3-2 宰相の小言
年末が近づいております。
皆さまいかがお過ごしでしょうか。
オレオは、久々に装備した血痕指輪が取れなくなって大変でした。
呪いのアイテムだったみたい。
決して太って無理矢理装備した状態で酒のんでむくんだのが原因ではないと思う。
呪いのアイテムだったみたい。
指がいたくなかったら付けてたままでもよかったんだけど。
呪いのアイテムだったみたい。
糸使って外したよ、めっちゃ指痛いけど、安心した。
指輪の外し方、インターネットに乗ってるから、皆さまも太って酒のんで指輪が外れなくなったら試してみてね!でも、自分だけでは無理なので「痛い痛い」言いながら誰か他の人(男)にやってもらいましょう。
指痛い。お腹いっぱい。今日も飲み会。 オレオでした。
来年はいい事きっとあるさ! 年明け早々くらいにあればいいな!
「パーティー名を決めねばなるまい」
シルフィードの町で最高の宿に招待された俺たちはそこでレイクサイド領からきた黒色の4人組Sランクパーティーが噂になっているという事を聞いて、さきほどからソワソワしっぱなしである。
「やはりっ! サインの練習もすべきかと!」
「いやぁ、握手とかもとめられちゃったらどうしますぅ?」
「シ、シ、シウバ! どうしよう! 他領地からスカウトが来たらっ!?」
「お、お、落ち着け、皆。落ち着いてスカウトが来たら隠さずにみんなで話し合おう!」
その時部屋の扉がノックされる。
「ふぁい! ス、ス、スカウトですかっ!?」
「え? いえ、あの、これからジギル=シルフィード領主がおいでになられるそうです」
「スカウトかもしれんっ! どうする!?」
「シウバ様! 落ち着いてください! どちらにせよハルキ様が我々を手放すはずがありませんっ!」
「そうだよ! シウバ! 落ち着いてっ!」
「…………それでは、1階の部屋でお待ち下さい。」
若干、宿の人が呆れ気味の顔をしていた気がするが、こちらはそれどころではない。スカウトだったら、どうやって断ろうか。たしかに我々の力を高く評価してくれるという事はうれしい事なのであるが、これでもすでに主君がおり、冒険者は仮の姿なのだ。申し訳ない。今回のお話はなかった事にしていただけないだろうか。
「もうちょっと、被害の少ない退治の仕方ってのができんかったものか?」
開口一番にかなり不機嫌な宰相であり領主でもあるジギル=シルフィードの口からでた言葉はそれだった。あれ?スカウトは?
「まあ、死人が出なかったのが幸いでもあるが、北地区の一角が酷い事になってるぞ?」
おかしい、ここは感謝されるところでは?
「だいたい、「邪王」自ら我が領地で何をしているのだ? お前らは主従揃って変装と逃避行が趣味なのか? 冒険者パーティーに身を扮して、さらにはあんなに目立ってしまって……。「邪王」様に我が領地内で何かあったら私の首が飛ぶ程度では済まないのだぞ? リヒテンブルグ王国の軍事力は我がヴァレンタイン王国に次いで世界2位なのだからな? ヒノモト国をも上回る国の魔王の影響力という物を考えてほしいものだ、というよりも何でまだレイクサイド領の一部隊長を続けておるのだ? いや、今は冒険者か。辞めたのなら国に還ればよかろう。リヒテンブルグ王国では魔王なんだぞ? 今、あの国の「統率者」が行っている軍事改革は脅威でしかないのだからな」
何やらものすごい勢いで説教をくらってしまった。これは日ごろから溜め込んでいるな。ずいぶんと激務に違いない。
「ジギル様、一応この場は「朱雀討伐」の感謝を述べに来られたという事になっておりますので」
マジシャンオブアイスが助け舟を出してくれるまでにずいぶんかかった。おそらくはこれより前に何かを言っても聞いてくれないのだろう。宰相、お疲れ様。
「ふむ、しかしこれはハルキ殿に借りができたことになってしまうではないか。今度建設予定の道路のためにどうにかして第1部隊を1か月ほど貸せと言おうと思っておったところなのだぞ? だいたい我がアイシクルランスでも朱雀の討伐は可能だったのではないか? たしかに被害はさらに出ていたかもしれんがだ。領地経営のみの事を考えると民衆の命数名程度であればハルキ殿に借りをつくる方が被害がでかいという考え方もありなのだぞ? よりによってレイクサイド領の召喚騎士団のお忍び隊にやられるとは」
