2-4 爆笑魔王
前回までのあらすじ!
主人公交代しとらんかったんや!
バレバレだ!伏線書きすぎだ!
なにぃ!? ← イマココ!
バンシの北に展開するスクラロ軍。その数は1万を超えたという。ヨシヒロ神がほとんどすべての戦闘可能な男を連れてきたのには理由があった。それはヨシヒロ神自体はその気になればすぐにでも世界樹の塔へと帰還が可能であることと、ヒノモト軍は「大同盟」の先鋒であり、その後ろにヴァレンタイン王国軍が迫っていたからである。北からはエレメント魔人国およびトバン王国軍が移動していたが、この戦いが終わってからスクラロ島へと戻っても十分に間に合うと思われる距離であった。さらにはジギル=シルフィード率いるヴァレンタイン王国軍の中にはレイクサイド領主である「大召喚士」ハルキ=レイクサイドがその召喚騎士団を引き連れて参戦していたのである。「神殺し」の魔王テツヤ=ヒノモトと合わされば世界最強と呼ばれている3人のうちの2人がここに終結した事になっていた。実際には3人ともが集まっていたわけであるが…………。
「おい、見ろよ! シウバの軍だぜ、向こうの先鋒は!」
魔王テツヤ=ヒノモトの隣にはバンシの反乱の立役者とも呼ばれる人物がいた。しかし、その顔は仮面で覆われており、誰なのかは分からない。
「シウバだってよ! どんな酷え奴なんだろうな? なっ?」
さきほどからこのネタでいじくり倒されているその人物は実はフォレストこと本物のシウバである。正体を知っているのはこの場ではテツヤのみであり、そのほかにはハルキ=レイクサイドとウォルター、アレクの4人だけだった。いきなり招待された謎の人物にテツヤが非常に馴れ馴れしい事に周囲は怪しく思っているが、その正体が分かっているわけではない。
「魔王様、どちらでもいいです」
「そんな事言わずに教えてくれよ、フォレストさんよぉ。ぐへへ」
バンシ解放軍のサキなどは蒼い顔をしている。傍からみるとフォレストが絡まれているようにしか見えないのだ。何か魔王の不興を買う事をしたのであろうか。しかし、フォレストはそんな事も意に介さないようである。仮面の下の顔がどうであるかは分からないが、すくなくとも態度には現れていない。
「ヴァレンタイン王国軍の先鋒としてレイクサイド召喚騎士団が着いたようです」
ヒノモト国の将校が報告する。
「おう分かった。出迎えに行こうか、フォレスト」
「いやです。失礼します」
返答するたびに後ろに控えているサキ達の寿命が縮むのではないか。
「おっと、出迎えの必要はなさそうだ」
上空にワイバーンの群れが出現する。最初に降りてくるのは漆黒のマントにフェンリルの刺繍をあしらった第5部隊の面々だ。そしてその中にユーナとマジェスターとエリナの姿も見えた。
「あちゃー」
テツヤが半笑いで頭を抱える。
「テツヤ様、作戦失敗したらテツヤ様のせいですからね」
もう、どうとでもなれとシウバは心の中で思っていた。
「貴様! そのいで立ち、その魔力! 覚えているぞ!」
ワイバーンから降りてくるなり、マジェスターがこちらに詰め寄る。魔人族に変装する魔道具をつけているからシウバの魔力とは別物であるはずだ。これを見破れるのはテツヤ=ヒノモトを初めとする規格外の魔力で魔道具の性能を無視できる者たちだけだろう。つまり世界に数人しかいない。
ユーナが後ろから続いて来る。エリナも顔が怒っている。3人の無事な姿を見て仮面の下の魔人族の表情がつぶれるようで、涙がこぼれ落ちるのが分かった。しかし、ここで正体をばらすわけにはいかない。自分はヨシヒロ神のネットワークからはずれた唯一の召喚騎士団なのだ。
「何のことだ?」
精一杯の平静さを保った声で応答する。
「しらばっくれるな! 貴様がシウバ様の左腕を斬り落としただろう! 剣と盾を返せ!」
いまにも抜刀しそうなマジェスターをユーナが制する。
「教えて」
「ん?」
「ふさわしくないって、どういう事?」
いつの間にか魔王テツヤ=ヒノモトはこの場から距離を取っているようだ。白を切りとおして逃れるのもありかと思ったが、どうしても答えておきたかった自分がいた。ばれたらばれた時である。
「あれは資格がないものが使っていいものじゃない」
「あなたにはその資格があると言うの?」
