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2-1 反乱軍の蜂起

おはこんにちばんわ、空の巣オレオです。


100話目記念が終わりまして、やり終えた感が満載ですが、本編は広げ過ぎで回収しまくらないと打ち切りすら無理な状態になってますね。


でも、まだまだ広げるよぉー! どこまで行くかは分からないよぉー! エタったらごめんよぉー!


え?エタるのは許さない? あ、そうですか、はい。


「では、これからバンシレジスタンスによる反乱会議を始めます」

 いつもの宿屋に集合した反乱軍がガウディの司会で会議を開始した。ここに集合したのは5人である。ガウディ、ルタ、サキ、それにポールとライラというまだ成人していない少年少女だ。更には特別ゲストとして先の戦いで敵の指揮官シウバの左腕を斬り、その武器と防具を強奪するという偉業を成し遂げた英雄フォレストが参加している。

「誰が参加するっつった? というよりもここでやるな、酒がまずくなる」

 バンシの大通りの裏路地にある安宿、ここの主人は反乱軍に参加している老人であり、そのためにこの宿屋は反乱軍の拠点となっていた。


「そもそも、お前らお子ちゃまの遊びに爺婆が付き合ってる程度の物だろうが、本格的な反乱軍は他にいるんじゃねえの?」

「ぎくぅっ!」

 反乱軍のリーダーであるガウディの体が硬直する。それを見ながらサキがため息をついた。

「たしかに年頃の男はだいたいあっちに行っちゃってるけどね」

 あっちとは、別に反乱軍を組織する者がいるという事である。しかし、その反乱軍はシウバの率いるスクラロ軍がバンシに進駐する際にほとんどが捕らえられていた。そのためメンバーのほとんどはバンシの牢獄の中である。反乱を起こしたのに殺されないのは単に人手不足だからだろう。労働力としてこき使われているようだ。

「あっちはあっちで、ろくな作戦もたてないで突撃だけするようなリーダーだしね」

 そのリーダーはジグという名前なのだそうだが、昔から腕っぷしは強くても頭が悪いらしい。しかし、このオーブリオンの地では敵を見つけたら突進が原則であり、そのため騎士団も壊滅するような風習がある。

「馬鹿じゃねえの?」

「馬鹿を貫くのが男じゃねえか」

 ルタの返事にもはや答える気も失せるフォレスト。ポールとライラがキラキラとした目でルタの主張を聞いているのを無視して追加のビールを頼む。まだ朝の10時である。 


「では、気を取り直して反乱会議を続ける。今後の方針について誰か意見はないか?」

「まずは前にフォレストさんも言ってたように現状の評価が必要だと思うの。今、シウバの軍がスクラロ島に帰ったからバンシには駐留軍の約1000人のスクラロ兵がいるわよね。これをどうにかすればバンシの解放ができるんじゃないかしら」

「うん、それでは前のようにフォレストが巡回の兵士を闇討ちするってのはどうだ?」

 ガウディの他力本願な意見に頷くのが3人、サキだけがため息をついているが、反論する気力もないようだ。

「じゃあ、駆り出された地元民も一緒に斬ってくればいいんだな? スクラロ兵よりは弱そうだから楽でいいな」

「ストォッップゥ!! さっきのなし!」

 シウバの本隊が帰ってからは巡回兵も少なくなったために地元民が駆り出されて共に巡回に当たらされていた。反乱を起こそうにも残りの年頃の男はそこでほとんど徴用されてしまっているために組織の拡大行動もできないでいる。


