3-5 特訓
前回までのあらすじ!
弟子を取ることになった
とりあえずティアマト倒せ!
無理か! そうか特訓だ! ← イマココ!
この西の大陸は今ではリヒテンブルグ大陸と呼ばれ出したらしい。そしてその中央からやや北寄りに東西にかけてそびえる青竜の住処だった山脈はリヒテンブルグ山脈という呼び名に替わっていた。そのリヒテンブルグ山脈の西の方には薬草が頭部に生えた植物型の魔物が群生する地域がある。魔物の名前はアプロである。
「アイリス、こっち焼けたよ」
「ありがとうフォレスト! でも本当に天然ものは美味しいね!」
「うん、肉によく合うよ」
首都リヒテンブルグの市場で輸入されたグレートデビルブルを売っていたために、つい買ってしまったのだ。できたら焼肉がいいなとユーナと二人で話し合っていたところである。というわけで焼肉をする準備をして、ここまで来たのであった。天然もののアプロ草を焼いた肉と一緒に食べると非常に美味い。ユーナ特性の焼肉のたれというやつも絶品である。持ってきた米にもエールにも相性がいい。
「フォレストさんっ! 無理です! 無理ぃぃ!」
後ろからペタの叫び声が聞こえる。
「きゃー!!」
あれはアヤの悲鳴だ。
「まだまだたくさんあるから遠慮せずに食べてよ!」
「フォレスト、たくさん狩ったもんね! お土産に持って帰ってもいいくらい」
30体を越えるアプロが横たわっていた。全て俺が刈り取ったものである。
「フォレストさん! ちょ! 助けて!」
ジーンの叫ぶ声も聞こえて来た。ヴェルテは何も言わないんだなと思っていたらアプロの触手で吹っ飛ばされて向こうに転がっている。多少動いているから命には別条ないだろう。
「訓練用に1体残しておいてやったんだ。早くしないと肉がなくなるぞ?」
「のおぉぉぉ!!」
あ、またペタが宙を舞っている。
「なんだよ、お前らあのくらいできないのかよ」
結局俺が助太刀に入るまで奴らではなにもできずに振り回されていただけだった。焼肉を食いながら反省会である。説教されているのに食べるペースが止まらないこいつらは本当に反省しているのだろうか。
2体のアプロだけは触手と頭部を刈り取っただけでうねうねと動いている状態だ。このまま、怪鳥ロックの運搬部隊がやってきて回収してくれるらしい。依頼料もそこから出ている。
「アプロ草、美味すぎるっ」
だめだ、少なくともペタは反省してねえ。
「うーん! 食べ終わったらちょっと体を動かしたくなってきたね!」
さっきまで何も動いてなかったからユーナも不完全燃焼らしい。
「君たち、食べ終わった順番で私と模擬戦ね!!」
「「えっ!?」」
その後、四人共に食べたものをぶちまけてた。可哀そうに。
「では、確かにいただきました」
「おう、ありがとう」
「いえ、この程度ならなんて事はありません」
怪鳥ロックの部隊がアプロを持っていく。
「おい、あれって「斬空」ライレル様だよな?」
「うん、多分……」
おもいっきし怪しまれているけど無視だ。ちなみにライレルには「お前だけが頼りだ」的な事を言っておいたら、張り切っていた。チョロい。
「フォレスト! 私、明日は海産物が食べたいな!」
「おっ! いいね! じゃあ海岸線沿いにマッドロブスター探しに行く? キングクラブシェルもいいよね!」
四人は完全に話に付いていけてないようである。
「えっと、そろそろ真面目な話でもするか」
今まで真面目な話をしてなかったのはばれていたようである。ようやく四人が姿勢を正す。
「まず一人一人の強さが足りんのはどうしようもない。もうちょっといい装備を買うか特訓を続けるしかないだろう」
経験を積まなければレベルが上がらないのは当たり前である。
「そして連携というものがなっていない。さらには情報不足も甚だしいな」
「でも、初めて出会った魔物で……」
ここでアヤが反論した。彼女らにすればいきなりこんな所に連れてこられて未知の魔物と戦っているのである。理不尽と思ったかもしれない。だが、現実はそんな事を考慮してくれるほどには甘くない。
「未知の魔物と遭遇したらとりあえず突撃するってこと?」
