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1-2 リヒテンブルグ王国の改革

 俺たちが思っていた以上にリヒテンブルグ王国の現状は厳しいものがあった。それをなんとか保たせていたのがナノたちである。しかし、その重圧に少しずつ耐えきれなくなっていたようだった。魔王シウバ=リヒテンブルグの帰還は、数日のうちにリヒテンブルグ王国中に伝わったのである。それこそ、王国の危機を救う英雄のように。

「分かったよ、俺たちに何ができるか分からないけどとりあえずは当分の間滞在する事にするから」

「いや、シウバ様。ここには魔王が必要なんです」

 「統率者」として今まで皆を引っ張ってきたナノの悲痛な叫びが聞こえるようであった。

「うーん、なんとも言えないけど、とりあえずな」

 明言は避けざるを得ない。だが、こいつらを放っておくわけにもいかなかった。

「とりあえず、食料事情だろ? お前らいっつも食べ物なくて困ってんだな!」


 とりあえず、どのくらいの人数がいてどのくらいの食料があるのかを認識しなければならない。俺たちがいた頃にはこの集落の周囲くらいしかいなかったはずだが、いまでは西の大陸全土を支配している事になっている。

「山脈の南は誰が管理してるんだ?」

「基本的にもともといた集落の族長に任せる事にしています。支配しているといっても、力づくで攻め落とした集落はそれこそ数えるほどしかいませんから」

 テンペストウルフの部隊を率いてそれぞれの集落を回るだけで、どの地域も抵抗なくリヒテンブルグ王国の傘下にくだったらしい。当時はそれほどまでに魔物が脅威であったという事なのだろう。

「それで、それぞれの集落にテンペストウルフを始めとした魔物を調教できるやつを育てて狩りができるようにしていた、と?」

「はい、戦争の時にはテンペストウルフの部隊が出来上がっていたくらいですから」


 世界を巻き込んで「邪国」として暴れていた時には千を超える部隊になっていたはずだった。それぞれの集落に帰った後、村の戦力の中心として機能するはずで、実際に魔物の発生が全くなくなるまでは問題なく狩りができている地域がほとんどであったようだ。しかし、まずは魔物が発生しなくなったことで、狩りの必要性がなくなりテンペストウルフや他の魔物を使役する労力が保てなくなる。そして、今まで以上の規模でも魔物の発生が起こった時にはすでに戦力が落ちた状態で、元のように魔物の脅威に怯えてくらさねばならない地域が急増したようだ。さらには朱雀のようにいままでの戦力でも太刀打ちできない魔物が発生した、というところで俺たちと遭遇したらしい。


「それじゃあ、戦力の再編成からだな。四人の集落が近すぎるってのも問題だろう」

 いまでは「四騎将」と名乗っているフェルディ、ローレ、ライレル、アウラの集落が近いのも問題だった。山脈の南側や、東の海岸線沿い、南の海岸線沿いなどおおまかな区画に分かれてそれぞれを統括する人物が必要である。それに情報網も構築しなおす必要があるだろう。

「ここがリヒテンブルグ王国の首都ってのも、情報伝達の面から言えば不便だ。できるだけどの地域にもすぐに駆け付ける事のできる所か、他国との連絡の取りやすい所か、どちらかを選ぶべきだろう。」

「つまり、遷都ですか!?」

「そんな大げさなもんじゃないと思うけど……」

 ハルキ様がレイクサイド領で行った改革を真似しようとは思う。召喚魔法が使えないために農業を主体とする事はできないけれども、ここにはここの良いところがあるはずで、それを伸ばしていけばよいと思うのだ。


 ***


「なんか大変な事になっちゃったね!」

 ひさびさのリヒテンブルグ王国での生活に3人は懐かしさが半分、戸惑いが半分といったところだろうか。

「シウバ様ぁ、ほんとうにこのままここに住むんですかぁ?」

「いや、分からんよ。でも、放っておけおけないだろ?」

 エリナはここに住みたくないのだろうか?

