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3-4 雷鰻の蒲焼き

前回までのあらすじ!


カミナリウオ! それはほとんどでっかい電気鰻だ!


え? それ言っちゃっていいの?


どうせ全員が分かってる!大丈夫だ! ← イマココ!

「もうだめだ……死のう……」


 現在俺たちはネイル国に来ている。新設された冒険者ギルドではヴァレンタイン王国から派遣された純人の職員が現地の魔人族とともに慣れない手つきで冒険者ギルドの業務に付いており、しかしそれでも今まで冒険者のような職業がなかったわけでもなく、なんとか依頼の受理を始めているところのようだ。

「まずは目撃情報を集めましょうぞ!」

 マジェスターはノリノリである。なにせ執事服が最強防具になる可能性すらあるのだ。それは奴の夢と言ってもいいだろう。

「もうだめだ……死のう……」

 そしてユーナもエリナもそれなりに楽しみらしい。ゴツゴツした防具を装備するよりはスッキリした服の方が見た目がいいからかもしれない。これを機に補助魔法の特訓をしようかと2人とも張り切っている。もちろん、俺も楽しみだ。単純の防御力が上がるだけでも十分である。今の装備の内側に張るだけでも魔力の伝導率が上がるというのだ。楽しみにならないわけがない。

「もうだめだ…………死のう…………」

 そして、いつも通り落ち込んでいるメンタルの弱い領主がいる。まあ、平常運転だ。


 事の発端はエリナの一言である。発端というか、全てなのだが。

「ハルキ様ってぇ、補助魔法使えないからその「怪魚カミナリウオ」の皮で防具作っても意味ないですよねぇ」

 もうちょっと、婉曲な表現というか、あえて相手に気づかれない行間を読ませようとして失敗するような言い回しでもよかったんじゃないかと思うが、張り切ってここに来た意味を全否定された「大召喚士」様は撃沈している。今回の戦いでは戦力にならないかもしれない。


「カミナリウオの生息する湖はここから北東に行った所にあります。周囲に住んでいる部族はいませんので、補給品などは十分に用意していってください。」

 ギルドの職員も慣れない魔道具を使いながら一生懸命に説明してくれる。そしてSランクが来たのはネイル国冒険者ギルド創設以来初めてだそうで、ガチガチに緊張している職員もいれば、同業者から睨まれたりもした。マジェスターが剣に魔力を帯びさせて睨み返したら、引っ込んでいったけど。


「水の中に住んでるんだよな? どうやって討伐する?」

「湖の中に入る事はお薦めしません。カミナリウオは雷を放ちますので、その雷が水を伝わってきます。遠く離れていても雷は伝わりますので、カミナリウオ以外の生物はあまりあの湖には住んでいないのです」

「あまり?」

「カミナリウオの雷が効かない生物がいます。カミナリウオはそんな生物を以外を襲う事で食料としているようです」

 さすがに現地職員だけあって、魔物の生態に詳しい。非常にいい情報が聞けた。知らずに湖に突っ込んでいったら雷にやられて死んでいたところだ。

「シウバ! 雷の効かない生物ってのも興味ない!? それはそれで装備の素材になると思うんだよ!」

 たしかにユーナの言うとおり、魔力の伝導が良いほどいい装備があれば逆に全く魔力を伝導させない素材も装備として使えるのかもしれない。

「ゼツエンタイか……いや、何でもない」

 ホープ様がぼそっと何かを呟いた。やはり、この人は俺たちの知らない何かを知っているに違いない。どうせ武器防具の開発はダンテ親方の管轄だ。あとで、原理を盗み出してやろう。


「とりあえず、現地へ行ってカミナリウオがどんな魔物なのかを観察しなかきゃ!」

 ユーナの言う通りでここで議論していても始まらない。俺たちは翌朝から湖へと飛ぶことにした。長期戦になるようであったら野営の準備も必要かもしれない。ウインドドラゴンであったら数十分で戻れる距離だから大丈夫だとは思うけど。

「見えて来た!」

 速度を落としたウインドドラゴンの上でユーナが叫ぶ。前方にはかなり広い湖があった。

「ほう、レイクサイド領の湖よりもでかいかもしれんな」

 ホープ様はなんとか1日で立ち直ったようである。今ではカミナリウオと共生している動物や魔物というのに興味があるようだ。

「とりあえず、中心の島があるようだから、そこに降りよう!」

 俺たちは小さな島に上陸した。


 ***


「これは、思ったよりも大変になるかもよ?」

 上陸して初めて思ったのはそんな事だった。湖の水面が、時たまピリッと光るのだ。

「もしこれがカミナリウオのせいだったとしたら、結構な頻度で雷を発している事になるなぁ。一匹じゃなくてもっとたくさんいるのかもしれん」

 ホープ様も呑気な事を言っている。

「どこにいるかも分からんのに…………」

 しかし、その時であった。


 ザバァァァァァァン!!!!


