3-2 魔力枯渇
前回までのあらすじ!
リア爆を逃れ、シウバは空を飛ぶ!
パティ、叩き起こされるが、めんどくさいから包帯ぐるぐるで二度寝!
回復魔法つかってやれよ ← イマココ!
ヒノモト国本陣では、後詰でやってきていたラミィ=ヒノモトとジルの部隊が合流していた。そして、今朝の顛末を聞いてテツヤ=ヒノモトはそのあたりの木に逆さに吊るされてすでに1時間が経っている。罪状は「数か月ぶりの夫婦の再開に水を差した」かららしい。あれが本当に魔王なのかと言われているが、実は最近ラミィ=ヒノモトの尻に敷かれているんじゃないかという噂すらある。結婚が秒読みと言われ続けてすでに数年経っているが、魔王の純人好きの性癖も有名であり、シン=ヒノモトがこの話題を嫌っている事もあり、大っぴらに結婚を勧めるものはもう少ない。
「テツヤ様、反省シタカ?」
「ジルー、もう反省したから降ろしてくれよ」
「反省、マダ」
「ちょっとー」
「しかしフォレストが本物のシウバだったなんて、すげえな」
シウバの宿舎にはガウディたちがやってきていた。ルタもポールも本物のシウバを前に固まってしまっている。むしろライラの方が自然体だ。そしてなぜか全身包帯のシウバ。
「騙してたようですまんな」
「いえ、そのおかげで私たちはバンシを解放する事ができたのですから」
複雑な表情のサキ。実はユーナに失礼な態度をとってしまった事を悔やんでいるだけなのだが、傍から見るとフォレストに懸想していたのではないかと思ってしまうような態度である。それを見てルタがまたぎりりと歯をかみしめているのであるが、サキが気づく事はない。
「宿のおっちゃんがガウディが明らかに危なそうだから助けてやってくれってさ。フォレストってのはおっちゃんの死んだ息子の名前なんだ」
宿の主人はシウバにとって命の恩人の一人である。
バンシ解放軍はこの戦いの後に正式にヒノモト軍として編入されることとなった。その際に希望者は退役が可能であり、ガウディは退役することになる。サキを中心にルタとジグはそのままで、ポールとライラはもともと成人の儀が終わっていないから兵士としては扱われていない。今後も入隊する事はなさそうである。
「なんか、夢を見させてもらったよ、フォレスト」
「ガウディ、もう無茶すんなよ」
「うん。フォレストにだけは言われたくないね」
「それで、貴公はヨシヒロ神を取り逃がしたというわけか」
ヴァレンタイン王国軍を率いて合流したジギル=シルフィードの第一声がそれであった。現在はヴァレンタイン王国軍とヒノモト国軍が完全にスクラロ軍をオーブリオン大陸から追い出した所である。ナトリ=スクラロは本隊を率いてすぐにスクラロ島へと帰ってしまった。残った部隊もほとんど戦闘の意思はなかったために、軍が近寄ると撤退していった。残すはスクラロ島のみの状態となって、ヴァレンタイン王国軍とヒノモト国軍は北からのエレメント魔人国軍とトバン王国軍の足並みをそろえるために束の間の休憩中である。
「まあ、そうなんだけど、当初の予定通り交渉に乗り出せばいいんではないかと」
当初の予定というのはここでスクラロ軍に損害を出させつつ、スクラロ島へ撤退させる事だった。それは完全に遂行されたといって間違いない。だが、実はヨシヒロ神を抹殺できる直前まで行ったと言われれば欲が出るというのも仕方ない。
「世界樹の塔さえ破壊すれば共存する事はできると言ったのは貴公だ。ヨシヒロ神は殺されそうになってまで共存を望むと思うか?」
「それは分からんね。でも、今回の戦いで犠牲を覚悟すればヨシヒロ神にすら勝てる事が証明されたわけだから、あいつもこれ以上戦う意味を見いだせないと思うんだけどな」
