2-2 改革の時
俺たちがいないリヒテンブルグ王国は四騎将によってまとめられていた。しかし、「エレメント平原の戦い」から後は「統率者」ナノの下で一致団結したようである。フェルディたちは自分たちがしっかりと「統率者」であるナノに敬語を使って部下であるという態度を示す事によって国をまとめようとしたし、リヒテンブルグ王国で最強と言われているローレやライレルですらナノには敵わなかったという事実も、国をまとめていく上では重要な事だった。世界樹の塔の一件がなければ問題なくいっていたに違いない。
「今のところはナノが最強なの?」
「一応、シウバ様たちをのぞいてですが」
ハサウもローレに負けてライレルにも敵わないと思っていたからこそ降伏したと言っていたし、いつの間にか俺たちのレベルがかなり上がっているという事に気づく。よく考えれば俺って、あのエレメント魔人国最強を子供扱いしたヘテロ殿にも勝った事あったんだな。自分よりも強い奴が沢山いたことで、いかにレイクサイド領が化け物ばかりだったかという事を認識した。そしてここの魔人族はテンペストウルフに乗っているためにある程度の強さはあるが、もともと西の大陸は魔人族が魔物に勝てなかったから発達してこなかったのだ。これを何とかしないといけないが、一朝一夕でできるものではないだろう。
しかし、ナノは確かにSランク冒険者としても戦力になっていたし、破壊魔法を始めとして優秀であったが、リヒテンブルグ王国で最強であったとは思わなかった。それもこれもテンペストウルフに騎乗するというのがどれほどの戦力増加だったかという事だろう。フェルディたちの調教能力がいかに秀でていたかという事だ。
今回のエルダードラゴンはたまたま魔人族の住んでいない所で発生したようだ。そしてその前の朱雀はたまたま俺たちが標的としていたから間に合った。しかし、そうでなければ住民にそれなりの被害がでていた事は確実で、そうでなくても周囲の集落は食料難に陥ることは間違いなかった。ある程度まとまった力というのが性急に必要である。
「という事で、そんな魔物が発生したらすぐにでも行ける部隊を編成するべきだ」
この部隊は、まずは俺たちでやるべきだろう。朱雀やエルダードラゴンを倒せる奴がその辺にはいない。
「そして、その魔物の発生を迅速に正確に伝える手段が必要なんだ」
と、いう事でカヴィラ領である。
「冒険者ギルドのノウハウを教えてほしいんです。魔物の討伐はリヒテンブルグ王国においては騎士団が行うことになります。もちろん冒険者ギルドを設置して冒険者を受け入れてもいいのですが、並大抵の冒険者でなければ西の大陸の魔物とは戦えない」
どんな無理難題を押し付けられるのかと思っていたらしいオクタビア=カヴィラはほっとしたようである。冒険者ギルドの普及は彼の仕事でもあるからだ。
「カヴィラ領というよりもヴァレンタイン王国としては冒険者ギルドの設置が望ましいな。もちろん、リヒテンブルグ王国においては騎士団に優先的に依頼を回すというので良いと思うが」
「そちらがそれでいいのならば、ギルドを設置しましょう」
ただ、リヒテンブルグ王国で一般的な冒険者が育つとは思えない。低ランクの冒険者が数人組んだところで町から町の移動もできないであろうからだ。今でも集落間の移動は数十人規模、もしくはテンペストウルフの護衛付きで行われているという。
「だいたい、ギルドからの依頼報酬は国が出すんだぞ? どちらにしろ職員の給料も国が出すからギルド設置だけで問題ないはずだ。依頼の受理とかで少しは煩わしいが、一般の冒険者を受け入れるという事もできるし、他国間のやり取りだってできる」
「よし、ならばお願いします」
お土産にエルダードラゴンの素材を少し分ける。
「アイオライ王への土産として取っておいて下さい。うちの大陸にはこんな奴も出るんで」
「こ、これは何だ?」
「エルダードラゴンの鱗と牙です。一昨日仕留めました。そして今後はこれらを使って何か特産品でも作るつもりです」
ティアマトよりさらにデカい牙と鱗を見てオクタビアもぞっとしたようである。
***
冒険者ギルドの設置は決まった。だが、他にも問題はある。
「さあ、引っ越ししなきゃな」
今の集落は山脈の北に固まりすぎている。北と南では生活の質が異なるのだ。やはり南が悪い。そして海岸線沿いが意外にも良い。
「もっとも魔物が発生しやすいところに支部を置いていくとして、その中心に首都を定めよう」
これは物流の事も考えなければならない。他国との貿易を始めるのだ。穀物の輸入もしなければならない。そして、物流に関してもっとも王都から遠い領地であるレイクサイド領はそれだけで不利だとハルキ様が以前言っていた。だが、その不利を力技で乗り越えるだけの資源がレイクサイドにはあったし、そして石畳の道路というものが物流を固定してしまったためにレイクサイド領は王都ヴァレンタインからあれだけ離れていても生き残る事ができた。しかし、ここにはそんな事をしている暇はない。最も利便性がいい場所に首都を置き、最も迅速に人や物を運ぶシステムを作り上げなければならない。
「というわけで知恵を下さい」
「やっと帰ってきたと思ったらそれか…………」
俺は久々にレイクサイド領に帰ってきていた。カヴィラ領に行ったその足で南下したのである。
「ついでにクロウを拉致していいですか?」
「それはダメだが、クロウが行きたいと言ったら俺は止めんけど」
よし、解体と鍛冶の親方としてクロウを引っ張っていこう。
「あと…………」
「パティはダメだ」
ちっ、パティも連れて行きたかったのに。
「まあ、一から国を作り直すのであれば物流の事は考えとかなきゃならんな。でかい港町がいるよ?」
「港町ですか?」
「うちと違って狩猟で食っていくなら素材で作った特産品を売る先が必要だ。今現在、そんな物を買う余裕があるのはヴァレンタイン王国とヒノモト国くらいのもんだが、武器防具になればどの国だって欲しがる。そしたら輸出のために必要なのは船だ」
「船ですか。うちの国にはあまりありませんね」
「船はそのまま国内の輸送にも使えるからな。だが、問題なのはそこじゃない。うちと違って物の運搬中に魔物に襲われやすいって事だろう」
「そこなんですね。素材をいくら手に入れようとしても安全に物が運べるかどうかが分からないから」
「道路を作るよりも先に、安全に運搬できるシステムを作り上げた方が効率いいと思う。道路はそれが確立してからだな」
安全に物を運搬できるシステムか。さすがにハルキ様にも具体案が浮かばないらしい。だが、時間がかかっても安全に物が運べるのであれば素材を加工して売り、その金で穀物を輸入する事ができるだろう。魔物が資源に見えるって、ハルキ様も言ってたが本当に魔物は資源なんだろうな。
「シウバ様、話の規模がデカすぎて私ではついていけません」
「ナノ、お前はついてこないと駄目なんだよ」
ずっと俺の後ろに付いて来ていたはずのナノが泣きごとを言ってくる。だが、皆をまとめる係のナノがそのようではいけなかった。俺たちと同じ目線で国の事を考えてもらわないといけない。
一晩自宅に泊まった俺たちは次の日にユーナのウインドドラゴンでリヒテンブルグ王国へと戻った。