3-5 白いあいつ
前回までのあらすじ!
電気ウナギって、蒲焼きにしたら美味いのかな? ← イマココ!
結局、カミナリウオの皮は魔力の伝導効率が良いわけではなく、むしろ全く通さないものだった事が判明した。それによって最強の執事服を作るという事ができなかったマジェスターはへこんでいる。
「おかしいな、デンキみたいなもんじゃねえのかな?」
ハルキ様は思ったように行かなくて落ち込んでいるかと思ったが、そうでもないようだった。もともと、装備を作るなんていうのは逃避行の理由でしかなかったし、補助魔法が使えない事で自分に合った防具ができるとも思っていなかったようである。
そして、ここはスカイウォーカー領の冒険者ギルドだ。ハルキ様、いやホープ様はレイクサイド領には戻らないからという事で、何食わぬ顔をして4人で行って来たかのようにカミナリウオの皮をダンテ親方の所に持って行ったのである。
「これはこれで面白いんだがな」
ダンテ親方はそう言ってくれたが、どういった防具に使うかのアイデアまでは出てこなかったようである。とりあえず、俺たちはもう一度スカイウォーカー領の冒険者ギルドでホープ様と待ち合わせたのだった。
***
「それで、今回はどうしたんですか?」
「ええい、話しかけてくるな! 貴様はギルド長だろうが!」
「どっちにしたって、ホープ殿はSランク冒険者ですからな。ギルド長自ら対応してても何の問題もありますまい」
冒険者ギルドに入るとホープ様がギルド長のレンネンという人に絡まれていた。昔からの付き合いがあるらしい。
「暇なら、こっちのSSランクはどうですか? 多分ワータイガーだと思いますんで、ハル……ホープ殿ならば瞬殺でしょう。他にもありますよ」
「俺はすでにパーティーを組んでいるのだ! ……部下だけど。そいつらとここで待ち合わせをしておるだけだからそんな依頼は受けん!」
「でしたら、部下の方々と御受けになればよろしいじゃないですか。最近スカイウォーカー領の冒険者ギルドはSランクがなかなか育っておりませんので」
実際にSランクの冒険者が複数常駐しているのはエルライト領の冒険者ギルドくらいのものだろう。それ以外はレイクサイド召喚騎士団の第4部隊やハルキ様、俺たちと言った特殊な者以外はほとんどいないのではないだろうか。どこのギルドも育成が急務となっている。特にヴァレンタイン王国だけではなく、世界中の魔力が上がったようで魔物のランクが若干強くなっている気がする。以前だったらティアマトなんてすぐに見つからなかったもんな。
「お願いしますよぉ! ワータイガーなんて狩れる冒険者がスカイウォーカー領まで来るのはほとんどないんですからぁ!」
「ええい! そんなものはルイス殿に頼めばよかろうが!」
「すでに何度も依頼させてもらってますってば! Sランクが出る度にアイアンウォールが出動してたらなんのための冒険者ギルドか分かんないでしょ!」
「そんなもの俺に頼んでも同じじゃないか!」
「同じじゃないですよ! Sランクの凄腕冒険者ホープ=ブックヤード殿ですから!」
「ばっかっ!!」
こんな所でホープ=ブックヤードの名前を叫ぶものだから数名がハルキ様の事に気づいたらしい。ここはレイクサイド領カワベの町と近い事もあって、ハルキ=レイクサイドがホープ=ブックヤードである事を知っている者もいるのだ。ギルドの中が騒めく。
「お前っ! まさかわざと!」
「ふふふ、ここでお話をするのも何ですからギルド長室が空いておりますよ。お連れの方も来られたようですし、ふふふ」
こちらを見ずに俺たちが来た事を把握しているなんて、伊達にギルド長やってないな、と思った。
「ぜひとも御受けしていただきたい依頼がありまして」
結局ギルド長室に通された俺たちは不機嫌なホープ様とともにギルド長レンネンさんの話を聞く事になった。
「スカイウォーカー地方にはそこまで凶悪な魔物がいた事はなかったんですが、最近になってSSランクを越えると思われる魔物の目撃情報があります」
SSランク以上というと、ティアマトとかその辺になるだろう。かなり手ごわいはずだから、一般の冒険者では依頼の受理すらできないそうだ。
「まさか、朱雀を討伐したパーティーがここに来るとは思いませんでしたよ」
シルフィード領で朱雀を討伐した事がすでに情報として流れているらしい。ホープ様にパーティー名を決めましょうと言ったけど、そんな目立つ事はするなと怒られてしまった。
「ホープ様にうってつけです」
レンネンさんはそういうと一つの依頼が書かれた木札を出してきた。そこにはSSランクの文字が光っており、さらには「ワータイガー変異体」の文字が。備考欄に通常個体よりも大きいと書かれている。
「でかいワータイガーがいるのか?」
スカイウォーカー領はその名の通り、山岳地帯が多い。霊峰アダムスに連なる山々があるのである。そんな山岳地帯の一部にワータイガーの変異体は目撃されたとの事だった。
「俺は興味ねえよ、お前らやるか?」
ホープ様は本当に興味がないらしい。たしかにワータイガーであれば防具の素材にもならないだろうしな。
「シウバ様! これも修行となりましょう!」
「シウバ! 困ってる人がいたら助けた方がいいよ!」
「本当にぃ、ワータイガーなんですかぁ?」
え? 本当にやるの? とか思っていたんだけど、最終的にレンネンさんに押し切られてしまい、俺たちは討伐に向かう事になったのだった。
そして、山岳地帯へやってきた俺たち。
「ねえ、ホープ様。これはどういう事でしょうか?」
「いや、俺に聞かれても分からねえよ。とりあえず、一旦スカイウォーカーに戻るでいいんじゃねえの?」
そこにはワータイガーの変異体と思われる魔物がいた。しかし、見た目が少しワータイガーとは変わっていて、大きさも違う。まず、注目すべきはその毛皮の色だ。白い。そして思ったよりもでかい。一般的なワータイガーの2倍以上はあるんじゃないか?
「シウバ! あれって!?」
「シウバ様! 帰るなどとはもったいない! このまま行きましょう!」
「シウバさまぁ、どうしますぅ?」
他の連中も気づいたらしい。そう、あれだ。
「この魔物、白虎じゃね?」
朱雀や青竜と同格とされている天災級の魔物、「白虎」である。以前オーブリオン大陸に出没した時には王国を滅ぼしかけたほどの魔物だ。テツヤ様が討伐するまでは誰も敵うものがいなかった。
「素材を取りましょう!」
「マジェスター、お前って結構、逞しいよね?」