3-1 朱雀
前回までのあらすじ!
朱雀がでたぞぉぉ!! ← イマココ!
「あれはっ!?」
全員が瞬時にそらを見上げる。巨大な影が町の上空を通ったのはその時だった。すでに町の中は大騒ぎになっている。
「朱雀だ!」
朱雀の目撃情報は霊峰アダムスだったはずだが、あれだけ巨大であれだけ速ければシルフィードの町まではすぐである。そして町の上を旋回する巨大な影をみて、朱雀が町を襲撃しようとしているというのが予測された。このままでは被害が出る。
「民間人は建物の中へ!」
シルフィード騎士団が町へ出てきている。ほとんどの騎士たちは上空で旋回する朱雀を迎撃するのではなく、民間人の避難をしていた。
「冒険者の中でランクB以上は緊急招集だ! それ以外のランクのものは民間人と一緒に避難していろ!」
ギルドの方からも声が聞こえてくる。陣頭指揮をとっているのはギルド長であるニア=チャイルド、つまりはセーラ様の母上だった。もともとは凄腕冒険者だったそうで、こういった時にほぼ全ての冒険者たちをまとめ上げるスキルは半端ない。
「いくよっ! シウバ!」
だが、そんな中になぜか落ち着いている冒険者のパーティーがいる。そう、ランクSの俺たちである。あれと戦って生き残ったら、パーティー名を考えなきゃな。
「行こう、ユーナ。」
ユーナの手を取り、ウインドドラゴンの上へ。マジェスターとエリナはワイバーンで出撃するつもりらしい。町の上を物色でもするかのように旋回していた朱雀がウインドドラゴンに気づく。さすがに脅威となりうるものの存在は分かるらしい。威嚇してきたようだ。だが、今の俺たちは朱雀の威嚇でもたじろぐわけがなかった。黒色のマントとともに空へと飛んでいく。まずは、この装備がどれだけ魔力伝導を上げているのかを確かめなければならない。
「フレイムレイン!」
「氷の槍!」
「パラライズ!」
3人がそれぞれの魔法を放つ。的がでかいために命中率も格段に良い。そして、威力はかなり上がっているようだ!
「シャァァァァ!!!!」
攻撃をくらった朱雀が鳴く。それは威嚇のようにも聞こえ、攻撃を耐えているようにも聞こえた。
「ふっ、この程度は序の口だ!」
「「「マジックアップ!!」」」
ユーナ以外の3人で全員へ向けてのマジックアップを唱える。こうすることで相乗効果が生まれるはずだ。そして魔力を上げたあとにさきほどと同じ攻撃を食らわせる。
「フレイムレイン!」
「氷の槍!」
「パラライズ!」
今度はエリナのパラライズも少し効いたようである。バランスを崩して墜落していく朱雀、しかし一瞬で体勢を立て直し、地上への激突は避けたようだ。そして、そのチャンスを逃がすわけがない。
「死ねぇぇぇえええ!!!!!」
マジェスターが剣を振りかぶって朱雀へと斬りかかる。持つのはもちろん「流星剣」であり、魔力上昇のみならず、攻撃力上昇と腕力上昇までがかかっている状態である。体勢を崩して飛び立ちなおそうとしているところに「流星剣」の一撃を食らって、朱雀は致命傷と言っていいい傷を負う。飛行もままならないままにシルフィードの町へと落ちていく。しかし、朱雀もただではやられていない。墜落間際に精一杯抵抗したようだ。町の、朱雀が墜落した周囲の被害が特にひどい。
「くらえぇぇえええ!!!!」
マジェスターはそのまま斬りかかるようだ。他の騎士団やら冒険者らも朱雀への攻撃を開始したようである。「流星剣」が朱雀を捉える。羽の一部を斬られた朱雀がまた甲高く鳴いた。
「まだだっ!」
一旦上空へ逃れようとする朱雀を追ってウインドドラゴンとワイバーンも高度を上げる。しかし、それは罠であった。上空まで逃れた朱雀は急にスピードを上げて俺たちを翻弄しだした。町を覆うかと思うような巨体が、ワイバーン以上の速さで飛ぶのだ。そのデカい翼からうまれる暴風だけでも、体勢を保っていられないほどなのである。ついにマジェスターたちのワイバーンが体当たりをくらい強制送還される。エリナはマジェスターに抱えられ、二人は体当たりされる前に飛び出していたようだ。新しいワイバーンが召喚される。
「シャァァァァ!!!!」
朱雀がまたしても甲高く鳴いた。次はお前らだと言っているようである。そして、その巨体に似合わない俊敏さでウインドドラゴンを襲おうとする。爪による攻撃をかわしつつ、ユーナのウインドドラゴンは朱雀の背後を取った。
「とりゃぁぁぁぁ!!!!」
俺はウインドドラゴンから跳躍し、朱雀の背部へと抱き着いた。背中の羽根を掴み振り落とされないようにしながら剣を抜く。そして刺した。
「シャァァァァ!!!!」
さした瞬間に身もだえを始める朱雀。そして錐揉み回転が始まる。剣とともに遠心力で吹き飛ばされてしまった俺は一瞬上下の間隔が分からなくなってしまったが、ユーナのウインドドラゴンに拾ってもらった。
「アイアンゴーレムズ!!」
召喚されたアイアンゴーレムが朱雀への追撃を行う。2体のアイアンゴーレムが羽根の付け根をガッチリと掴んだことで朱雀は思うように飛ぶことができなくなり、地に落ちて行った。シルフィードの町の近郊にある平原へ、その巨体が墜落する。
「行くぞっ!「氷の雨」だっ!!」
地上で待機していたシルフィード騎士団とアイシクルランスの精鋭たちが一斉に朱雀への攻撃を開始した。領主ジギル=シルフィードと騎士団長ロラン=ファブニールは王都にいるために不在らしい。そんな中でもアイシクルランスを始めとして統率のとれた騎士団が迅速に行動する。
「シャァァァァ!!!!」
一斉攻撃を受けた朱雀が暴れ出す。あれほどの巨体が暴れると砂埃も規模がでかい。そして、その暴れる程度の事であったはずだが、アイアンゴーレムが攻撃を食らって1体強制送還されてしまったようだ。
「シウバ! 今のうちに止めを!」
「シウバ様! 行きますぞ!」
「援護しまぁすぅ!」
4人も朱雀への攻撃を開始する。「氷の雨」とは反対方向から俺とマジェスターで斬りかかる事にした。
「行くぞっ!」
ウインドドラゴンの上に立ち、跳躍の準備をする。剣に込める魔力は炎系破壊魔法だ。今までとは魔力の伝わり方が段違いであることを実感する。この装備はやはり凄い!
「マジェスター! 続け!」
「はいっ!」
マジェスターの「流星剣」にも魔力が込められたようだ。その輝きが見える。
「「うぉぉぉぉぉぉ!!!!」」
「シャァァァァ!!!!」
朱雀の首に剣を突き立てる。首回りがでかいために一撃に落とすのは無理そうだ。だが、俺に続いてマジェスターは「流星剣」で骨まで切り落としたようだった。
「やったぁぁぁぁぁ!!」
アイシクルランスからの攻撃が止むと同時に、朱雀が力尽き地に伏せた。ズシィンという音と振動があたりに響き渡る。
「討伐完了!」
朱雀を翻弄し、最後に止めまで刺した黒色装備のパーティーの噂はすぐに全国へ駆け巡る事になった。少し目立つ事をし過ぎたような気もしないでもない。黒龍革の装備に身を包んだ俺たちのパーティーは名実ともに最強Sランクパーティーとして認知されたようだった。