2-5 樹々の迷宮
(コソコソ……隊長! 大変であります!)
(コソコソ……どうした!?)
(『……ざわ……ざわ』が1~2日ほど早かったようです!)
(なにぃ!? 前説の新年一発目は12日でって言ってたぢゃん! そもそも12日は年明けの挨拶するには遅いんじゃないのか? 新年から前書きや活動報告を控えてるから、このままじゃ作者が「茶番失調症候群」に陥って「感想欠乏症」も合併して発狂するぞ!?)
(しかし…………、こればかりは仕方ないかと……)
(ええい! 仕切り直しだ。明日になるか明後日になるか分からん! 間をとって『……ざわ……ざわ』3回バージョンから始めるぞ!)
(了解です!)
…………ざわ…………ざわ…………ざわ……
「ここどこだぁぁぁぁ!!!!」
「分かりませんっ!!」
絶叫は木々の中に吸い込まれていき、自分たち以外に聞いているものなどいないようだった。
それは樹木の迷宮と呼んでいいものであり、永遠と続くかに見える道の両側は全て葉とツタで覆われ、出口がどこにあるのかなど分かるはずがない。もと来た道ももはや道と言えるかどうか疑わしものだった。なによりも壁が移動しているように見える。それほどにツタの成長速度が速いのであろうか?
「もしかしてあれじゃないですか!?」
「あれって何だっ!?」
薄々気づいてはいるが、決して言葉にしなかった現状をナノが言ってしまおうとする。つい、気づいていなかったフリをするしかなかった。だが、どう考えてもそうだ。
「…………食虫植物的な魔物というかなんというか?」
「…………俺たち食われた?」
床にぶちまけられた液体が消化液だと気づくには、さらに時間がかかるのだった。
さかのぼる事、丸一日。
山脈に沿って西に進む。フェンリルの足は速い。
「このままだと明日には到着しますね」
途中で野営する事も考えて、何かしら食料となる魔物を狩りたいところである。携帯食だけだと寂しいからな。
「シウバ様、たまには魔物の肉ばかりじゃなくて変わったものも食べたいですよね」
ん? 確かにここのところは肉と穀物ばかりだった気がする。たまには他の物でもいいか。
「野菜が食いたいんですよっ!! 新鮮な!!」
ナノがフェンリルの鞍の後部座席で叫んでいる。ナノはそんなに野菜が好きだったのだろうか?
「いや、肉好きですけど、毎日毎日肉と米ばかりじゃ飽きてくるのは仕方ない!!」
本当にね。でも食料少なかったから、俺らでも文句言えなかったんだよな。自給自足する冒険者の野営くらい、好きな物を食いたいものである。
「つっても、野菜なんてどこに生えてるんだよ? レイレットまで行かないと中々手に入らねえぞ?」
この大陸で大々的に畑を経営しているのは北の「レイレット」の町くらいのものである。他は輸入になるからどうしても塩漬けとか酢漬けとかそんなのばかりだった。
「「リヒテンブルグ」周辺にもでかい畑が必要ですねっ!!」
「だいぶ先の話になるなぁ」
畑の整備に人出なんて出せる状況じゃないから、来年か再来年くらいの話になるだろう。今まで通り、加工した野菜であれば船で運んでくる事ができるのだけど、それ以外は基本的に無理だ。この辺りから南は不毛の荒野だったし、畑ができるかどうかも分からん。魔力が強すぎて作物が育たないとかの噂を聞いたこともあるぞ?