「住むのならぁ、レイクサイド領から料理人を連れてきましょうよぉ」

 そこかい。だが、たしかに以前住んでいた時にはほとんど自分たちで料理などは行っていた。もっと料理人を始めとして、ほかにも鍛冶職人や生産系も含めた技術を取り入れた方が生活の質も向上するに違いない。

「うん、ハルキ様にお願いしてみるかな」

 だが、あのハルキ様がただで技術提供なんてしてくれるはずがない。となると、何かしらレイクサイド領にとってプラスとなるものを考えなければならないのだが……。

「しかし、当面は料理人どころではないようですな」

 マジェスターの言うとおり、食料事情が良くないためにそれどころではない。だが、行く行くはそういった文化的で技術的な面も考慮していかなければいつまで経っても問題の先送りにしかならないのではないだろうか。目の前の問題を解決しつつも、今後の事を考えるとかどれだけ高度な事を要求されてるんだ?

「この大陸は魔物ばっかりだからね!」


「…………魔物ばっかり」

 ユーナの言葉に思いつく事があった。

「そういえば、ここの連中って魔物の素材をどうしてるんだろうか?」

 あまり装備品に魔物の素材が使われている様子はない。使ったとしても毛皮くらいだろう。完全に食料として扱われているのが分かる。

「もっと魔物の素材を活用して何かを作ってみたりして、それを他国に売れば特産品になるんじゃないか?」

 住民のかなりの割合が狩人で構成されているこの国ならではの特産品ができそうである。自分たちが最近になって魔物の素材から装備を作ったりしていなければ思いつきもしなかっただろうが、武器防具以外にも作れるものは多そうだった。

「ちょっと、ナノを呼んでくれ。それでこの辺りで鍛冶とか革製品とか作ってる奴を集めるんだ」

 自分たちの装備がこれだけの価値があったのである。この大陸にはテンペストウルフやグレーテストホワイトベアを始めとして強力な魔物が多いのである。その素材を使った物が悪いはずがなかった。


 翌日の狩りから、それぞれの集落で解体専門の者を育てる事になった。食料としない部分でも何かしらの素材になるのであれば取って帰り、それでまずは自分たちの装備品や生活用品を作るところから始めさせたのである。さらには俺たちも加わっての狩猟で当面の食料確保に励む。戦力を再編成した事で、食料難に困る地域にも狩人たちを回し、さらにはカヴィラ領を通じて穀物を買い込むこととした。あまり金はもっていないのであるがここは仕方ない。これから特産品をつくって稼いでいけばいいのである。

 国を挙げての魔物の狩猟は上手くいきそうだった。特に今までは捨てていた素材となるべき部分が回収できたことで生活の質も上げることができそうである。


「シウバ様ぁぁぁぁ!! なんでですのぉぉぉ!!」

 翌週になってババアが帰ってきた。ヴァレンタイン王国まで怪鳥ロックで俺を呼びに言っていたらしい。カヴィラ領まで行ったところ俺がリヒテンブルグ王国に帰ってきたという情報を得てとんぼ返りしたのだとか。さすがに生理的嫌悪感が激しかったので無視しておく。

「ところで、ナノ。怪鳥ロックは何頭いるんだ?」

「全部で6頭です。」

「それは使えるな」

 情報網を整備するにはレイクサイド領でいうワイバーン部隊のようなものがどうしても必要である。迅速に情報と物と人を運べる怪鳥ロックはそれにうってつけだった。

「できるだけ増やそう。それで怪鳥ロックだけの部隊を作っちまえ」

「はい、分かりました」

 今では指揮官が優先的に乗っているらしいが、それでは特性が生かされてない。他にも情報伝達を早くするものがあれば取り入れたかったが、現状ではこれが精いっぱいだろう。



「それじゃ、俺たちは北に熊を狩りに行ってくるから、ナノたちは東の海岸線沿いの集落の編成を頼むな」

「分かりました。北へ行かれるのでしたらハサウの隊をつけましょう。荷物運びとかに使ってやってください」

 グレーテストホワイトベアを狩りに行こうと思ったら、テンペストウルフの部隊の5人をつけてくれるそうだ。俺たちはその部隊と一緒に北へ向かうことにした。


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