2-3 黒龍革の籠手
「隊長!大変であります!」
「どうした!?」
「感想欄に「前説長い」とか「本編ナナメ読み」とか書かれて作者のメンタルが崩壊しました!!」
「馬鹿か!? そのメッセージを狙ってたんじゃなかったのか!? あれほどツッコミを待ってたと言ってたくせに!」
「ツッコミ耐性が紙装甲だった事に気づいていなかったようです!」
「馬鹿か!?」
「そして本編は完全に暴走しました! 「どうせこんなのが好きなんだろ!?」とか言って、拗ねちゃってます! めっちゃ脱線です!」
「なにぃ!? 明日から嫁の実家に行かねばならんというのにか!? 今、方針変えてしまったら、どうやって書き溜めるつもりなんだ!? 飲み会参加するんだろう?」
「新幹線で書くとか言ってます!」
「できるかぁぁぁ!!? 子供連れて新幹線で執筆なんて神技ができるはずなかろう!」
「最悪、酔っ払い状態でスマホとか言ってます」
「それも無理に決まっとろうがぁ!! 何故だ!? どうしたんだ!? 不可能な案ばかりじゃないか!」
「……本当は、風邪ひいたのにまた太っちゃったのが一番メンタルに響いてるみたいですね」
「……そうか、体力つけなきゃって、無理矢理焼肉行ってたもんな。インフルのくせに」
「ええ、あとラーメンも」
「むしろ体に悪そうだな」
「はい」
『さあ! 今週も始まりました! 家臣筆頭争奪戦! 司会はおなじみ、レイクサイド召喚騎士団第3部隊の異端児ダスティ=ノーランドがお送りいたします!』
「「「フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!!」」」
「「「フィリップ!! フィリップ!! フィリップ!!」」」
レイクサイド領主館周囲の北の平原。この数か月、週末になると行われている行事がある。出店が並び、一般客も多く詰めかける中、特等席には料金が設定され、ダフ屋まで出てきている始末。領主の裏からの指示でワイバーン隊遊覧席が設けられ、全国から貴族が集まるなんてことにもなっていたりして。
『さて! そろそろ締め切りますよ! 掛け率はほぼ同じ程度ですね! 通算成績はフィリップ筆頭召喚士の4勝3敗! 前回は本気の魔装で最初からミスリルゴーレムの2体同時召喚という荒技で開始直後からの激闘が見られました! 勝負が決まるのが早いかもしれない! でもご安心を! あっという間に勝負が決まって時間が余っても第4部隊ペニー隊によるここでしか見れない召喚フェスティバルの用意はしてあります! 損はさせません! 安心して屋台でお好きな物をお買い求めになり、ゆったりと御覧いただけたらと思います!』
観客たちは自分の贔屓の方へ賭けをし、そして力の限り応援をする。席が設けられ、屋台を出し、快適に応援できるようにしてあるのだ。屋台への力の入れようも半端ない。レイクサイド領中から、このお祭り騒ぎで稼いでやろうと腕自慢の料理人たちがそれぞれの得意料理を持参して競うように売りまくる。
『さらに、我こそはと思う猛者がいれば、レイクサイド騎士団およびレイクサイド召喚騎士団への所属が証明されていれば途中参加は可能です! そして今までに誰もこれに名乗りを上げないというのはどういう事なのでしょうかヨーレン副隊長ぉぉぉ!!!』
「なんで俺なんだよぉ!? え? 無理無理! どう考えても死ぬわぃ!」
会場が笑いに包まれる。警備兵の代わりに召喚された沢山のアイアンゴーレムの間をノーム達が飲み物の注文に合わせて気忙しく動き回っていた。酒が飛ぶように売れる。
「「神医」パティ=マートンの酔い止め薬はいらんかねえ!? 飲めば酔いつぶれる事も二日酔いになる事もなくなるよぉ!」
「怪鳥ロックのから揚げだ! 限定150食だから早い者勝ちだよ! あ、順番に並んで!」
『さあ、まだ試合開始までには時間があります。ここで解説を紹介しておきましょう。本日、解説を務めてくださるヨッシーさんです! よろしくお願いします!』
『よ、よ、よろしくお、おめがいします!!』
『さて、ヨシヒロ神ことヨッシーさん、布教活動はしないという約束で解説に来ていただいておりますが、今回の対戦はいかがでしょうか?』
『えぇ、そうですね。フランは僕と戦った時よりもさらに強くなってますよね、でもフィリップのミスリルゴーレムもそれに装備される魔装も回を重ねるごとに強くなっている。正直、どちらが勝ってもおかしくないと思います。』
『当たり障りのない回答ありがとうございました! つまり神でも分からないという事ですね! 前回は筆頭召喚士フィリップ=オーケストラ選手が勝ちを拾いましたが、やはりミスリルゴーレムの2体同時召喚というのは強力なのでしょうか?』
『あれは、僕でもすぐには対処できないレベルまで来てるからねえ』
『なるほど! 次に神が暴走した場合はとりあえずうちの筆頭召喚士がまずはお相手する事になると思われます!』
『…………』
「「「フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!!」」」
「「「フィリップ!! フィリップ!! フィリップ!!」」」
『おっと、ここで選手の準備ができたようです。まずは青コーナー! こちらからの入場が屈辱的だというコメントを頂いています! 「勇者」フランッ!!オーーケストラァァァアアアア!!!』
「「「フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!!」」」
『本日は新調した籠手での入場となりました。我らがレイクサイド領の誇る精鋭部隊が入手してきた素材をふんだんに使い、尚且つ鍛冶職人ダンテの指導の下、最新の技術を取り入れての籠手だそうです。その禍々しい外見はまさに「邪王」にもふさわしいのではないかと言う……え?それ以上言うなって?了解です。とにかく、この籠手が勝敗を左右する可能性があるのではないかと考えられているほどの高品質品だそうです! おおっとぉ!! 両手に付けられた籠手が鈍く輝いているかのようだぁ!』
