3-4 Aランク冒険者
前回までのあらすじ!
首都リヒテンブルグの冒険者ギルドで一番上のランクの冒険者はAランクだそうだ
教育係? しかたないなあ ← イマココ!
翌日四人はギルドで待っていた。
「こいつらがうちに出入りしてる中では一番ランクが高いやつらです」
「「お願いします!」」
そいつらの名前はヴェルテ、ジーン、ペタ、アヤと言った。ジーンとアヤは20台の女性、ヴェルテが30台男性、ペタが20台男性といったところだろう。よく分からんけど。
「ランクSの腕前を見て、しっかり勉強させてもらうんだぞ!」
ギルド長が見た事もないほど威張っている。普段はこんな感じなのだろう。
「よろしくお願いします。一応俺がリーダーとしてパーティーを組ませてもらってます」
「ああ、よろしく」
「よろしくね!」
パーティーのリーダーは年長のヴェルテだそうだ。まあ、当たり前か。装備もそこそこの物をもっているようだし、四人というのはこの魔物が強い西の大陸では少な目な数だそうだ。俺たちは二人だけどな。
「じゃあ、教育って言ってもランクがAまでのパーティーだ。基本的な事はいいとしてまずは実力を見せてもらおうか」
そして俺が依頼板から取ってきた依頼を見て彼らがビビる。
「え?」
「マジですか?」
「これって……」
「討伐隊クラスのような……」
その依頼にはSSSランク、ティアマトが書かれていた。ナノがめんどくさいからとこちらに回してきたらしい。本来であれば依頼板に載せられることのない依頼であるが、茶番のために付けてもらったのだ。ちょうどいい。
「さあ、行くぞ」
「待って……え? ……本気で?」
ヴェルテですら信じられないらしいが、ティアマトを野放しにしておくわけにもいかないから、今日中に討伐するよ?
「さて、お前らの移動手段は?」
「えっと、普段は馬車です」
「だめだ、間に合わん。せいぜい怪鳥フェザーを仕入れろ」
馬車なんかで移動していたら討伐対象の魔物が町を滅ぼした後に到着なんて事にもなりかねん。西の大陸を活動範囲とするならば、せめてワイバーンや怪鳥フェザーでの移動を考える必要がある。ウインドドラゴンは無理としても、四人のパーティーならば怪鳥ロックを手に入れてもいいかもしれん。
「怪鳥ロックはヴァレンタイン王国から輸入できる。それを手に入れるためにまずは金を稼げ」
そんな話をしているうちに怪鳥ロックを使った定期便を考えてもいいなと思い始めた。工夫すれば乗れる人数は増えるはずだ。
「じゃあ、仕方ないから今回は俺たちの召喚したワイバーンで行くぞ?」
空の旅に慣れてない彼らは移動だけでも大変である。それでも西の荒野の奥地にまで行くのには数時間といったところだろうか。近場で助かった。
「ティアマトは戦った事あるか?」
「ないです!!」
「ドラゴン型の魔物ではあるが、飛ばないしブレスも吐かないし、攻撃は噛みつきと爪、それに尻尾に限られてくるな」
正直な話、遠距離からの攻撃だけでなんとかなる相手ではある。特に飛んでいるワイバーンやフェザーには全く届かないだろう。破壊魔法を撃っていればそのうち討伐できるのではないか?
「ですが、防御力がかなり高いと聞いたことがありますよ!」
そういったのはペタだった。この青年は鎧こそ来ているが、近接戦闘は苦手なのだという。その代り魔法に詳しい。逆にヴェルテやジーンはガチガチの近接型だった。ヴェルテ重装装備にハルバード、ジーンはバックラーに剣を持っている。アヤも剣は持っていたが細身のものだった。魔法が得意なのかもしれない。
「確かに、めちゃ硬いよね」
「そうね! この鎧とかティアマトの革だけどめちゃくちゃ丈夫だもんね!」
「マジですか!? それティアマトの革だったんですか!?」
ペタが興奮しだした。こういう装備とかに興味が強いのかもしれない。マニアというやつか?