「せめて野生で生ってるものを採取するのが現実的なんじゃねえのか…………?」
野菜が野生で生っているわけがない。しかしナノはどうしても肉以外が食いたいようである。
「そしたら何だ? 魚か? でも植物系がいいんだろ? じゃあ…………」
そこで俺たちの視界に入ってきたものがあった。それはかなり大きめの樹である。そして、その樹には赤い実が生っていたのだ。大きさといい、色といい、絶対食えると確信できる。
「シウバ様っ!! あれですっ!! あれ食いましょう!!」
果物も最近はほとんど食べてない。ヴァレンタイン王国で冒険者をしていた時には美食のかぎりをつくした俺たちがよく、こんな所で暮らしていけるもんだ。
「よしっ、見たら俺も食いたくなってきたな」
目的地の方向とは少しずれているが、問題ないだろう。どうせこの依頼はのんびりとやるつもりだったのである。
「行けッ! フェンリル!」
しかし最悪だったのはここからだった。
「葉っぱじゃねえかよぉぉぉ!!」
地面をガンガンと叩いて悔しがる魔王代理「統率者」ナノ=リヒテンブルグ。遠目では果実に見えたそれは、ところどころにちりばめられた赤い葉だったのである。
「くそぉぉ!! こうなったら、この赤い葉を食ってやる!」
「やめとけ、腹壊すぞ?」
そしてこの樹の周辺にはツタがかなり多く、移動に意外と時間がかかったのである。ワイバーン
だったら、一瞬だったろうな。
「なんの樹なんだろうな?」
見れば初めてみる樹である。そしてこの赤い葉の意味も分からない。まるでこれが果実であるかのように見せて人や獣をおびき出すかのように見間違い易いのである。
「今日は疲れたし、この辺で野営するか」
「そうですね。どっと疲れが出ました」
せっかく果実を食べることができると思ったんだが、諦めるしかないだろう。
「じゃ、テント張っといてくれ。俺はワイバーンで何か狩ってくるよ」
ワイバーンで上空へと飛び立つ。季節的にも何かの果実が見つかれば良いと思っていたが、見つけたのは群れからはぐれたと思われるホワイトボアだけだった。今日も肉である。それでも携帯食よりはマシかと思いつつ、焼いて腹いっぱい食べた。「レイレット」の町の周辺で採取させた薬草と香草を乾燥させたものを持ち歩いているので、料理すれば味自体は非常に良くなる。そして酒を持って来ていたのも悪かった。久々に羽根を伸ばしているために、二人とも結構な量を飲む。
「もう、食えんです」
普段はかなりの人数で分けるが、今は二人だ。制限なく食っていたら二人とも腹いっぱい過ぎて動けなくなった。早めにテントで休むことにする。俺もナノも魔物の気配には気づけるほどに強くなっているため、見張りはいらないだろう。…………と思ったのが悪かったようだ。
翌日の朝に起きる。
「あれ? ここはどこ?」
周囲を取り囲む樹木の迷宮。日の光すら入って来づらいほどに大量のツタと葉が周囲に取り巻いている。いつの間にこんな所で寝ていたのだろうか? そんなに飲んだかな? いや、結構飲んだな。しかし記憶はちゃんと残っているぞ?
「シウバ様、あれ…………」
ナノが指差した先には昨日解体したホワイトボアの残りがあった。そしてこのテントの位置にも覚えがある。
「どういう事?」
「俺たちが移動したんじゃなくて、この樹が生えて来たんじゃないですか?」
よく見ると昨日見ていた大きな樹がある方向に行くほどにツタと木々の密度が濃いようである。今、俺たちがいる所は大きな空間になっているが、道のようになっている部分もあり、本当に迷宮と呼ぶのがふさわしい様相だった。
「と、とりあえずここを出ようか」
野営の装備を仕舞ってフェンリルを召喚し鞍の両側に担がせる。ホワイトボアの肉は本日の食料分だけをもらって、あとはもったいないが放置する事にした。
「とりあえず、道のようになってるしあっち行ってみようか」
「そ、そうですね」
そしてその「道」を歩き出す。フェンリルに乗るには少しだけ狭そうであった。しかし、いくら進んでも出口は全く見えてこず、ふと後ろを振り返ると、来た道が塞がっていくのを目撃してしまうのである。
***
「この森? 迷宮? 全体が魔物だってのか!?」
「多分、そうですね!!」
なんてこった。獣型や虫型の魔物は沢山見て来たけど、植物型は初めて見る。
「どうしましょうか!? このままじゃ俺たち消化されちゃいますよ!?」
「まぁまぁ落ち着け、魔王ナノ=リヒテンブルグ」
「こそっと引退しないでください」
ナノをいじくっているうちに俺が落ち着いてきた。冷静になってよく考えてみたらそんなにピンチでもないかもしれない。たしかに、未知の魔物に取り込まれて消化されかかっているのは事実であるが、消化されたわけではない。
「はい、とりあえずはあそこにさ」
そしてフレイムレインで天井を焼き、ワイバーンで脱出した俺たちは迫りくる木々の触手を何とか躱しきり、腹いせにドーピングフレイムレインで大きな樹を焼き尽くしてやったのだった。
しかし、その炎を見てライレルの怪鳥ロック部隊が飛んできて、仕事サボってるのが見つかってしまった。