 少し遠くの水面が急に盛り上がる。ちょうど水を飲もうと鳥が水面まで降りてきていた瞬間であった。それをくわえる巨大な、ウナギ。鱗があるから魚といってもいいかもしれない。いや、問題はそこじゃない。問題はその大きさだった。

「じゅ、15メートルはあったんじゃねえの?」

 完全に小島まで津波が押し寄せているわけで。

「ありゃー、思ったよりでかいな」

「シウバ! すごいよ!」

「あれなら全員分の皮がとれそうですな!」

「でっかぁいぃ」

 何故君たちには危機感という物がないのだろうか…………。

「待って、待って。あんなにデカい奴をどうやって仕留めるのさ? それに水の中にいるから手出しできないよね?」

 これは当然の疑問だろう。


「皮を取るとしたら、身は蒲焼きですかな!?」

 ちょっと待てマジェスター、どうしたらそんな感想になるのだ?

「米持って来てないですぅ」

 いや、蒲焼きにはたしかに米だけども。

「いざとなったら、カヴィラ領まで1日かからないから!」

 なんで!? ユーナまでそんなに米にこだわるの!?

「ふふふ、お前ら俺をなめるなよ」

 そこの領主! なんで米を携帯してんの!? やけに荷物多いと思ったら、そんな物まで持って来てたの!?


 その後、蒲焼きには皮が必要ではないかという論議をしている4人を放っておいて、俺は「怪魚カミナリウオ」の討伐方法を考える事とした。水中にいる上に、この湖の中は雷が伝わるから中に入る事は不可能である。では、水面に出て来た所を狙うしかないと思うのだが、どうすればいいのだろうか。

「デカいから、素材として使う部分と食う部分を別にしてみよう!」

 ホープ様はなんとか落ち込んでいた状態から戻っているようだ。よし、働け。

「シウバ様! 竈の準備ができました!」

 マジェスターがなにやら張り切っていると思ったら、獲った後の蒲焼きを作る竈を作り上げた。こんな事ばかり上手にできるのである。

「まだ、カミナリウオを討伐できてないから、使えねえかもよ?」

「いや、ホープ様がおられれば大丈夫ですよ!」

 家臣からの絶大な信頼を得る領主ってのも悪くないんだけどよ、これはどうすんの?


「よーし、じゃあカミナリウオを獲るぞ!」

 そんなこんなでホープ様がやる気になったようだ。どうやって討伐というか、獲るのだろうか。

「ノーム召喚!」

 え? なんでノーム? と思っていると、一匹のノームが水面を泳いでいく。すると湖が数回光った。おそらくは雷が流れているのだろう。たまにノームがビリビリとしびれそうになるのが分かる。


 ザバァァァァァァン!!!!


 するとそのノームめがけて巨大な魚が食いついた。水面へ出てくるカミナリウオはノームを口に入れるとそのまま水中へ…………行こうとして、凍った水面に叩きつけられる。いつのまにコキュートスを召喚してたんだ? 凍った水面の上でビチビチと跳ねるカミナリウオ。鱗がバチバチと雷を纏っているのが分かる。

「うし、マジェスター、切ってこい」

「御意」

 ホープ様の命令でビチビチしていたカミナリウオの首があっという間に落とされた。後で固定して、三枚に下ろすつもりなのだろう。

「ふへへ、どんな味がするんだろうな?」


 結局、三枚に下ろしたカミナリウオの半身を蒲焼きにして食べた俺たちは、もう半分の皮を剥いで持ち帰る事にした。蒲焼きは、……期待したほどには美味しくなかった。

「何故だ! 蒲焼きなのに!」


 ホープ様は、最後まで納得がいかなかったようだけど、あんなぶ厚い皮が美味いわけないよな。


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