黒龍革の籠手を装備したフランが入場する。歓声の下、リングへと上がる。
『おなじみのリングはすでに第8回戦目という事ですでにボロボロでございます。そろそろ新調してもいいのではと、私は思ったりするのですが……え? 今回で新しいものに替える? そういわれると名残惜しいものがありますね!』
リング状のフランへの歓声が突然違う物へと変わる。観客が見ているのは、赤コーナーだった。
『おぉっと赤コーナァァァァー!! レイクサイド召喚騎士団筆頭召喚士!第1部隊隊長!「鉄巨人」フィリップゥゥー・オーーケストラァのぉ入場だぁぁぁ!!! あぁ! これは! すでにミスリルゴーレムを召喚しての入場だ! そんなに前々回大会で召喚前にフラン様に瞬殺で叩き潰されたのがトラウマになったのかぁぁ!?』
ミスリルゴーレムの肩に仁王立ちする形でフィリップ=オーケストラが入場する。フルミスリル装備にミスリルソード。完全なるレイクサイド召喚騎士団筆頭召喚士のたたずまいだった。
『これでは召喚前にフィリップ様を叩くという従来の戦法が使えません! むしろ今までなんで気づかなかったんだ!? フラン様ピンチです!』
跳躍してリングへと入場するミスリルゴーレム。筆頭召喚士はそんな動きでもバランスを崩す事はない。何回も練習してきた成果が出ている。
「「「フィリップ!! フィリップ!! フィリップ!! フィリップ!! フィリップ!!」」」
「「「フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!!」」」
「「「フィリップ!! フィリップ!! フィリップ!! フィリップ!! フィリップ!!」」」
『さあ、両者そろいました! 決戦まで間もなくですが! ここでコマーシャルです! 我々レイクサイド領ではワイバーン輸送隊を運営しております。安全で素早い空の旅を経験してみませんか? マイルを貯めれば素敵な特典もご用意しております。目玉商品として、500万マイルでなんとレイクサイド産のミスリルソードがもらえます!』
次々と宣伝が始まる。中にはレイクサイド領の宿の宣伝から、エジンバラ産のワインの宣伝まで多種多用であった。
15分後
『さて! そろそろです! 時間が迫ってきましたよぉぉぉ!! 皆さんよろしいでしょうか!?』
「「「フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!!」」」
「「「フィリップ!! フィリップ!! フィリップ!! フィリップ!! フィリップ!!」」」
『レイクサイド領が誇る騎士団! その中でも最強は誰だ! これに勝った者だけが言う事ができる! 「私が家臣筆頭だ!!」』
「「「「私が家臣筆頭だ!!」」」」
会場全体が一丸となる。フィリップが顔を真っ赤にしてうずくまる。
『家臣筆頭争奪戦! 今! まさに始まります! では、開始の合図をどうぞぉぉ!!』
拡声魔道具を持って、ハルキ=レイクサイドが前に出てくる。
『えー、では、お互い悔いの残らないように、ほどほどに。……はじめぇ!!』
領主の合図とともに戦闘が開始された。
「今日こそは引退していただきます!」
2体目のミスリルゴーレムを召喚するフィリップ、そして2体ともに最高高度の魔装を纏わせる。この状態になり、フランにすぐに負けるなどという事はない。局面はいきなりフィリップに有利に動くかに思われた。
「シウバ殿がですね……」
しかし、落ち着いている「勇者」フラン=オーケストラ。
「こんな物を作ってくれたのですよ。…………なんでしたっけ?えー、そうだ。……魔石装着!」
黒龍革の籠手にあるくぼみにはめ込まれる魔石。次の瞬間に籠手全体から握ったミスリルシードにまとわりつくかのように黒色の稲光が発せられる。
「かのリヒテンブルグ王国の魔王である「邪王」により授けられたこの力! 受けて見せるがいい!」
『おぉっとぉ! もはや「勇者」とは思えない宣言だぁ!! だがすごい!』
「いや、間違ってはいねえけどよ……」
ハルキ=レイクサイドのつぶやきは誰にも届いていない。
「「「フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!!」」」
「はぁぁぁぁあああ!!!」
黒色の稲妻がフランの剣を伝わって、ミスリルゴーレムを切り裂く。その圧倒的な力に、会場は騒然としつつも、熱狂が止むことはない。
「「「フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!!」」」
漆黒の魔装を纏った白銀の巨人は、この黒色の稲妻によって強制送還されてしまった。
「そこまでぇ!! 勝負ありぃぃ!!」
『瞬殺です! フラン=オーケストラ! これで対戦成績を4勝4敗とし、家臣筆頭に返り咲きましたぁ!! しかし、すごい! 新たな伝説がここに生まれたのではないでしょうかぁ! これは、当分の間家臣筆頭が交代する事はないでしょうっ! 強い!強すぎる!「勇者」フランッ=オーーケストラァァァァアアア!!!!』
「「「フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!!」」」
『さて、あまりの早さに時間が余ってしまいましたが、予定を早めて第4部隊ペニー隊による召喚フェスティバルに移りたいと思います! 引き続きお楽しみください! 勝者「勇者」フラン=オーケストラのインタビューはその後に予定しております!』
「「「フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!!」」」
「「「フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!! フ・ラ・ン!!」」」
「おいウォルター、シウバの馬鹿をとっ捕まえてこい。」
「かしこまりました」
何故かその後、俺はハルキ様から説教をくらったのだった。どうもフィリップ様に賭けてたらしい。
邪王炎殺黒龍h……え? それはやめろって?