「だいたい、俺が何時お前らに協力すると言った? この前はたまたま俺と利害が一致したからやる事になったけど、あれはお前らがいなくてもやってた事だからな」

 フォレストの座っている席の横には2本の剣とバックラーが置いてあった。そのうち剣の1本とバックラーはアダマンタイト製であり、シウバの左手を斬って強奪してきた物だ。

「そんな事いわずに協力してよ! ねっ!」

「ねっ、じゃねえよ。慈善活動はごめんだ!」


 宿にいれば反乱に巻き込まれるだけなので、酔い覚ましもかねて大通りまで出る。巡回中のスクラロ軍を見ながら今後の事も考えねばならない。

「フォレストさん、待ってください」

 後ろからサキが追いかけてきた。気づいていても歩みを遅くするわけではない。

「なんだよ、俺は手伝わないぜ」

「お願いします。フォレストさんの力が必要なんです」

「俺の目的はこの町の解放じゃないんでね、悪いけど」

 フォレストの進行方向にサキが回り込む。

「フォレストさんの目的は何なんですか!? 私たちでも手伝える事があるかもしれません!」

「それをお前らにいう義務も義理もないな」

 あからさまな突き放しの言葉にショックを受けるサキ。そしてフォレストはあえて冷たく言い放つ。

「慈善活動はごめんだ。俺にそんな余裕はない」

「だったらっ!」

 フォレストの服をつかんでサキがすがる。傍目に見るとちょっとした酷い男と捨てられる女の子に見えなくもない。少し焦るフォレスト。大通りではなく、路地裏からの視線を気にしている。

「私、何でもします。フォレストさんが望むんだったらなんで…………むぐっ!」

「馬鹿野郎、こんな大通りで誤解を招くような言葉を喋ってるんじゃねえ!」

 サキの口を塞いで引き離す。顔が真っ赤に染まったフォレストは大慌てだった。おそらく、この場面は見られている。今から接触するつもりだったあいつにだ。

「フォレストさんが協力してくれるって言うまで私やめませんっ!」

「こ、このっ!」

 非常にマズイ。

「私をその気にさせておいてっ!」

「だからっ! お前!」

 泣きながら叫ぶサキ。大通りには人だかりができつつある。調子に乗ったサキはその場に座り込んで泣き続ける。

「おい、なんかあの男がひどい事にあの女の子を弄んで捨ててるらしいぜ」

「あー、あんな酷い男に捕まっちゃって可哀そうに」

「恋は盲目って言うからなぁ、ダメな男ほどモテたりするんだよ、不思議な事に」

「おかーさーん、その気ってどういう意味ぃ?」

「ダメよ、そんな事聞いちゃ。大人には大人の事情があるんだから」

 次々と波及していく良くない噂。中にはあからさまにフォレストに聞こえる声で喋る奴らもいる。


「あなたがいないとダメなんですっ!」

「だー、分かったから! 手伝えばいいんだろぉ!」

「ほ、ほんとですか!? もう私たちを裏切ったりしないですか!?」

「その、誤解を招く言い方をやめろぉぉぉおおおおおお!!!!」


 ***


 バンシの中心街から少しはずれた所にある一軒家。周辺には空き家がゴロゴロしている地域であり、住民の入れ替わりも激しい。それも貧民層ばかりである。その一角にある男が隠れ家として使っている家があった。フォレストは尾行されていない事を確認してその中へと入る。サキは宿に帰してある。

