おまけ
※※※ おまけ ※※※
ヘリコプターで帰宅後。
夕方には家に到着した四人は、オーブが手際よく作った夕食を食べていた。その途中で紫依が思い出したように話題を出した。
「そう言えば文化祭の劇はどうなったのでしょう?」
濃厚な二日間によってすっかり忘れていたが、昨日は文化祭があり紫依が主役をする予定だった劇があった。
「部長が立派に主役をして大成功だったらしいぞ」
「良かったです」
軽く微笑む紫依にオーブが意地の悪い笑みを向ける。
「そう言って。本当は初めから、こうするつもりだったんじゃないのか?」
「そんなことはありませんよ。本番前の練習で倒れる前までは、ちゃんと演じるつもりでしたから」
「じゃあ、倒れた後からは姿を消す予定だったんだな」
オーブがしたり顔で紫依を見る。そんなオーブを紫依は微笑むだけで受け流していると、蘭雪が楽しそうに言った。
「でも今回のことは良い経験になったんじゃないの?オーブは沢山のラブレターを貰っていたみたいだし。そういえば紫依は貰わなかったの?」
「ラブレターとは何ですか?」
首を傾げる紫依の反応を試すように蘭雪が言う。
「恋文のことよ」
「恋文…………ですか。私がいただいた手紙が恋文かどうかは分かりませんが、すべてお返事を出しましたよ」
手紙の枚数を知っているオーブは食事をしていた手を止めて紫依を見た。
「あれ、全部に返事を書いたのか?」
「はい。オーブがしていたのと同じように赤ペンで文章の添削をして返しました」
「けど、日本語で書かれていただろ?訂正するところなんかあったのか?」
「ありました。主語や目的語が抜けている方が多くいましたので」
オーブはなんとなく察しながらも一応訊ねてみた。
「例えば、どんな文章の主語や目的語が抜けていたんだ?」
「そうですね。一番多かったのは『付き合って下さい』という文章ですね。誰と誰が付き合うのか、何処に付き合えばいいのか、まったく書かれていないので、その部分を書くように赤ペンで記入することが多かったです」
「あぁ……」
予想通りの答えにオーブは思わず遠くを見た。紫依に恋文を出すには勇気もかなり必要だった分、この返事を読んだ相手は相当落ち込んだだろう。
一方で蘭雪は口に入れたご飯を吹き出さないように笑いをこらえている。
二人の反応の意味が分からずに紫依が首を傾げる。
「どうかされました?」
不思議そうにしている紫依の反対側では、朱羅が会話に参加することなく黙々と夕食を食べている。
オーブはそんな二人を見て苦笑いをした。
「おまえたちは色んな意味で学校生活が無理だということが、今回のことでよーく分かった」
「そうね。退学手続きはしておいたから明日から学校に行かなくていいわよ」
紫依と朱羅は学校生活に未練がある様子をまったく見せずに淡々と頷いた。
「わかりました」
「あぁ」
朱羅から返事があったのでオーブがついでに訊ねる。
「そういえば朱羅、親父さんはいつ呼び出すんだ?」
「あれは、あれで仕事で忙しいからな。呼び出すタイミングはクリストファー氏に任せた」
「おまえが直接呼び出したら、仕事なんか放り投げてすっ飛んでくるぞ」
「それは、それで鬱陶しい」
朱羅の容赦ない言葉にオーブが諦めたように笑う。
「相変わらずだな。まあ、親父さんが来る日が決まったら紫依に教えろよ」
『?』
紫依と朱羅が仲良く首を傾げる。変なところで息がピッタリな二人にオーブが笑いをこらえて説明した。
「仕事が忙しい親父さんが日本に来ることは、なかなかないことだろ。久しぶりに紫依も会ったらいい。ついでに日本の名所を案内するのは、どうだ?」
オーブの提案に紫依が少しだけ嬉しそうに微笑んで両手を叩いた。
「それは良いですね。あ、ですが私はあまり名所を知らないのですが……」
「なら、紫依が興味のある場所に行ったらいいよ。一緒に楽しんだら、朱羅の親父さんも嬉しいだろうから」
「そうですかね……」
どこか悩んでいるように見える紫依に蘭雪が微笑みかける。
「朱羅のお父様は以前、いつか紫依とゆっくり話をしたいと言っていたし、ちょうどいい機会だと思うわよ」
「わかりました。朱羅、日にちが決まりましたら教えて下さいね。それまでに名所の勉強をしておきますので」
はにかむように微笑んだ紫依に、食事をしていた朱羅の手が止まり表情は固まった。
そのまま無言となった朱羅を見てオーブがほくそ笑む。
紫依にここまで言われたら朱羅は綺羅が来日する日を教えざるを得ない。嘘は紫依に通じないし、もし誤魔化して名所案内が出来ない状況にしたら、紫依が悲しむことは目に見えている。
「とりあえず、これで朱羅の親父さんの危機は回避できたな」
オーブの小声の呟きを拾った朱羅が睨む。だが、オーブは一切気にした様子なく夕食の続きを食べ始めた。
こうして平和だったエリート校に台風のような騒ぎを持ち込み、そのまま去っていた四人は、学校の怪談に取り入れられ湾曲された話が語り継がれていくのだった。
ちなみに桜葉は父と同じ職業を選び、劇作家として名前が知られるようになる。そして監督兼女優として映画を作成して紫依たちの耳に入ってくるのだが、それは数年先の話である。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
次からは紫依が朱羅たちと初めて出会った話「海上に咲く花」の改稿版を投稿していきます。




