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2-6 バンシの戦い 中盤

前回までのあらすじ!


バンシの戦い序盤!


テツヤVSどっぺるシウバ


ナトリ「今助けるぞぉぉ!」


ハルキ「ほら釣れた」 ← イマココ!

 魔王ナトリ=スクラロの突撃は予想されたものだった。前線ではテツヤ=ヒノモトとシウバが激戦を繰り広げており、その両翼にフィリップ=オーケストラの召喚したミスリルゴーレムとテトの召喚したリリスが凄まじい勢いでスクラロ軍を屠っている状態だった。情勢はどう見てもヒノモト軍が優勢であり、ナトリ=スクラロが加勢するであろう事は誰にだって分かったに違いない。これは相手にハルキ=レイクサイドがいなくても対処されて当然の結末だったと思われる。

「ほっほっほ、まさか魔王を2人もやれるとは思いませんでした」

 そのナトリ=スクラロの突撃を阻んだのが「勇者」フラン=オーケストラである。彼は過去に魔王アルキメデス=オクタビアヌスを倒した経歴があり、ナトリ=スクラロと対峙しても遅れをとるはずもない力量をしていた。

「どけぇぇ!!」

 前線で倒されていく同胞たちを見て、焦りが生じたのであろうか。普段は冷静なナトリ=スクラロであっても叫ばずにはいられなかったに違いない。魔装で作成した両刃の斧がフランめがけて振るわれる。だが、それが当たる事はない。

「非常に鍛えてある。だが、戦の指揮に関しては我が主の方が数段上のようですな」

 ナトリ=スクラロの斧を軽くかわしつつ、フランが言う。そしてその意味が分からぬうちにフランとナトリの周辺にクレイゴーレムが降り注いだ。前もって打合せしてあったようにフランには傷一つない距離に落ちるがその周囲のスクラロ軍にとっては甚大な被害が出てしまう。なにせナトリ=スクラロの突撃に追従してきた第2陣はこの空爆によってほぼ壊滅状態まで持っていかれてしまったのだ。

「貴様らぁぁ!!!」

 気づいた時にはゴーレムは着地した後である。周囲の状況を一瞥してナトリは愕然とする。

「他所見はいけませんな」

 フランの剣がナトリの魔装の鎧の隙間に差し込まれる。左の脇腹に走った激痛に耐えきれずに膝をつくしかなかった。斧を振るうが、フランには当たらない。

「まだ、フィリップの方が手ごたえがありましたね」

 前線での苦戦とそれを助けに来た第2陣の崩壊、戦況は確実にヒノモト軍に傾いていた。普通の戦闘ではこれはほとんど勝敗が付いている状態である。ここからの逆転の手はそうそうないだろう。まだヒノモト軍には遊撃隊も本陣も残っているのだ。その遊撃隊が最後のとどめを刺そうと突撃していくのが見える。それを止める力はナトリ=スクラロにはない。しかし、誰もがこれで終わりだと思っていなかった。これは「普通」の戦闘ではないのである。


「これ以上はやらせないよ!」

 颯爽と現れたのはヨシヒロ神であった。ナトリとフランの間に入り、左手でナトリに回復魔法を、右手には短めの片手剣をもってフランをけん制している。フランもうかつにヨシヒロ神に斬りかかる事はない。

「ようやくおいでになりましたか。我が主がお待ちしておりましたよ」

「それは光栄だね。先生もここに来てるって事か」

 絶対的な自信。たとえ神の力がなくなっていたとしても1万年を生きた超人を倒す術などないと確信しているようだった。

「ナッティー、軍をまとめるんだ、ゴーレムの空爆にはむしろ密集して落ちてこれるゴーレムの数を減らしてしまえば君なら対処できる」

「分かりました」

 ナトリが答えると同時にヨシヒロ神がフランに斬りかかる。その速度は常人では認知不可能な領域に達しており、もちろんフランをも上回っていた。しかし、フランはその剣を受けた。

「君、すごいね!」

「お褒めに預かり光栄ですな」

 数回にわたる剣撃を受けるフラン。反撃の隙は見えないが、受けきる事はできるようだ。

「でも、残念だったね!」

 ヨシヒロ神が少しだけ距離を取る。

「僕は剣が得意じゃないんだよ!」

 そういうと放つのは超特大の炎系破壊魔法である。フランのフレイムバーストなんかとは比べ物にならないテツヤを一撃で倒したそれであった。寸前の所で避けるフラン。しかし、その後方で戦っていたヒノモト軍の多くが巻き込まれてしまう。

「おや、大量虐殺はあまり好きじゃないんだけどね、避けたのは君だから」

「では、今度は後ろに回らせていただきましょう」

「主人と違ってメンタル強いね!」

 

 ***


「出たか!!」

 ヒノモト軍本陣ではヨシヒロ神出現の報告でハルキ=レイクサイドが動き出そうとしていた。

「ウォルター、ここは頼む」

「かしこまりました」

 召喚されるウインドドラゴン。その威容が確認されるだけでも自軍の指揮が上がる。乗り込むのはハルキ=レイクサイドただ一人。向かうのはヨシヒロ神とフランが戦っている場所だ。攻撃を避けつつ時間稼ぎをするフランとの闘いを一旦やめてウインドドラゴンを見上げるヨシヒロ神。