「ないな、だから使ってない」
右腰に佩いている鉄の剣をなでながら言う。じっとシウバを見つめるユーナ。仮面の下の表情は読み取れないはずで、さらに魔人族の変装する魔道具も使っている。そしてユーナの表情からも考えている事が読めなかった。
「…………じゃあ、私にはあるんでしょ? あの剣とバックラーを使う資格」
不意にユーナが聞く。意表を突かれた。その考えはなかった。
「確かに、君になら資格がある」
「じゃあ、もらっていい?」
「分かった。そこまで言うのなら後で届けさせよう」
ユーナとの思い出の品である。ユーナになら十分に資格がある。ユーナの剣をシウバが使っていた事もあったと思い出した。あのアダマンタートルはユーナのゴーレムで倒したんだっけ。
「あなたたち、さっきから失礼ではないですか? フォレストは我々バンシ解放軍の一員です。これ以上難癖つける気ならば私が許しません!」
ぐいっとサキがシウバとユーナの間に入る。いままでユーナとの思い出にふけっていたシウバはこめかみに手を持って行った。頭が痛くなった気がする。そしてユーナの方を見ると一瞬びっくりした後に、若干怒っているような気がする。もしかしたら、さきほどのやり取りでフォレストがシウバである事を気づいたかもしれないと薄々感じていたのだ。しかし、ここで間に入ってきて場をややこしくする女性将軍サキ。本人に自覚はない。
「どちら様ですか?」
「私はバンシ解放軍の将軍のサキです! あなたたちはレイクサイド召喚騎士団といえども一般兵でしょう!? それにフォレストは私の……私たちのために戦ってくれたんですよ!」
非常に誤解を招きかねない言い回しのサキ。本人に自覚はない。後ろで魔王が爆笑しているのが聞こえる。
「サ、サキ。やめろ」
「フォレスト……あなたがそう言うのなら……」
これも自覚はない……はずだ。もしあるというのなら策士である。
「フォレスト……さん?」
ユーナがにっこりと笑う。これはあれだ。もはや確信に近い状態でばれていたと思った方がいいのだろう。気のせいであると信じたいところだが、どういう事か後で説明しろと言っているように見える。笑顔が逆に怖い。顔を必死に横に振って否定しておきたいところであるが、正体をばらすなという任務を優先せざるを得ず、必死に抑える。しかし若干顔は横に揺れてしまっている。
「剣とバックラーをお待ちしてますね」
違うと叫びたい衝動に駆られながらも、シウバは何も言う事ができなかった。
***
「うおぉぉぉぉぉ!! 絶対誤解されたぁぁ!!」
「ぎゃははは!」
ヒノモト国の本営でがっくりと膝をつくシウバ。後ろから爆笑魔王が付いて来ている。側近たちはフォレストが何に落ち込んでいるのかいまいちわかっていない。だが、すでにスクラロ軍の展開は終わっている。これから戦いが始まりそうな時であり、いちいちその程度の疑問を確認してくる者はいなかった。
「ほらほら、お前の誤解の元凶が攻めてくるぞ」
北の展開したスクラロ族が徐々に近づいてきているのが分かる。先陣にはドッペルゲンガーが変装したシウバがおり、その切り落とされたはずの左腕は再生していた。
「奴は召喚獣だから強制送還されても再召喚で戻ってくるというわけか」
「そうですね、なので装備だけひん剝いて撤退したんですけど、あの時に目立つようにぶっ殺しておくべきでした」
「で、今回はどうすんだ?」
「高みの見物です。頑張ってください。その代わり、ヨシヒロ神が来たら働きますよ」
軽く目に復讐の炎が宿る。ヨシヒロ神を克服しない事にはシウバは前に進めない。自身の剣を差し込まれた胸が痛んだ。すでに傷はなくなっているというのに。
後方では続々とレイクサイド召喚騎士団が到着している。開戦に間に合った彼らも戦闘には加わるようだ。最前線まで出てきてアイアンゴーレムの召喚が始まる。対してスクラロ軍は魔装を装着し始める。
「んじゃ、ヨシヒロ神が出てくるまでひと暴れすっか」
「あ、マジックアップ! どうぞ、行っていいですよ」
「なんだよ、これだけかよ」
「薬ないんですよ」
後世でスクラロ騒乱と呼ばれている一連の戦いにおいて、バンシの戦いは勝者を決定づける戦いであった事は間違いない。ヒノモト国とヴァレンタイン王国軍の連合軍の容赦ない攻勢が始まろうとしていた。