「あんなに目立ってどうするんだ…………ぶふふっ」

 家に入るなり笑い声が聞こえる。この男が笑うのは珍しい。

「うるせえ、笑うな。そしてあいつには絶対言うなよ」

「さて、それはどうかな」

「このっ!」

「冗談だ。しかし、これで貸し借りなしだな」

「…………あれを貸しにした覚えはないが、お前の気分が晴れるんだったらそれでいい」

 どかっと椅子に座る。この男がこの家にいるという事は周囲に敵はいないという事だった。彼にはそれを確認するすべがある。

「で、これからどうしろって?」

「お前があの子との約束通りにこの町の反乱軍を蜂起させるのなら、食いついたスクラロ軍を無視してでも世界樹の塔の破壊をして欲しい」

「破壊工作も俺が? あいつら蜂起させるなら俺も残った方がいいんじゃねえか?」

「そこは検討を要するな、お前が大規模破壊に向いていないのは確かだが」

「あれは禁止されたんじゃなかったのか?」

「だから検討を要すると言っている」

「ま、どっちでもいい。今は言われた事をやるだけだ。それに世界樹の塔が破壊できなかったら、俺がこんな我慢をしている意味もなくなる」

「自由に使える駒がお前だけなんだよ。意外にもヨシヒロ神のネットワークは広い。すぐに探知されてしまう」

 フォレストはアダマンタイト製の剣とバックラーを外すとそいつに渡した。

「保管しておいてくれ、当分は使わずになんとかする。持ってるとばれるしな」

「ずいぶんと無茶をしたようだな、戦場のど真ん中に現れるとは思わなかった。顔を見られたらどうするつもりだったんだ?」

「これがあるから、少しだけなら大丈夫かなと思ったんだが……」

 そういうと、ある魔道具を外す。魔人族のフォレストがそれを外した事によって純人へと変化した。いや、これはもとに戻ったという方が正しいのだろう。

「まあ、たしかにあまり面影はないだろうが……」

 久々にその顔に戻ったフォレストはゆっくりと伸びをした後に顔をゴシゴシとこすってみた。やはり、慣れた感触の方が良い。

「さて、帰るよ」

 そう言うとフォレストはもう一度変装用魔道具をつけて魔人族へと戻る。無骨で野暮な魔人族を演じるのだ。


 ***


「しかし、こいつが反乱軍のリーダーであるなら反乱が成功するわけない」

 ガウディを眺めながらフォレストはビールをあおる。そのガウディは疲れたのか、フォレストの真似をして酒を飲んだのか、宿でいびきをかきながら寝ていた。

「まずは基本的に人が付いていきたいと思わせるカリスマ性を持ったリーダーをあてがう所からか……」

 やるからには反乱を成功させてやりたい。見殺しにするのはあまり気持ちのいいものではないのだ。そしてそのためにはまずは求心力をもとにした数の力が必要である。勝手に集まってくるようなリーダーの元であれば成功率が跳ね上がるのが間違いないが、現状のガウディがリーダーの状態ではそれには期待できないであろう。

「くぉらぁ! フォレスト、てめえ大通りでサキを泣かせてたって、本当かぁ!?」

 ルタが入ってくる。またしても面倒なやつが来た。こいつがリーダーでもその求心力とやらはないだろう。反乱軍に入ったのも、ただサキに付いてきただけだ。

「…………ん? 付いてきた…………」

「どうしました? 私の顔に何かついてますか?」

「貴様ぁ! 何堂々とサキを見つめて……もがぁ!」

 ルタがうるさいので空っぽになったビールジョッキを投げつけておく。割れずに顔面でキャッチしてるあたり器用な奴だとは思うが、今はそれどころじゃない。

「よし、お前に決めた」

「「え?」」



 数週間後、反乱軍の数は格段に増えていた。戦闘員だけでもその数は1000を超える。全て新リーダーの呼びかけに集った男たちだった。

「私たちと共にバンシの解放を!」

 新リーダーとなったのはサキである。水面下で兵を募集した彼女がまず最初にやった事はとらわれているもう一つの反乱軍の解放であった。収容施設を襲撃し、脱走を促す。そしてそのほとんどの脱走者が反乱軍へと入隊したのである。巡回兵へと徴用されていた地元出身者の多くも反乱軍へと協力し、蜂起した際にはその数は駐留しているスクラロ軍を大きく上回っていた。


「隊長! 反乱軍の奴らが迫ってますぜ!……って、なにぃ!」

 スクラロ軍の宿営地ではちょっとした混乱も起きている。本来であれば反乱の鎮圧の指揮を執るはずであった駐留軍の隊長が暗殺されたのである。目撃者の証言によると、その暗殺者はみすぼらしい恰好をしており、油断させた所で隊長とその側近たちを無残に切り殺したのだとか。

 指揮系統を乱された駐留軍は初速が遅れたために、ろくな陣形も取れずに反乱軍が宿営地になだれ込む形となった。もともと1人の力は非常に強いスクラロ軍であったが、集団戦となるとどうしても数の力に対抗できずに1人、また1人と倒れていくしかなかった。反乱軍にも大きな損害が出たために、死傷者は全軍の半数にも及んだが、スクラロ軍は撤退できた部隊を除いて皆殺しにされたという。


「「「バンシの解放を! サキ将軍万歳!」」」

 バンシが解放された頃、スクラロ島へ一報が入った。それに対して魔王ナトリ=スクラロは一軍を率いて行くこととなる。対してヒノモト国はサキ将軍の依頼を受けて、救援の軍を差し向けた。その軍の中には魔王テツヤ=ヒノモトとその精鋭たちがいたという。



 ここに後の世で言う「バンシの戦い」が始まろうとしていた。しかし、歴史書には「解放の聖女」サキ将軍の名前があっても、その裏で活躍した魔人族の名前は出てこない。何故なら、彼は存在しないはずの魔人族であるからだった。


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