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2-1 勝者の宴

 正式な歴史書ではないが、リヒテンブルグ王国初代魔王「邪王」シウバ=リヒテンブルグの帰還が記されている資料がある。一人で天災級とも言われるエルダードラゴンを仕留めたと書かれている事から信じられない思いであるが、そもそも「エレメント平原の戦い」で四万の兵を制した力をもってすれば天災級の魔物などひとたまりもなかったのであろう。この時期のリヒテンブルグ王国に歴史書がない事が問題であるが、歴史の表舞台に出て来た「エレメント平原の戦い」を最後に「邪王」シウバ=リヒテンブルグは姿を消す。次の魔王が出てくるまでに数年あるが、最近の学説ではその間に病死したとか、引退したという説が有力視されている。中には「バンシの戦い」にてスクラロ軍を率いた召喚獣ドッペルゲンガーが姿を乗っ取ったと言われている「剣舞」シウバが同一人物ではないかという突拍子もない学説まで出てきてしまっているが、それほどまでに謎に包まれた人物であったという事だろう。

 その資料によれば「邪王」シウバ=リヒテンブルグが帰還した事で食料問題は解決の方向へと向かい、リヒテンブルグ王国は新たな方針を打ち出したという。それが何であるかまでの記載はなかったが、今日にまで続く狩猟と魔物の素材を使用した装備、装飾品などを鑑みると、それらの基盤を作り上げたのではなかろうかと思われた。


 ***


「あたり一面の白雪の絨毯と沈みゆく赤色の夕日を背に! あたかもそれが当然と言うばかりに黄金色の巨竜の亡骸に座り! その視線の先は常人ではうかがい知る事はできない! その身を包む禍々しいばかりの黒褐色の鎧と漆黒の外套は敵には恐怖を抱かせるだろうが、我らにとっては強さと優しさの象徴である! 私は彼に出会えた事を、彼に仕える事の出来る事を、そしてその光景を見る事のできた事を誇りに思う! 巨竜を前にして彼は私に「二人では無理だ」と言った。無知な私はそれを巨竜を倒す事が無理だと誤解したのだ。しかしそれは間違いだった! 二人で運べないだけだったのだ! 諸君!! これを見るがいい! そして我ら魔族のしきたりに従って、強者の肉を食すことで強さを取り込もうではないか! 「邪王」シウバ=リヒテンブルグに! そしてリヒテンブルグ王国にかんぱぁぁぁぁぁぁぁぁぁいぃ!!」

「「「リヒテンブルグ! リヒテンブルグ! リヒテンブルグ! リヒテンブルグ!」」」

「「「うぉぉぉぉぉ!!」」」

「さすがはシウバ様ぁ!!」

「いいぞぉ。ハサウ! もっとやれぇ!」

「乾杯!」

「いいから早く食わせろ!」


 なんだ、あれ…………。めちゃくちゃ恥ずかしい事言ってるんだけど?

「ちょっと、ナノ。ハサウを止めてこい」

「無理です。酒飲んでああなったハサウは誰にも止められません。あと何回かは乾杯してると思いますよ」

「まじかよ、まだ数回はあの演説聞かなきゃならんのか?」

「我慢してください」

「うへぇ」


 エルダードラゴンが倒れてから俺は疲れ果てていた。しかし、極寒の雪原で寝るわけにもいかず、MP回復ポーションをちびちびと飲み、「ウォーム」で体を温めながら、ハサウたちが帰ってくるのを待っていたのである。すでに方向感覚なんて全くなかった俺は、北へ向かったはずだからと南を向いてエルダードラゴンの上でぼーっとしていたのだ。色々と考える事がありそうだったけど、疲れが全身に回っていてそれどころじゃなかった。

 ハサウがマジェスターを連れてくるまでに2時間以上かかったんじゃないだろうか。マジェスターについていた2人はユーナとエリナ達を探しに行ったらしい。2人で戻ってきた時の2人の絶叫が何故か後ろ側から聞こえた時に、北と南を間違えていた事に初めて気づいた。どうりでいつまで経っても視界に人が現れないわけだ。

