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1-2 魔蚕の巣窟

風邪ひいた。皆さまはお気を付けください。



 ティアマトの素材を前にしてダンテ親方とクロウは満面の笑みである。

「うわははっ! いいじゃねえか! さすがに職人がすぐに解体しただけはある!」

 広げられた黒龍の皮はかなりの大きさである。もとがバカでかい竜なのだ。その背中の皮を装備に使うとなれば、十分すぎるほどの面積である。下腹部がズタズタでも気にする必要がない。……はずだ。

「これだけあれば全員分の装備を作っても余るな。よし!」

 何がよしなのかと思ってるとダンテ親方が悪い顔で提案してきた。

「よう、シウバ。実は装備の製作費ってのは結構な額になるんだけどよ」

「はぁ!? ハルキ様のは酒くれてやったじゃねえか」

「いやいや、これはお前にも悪い話じゃねえはずだ」


 ダンテ親方の言う事には、レイクサイド領で作成の武器防具というのはかなり高品質の物が作られており、それの素材は第4部隊を初めとして召喚騎士団が各地から集めているものなのだそうだ。だが、ミスリルを初めとして鉱石などの素材というのはどうしても大規模な事業をしなければ手に入れる事が難しい。ここでは第1部隊のゴーレム編隊がたまに大量に運搬してくるそうだが、例えばシウバ達だけで鉱石を入手しようと思うと、鉱山もなければその掘削の準備もできるわけがないのだそうだ。鉱山の入り口とかは長年の経験があって初めて見定められるものなのだという。その鉱山夫たちまで雇っているのがレイクサイド領である。つまりは鉱石系素材は個人では入手しにくいということだけが分かればいい。

「それで、レイクサイド領の鉱石系素材を回した上で無料で装備を作ってやるからよ、お前らの余った素材をくれよ。例えば革の胸当ての関節にかからない部分にミスリルのプレートを貼り付けることもできるぜ?」

「よし、乗った」

「名目上は新装備開発というやつだ! これで革装備のところどころにミスリルがちりばめられていてもハルキ様には文句は言えねえはずだぜ。同じようなのをもう1個作っとくから、実際に新装備開発もしてることになるしよ! うしし」

「で、親方!」

 クロウが会話に混ざってくる。

「糸と布がいると思うんだけどよ、グレーテストモスとかどうよ?」

「んあ? グレーテストモスか。悪くねえなぁ。よし、獲ってこい!」


 グレーテストモスというと大森林にいた魔物のはずである。一旦レイクサイド領主館へと帰った俺たちはティアマトの素材をダンテ親方に渡してからもう一度冒険者ギルドへと向かった。

「グレーテストモスですか、目撃情報はありますが討伐依頼は出されておりません」

「どういう事?」

「グレーテストモスは基本的に無害なのですよ。そのあたりの樹に巣を作って、成虫になれば特に何も食べずに空を舞っているだけの魔物ですので」

 この魔物が害をなすのは巣を作る時だけだという。卵が孵化したばあいに周囲の木々を食べつくすほどの勢いで成長するために、畑などに卵が発生すれば害が出るだろうが、卵の時点で駆除する事は難しくない。魔物であるため自然発生するから、近くに生体がいる事も稀であるという。むしろその糸を狙う冒険者がいるためにグレーテストモスの卵の入手依頼が出る事はあるという。生体の蛾は無視されている。

「なんてめんどくさいんだ」

「いや、なんで俺を睨むんだよ! 俺、関係ねえじゃん!」

 クロウが抗議の目を向けてくる。


 だいたい、生体のグレーテストモスの目撃情報があったところで何の役にもたたない。しかし、グレーテストモスの卵は孵化しない限り目立たないだろうし、幼虫が行うのは森林破壊程度である。一般的な冒険者どころか、その辺の住民でも駆除できるほどの弱さであるために情報をつかむのは難しかった。

