたら卒業だな」
Sランクパーティーを捕まえて一人前もクソもないとは思うが、心構えとか連携とか移動手段を整えてやるだけでここまで成長できたというのはもともとの素質が良かったからだ。俺たちはそれをちょろっと導いてやっただけにすぎん。それよりも他のパーティーの底上げが必要なのだという事がよく分かった。なにせ、俺たちとヴェルテのパーティー以外にSランクがいないのである。
「ギルド長、移動手段の事で相談があるんだけど、こういうのって誰に言えばいいんだ?」
冒険者ギルドで冒険者の移動を斡旋するのだ。できれば怪鳥ロックや怪鳥フェザーで冒険者を移動させるサービスを開始してやれば依頼をこなす量も増えるし良い事だと思う。そこまでの設備投資がきついのであるが。
「そ、それはもはや冒険者ギルドの予算を軽く上回っていますので、国に申請しないといけないのですが……」
「マジかよ……」
つまりはリヒテンブルグ王国として補助しなければ実現しないってことか? でも、国も予算がほとんどない状態だ。これが通るわけがない。
「金はない。冒険者ギルドでどうにかするしか……」
「怪鳥フェザーの捕獲を冒険者たちでやればいいのよ! 調教もギルドから人を派遣して習えばいいわ!」
ユーナが軽く言う。それはめちゃくちゃ困難な事だと思う。しかし不可能ではない。
「すぐには無理だけど、ちょっとずつやっていく必要があるよね」
***
「特別休暇ッス」
「はあ、そうですか」
ヴェルテたちが怪鳥ロックに乗る特訓に行っている間に魔王館にお客さんがあった。ヘテロ=オーケストラ夫妻である。
「ユーナ、久しぶり」
「あ、ミア様まで。お久しぶりです」
今回は夫婦水入らずの旅行だというのに、何故こんな所に来ているのだろうか?
「半分は仕事ッス」
「仕事?」
「第5部隊の新しい召喚獣が欲しいッスよ。俺はウインドドラゴンとも契約したッスけど、いまいちしっくりこないッス。でかいんスよね」
なんて贅沢な悩みだ。そしてさらっとウインドドラゴンと契約したとか言ってる。ユーナとかあれだけ大変だったのに。
「そんで、リリスからめちゃ速い鳥型の召喚獣がいるらしいって聞いたもんスから、ハルキ様に相談したらこういう事になったッス」
「この人、仕事以外ではあんまり家に帰ってこないもんですから」
「ぶっちゃけオーケストラ家の人間ではないッスからね」
ヘテロ殿は平民出身の養子なのだそうだ。衰退しかけていたオーケストラ家の一人がぜひとも跡を継いで欲しいという事で家に入り、そろそろ結婚しろという事で結婚したというからかなりドライな考え方の持ち主である。部隊長が宿舎にいないでどうするんだという考えらしい。ミア殿も大変だ。
「それで、召喚契約の素材は分かったんですか?」
「朱雀の羽とエルダードラゴンの爪らしいッス」
「そりゃまた豪勢な……」
「シウバ、この前エルダードラゴン討伐したッスね? どこにいるか教えてほしいッス。もしくは爪をくれッス」
「爪か……残ってたかな?」
クロウの工房にほとんどの素材は預けてある。しかしエルダードラゴンの爪というと左右で3本ずつしかなかったし、すでになにかしらの武器に使われている気がする。
「確認しますけど、もしかしたらもうないかもしれないですよ?」
「なら、発生を待つッスね」
発生といっても、北の雪原にはレイレットから監視が定期的に行っているわけで、そんな事態になったらナノから連絡が入るはずである。
「ハルキ様からは、シウバはまだ退職届だしてないから今のうちにこき使えって言われてるッスよ」
「なにっ!?」
「でも、それじゃ悪いッスから、発生するまではシウバの仕事を手伝うッス。どうせレイクサイドにいる時に比べれば楽な仕事のはずッスから。ハルキ様がよく言うギブアンドなんとかッス」
……確かにヘテロ殿の仕事量はあり得ない事になってるからな。穴埋めしている奴が大変そうだ。哀れヨーレン。また会う日まで。
「フォ、フォレストさん、こちらの方々は……」
いくらレイクサイド召喚騎士団の正式装備ではないとはいえ、アダマンタイトのフル装備にハルバードなんて持っていたら冒険者ギルドでは目立つ。しかも長身だから威圧感が半端ない。そして町中でも移動にフェンリル使ってるしな。ギルド長もこいつには逆らわないほうがいいと分かったんだろう。最初から敬語で接している。
「あぁ、俺の知り合いでレイクサイド召喚騎士団のヘテロ殿とミア殿だ」
「フェ、「フェンリルの冷騎士」と「微笑みの守り神」!!」
冒険者ギルドに行き、本日も依頼をこなすという事になった。ヴェルテたちが帰ってくる予定なのは明日以降である。怪鳥ロックに乗って帰ってくるといいけど、どうなんだろうか。それにしてもミア殿の二つ名がすごい事になってる。
「ギルドランクは二人ともSッス。最近はスカイウォーカー領でギルド長を脅してSランクもらうのが流行ってるッス。レイクサイドのギルド長は脅してもだめだったッス」
「普通は脅してももらえないわよ。あなたの場合は押し付けられてたじゃない」
「でも一緒に行ったヨーレンは脅してたッスよ」
「なかったらあなたに置いて行かれるからよ」
夫婦漫才も完璧な感じで俺とユーナは若干押され気味だ。
「なんか、こっちは「邪王」と「疾風」なのに…………」
ユーナが若干涙目になっている。こうなったら「魔王」と「魔皇后」で対抗するか? いやしかし……。
「エルダードラゴンの討伐依頼は出てないッスか? それとも朱雀でも……」
「さすがにないと思いますよ……」
「じゃあ、シウバに任せるッス」
「ここではフォレストでお願いします……」
結局、テンペストウルフの捕獲やらアプロの無効化などの依頼を受けることにした。しかし、最近は俺たち専用とでも言うようなランクの高い依頼が流れてくることが多い。あとでナノに文句でも言っておこう。
そして、リヒテンブルグ王国に住み着いたこの夫婦はエルダードラゴンの発生まで居つく事にしたようだ。「今まで夫婦らしき事をしてこなかったから、遊ばせてやってくれ」と後でハルキ様から手紙が来た。
「そんな事言っても、エルダードラゴンの爪が手に入ったらすぐ帰るッスよ。朱雀の羽根は前にシウ……フォレストが討伐した奴があるんスからね!」
「あなた、いいじゃないですか。もうちょっとゆっくりしていきましょうよ」
「ダメッス!」
仲がいいのか悪いのかよく分からん夫婦だな。