 興奮しすぎたハサウは鼻血が出てたし、マジェスターも普段は見えないような顔をしていた。そりゃ、討伐した本人が一番びっくりしたよ。でも、それは2時間前の話でもう一度テンション上げる元気は全くなかった。ハサウにはそれが、討伐できて当たり前のような態度に見えたようだ。

 その日は夜になってしまった事もあって、討伐したグレーテストホワイトベアのみを集落まで運ぶ事になり、ユーナがウインドドラゴンで10頭ほどをいっぺんに運んでいった。俺たちは最初の予定どおりに野営をして、翌日に運搬役の数十名が到着するのを待って、エルダードラゴンは集落まで無事に運ばれたというわけだ。そして宴である。


「というよりも、お前ら相変わらず食料難なのに酒だけは造ってるんだな」

「それは譲れませんからね」

 エルダードラゴンの肉を食べる事ができたので、グレーテストホワイトベアは各地の集落に回すことができるようである。海岸線沿いは漁に出る事もできるので、あまり食料難ではないそうだが、奥地が本格的に魔物が強くなったことで食っていけてないようだった。戦力の要になるテンペストウルフも足りていない。


「シウバ様! 肉が焼けたようですぞ!」

 マジェスターが意外にも元気だ。エルダードラゴンの亡骸を見たあとからテンションが上がりっぱなしである。そして今も酒を飲みながら宴の輪に入っている。あんな奴だったか?

「マジェスターも嬉しいんだよ! シウバがすごい事したんだからね!」

「でも、あいつ白虎の首落としたり、朱雀の首落としたりしてるじゃんか」

「それは他の人に手伝ってもらってでしょ?」

 ユーナ言う通りで一人で天災級のバカでかい魔物と戦うのは大変である。動きを制限する事ができればあとは攻撃力だけの話であるからセンスとかは全く関係ないな。そう考えると白虎をあそこまで封じ込めたハルキ様は半端ないんだろう。

「さすがはシウバ様ですぅ」

 エリナもほろ酔いであった。そしてもともとのエリナ派の人間が常に後ろについているのは何故だろうか。しかし、たまにマジェスターに追い払われている。

「さあ!」

 マジェスターがエルダードラゴンの肉を焼いた串を持ってきた。見た目は美味そうである。ユーナとナノとマジェスターで一緒に食べることにする。エリナは……向こうでみんなと踊っていたからまた後でいいか。

「うん、美味い……かな?」

 可もなく不可もなくといった所だろう。朱雀はめちゃくちゃ美味かったけどな。

「魔人族にとっては、最高のご馳走なんですけどね」

 肉を食いながらナノが言う。強者を食して取り込むという風習は理解できないが、そんなもんなのだろう。嬉しそうな皆を見ていると、まあいいかという気になってくる。

「「「リヒテンブルグ! リヒテンブルグ! リヒテンブルグ! リヒテンブルグ!」」」

 宴が最高潮である。エリナが踊ってる連中の真ん中にいるし、その向こう側ではフェルディとローレが一気飲みをしていた。ハサウの演説を聞いている一団もいる。食料問題が少しよくなっただけでこれだけ盛り上がれると思うと、なんとかしてやりたい気持ちにもなる。

「あんな魔物がいなければテンペストウルフが数頭いるだけで問題なく狩りができると思うんだけどな」

「南からも黒龍の目撃情報が上がっているようです。さすがにティアマト相手にテンペストウルフだけだと厳しいかと」

「よし、良い事思いついた」


 翌日、俺とユーナとナノはカヴィラ領に向かった。基本的にオクタビア=カヴィラに遠慮をするつもりは全くない。ティアマトの討伐にはマジェスターとエリナがハサウたちを率いて行ってくれるようだ。

 ウインドドラゴンでカヴィラ領の領主館に降り立つ。俺のにやついた顔を見て嫌な予感がしたのだろう。挨拶もそこそこにオクタビアが言った。

「な、なにしに来たのだ?」

「ごきげんよう、カヴィラ領の領主様。今日は魔王シウバ=リヒテンブルグとして来ました」

「ぐっ、よ、ようこそおいで頂きました……」


 骨の髄まで搾り取ってやろうかな? へっへっへ。


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