だめだ、ジギル=シルフィードはストレスがたまりすぎでぶっちゃけ始めた。ロラン=ファブニールが苦笑いしている。
「一応領主として感謝は述べさせてもらおう。そして、欲しい物を言え。それでハルキ殿への貸しをできるだけ少なくしてやる」
いきなり欲しいものと言われても、俺は思いつかん。というよりも先ほどのお祭り気分が吹っ飛んでしまっているぞ? この国の宰相がこんなにストレス溜め込んでいていいわけないだろう。
「いや、あの、すぐに欲しい物を聞かれても……」
「しかし、何かしら授けるという形にせんと、話が進まんではないか。それとも何か? アイシクルランスの入隊許可でも欲しいのか? レイクサイド領との戦争になるやもしれんが」
だめだ、完全にぶっちゃけ過ぎだ。ここは、適当な物を言っておいて、さっさとずらかる事にしよう。他の3人にアイコンタクトで何がいいか聞いてみる。
「シウバ様ぁ! あれもらいませんかぁ? グレーテストモスの糸!」
今回の装備を作るにあたって、デビルモスの糸を大量に手に入れたわけではあるが、グレーテストモスの糸も品質的に負けているわけではないらしい。そしてその糸は白色でありどんな染料でも染め上げることができる。黒生地のみを使ったこの装備も非常に良かったが、最軽装の装備、つまりは服を欲しいという声も特に女性陣からでているのだ。
「じゃあ、それでしたらグレーテストモスの幼生の目撃情報か精製した糸のどちらかをもらいたいです」
「なんだ、そんな事でいいのか。では領主館で保管してある糸を分けてやろう」
「え? あるんですか?」
「最高品質の糸を確保しておくのは貴族の嗜みだ」
やべえ、ちょっと言ってる事が理解できねえっす。でも糸が手に入るのであれば普段着とかも作ってもらえそうだ。デビルモスの布と合わせて単なる服なのに防御力が高く魔法の伝導率のいい物を手に入れられるかもしれない。さらに強くなれる可能性もあるな。
シルフィード領主館の小姓が宿に糸を届けるまでにそんなに時間はかからなかった。やはり、できる領主の下で働いていると下働きまでができる。
「それに比べて、うちの鍛冶職人はまだ来ないのか?」
朱雀を討伐したという連絡をレイクサイド領へとしたら、クロウが素材の解体をするから手を付けずにいろと言われてしまった。そしてクロウは今現在こちらへ向かっているのである。誰かウインドドラゴンに乗せてやったのなら速いのだろうけども、どうせワイバーンで来るからまだ数時間は待機のままだろうな。いい宿に招待してもらって、本当に良かった。茶が美味い。
しかし、予想に反してクロウはウインドドラゴンでやってきた。テトが乗っている。
「シウバ! 僕たちの獲物を横取りしたんだね!」
横取りとは言いがかりである。
「なんで、横取りになるの?」
「だって、朱雀の素材を取ってこいって、言われたの僕たちだよ!」
「何時言われたんだ?」
「え? 今日の朝だけど」
それはおそらく冒険者ギルドで朱雀の情報を手に入れた後の話だろうか。俺たちへの依頼の他に領主館が朱雀発生の情報を掴んで第4部隊に指示が出たに違いなかった。
「むしろ、今から朱雀の素材を横取りするのはテトたちでしょ?」
「…………そっか、そうだね!」
クロウがウインドドラゴンから降りてくる。完全に飛ばし過ぎていたようで、気持ち悪くなっているようだ。
「は、吐きそう……」
こっちで吐くなよ、と思っているとウインドドラゴンからはもう一人降りて来たようである。どこかで見た事がある。
「よし、脱出成功だ! ふへへ」
あぁ、またかよこいつ。全身を黒龍革の装備に身を包み、そいつは言った。
「んじゃ、クロウは素材を取ったらテトと一緒に帰ってね。俺の所在をばらすと許さんけど」
なんで、俺たちと同じ装備作らせてるんだよ? この領主、この後付いて来る気マンマンじゃねえか。