3-3 世界樹の破壊
前回までのあらすじ!
魔力がまたしても回復しなくなった
最終決戦は間近!?
一斉にフルボッコだ! ← イマココ!
「だめだったー!」
使者として出て行った魔王テツヤ=ヒノモトがヨシヒロ神の放った特大の破壊魔法とともに帰還する。それが前線の兵士たちに当たらないように受け流したのちに、びっしょりとした汗をかきながら言ったのがさきほどの言葉だった。
スクラロ島に上陸したヴァレンタイン王国軍とヒノモト国軍。不思議な事に上陸は阻止されず、問題なくすべての兵士が上陸を完了する。ここまで特にスクラロ軍の抵抗はなかった。そのまま世界樹の塔まで進軍する。進軍のスピードが速くなってしまったために、北から挟撃を予定していたエレメント魔人国軍とトバン王国軍とは連携が取れなくなっている。しかし、待機して時間を費やすという選択肢をジギル=シルフィードは取らなかった。故にこの時点で世界樹の塔に到達したのはヴァレンタイン王国軍とヒノモト国軍のみである。
「拒否するってんならフルボッコだ!」
九死に一生を得た魔王テツヤ=ヒノモトが騒ぐ。基本的にこの世界に連れてこられたとの認識の斎藤哲也は神楽佳宏を少しだけ恨んでいる。ただし、完全に上下関係の出来上がった先輩後輩でもあるために大っぴらに反抗する事はできない。それまで敬語で接していたテツヤがこのように騒ぎ出すのはハルキ=レイクサイドの隣にきてからの事である。
「よし行け! 大召喚士!」
まさか「神殺し」を名乗っていると殺したはずの先輩がよみがえってくるとは思っていなかったテツヤ。少し及び腰であるのは仕方がないのかもしれない。
「お前は行かないのかよ」
「俺はナトリ=スクラロとの決着をつけようと思う」
「というよりだな、ヨシヒロ神はいるとして、スクラロ軍はどこだ?」
そこにあるのは静かな世界樹の塔である。土台部分の塔がしっかりと建築されているのに対して屋根がなく変わりに世界樹が青々と茂っている。
「それに、世界樹の実がなるってんなら赤くなるんじゃなかったっけ?」
地中深く根を張った世界樹が大地の魔力をほとんど吸収してしまうためにほとんどの場所で魔力の回復が行われなかった。これは大地から漏れ出る魔力を取り込むことによって人類も魔人族も魔物も魔力を回復させているのであって、自分で作っているものではないという事が証明されたという事だった。総魔力とは大地から漏れる魔力をどれだけ体にため込めるかという事であり、回復速度はどれだけ早く魔力を取り込めるかという事になるのである。
「世界樹の実がないんだったら、あいつらも魔力の回復ができないよね」
それであれば、この人数で攻めれば確実に勝てる。犠牲は出るにしても勝利は揺るがないほどの戦力差であった。世界樹の実があればスクラロ軍のみが回復できて、大同盟軍は使った魔力の回復ができない。長期戦になると不利になるのを見越して最大戦力で攻撃に出たのであった。しかし、ヨシヒロ神は何を考えているのか。
「あそこにはスクラロ軍がいません」
第2部隊隊長のウォルターが軍議に参加する。つまりはヨシヒロ神と数人の側近のみで塔を守護しているというのだ。
「なんで?」
「それを聞かれても…………」
しかし、その時に以前感じた感覚がまたしてもやってくる。ハルキ=レイクサイドが嫌な予感がしたために後ろを向くと、やはりそこにはヨシヒロ神がいた。
「あれ? なんで気づいたの?」
不意打ちで声をかけるつもりだったヨシヒロ神。そこにいた全員が身構える。
「貴様っ、またしても!」
「まあいいや、今日は先生たちと交渉をしようと思ってね」
「交渉だと?」
