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空先カナタの異世界宇宙探検記  作者: 木山京


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12/12

1-12.what galaxy is this?

「あいつら死んでねえよな?」

『生命反応は確認しました。生きてますよ。もっとも……』


 にやりと笑うニュアンス。姿なき情報生命体のはずが、意地の悪い笑みまで垣間見える。


『至近距離であの連続爆発です。肉体的には無傷でも精神的にはどうなってることやら……ふふっ』

「あらまあ~、アルファさんったら黒幕がよくお似合いで」


 いつもとは違い左後部座席から操縦するノーマッドは、引きつった笑みでなんとか応じた。ただしどことなく楽しそうに。

 ミグラテールを使った王宮への襲撃。これがカナタのワガママだった。

 もう会うことはないからと言って全て許してやれる、そんな聖人はこの機体に乗っていない。宇宙飛行士然り情報生命体然り、二つ返事で復讐劇に飛びついた。


 それでも命までは奪わないよう、砲身はアルファによって完璧に制御されている。出力を最小限まで絞りつつ殺傷範囲からもギリギリ逸れるように。

 カナタはトリガーを引いただけ。だが裏を返すなら、発射という最後の決断はカナタが下した。


「ま、多少はスッキリしたか。チャラには足りないけどな。そうだろ、カナタ? ……カナタ?」


 前方の機長席に腰かける少女は、しかし返事をしなかった。機内センサーを目とするアルファは気付いていたことだろう。程なくしてノーマッドも察する。

 微かに聞こえてくる、すすり泣き。


「決着、つけてやったな」

「……はい」

「後悔してるか?」

「いいえ。……いいえ、そんなんじゃなくて」


 眼鏡をずらし、次から次に溢れてくる涙を手のひらで拭う十五歳の少女。せき止めていた感情の濁流に飲まれながら、彼女は必死で言う。


「わからないんですよね、なんで泣いてるのか……変ですよねっ。嬉しいのに、ざまあみろって本気で思うのに。なんか、ずっと……涙、止まんなくて」

「悪いことじゃねえさ」


 と、ノーマッド。


「そうですかぁ……?」

『生きてる証拠ですよ。心臓がどうこうではなく、心とやらが』


 アルファが付け足す。

 二人の言葉に背中を押されながら、少女は微笑んだ。まだ涙を止める術を知らず、泣き笑いのような表情になりながら、けれども屈託のない朗らかな笑みを浮かべる。

 すると、


『それにしても、この場合どうなるのでしょう?』

「なんだぁ?」


 ふと切り出したアルファに二人揃って首を傾げた。


『主犯ですよ。未開文明の前に宇宙船を見せた上、あろうことか機銃掃射まで。他所に知られたら間違いなく重罪ですからね。我々三人、お尋ね者です』

「げっ」


 そういえば以前にもそんなことを言っていた。宇宙進出していない社会にはミグラテールを晒すだけでもご法度。砲撃など論外だろう。おまけに城を脱出する際、散々暴れ回ったのだ。


「お、おれは手助けしただけだぞ? 砲撃だって操縦してただけで別になんかしたわけじゃ……」

『甲斐性の無い男ですね。そのエクセアスーツ、実はレディースサイズだったりするのでは?』

「そうさ、実は繊細な乙女なんだよ。刑務所なんか行ったら泣いちまう」

『すね毛くらい剃った方がおモテになりますわよ、お嬢様』

「だから襲われずに済んでんのさ」


 双方とも一歩も引かない。


「ぷっ……ふふふっ」


 前席からの笑い声。ようやく泣き止んだカナタがさすがに吹き出した。


「私でいいですよ。提案したの私ですし」

『そうはいきませんよ。この機体、法的な所有者はノーマッドですからね。無垢な少女を言葉巧みに犯罪の道へ引きずり込んだ、という解釈も出来ますから』

「あ。それもそっか」

「おい! 裏切りの相談ならせめて聞こえないとこでやれ!」


 怒気のない怒鳴り声を発してから、ノーマッドは疲れた様子で息をつく。


「とんだ連中と組んじまったもんだ」

『そこが嫌いじゃないクセにぃ~』

「気色悪い声出すんじゃねえよ。……ま、なるようになるさ。何しろ広いからな、ここは」


 ミグラテールが成層圏を抜けた。重力の枷を引き離し、夜空の先へとさらに飛ぶ。機長席に座るカナタからは一面にその光景が広がっていたに違いない。

 無限に広がる星々の海。

 きっとどこかに故郷が潜んでいるはずの、気の遠くなるような彼方の宇宙。


「これ、が……」

『ええ。宇宙へようこそ、カナタ』


 目を輝かせ、少女はじっとまたたかない星の光に魅入っていた。葛藤、怒り、後悔……なんの脈絡もなく引きずり込まれた異世界への、そんな恨み言のどれもが小さく感じられた。

 人生は良い方へと劇的に変わったりしない。知らないまま、わからないまま緩やかで怠惰に変化してゆくだけ。突然、幸運や希望が道の角から顔を出すなんてありえない。

 そんな信条を根こそぎひっくり返される、未知に溢れた本物の異世界だ。


「ありがとう。連れてきてくれて」


 果たしてノーマッドに向けたのか、アルファに呟いたのか。いやひょっとすれば、あのふざけきった国王に対してかもしれない。

 今この瞬間から、自分はこの星の海を渡り歩く。彼らと共に。その実感がカナタに言わせた。


「何はともあれ合流だな。そしたら飯にしよう。アルファ、お前の座標は?」

『送信しました』


 魔王を吹き飛ばした母艦とやらだろう。ミグラテールだけでは物資や航続距離に限度があった。まずは本拠地に着艦し、それからだ。


「受信した、今から向かう。いいか?」

「うん。行きましょ」


 呼応し、ミグラテールが加速する。

 真空の闇に白い機影を曳いて。彼らを乗せた船は、誰も知らない宇宙のどこかへ飛び去った。

次から第2話なのですが、一旦ボイドラ台本のお仕事に戻るため更新は少々お待ちください…!

折を見て再開していきますので…!

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