「グレーテストモスは諦めるしかないか」

 最高品質の糸というのがどの程度なのかを知りたかったが、このまま冒険者ギルドを頼りにしていては入手できどうもなかった。

「であれば、代わりの物を探そうという事になると思うんだけど……」

 ちらっと受付嬢を見る。

「糸を出す魔物でしょうか。それも高ランクの?」

「できればそういった依頼がないかどうか調べてもらえますか?」

「少々お待ちください」

 なにやら受付嬢の目が光ったような気がしたが、情報があるのであれば嬉しい。依頼をこなせばギルドとしてもありがたいと思ってくれるだろう。

「これは、まだ一般の冒険者には流してない情報なのですが……」

 たいそうな前置きから出てきた情報とやらは、あまり気持ちのいいものではなかった。



「大峡谷レクイナラバって行ったことないですぅ」

 ワイバーンの上でエリナがはしゃいでいる。今回は糸を採取したらその場で煮炊きをするらしく、少し荷物が多い。ウインドドラゴンは人数は乗れるが荷物の運搬の事を考えてワイバーンでの移動とすることとした。ウインドドラゴンに掴んで運べる荷物運搬用の籠を作る必要があるかもしれない。今度、ダンテ親方に相談してみよう。いい物ができたらハルキ様から製作費をふんだくってもらうと言う条件付きで。

「まだ着かねえのかよ!?」

 ウインドドラゴンの後ろにどでかい鍋を括り付け、それを支えているクロウ。ユーナのウインドドラゴンが本気を出せば吹き飛ぶのではないかというくらいにバランスが悪い。パティは俺のワイバーンの後ろに乗っている。

「お前が採取したての糸を加工したいなんていうからそういう事になったんだぞ」

 クロウは鍛冶屋でもあるが、こういった素材の採取に関しては親方以上の物があるのだという。金属ばかりを扱うドワーフとはちょっと違うらしい。鍛冶屋というかなんでも屋じゃないか

「仕方ねえだろ? 新種って言われて妥協なんぞできるか!?」

 そう、今回の魔物は新種らしい。いまだに名前がついておらず、発見者が頑張って考えている最中なのだとか。できたら生態を観察してきてほしいと言う依頼付きである。糸の採取も含まれるためにちょっと多めにとってくる必要があった。クロウはその魔物が作り出す糸に興味津々である。

「プロトン草はいつ取りに行くんだよ?」

 一方、パティは不機嫌だ。いまだに魔力増加ポーションを作成できていないのだから。

「帰りに誰かに取りに行ってもらおうか。あの鍋かついでたらウインドドラゴンでもレイクサイド領まで2日はかかるだろうし。」

「本当だな! 約束したからな!」


 エジンバラの町に一旦降りる。冒険者ギルドに顔を出さねばならない。

「予約してたシウバと言いますー」

「はい、シウバ様ですね。魔道具通信で聞いております。新種「デビルワーム」の討伐および生態調査、繭の調達ですね」

 この数時間で名前が決まったらしい。デビルワームとはその発生している魔物の事だ。最初は単なる虫の魔物かと思われていたようであるが、それが繭を形成しているという。生体になると厄介な魔物なのかもしれない。生体の情報もできれば欲しいとあったが、わざわざ生体になるのを待つくらいならば全部繭の状態で討伐してきても良いという事だった。幼虫の時点でそこそこ強い上に、結構な数がいるという。

「レクイナラバの東奥での目撃情報があります。お気をつけて」

 一泊した俺たちはエジンバラの町を後にしてレクイナラバへと向かった。


 しかし、そこで待っていたのは悲痛な叫び声だった。

「ぎゃぁぁぁぁ!!! なにこれ、気持ち悪ぃぃ!!!」

 ユーナが叫ぶのも無理はない。そこら一体は黒くて意外と早くムニムニと動き回るでかい虫の幼虫で埋め尽くされていたからだ。あっちの方角にうっすら繭と思われる塊が見える。もちろん真っ黒だった。

「これって、潰したら体液が黒いってことも……」

「え?」

 何も考えずに遠くから氷の槍を放ったマジェスターがこちらを見る。氷の槍に貫かれた幼虫は真っ黒な体液をあたり一面に飛び散らして絶命していた。そして、その攻撃に反応して群れのほとんどがこちらに振り向く。ワチャワチャワチャっと組体操の容量で橋を作り上げたデビルワームの幼虫たちはワイバーンを飲み込もうとする。

「ぎゃぁぁぁぁああああ!!! 上に逃げろぉぉぉ!!!」

 そしてお約束のように上空には待っていた。デビルワームの生体である。多分、生体はデビルモスと呼ばれる事になるんだろう。真っ黒だ。胴体がウニウニ動いていて気持ち悪い。


「あぎゃぁぁぁああああ!!」


 大峡谷レクイナラバに冒険者たちの絶叫が響き渡った。



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