もともと、性格のよさそうな青年であったのだ。本質的なところでは殺し合いなんて望んでいないに違いない。それよりも重要な事を見つけることができれば、十分に共存する事は可能だとハルキ=レイクサイドは思っている。
「シウバが生きてて良かったね」
宿営地などでは第4部隊隊長テトはだいたい第5部隊隊長のヘテロと共に行動する事が多い。
「そッスね。でもなんだか複雑ッス」
「なんで?」
「ドッペルゲンガーで良かったからシウバとの決着をつけたかったッス」
「ヘテロ、決着って…………」
テトはその決着もなにもヘテロの負けだったんじゃないかという言葉が出そうになるのを堪えた。この話題になるとどうしても数か月前のレイクサイド領内乱の話になる。2人にとって黒歴史である。さらにはフィリップにとってはもっと黒歴史であった。あの後が本当に大変だった。自他ともに認める家臣最強となった1か月後にフラン=オーケストラが模擬戦でミスリルゴーレムを倒すなどとは誰が予想しただろうか。そしてその後は何かある度にフィリップはフランに絡まれるようになっている。
「ところでアレクが失踪したんだって?」
「あれは失踪じゃないッス。あまりにも恥ずかしくて人前にでれないらしいッス」
黒歴史と言えば、今回のアレクである。あれだけ大勢の前で泣き叫びながら友の仇とでもいうべきドッペルゲンガーと戦ったわけであるが、その後の裏情報でシウバがただ単に酔っぱらってただけだと知った後にアレクは姿を見せなくなったのだ。数か月は放っておいてくれと置手紙があり、緊急の時の連絡の取り方だけをウォルターに知らせてきたらしい。ダメージはでかい。
「まあ、あれはちょっと可哀そうッス」
「たしかにね。我が友!とか言ってたもんね。シウバはアレクを友達だと思ってるのかな?今度聞いてみよう」
「テト、性格悪いッス」
***
しかし、足並みをそろえるその待機の期間が長かったわけではないがスクラロ軍に有利に働いた間違いないだろう。その数日後に世界中の魔力がまたしても枯渇する。
「シウバ! まただよ!」
「ユーナ……多分、次が最後の戦いになるよ」
スクラロ島上陸作戦が決行される前日のことである。これから先は魔力が回復する事はない。しかし、おそらくスクラロ軍には世界樹の実があり、それによって魔力の回復が行われる。魔力の回復量は分からないが、世界中の魔力を取りつくすために回復どころか増量するのではないかという危惧もされる。
ヴァレンタイン王国軍が約1万でありヒノモト国軍が約2万の計3万が南からスクラロ島へ迫る。時を同じくしてきたからエレメント魔人国軍2万とトバン王国軍2万の計4万が上陸を画策していた。完全に挟撃されるかたちのスクラロ軍は先の戦いで1万を切っているはずである。本来であれば逆転不可能な戦力差である。さらにはヴァレンタイン王国軍にはレイクサイド召喚騎士団がおり、これは単純な計算では数えられない。バンシの戦いではヨシヒロ神にすら対抗しえた軍がさらに数を増やしていくのだ。しかし、世界樹の実という未知数の力があるため、どうなるか分からない不安が皆に被さっている。
「魔力の枯渇は思ったよりも大問題だ。戦いは1日でケリをつけないと長期戦になればこちらが負ける」
ハルキ=レイクサイドの思いは一つである。
「その前に交渉できないかな? できれば人が死なない方法がいい」
ジギル=シルフィードもテツヤ=ヒノモトも理解している。これはハルキ=レイクサイドのみが発してよい言葉である事を。あまりにも楽天的なと考えがちであり、実際に他者がいえば一笑に伏すだけの意見であるが、この大召喚士は常にそれを貫き通している。魔王テツヤ=ヒノモトが言う。
「まずは俺が話してみる。だめだったら仕方ねえ、全員で一斉にフルボッコだ!」