「そう、交渉。僕はこの前の戦いで死にかけたわけだけど、それもまあいいかなと思ってたんだ。なにせもうこの世に未練がないからぶっ壊そうと思ってたわけだし? でもここにはナトリを初めとして友達がいる。ここで「はいやめた」ってなっても彼らは不幸になると思うわけなんだ。で、提案がある。僕は占いをする事にした。」
「占い?」
「そう、僕は世界樹の塔を守りきってみせる。塔は10階まであってね。そこには僕の他にも何人か友達に来てもらったんだ。一騎打ちで勝ち進んでもらって、世界樹を守りきったなら僕の勝ち。このまま世界を滅ぼすまで抵抗しよう。世界樹を守れなかったら君たちの勝ち。これ以上はむりだという占いの結果に従って僕はもう世界の破壊を行わないと誓おう。そういや、スクラロ軍はそれぞれの村に帰したよ。もし、君たちが買っても彼らには罪はないから許してあげてくれないかな?」
あまりにも虫のいい提案。しかしハルキ=レイクサイドのみは笑っている。
「スクラロ族を殺さなくていいってのはありがたい提案だ。それで、世界樹を折ればいいのか? 燃やせばいいのか? 枯れさせればいいのか?」
「何でもいいよ、僕以外の時は勝負は一騎打ちのみ。僕は何人でかかって来ようと問題ないよ。これから24時間のうちに世界樹を守り切って見せるからね」
そういうとヨシヒロ神は消え去る。
「でも、なんでさっきテツヤが行ったときには交渉させてもらえなかったんだ?」
ここで生じる疑問。さきほどの破壊魔法と言い、何かあったのだろうか。
「いや、問答無用で殺されかけた。マジ神楽先輩ぱねえ」
「…………」
「というわけで、10階ある世界樹の塔のそれぞれの番人を突破して世界樹を倒すという事になりました」
レイクサイド軍の部隊長会議では、塔に突入するメンバーを決める会議が行われている。
「多分、ヨシヒロ神の事ですから、10階の番人がヨシヒロ神本人なのでしょう。そこまでにできる限り戦力を温存しつつ進む必要がありますね」
筆頭召喚士フィリップ=オーケストラが至極全うな意見を出す。しかし、相手はヨシヒロ神だった。何を考えているか分からないような所がある。1階の番人の可能性だってあるのだ。
しかし、そこで一人手を挙げる人物がいた。
「あのー」
「なんだ、シウバ」
「こんなのはどうでしょうか…………」
***
「さあ、先生たちはどんな人を送り込んでくるんだろうね!」
世界樹の塔の中ではヨシヒロ神と他の9名が待機している。その中にはナトリ=スクラロもいれば、人里離れた場所で修行をしていた剣豪や隠れ里の族長などの人知れぬ達人たちばかりなのである。かつての魔王アルキメデスやヨース・フィーロ神官シグヴァルディなどのようなヨシヒロ神を信仰している人物というのは意外な所にも多いのであった。
「このメンバーを抜ける事はそうそうないだろうけど、できるとしたら先生とテツヤ、フランにシウバくらいのものかな? シウバは今は調子悪そうだし出てこないか」
実力と塔の中という環境を加味した場合に良い勝負になりそうだとヨシヒロ神は思う。最後に生き残った相手方と自分でどれほどの戦いができるだろうか。
「さあ、楽しみだね」
塔の玄関が開かれるのを待つ。まずはじめは誰が来るのだろうか。
しかし、楽しみにしていた一騎打ちすらせずに勝負は決まる。
「ドーピング・ヴェノム・エクスプロージョン!!!」
ヨシヒロ神にとって生意気な後輩が塔の外からの放った規格外に増幅された広範囲爆発型魔法が世界樹を塔の上層部ごと一瞬で吹き飛ばしたのだった。
「…………これは僕らの負けなのかな?」
「ヨシヒロ神、もうよろしいでしょう。」
「そうか…………テツヤはぶっ飛ばすけどね」