「やあ、先生」

「いくら自分が強いといってもコンソールなしでは限界があるんだ。悪いけど神楽には退場してもらおう」

「それが先生にできるかな? できるんだったら見せて欲しいんだけど」

「戦いってのは情報が重要なんだよ。その情報を集めたうえで逃げずに戦ってるんだ。神楽の負けは決まってる」

 そういうとハルキ=レイクサイドは大量のノームを召喚する。目くらましと牽制を兼ねた召喚にヨシヒロ神は嫌な顔をしながらもしっかりと対応してくる。

「またそれかい!? いい加減うんざりなんだけど!」

 自身の周囲にまとまりついたノームを広範囲の魔法で攻撃する。あっという間に強制送還されていくノーム達であるが、それ以上の速度で再召喚される。

「アルキメデスの時とは違うんだよ! 先生だけで僕を封じ込めると思わないでね!」

 ひときわ強い魔法が繰り出され、一瞬であるが完全にノームが送還されてしまう。その隙を縫ってヨシヒロ神は移動した。狙うはウインドドラゴンである。跳躍と飛翔の魔法で風竜の真上まで飛ぶと特大の破壊魔法を放った。

 予想していたハルキ=レイクサイドはウインドドラゴンを操ってそれを避ける。避けざまに再度ノーム召喚を行う。

「しつこいね!」

「お互い様だ!」

 しかし、全てはハルキ=レイクサイドの策略であった。誘導されたとヨシヒロ神が知った時にはすでに遅い。

「今だ!」

 いつの間にかスクラロ軍との戦いをやめて集合していたレイクサイド召喚騎士団たち。100名にも及ぶ召喚士が終結してそれぞれの召喚魔法を唱える。唱えるのはノーム、そしてウンディーネである。


 1人では限界があるが50名を超す召喚士が力の限り召喚するノームは想像を絶する数となった。さすがのヨシヒロ神も再召喚までにそれをすべて強制送還する力は持たなかった。そして残りの50人が召喚するウンディーネ。そのすべてが大量の水魔法を唱える。さらにはヒノモト軍にも水魔法を唱えて協力する部隊がいた。ウンディーネが唱える水魔法はその場にとどまり続ける。

 ヨシヒロ神は大量の水の中にノームごと閉じ込められてしまった。狙いは溺死である。


「がぼっがぼがぼっ!」

 水中で息ができないヨシヒロ神。さらにノームの召喚は続く。破壊魔法で対抗しようとすると息を吐く必要があった。

 戦場に出現した大量の水の牢獄。スクラロ軍の中からヨシヒロ神を助けようとそこに魔法をぶつける者もいたが、あまりにも大量であり効果はないようだ。そして他のヒノモト軍からの攻撃がなくなったわけではない。

「死亡を確認するまでは気を抜くな!」

 筆頭召喚士フィリップ=オーケストラの怒号が続く。世界最強のレイクサイド召喚騎士団が一丸となって1人の神を抹殺しようとしていた。


 勝利を確信する者が増えていく中で表情を崩さないハルキ=レイクサイド。それはその後に起こるであろう事を予想していたのであろうか。

「残念、僕は「ワープ」ってスキル持っててね」

 次の一瞬でハルキ=レイクサイドの背後に現れたヨシヒロ神。ほぼ全ての人間がそれに対して意表をつかれた。驚愕するハルキの背中にヨシヒロ神の剣が迫る。だが…………。


「そう来ると思ってたんだ、残念」

 大召喚士が笑うとヨシヒロ神の背中に1本の剣が刺さった。なんの変哲もないただの鉄の剣である。

「ば、馬鹿な…………」

 自身の胸から突き出ている刃を見て驚愕するヨシヒロ神。この防御力を打ち破り背中から胸まで突き抜ける事のできる武器を彼は知らない。ゆっくりと後ろを振り向くヨシヒロ神。魔道具で変装しているとはいえヨシヒロ神にはそれが誰なのかが分かったようだ。

「お前を克服しないと……、ユーナに合わせる顔がないんだよ……」

「がふっ! さ、さすが先生だよ……完全に予想外だ……」

 口から血を吐く。常人であれば即死だったのだろう。しかし、ヨシヒロ神の自己再生能力はかなりのものであり、刺さった部分を修復しようとする。そのため、刺した人物はその剣をさらに奥深くに突き刺し、そして捻る。


「薬、全部飲んじゃいました」

 魔道具を外して純人の戻る。そして笑うシウバ。過剰に投与された薬の副作用が襲ってくるのを自覚しながら、彼は妻がいる方角を見てもう一度笑う。これで誤解は解けただろうか。すでに感づいていたかもしれない。強い嘔気、さらには視界がゆがむ。だが、ひとたびその嘔気が収まってしまえばむしろ気分はいい。

「全部!?」

 予想外の言葉にハルキが焦り駆け寄る。倒れたシウバの体を支え、回復魔法を唱えるがハルキに回復魔法の素質は皆無であり、すぐにヒルダを呼ぶ叫び声に変わる。

 打合せでは1本だけのはずだった。傷さえ与えればヨシヒロ神を殺す必要すらない。この戦いのあとに和平交渉をするというのが大同盟の筋書きだったからだ。そしてレイクサイド領に残ってた薬は5本。いままで頑なに使用を拒んできたのはその副作用が体を蝕んでいる事を知っていたからだ。


「ハルキ様……、ユーナを、家族を頼みます」


 ハルキに抱えられたシウバが発した最後の言葉はそれだった。

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