3-3 次なる標的
前回までのあらすじ!
ジギルはストレスで禿げるんじゃないか?
そしてまたしてもあいつか!? ← イマココ!
「またしても付いて来るつもりですねっ!?」
「またしてもって何だよ、失礼な! そんな、俺がいっつもいっつも逃避行先にお前らの所ばっか選んでるかのようなっ! ちゃんとビューリングの所にもしょっちゅう行ってるわい!」
「領主がしょっちゅう逃避行してちゃダメだって言ってんでしょうが!」
「だって、最近はみんな爺とフィリップの家臣最強決定戦ばっかりで俺の事構ってくれないんだもんっ!」
「だもんっ! じゃねぇぇぇ!!」
「だいたい、前回はテツヤとナトリ=スクラロとの戦いがあってそれどころじゃなくなったからお前らの旅に同行したわけじゃねえだろ!」
「フラン様に言いつけてやるっ!」
「てめぇ! 俺を裏切るのかぁ!?」
「領民裏切ってんのはそっちでしょうがぁぁ!!」
一通り罵り合ったけど、結局ハルキ様が付いて来る事という事で押し切られてしまった。他のメンバーとクロウは朱雀の解体を行っていたようだ。すでに羽毛とかは全部回収されてしまったようである。
「ジギル殿にもおすそ分けしてやらんとな。ふへへ、これでさらに貸しができたぜ」
悪い顔でハルキ様、いやホープ様が言う。今回は冒険者仕様という事でホープ=ブックヤードとして来ているそうだ。ランクSのギルドカードまで持ってる。
「それで、この後どこか行く予定とかあるんですか?」
俺たちは朱雀の素材を持って帰るつもりだったから、次の計画は特にない。冒険者ギルドで聞いたら依頼達成はこっちのシルフィード支部で受理してくれるそうであるのでレイクサイド領へ戻る必要すらなくなってしまった。やる事は特にない。しいて言うならばパーティー名を決めるのと、クロウが作ってくれる服を待つくらいのものだろう。さきほどグレーテストモスの糸を渡したマジェスターが執事服をねだっていたな。
「え? 何も予定ないの? そしたらさ…………」
朱雀の解体が済んで、持って帰る素材の選定が終了した。テトとクロウはその素材を今日中にレイクサイド領へと持って帰るようである。グレーテストモスの糸もクロウに預けてあるので、また何か新しい装備を作ってくれるかもしれない。
「ハルキ様、僕もできるだけ言わないようにするけど、ごまかせないと思うよ」
「分かっとる。セーラさんにだけは言うなよ」
「一番言えと言われて言わない訳にいかない人じゃないか」
「お前を信じているぞ」
「どうせ、もうアレクあたりに補足されてるよ」
この前ダンテ親方に考案したウインドドラゴン用のコンテナとともにテトとクロウが飛び立つ。かなりの量の素材を持って帰る事ができるようで、尾羽や嘴以外にも使えるところがありそうだった。腿の柔らかそうな部分の肉をマジェスターに凍らせてもらって「セーラさん用」って書いた羊皮紙をホープ様が貼り付けていた。こっちでも料理しろって言われて、先程ユーナが宿の調理場を借りに行ったところだ。朱雀のから揚げとかって美味いのだろうか?
「飯食ったら、シルフィード領から離脱しよう。追手がかかるかもしれん」
「追手がフラン様だったらホープ様置いていく事にしますからね」
「それは許さん」
ユーナが作ってくれた「朱雀のから揚げ」は絶品だった。怪鳥ロックとはまた違った味わいで、しかし脂が乗っていて美味い。皮はバリッと、中はじゅわっとで、しかし腹に入ると消えるかのように軽い。肉の塊なのに飲み込まずに溶けて消えていくようである。いくらでも食えるのではないだろうか。
「あ、これはやっちゃったか?」
ホープ様が苦い顔をしている。
「やっちゃったって、何ですか?」
「完全にセーラさん好みの味だ。次に朱雀の目撃情報が出たら真っ先に討伐に向かわせないと、他のやつらに横取りされたら機嫌が悪くなる…………」
あれ? この人領主で「大召喚士」だよな? 完全に妻の尻に敷かれてね?
「とりあえず冒険者ギルドを買収しにかかるか……まずはレイクサイド召喚騎士団への連絡を最優先してもらい、できなければシウバ達を向かわせるように……ブツブツ」
なにやら権力を行使して公私混同しようとしているつぶやきが聞こえる。しかし、これは美味い。胸肉の部分はももと違って噛みごたえがあるがぎゅっと凝縮された旨味を感じる。こっちも好きかもしれない。
みんな、一心不乱に食べている。ユーナもエリナもニコニコ顔だ。マジェスターも目が本気である。
「えーと、飯食べたら次の目的地というか、目的の魔物の所に向かいますんで……あ、ゆっくり食べればいいんじゃないかな?」
***
シルフィード領の冒険者ギルドで次の標的を検索する。ホープ様には欲しい物があるようだ。俺たちの装備作りを見ていて思ったようである。自分も新しい装備が欲しいと。
「マジェスターの「隕鉄」もそうだけどさ、魔力の伝導率ってのは面白い考え方だ。それであるならば、もっといい素材があってしかるべきなんだよ。ミスリルを越えるものがな」
現時点でもミスリルの伝導率は最高クラスである。これを越えるものと言えば「隕鉄」とデビルモスの糸に魔石粉末を染料として染めて織った布であろうか。希少性と防御面を考えると総合的にミスリルの方が優れていると言ってもいい。だが、ホープ様はそれを越える者が欲しいと言っている。
「アダマンタートルもそうだけど、魔物の素材を鉱物として利用する事ができる。それならば、もっとも魔力を通してると思われる魔物を使えばいい」
ギルドの検索機能でヒットしたそれは、遠くネイル国の北東に生息しているようだ。
「「怪魚カミナリウオ」。そいつは体中に雷を纏い、触れたものを全て焼き尽くすと言われている巨大な魚らしい。生息している湖が一か所で、そこから出られないからランクはSになってるけど、実際の強さはSSSでもいいのではないかというのが現地の調査員の報告だ」
オクタビア=カヴィラを脅して入手した冒険者ギルドの極秘資料を手に入れたレイクサイド領主は言う。なんて悪い顔をしてるんだ。
「この皮を使えば、魔力伝導に関しては最強の素材が出来上がるだろう。本気の「魔装」を越える鎧ができるかもしれんぞ? そしたら服の裏生地に使ってみるのもいいかもな」
服の裏生地と言われてマジェスターがピクリと反応する。普段から執事服で行動したいとまで言ってる奴だしな。
「うし、まずはネイル国まで行かなきゃな。たまには俺がウインドドラゴンを召喚してやろう」
ホープ様は最新の魔道具で鞍が装着された状態のウインドドラゴンを召喚した。領主様仕様であり、鞍の質がいいな。安定性も抜群だろう。
「さて、飛ばすぜ! ゴーグルと耳当ては絶対に外すなよ!」
まさかその日のうちにネイル国に到達するなんて!