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2-4 ナノ=リヒテンブルグ

…………ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……

 首都「リヒテンブルグ」の建設が始まった。まずは先行隊が建設していた仮設の住宅に皆が住み始め、塀を作っていく所からである。食料はハルキ様に送ってもらった穀物と、ナノとハサウが狩ってくる魔物で当面は問題なさそうだった。非常にありがたい。この周辺に発生した魔物に集団を作るものが多いのも、狩猟が可能であれば食料供給にはむしろ好都合であった。ある程度の数のテンペストウルフがいれば問題なく狩る事ができ、そして一度に手に入る量が多い。特に未熟な者の訓練にも非常にいいために積極的に食料確保には出て行ってもらう必要があるが、食料を確保する部隊は少しずつ慣れていったようだ。


 周辺住民を移転させることになるとかなりの規模の都市になるだろう。増築は必要としても前もってかなりの広さの土地を活用する事を考えねばならない。すでに少しずつではあるが移住してきている者たちもいた。すでにもともといた集落の近くでは食料がとれないそうだ。さらに奥地には餓死者が出ている集落もあるようで、早急に部隊を派遣し移民をすすめる必要がある。


「とりあえず、こっからここまで塀で囲んじゃって」

 地図を見ながら大まかな都市計画を進めていく。北から移転してきた非戦闘員も全て含めての作業となるために、個々の案件はあっという間に片付く気がした。だが、なにせ都市の規模が規模であるために数年はかかるだろう。どうしても大掛かりな土木作業には時間がかかる。レイクサイド召喚騎士団を借りることができたなら早かったのだが、さすがにそこまでしてもらうわけにもいかなかった。よって、建設現場にはユーナのクレイゴーレムが数体のみである。それでもかなりの戦力となるが。


「町の中心に川が流れるようにして橋をたくさんかけよう。海まで船で移動する事を考えなければならん」

 海沿いの港町も建設が始まったようである。大陸奥地の集落に声をかけて移民を希望するところは集落ごと移ってもらうようにした。奥地の整備にまではまだ手が回らないのだ。


「ジャイアントキラーエイプの目撃情報が入ってます」

「ハサウの部隊に討伐に向かわせて」

「200頭を越えたシルバーファングの群れが見つかりました」

「殲滅してこい、ナノが指揮だ」

「またしてもティアマトです」

「うし、俺たちが行く」


 魔物の発生は留まるところを知らないようである。ヴァレンタイン大陸でもそうであったが、こんなペースで発生していたらそのうち人類も魔人族も滅びるのではないか?

「またしても魔王様がティアマトを討伐された!!」

 リヒテンブルグに帰ってくる度にこいつらはお祭り騒ぎをする。他に騒ぐ理由もないのだろう。


 俺たちは数か月、首都「リヒテンブルグ」で過ごした。目まぐるしく変わっていく建設現場と、魔物の討伐ばかりの日々が過ぎていき、気づけば数か月いたという感じだ。たしかに忙しかったのである。そしてその甲斐あってか、リヒテンブルグ王国は食料問題を概ね解決し、首都「リヒテンブルグ」もほとんど完成となった。まだまだ都市をつなぐ道路であるとか、食料の輸送方法であるとか改善の余地は大いにあるが、この数か月で再編成を繰り返し一段と強力となった騎兵部隊が各地に発生する魔物を狩り、それを食料とし近くの集落へ配り、武器防具の素材はフェルディの治める港町「ランカスター」へと集めるというシステムが出来上がっている。魔物の発生率と、部隊の規模のつり合いが取れだしたために最近の食料需給率は安定しだした。更に作成した武器防具は世界中に売却され、その金をもとに穀物を輸入するのである。

 思い描いた国はできあがった。この発想はレイクサイド領にいなかったらできなかったものである。


「なんか、できあがってしまったな……」

 首都「リヒテンブルグ」の魔王館から町を見渡すと、ここが荒野だった事が嘘のようである。数か月で作り上げた町はまだまだ手入れをしなければならない所が多かったが、それでも機能していた。何隻かの船が海から登ってくるのを見ながら、俺はなんとなく寂しい想いをしていた。

「なんだろう、これじゃないような……」

 魔王と呼ばれて必死に応えようとしてきた数か月だった。すでにナノやハサウの部隊もある程度の魔物たちであれば問題なく狩れるほどに精強になっている。四騎将もそれぞれの役割をきっちりとこなしており、「ランカスター」に工房をひらいたクロウは様々な装備品を作り出して世界中に販売する事を始めていた。評判もかなりよく、まずはリヒテンブルグ王国の兵士の装備が良質なものに一新されたことで死亡率もかなり減ってきている。


「でも何か違うんだよなぁ……」

 

 ***


 その答えが分かるまでに結構な時間がかかった。だが、最後にはきちんとした答えがでるのである。それは、先人の知恵でもあった。なにも自分で思いつかなくても、先人が行った事を真似ればたいていのことは上手くいくのである。


「というわけで、俺はただのシウバだ!」

「シウバ様、これって、ハルキ様の真似ですか?」

「うむ! 誰も俺たちが魔王と魔王代理とは思うまい!」

 首都「リヒテンブルグ」にある冒険者ギルド。ここにいつもと違う装備に身を包んだ俺はナノを引き連れて潜伏している。ユーナは今現在はヴァレンタイン王国に戻っているし、なにやらエリナは調子悪くて館に籠っている。たまに吐いたりしているようで心配であるが、マジェスターがついているなら大丈夫だろう。何か変な物でも食べたのかな? ちなみにユーナの用事はエリナを診てもらうためにパティを拉致してくることだ。


「お前しか暇なやつがいなかった」

「俺、全然暇じゃないんですけど」

「…………え? だめ?」

「いや、ダメじゃないです。権力行使しましょう」

「うむ、さすがは次期魔王だ。話が分かる。お前にリヒテンブルグの姓をくれてやろう」

「え?」

「ナノ=リヒテンブルグ。いい感じだな」

 ナノが固まってしまっているけど、そんな事はおかまいなしにギルドの依頼を探す。これだ。やはり俺は冒険者が性にあっている。魔王やめようかな。ちなみにハサウがいまごろ死にそうな顔で3人分の仕事をしているはずだ。あいつもいい年なんだけどな。


「薬草採取にする?」

「そ、そうですね、討伐は飽きましたし、ここに依頼が出てるのはランクが低すぎます」

 たしかにランクBより上の討伐任務はなかった。西の大陸は魔物が強いのでほとんどランクB以上なのである。つまりは、冒険者が討伐依頼をこなすことなんてほとんどないというわけだ。

「あれ? この薬草採取はランクSだってよ」

「面白そうですね。やってみますか」

 山脈の西側にある沼地に生息するという薬草だった。薬草なのに生息とか書いてある。ギルドも、もうちょっと教育をすすめたほうがいいんじゃないか?

「それじゃ、受理しますねー」

 受付嬢はなんの疑問もなく依頼を受理してくれた。俺もナノもランクSだけど、めずらしくないのかな?


「さあ、行きましょうか。怪鳥ロックにします? ワイバーン?」

「ここは雰囲気を大事にフェンリルにしよう」

 俺がフェンリルを召喚して2人で乗り込む。フェンリルも遅いわけではないが、ワイバーンに比べると少し速度が落ちる。ゆっくりと景色を見ながら久々の冒険者を楽しむことにしよう。

「フェンリル、久しぶりです」


 こうして俺とナノは山脈の西側にある薬草を取りにいった。……そして分かると思うが、後悔することになった。

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