「金が貯まったらランカスターに行って装備を買い替えようと思ってたんですよ! あ、でも移動手段にフェザーかロックを買わないといけないんでしたっけ?」
「ティアマトの依頼料と素材の売り上げがいくらになるか知ってるか?」
この前依頼料を上げたばかりだった。今回の依頼はもちろんきちんと六等分するつもりである。投げ出された木簡を空中で捕まえたペタが固まる。そしてそれを横から除いたヴェルテも驚愕していた。
「ちょっと、私たちにも見せてよ!」
ジーンが要求したためにワイバーンが近づいて行った。
「何よ!? この金額!!」
普段は依頼板には出ないSSSランクだからな。当たり前だ。なにしろ放っておいたら町が壊滅するクラスである。
「お前らの取り分が三分の二になるから、素材の売却分を考えるとなんとかなるぞ? さすがに装備にまで回す金額が残るとは思えないけど」
「うおぉぉぉ!! やったるぜぇぇぇ!!」
ペタが叫んでいる。金の魔力に完全に取りつかれていた。
「たしかに、このワイバーンに乗ってみて分かりましたよ。これがあればいつもの四倍は多く依頼を受けることができる。移動で体力も消耗しない。逃走手段にも使える」
「そういう事だ。討伐隊よりも冒険者にこそ必要なんだよな」
***
「ぶべらっ!!」
宙を舞うペタ。魔法主体なのに先頭に立ってどうするんだ? おもいっきり尻尾の攻撃で吹き飛んでいる。
「大丈夫かー?」
「大丈夫じゃありませんー」
「よし、自力でなんとかしろー」
ディフェンスアップをかけておいたからか、致命傷にならなくてよかった。他の三人はビビってしまってなかなか前に出れないようだ。
「ティアマトの噛みつき攻撃だけは食らうなよ。俺たちでも死ねる」
「分かりますっ!! 見れば理解できますっ!!」
前衛であるはずのヴェルテも逃げ腰になってしまっている。
「フォレスト、ちょっと早いんじゃない?」
「さすがにそうだね、お前らアイリスに感謝しろよ!」
俺は後方で高見の見物をしていたが、仕方なく補助魔法をかけてティアマトに接近する。尻尾を避けてさらに爪や牙をかいくぐる。いつもは二刀流だが、素性がばれてもいけないために今はアダマンタイト製の剣のみである。それを両手持ちでティアマトの首に叩きつけた。骨を断つ感触が分かる。
「おおっ!!」
首がとれそうになるティアマトであるが、それでもこちらへ攻撃しようとするのはやめなかった。
「こいつらは首が取れても数分なら戦えるんだ。気を抜かないようにな」
しかし、さすがに骨まで絶たれたためにすぐに動かなくなった。
「解体は専門の知識がいる。ランカスターまで運搬するぞ」
血抜きをした後にティアマトを縄で固定し、3体のワイバーンで運ぶことにした。ランカスターにはクロウが立ち上げた解体専用の建物がある。冒険者ギルドの出張所も入っているそこで、素材を売却するのだ。もちろん解体された素材を売らずにもらうこともできる。
「こいつの牙は削るといい剣になるらしいぞ?」
ジーンが自分の剣を見た。いろいろと考える事があるらしい。
「今まで、こんな奴らと戦ったことなんてありませんでした。ランクAと言っても、Sランク以上とは戦えない程度なんです」
たしかに動きはまだまだである。
「まずは環境を整えろ。そして装備品だ。実力は、後からでも付いて来るが命は失ってしまうと取り返しがつかん」
当面は訓練という事でレベルを上げる事を優先させた方がいいのかもしれない。
「怪鳥ロックやフェザーはまたの機会だな。今回はこの金で装備品を充実させて、訓練をする事にしよう」
「訓練……ですか?」
ヴェルテが不安そうに聞いてきた。
「うん、良い事思いついたから良い装備を買いなよ。……じゃないと、死ぬよ?」
一瞬で四人の血の気が引いていくのが分かった。