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3-1 神医

前回までのあらすじ!


んごー!んごー! 再び! ← イマココ!

 バンシの戦いが終わり、その夜レイクサイド召喚騎士団の宿舎は大きな盛り上がりを見せていた。

「「「レイクサイド!! レイクサイド!! レイクサイド!!」」」

 本営の治療用テントから出てくるハルキ=レイクサイドに続き、パティ=マートンが出てくる。彼は今まで「剣舞」シウバの治療を行っていた。本営のテントの中にいたのはヒルダとユーナ、マジェスターにエリナで彼らはシウバの状態を知っていた。翌日まで寝かせれば特に問題ないというパティの説明でユーナの腰が抜けてしまい、エリナが付き添っている。マジェスターは護衛として本日は不眠で番をするそうだ。

 そして、パティがシウバの命を救ったという情報が宿営地全体を、そしてヒノモト軍の宿営地にまで届いたのはさきほどの事だった。


「来たぁ! パティ!」

「よくやった!」

「「レイクサイド!! レイクサイド!! レイクサイド!!」」

「さすがだ!」


 急に賞賛を浴びるパティ。そしてその本人にはその理由が分からない。

「あ、あの、これはどういう…………」

「いいか、パティ。ちょっとの間だけでいいからニコニコしてろ」

 ハルキ=レイクサイドの笑顔に気圧されるパティ。何も言えずにただ頷く事しかできない。

「静まれ!」

 ハルキの声で本営の周囲に集まった人間が全て沈黙する。皆を見回してハルキが言う。

「シウバはパティのおかげで命を救われた!」

「「「うおぉぉぉぉぉ!!!!」」」

 大歓声が起こる。そしてハルキがさらに手を上げると一旦それが静まる。上げた手をパティの肩に下ろすハルキ=レイクサイド。

「お前は凄いやつだ。お前がいてくれて良かった。「神医」パティ=マートン! レイクサイドの誇りだ!」

 勝手に二つ名をつけてパティを呼ぶハルキ。それに呼応して本日最大の歓声が上がる。

「「神医」パティ=マートン!」

「「「パティ!! パティ!! パティ!! パティ!!」」」


「あの、ハルキ様…………」

「だから、少しの間ニコニコしてろと言ってるだろ?」

「詐欺ですよね?」

「情報操作と言え。それに嘘は言ってない」


 実際、シウバがパティ=マートンに命を救われたのは事実であった。それはさきほどの戦闘の後のことではなく、ヨシヒロ神にさらわれてからの事である。さらわれる直前、パティ=マートンはシウバに教えてもらった魔力補助の状態で回復魔法をかけた。それは単純な回復だけの魔法ではなく、自己再生能力の向上もふくめた最高レベルの回復魔法だった。故に、ヨシヒロ神に胸を刺されたシウバは一時的に上昇していた自己再生能力で息を吹き返し、バンシの町まで逃げる事ができたのである。でなければあの傷は確実に致命傷であり、ヨシヒロ神やナトリ=スクラロの目をごまかす事などできなかったに違いない。


「というわけで、俺は嘘はついてない。シウバの命を救った「神医」パティ=マートンよ。この賞賛は妥当なものだ」

「いやいやいや、嘘ついてないだけで騙してるじゃないですか! 俺はただの回復師ですよ!?」

「ふふふ、今からお前は世界最高の「神医」パティ=マートンだ! しっかり働けよ」

「ふぁっ!?」


「「「パティ!! パティ!! パティ!! パティ!!」」」

「ほれ、手を振れ。そして諦めろ」

 この場を一旦収めて尚且つ一時的にレイクサイド領に協力していたパティをがっちりと掴んで離さないようする最強の一手をハルキが思いついたのはさきほどの事である。ハルキがヒルダに「いつもに増して悪い顔してますよ」と言われた時からパティは嫌な予感がしていたのだ。

「「「パティ!! パティ!! パティ!! パティ!!」」」

「マジですか…………」

 向こうでアレクが嗚咽しているのを見ながら、パティは嵌められた事を悟る。

「「「パティ!! パティ!! パティ!! パティ!!」」」

 その日、パティは無理矢理色々な人物に飲まされ続けてキュアコンディションをかける魔力も尽き、翌日の二日酔いはシウバ同様に酷いものだったという。


 ***


 起きるとまだ早朝だった。朝日が出てくるかどうかという時間帯であたりはまだ薄暗い。

「頭痛え……」

 ここはどこだ? どこかの宿営地のテントなのだろうか。簡易ベッドに横になっているようだ。起き上がる。

「あ……」

 ベッドの脇で寝ているユーナが目に入った。ずっと看病してくれていたのだろうか。少しずつ記憶が戻る。ヨシヒロ神に剣を突き刺し、その後をハルキ様に託して意識を失ったのだろう。

「ユーナ……」

 生きて、また会う事ができた。神に感謝しようと思ったけど、神は恨みの対象だった事を思い出す。


「おはようございます、シウバ様」

 テントの入り口にマジェスターが立っていた。

「こちらをどうぞ」

 そうしてマジェスターが持ってきたのは水とワイズ草だった。

「覚えておられますか? 昔2人とも二日酔いで依頼に向かった時にこれを頂いたのを」

 そういえば二日酔いのマジェスターにワイズ草が効く事を教えたような気がする。かなり昔の話だった。あの頃はまだ2人とも弱くて、それでも頑張ってた頃だ。ユーナと離れてすぐの頃だった。

「懐かしいな……」

「私はあの頃と何も変われませんでした。変装されたシウバ様に気づかず、暴言の数々を……」

「気にすんな」

「シウバ様……」

 ワイズ草をかじって水で流し込む。もしパティがここに来ていたなら後でキュアコンディションをかけてもらうとしよう。…………待て、なんでこれで気分が良くなるんだ? まるで二日酔いみたいじゃないか。


「あれ? シウバ……」

 ユーナが起きた。気を利かせてマジェスターがテントから出ていく。俺はユーナを抱きしめた。

「ごめんよ、ユーナ」

「ううん。いいの」

 二人は他には何も言わずに、ただそのまま抱き合っ…………


「リア充爆発しろぉぉぉおおお!!!」

 テントが吹き飛ぶ。そしてそこにいるのは当然、魔王テツヤ=ヒノモトだ。

「てめえ! 人をさんざん心配させておいて二日酔いの上に朝からイチャイチャしやがってぇ!」

「いきなりなんですかぁ!」

 次元斬で斬りかかってくる魔王から逃走を開始しながら叫ぶ。魔王はユーナには目もくれずにこちらへ爆撃魔法による追撃をする。

「爆発しろぉぉぉおおお!!!」

 明け方の宿営地に爆発が連続する。朝っぱらからの大爆音に召喚士たちが起こされ、何だなんだとテントから出てくるのが分かった。その中を疾走する。そこにヴェノム・エクスプロージョンが追従する。

「こ、こっち来んなぁ!!」

 誰かが叫んだが、その禿げ頭をめがけて逃走する。そしてそいつの脇を駆け抜けると後ろで爆発音がした。

「あぁ! ヨーレン副隊長!」


「朝っぱらから五月蠅いんじゃぁぁぁあああ!!!」

 後方でコキュートスが魔王を吹き飛ばす。ざまあみろと思っていたら目の前にレッドドラゴンの尻尾が見えた。

「あれ……?」

 宙を舞う感覚。ずいぶんと久しぶりな気がするけど。


「あ……もしかして、あれシウバか?」

「そッスね。シウバッス」


 二日酔いのパティ=マートンがたたき起こされたのは言うまでもない。


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