「それは……」
この時点で言いたい事が伝わったかどうか自信がない。もう少し強めに言う。
「遭遇した時点での情報収集はどうした? それを共有しようとしたか?」
それが連携にも繋がる。
「ティアマトに遭遇した場合にお前らがしなければならない事は、何だったか。アプロに遭遇した場合にしなければならない事は何だったか、考えろ」
講義はここまでである。後はこいつらが考えることで正解なんてものはないだろう。
「フォレスト、少しきつくない?」
四人の腹に容赦なく拳を叩きこんだユーナが言ってくる。
「考えないでここまでやってこれた実力者たちだから、考えたらさらに上に上がれるよ」
多分ね。
「フライアウェイ!!」
ワイバーンがマッドロブスターを高度から落とす。岩場にたたきつけられたでかいエビは即死だろう。殻がバキバキに割れているのが分かる。
「塩焼きかなっ! サシミかなっ!」
ユーナは楽しそうだ。昨日からずっと海産物が食べたいと言っていたしな。
「ハルキ様がミソをいれたスープにすると絶品だって言ってたよ。殻から出汁が取れるんだってさ」
「何それっ!? 聞いたことないよ!!」
「うん、あの村にちょっとした野菜の畑があったし、お金はらって譲ってもらおうよ」
「それ賛成っ!!」
本日、四人組には答えが出るまで討伐には連れて行かないと言い、近くの村で待機させている。考える時間というのも必要だ。これから首都リヒテンブルグの冒険者ギルドをしょって立つ四人組なのである。明確な答えを用意する必要はないが、いつでも答えを探しておいて欲しい。それが命優先でもお金優先でも名誉優先でも構わない。迷う事は死につながるからだ。
「ちっさい村だし、皆にも振る舞えたら楽しいかもね!」
俺もユーナも大人数で食事をするのが大好きである。
「フォレストさん! ユーナさん! 分かりましたよ!」
帰るなりペタがやってきた。こいつは本当に分かっているのだろうかという、軽さである。
「おう、そうか。それで、まずティアマトに会った時はどうするんだ?」
「ティアマトに出会った時には翼がないというのを考慮して上空へ逃げるんです!」
「ワイバーンやフェザーがなかったら?」
「…………」
「…………やり直し」
やっぱりダメだったか。あきれ顔のユーナは村長のところへ行って、調理器具を貸してもらうのと、村人皆で食べないかと言いに行ったみたいだ。
そのほかヴェルテもジーンも同じような答えだった。とりあえず論破する。実はどんな答えでも論破できるのだが、そんな事はまだ教えない。だが、アヤだけは最後まで言いに来なかった。マッドロブスターのミソスープが出来上がり、超絶に良い匂いが村中に回り、それぞれが持ち寄った食料をもとに宴が始まってもアヤは考え込んでいるようである。
「分からないか?」
「分かりません。どうやっても…………」
「実はな、……答えは出ない」
ミソスープを飲んでいたペタが酷い顔をしている。
「そんな、ひどいっ!!」
「答えは出ないけど、何かしら選択しなければならないんだ。そこで迷ったら誰かが死ぬし、何もできない」
俺は以前「奈落」でクラムのパーティーを見殺しにしてしまった時の事を思い出していた。
「迷いを捨てて、それを選択して、それでも後悔しないなんてことはできない。後悔しないってことは選択してなかったに等しいからな」
クラムたちが生き残って居たらエリナとは一緒にいなかった。今、どこで何をしているか想像もできない。そして今、エリナは次世代の新しい命を宿している。その命にとっては俺の選択は正しかった事なのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。ただ、あいつらが死んでしまった事に、助けられなかった事に後悔は付いて回る。しかしあいつらのためにも迷ってはいけなかった。
「これは参考までに、俺がお前らの立場だったらどうするかを教えておこう」
「ティアマトもアプロもまだ無理だ。逃げる」
「「「…………」」」
あれ? いい事言ってたと思ってたんだけど、何この空気?