1-1 黒龍の皮
新章突入!
どうせ、このあと装備品作る話で尺を稼ぐつもりだろうが!
その通りだ! 何が悪い!? ← イマココ!
「ここは宿ではないのだがな」
オクタビア=カヴィラの小言を聞きながら準備をする。
「そこん所はよく理解しているつもりで、だから宿代は払う気がないんですが」
目的地はエレメント魔人国の南、ここカヴィラ領との国境を越えてすぐの所だった。
「まぁ、うちの領地としても近くの魔物を討伐してくれる事は望ましいし、冒険者ギルドの活性化のためにもよい事なんだが……」
「お互いに利益があって良かったです」
パティとクロウが何やら苦笑いしているけど、今後もこの領主に関してはこういうスタンスを貫いていこうと思っている。昔命を狙われた恨みは結構深いけど、こういった形で返してもらえば文句はない。
「じゃあ、行くよ!」
移動はユーナのウインドドラゴンになった。現地で薬草が手に入る事もあれば、討伐直後に必要な処置があったりするのでパティもクロウも連れていくのだ。ウインドドラゴンの速度に気絶しそうになっていたクロウには悪いが、どこまでも連れていくつもりでいる。タフだから少々の魔物の攻撃で死んだりしそうにない。
「じゃ、また来ますね」
「あれだけ領主館の食糧を食い漁っておいて、また来るというのか」
「もちろんです。次も期待してますよ」
最近、精神がタフになってきた気がする。クロウも見習ってほしいものだ。
ウインドドラゴンで移動すると目的地まで1時間かからなかった。
「この辺だよ!」
ウインドドラゴンが速度を落とす。するとようやくユーナの声が聞こえてくるのだ。耳当てを外して、ゆっくりと旋回してもらう事にする。ティアマトがいれば大きさからすぐに分かるはずだった。
「シウバ様、手分けして探しましょうか?」
マジェスターとエリナがワイバーンに乗り換えてティアマトの捜索に出かけた。気絶しているクロウとパティはそのままウインドドラゴンに乗っている。パティがいればクロウは問題ないだろう。むしろ戦闘が終わるまではそうやって気絶しているのもいいのかもしれない。邪魔だし。
「シウバ様、俺たちは降りてなくてもいいのか?」
「あぁ、何処まで行かなきゃならんか分からんから、このまま乗っててくれ。ティアマトには飛行能力ないから、空の方が安全だ」
それを聞いてパティが安心する。こいつらには戦闘能力は少ないからSSSランクのティアマトが怖いのだろう。それは仕方ない。今後はこいつらの安全も考慮しながら依頼を受理する必要があるな。
「シウバ! あっち!」
そこでユーナが指をさした。北の方に魔法で打ち上げられた花火のような爆発系魔法が打ちあがる。おそらくはマジェスターの魔法だろう。ティアマトを発見したというのに違いなかった。
「行くよ!」
ウインドドラゴンの加速に起きかけてたクロウが再度気絶する。
「でかいですぅ!」
エリナが興奮するのも仕方ないくらいにティアマトは大きかった。周辺の村が壊滅したとの情報も入っていたために、討伐が急がれていたのだ。これを受理しなかったら、エレメント魔人国からブルーム=バイオレットの騎兵団が派遣される事になっていたらしいとオクタビアが言ってたっけ?
「やれるか!?」
俺もワイバーンに乗り換えて補助魔法を使っていく。
「もちろんです!」
「行くよぉ!」
マジェスターとエリナは同じワイバーンに乗ったまま戦うようだ。仲が良いようで、大変好ましい事である。
「パティ達を向こうに落として来たら私も参戦するよ!」
ユーナのウインドドラゴンが南に向かって飛ぶ。飛行能力がないとはいえ、ティアマトが移動速度はそれなりの物だろう。安全圏というとかなり向こうになるに違いない。その間は俺たちだけで戦う必要があった。
「氷の槍!」
ワイバーンの上からマジェスターが氷魔法をぶっ放す。いくら安全圏からの攻撃と言えども、それなりに近づかなければ威力が減ってしまう。ワイバーンがティアマトに近づくと、ブレスによる反撃を受けた。それをなんとかかわす。攻撃のタイミングがつかめないようだ。
「第5部隊ほど、空中戦が上手くないからなぁ」
いつぞやもヘテロ殿と戦ったときに、むしろワイバーンに乗らない方がよい事態に陥った。それを考えると、今回も降りて戦おうと思う。
「スピードアップ!」
瞬発力が重要である。あれだけ巨大な竜の攻撃は洒落にならん。だが、降りてみてそんなに大きくないなと感じた。そうだ。青竜に比べたらこんなのたんなるトカゲである。
「炎! 両手! 剣舞!」
タイミングを合わせてしっぽで反撃しようとしていたティアマトの尾の付け根に目がけて炎を纏わせた剣で両手剣舞をお見舞いする。
「グギャァァァ!!!」
切り落とすことはできなかったが、下腹部を中心に切り裂く事ができた。やはり、青竜よりは柔らかい!
「動きが遅くなるはずだ! 遠巻きに魔法を打つぞ!」
エリナのパラライズも効いているようである。再度ワイバーンに騎乗して遠距離から氷系魔法をマジェスターとともに打ち込んだ。ブレスの反撃があったが、そのうち完全に下半身が氷漬けになり、明らかに動きが鈍りだした。
「アイスストーム!」
とどめはマジェスターのアイスストームだった。みるみる固まっていくティアマト。ズシンと音を立てて倒れるまでにさほど時間はかからなかった。
「私が帰ってくるまでに倒しちゃったの!?」
ユーナがパティ達の所を往復させられてふくれっ面になっている。そういうユーナも悪くないと思いつつも、機嫌を取らねば今夜の食事に影響しそうだった。
「とりあえず、氷を溶かしてくれや」
クロウが偉そうに指示するのをマジェスターが締め上げている。
「痛いっ! サーセンっした、マジェっち様!」
「コロス!」
「ぎゃぁぁぁ!!」
漫才は放っておいて、他のメンバーは手持無沙汰である。特にダメージを負った仲間もいないためにユーナなんかは食事の準備を始めてしまった。まだ昼前である。
「シウバ様、この辺にゃ薬草はないのか?」
そういや、パティに薬の調合を教えなきゃならない。
「そうだな、ちょっとパティと採取に行ってくるよ。解体と料理は任せた!」
「いってらっしゃい!」
「はぁい! がんばりますぅ!」
「え? エリナが料理すんの?」
採取は意外と順調にできた。とくにレドン草が生えていたのがいい。ただし、プロトン草がないためにパティのお目当ての魔力上昇系は作れないな。
「そのプロトン草はどこにあるんだ?」
「以前はエルライト領の南東の島に群生していたな」
「次、行こうぜ」
「クロウ次第だな。装備品つくるのに時間がかかるならいいぜ。足りない物を取ってきてからだけど」
「おうよ」
この回復師は常に貪欲である。
「皮はこれで全部だ! 他に牙とか爪が取れたから、武器も作れそうだぜ!」
クロウも鍛冶屋である。良質の素材を前にして、笑みがこぼれる。
「おお、この皮で鎧が作れるか!?」
「まずは処理をして革に加工するところからだな。レイクサイド領主館にもどれば特に問題ない。他に欲しいのは革装備のつなぎに使う布とか糸なんだが、これだけの上質な素材を扱うとなればそれもいい物が欲しいな。」
「例えば、どんな?」
手に入りやすいものだったらよいがと思っていると、思った以上に冒険者っぽい答えが返ってきた。
「魔物の作り出した糸とかは上質なのが多い。ジャイアントスパイダーとかな」
「それの中で最高って言われてるのは?」
「見たことねえから分かんねえけどよ、グレーテストモスって蛾が作る糸は最高級品って話だ」