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第8話 深夜・時間の化石と働く意味

続けて、午後の部。桟橋とドローンの415枚。さっきより多い。しかも質も高いはず。


「よし、行くぞ」


RealityScan起動。写真を取り込んで、Align Images実行。


処理開始。30分くらいかかるらしい。


待ってる間、足をぶらぶらさせる。椅子が高くて、足が床につかない。


「この椅子、私には高すぎ。誰用?大人用?」


ピコン。処理完了の音。固唾を飲んで画面を覗き込む。


そこに現れたのは——


銀色の光の粒が空中で舞い、形を成していくような、無数の記憶の星屑スターダスト・メモリーだった。点群が輝いている。光の海だ。


夕方の回とは比べ物にならないほど高密度な点群。


「え……うそ……できた!すごい!」


間違いなく、今日一日格闘したドルフィン桟橋の形してる。コンクリートの質感、階段の構造、複雑に絡み合う鉄骨まで、はっきり分かる。点群がめっちゃ細かい。


「今朝たった3枚で絶望しかけたのが嘘みたい!」


マウスでぐりぐり動かしてみる。ちゃんと立体になってる。橋脚の下側、波に洗われる部分まで完璧。ドローン様様だ。


「ドローンのおかげ……いや、私が諦めなかったおかげ!」


思わずガッツポーズ。天井の監視カメラに向かって、満面の笑みでピースサインまでしちゃった。


「見てる?私、やったよ!どやっ!」


誰も見てないかもしれないけど、関係ない。


Create Model、Simplify、Unwrap——二回目は、手際が違う。ポリゴン9000万超えにも、チェッカーフラッグにも、もう驚かない。


「夕方パニックになってたの、誰ですか? ……私です」


一日で、人は成長する。Texture実行。最後の20分。


待ってる間、解説資料を読み返す。


「昭和29年、初代完成。昭和31年、台風で流出……」


「昭和33年、二代目完成。昭和34年、また台風で流出……」


「昭和37年、三代目完成。これが今残ってる桟橋」


3回。3回も挑戦した。普通、2回も失敗したら諦めるよね。


「すごいよ……」


私なんて、たった1回の失敗で泣きそうになったのに。比較にならない。


ピコン。処理完了の音。


画面に現れたのは、完璧なドルフィン桟橋の3Dモデル。


錆びた鉄骨の質感、コンクリートの亀裂、塩が固まった白い跡。全部、全部再現されてる。波の痕跡まで。


「これ……今日私が撮った……」


マウスで視点を動かす。橋脚の下をくぐる。階段を上る。先端まで行く。


「本当にあの場所にいるみたい。ここ、さっき立ってた場所だ」


画面の中で、波が橋脚に打ち寄せている。風が吹いている。そんな錯覚を覚える。動いてないのに、動いてる気がする。


写真から、空間が、記憶が、再構築されていく。それは魔法みたいだった。


「フォトグラメトリって、ただ形を写すだけじゃない」


「時間を封じ込めるんだ」


画面の中の桟橋に、そっと触れる。モニター越しだけど、触れてる気がする。


『時間の化石タイム・フォッシル


昭和の人たちの汗と、執念と、諦めない心。それが、この3Dモデルの中に宿っている気がした。確かに、ここに。


海底水道取込口も同じように処理する。データは少なかったけど、ちゃんと形になった。堤防に開いた大きな穴。ここから、命の水が島に流れ込んできたんだ。


画面の中に、時間が閉じ込められている。『時間の化石タイム・フォッシル』が、また一つ。


その瞬間、タッチパネルが再び軽やかな音を立てた。


手が、止まる。


『ミッション達成ボーナス!明日の予算に+1,000円が加算されました』


「やっぱり連動してるんじゃん!」


完成した瞬間に、ボーナス。私の高揚感に、システムが反応したみたいだった。この監禁生活、ただのサバイバルじゃない。誰かが作ったゲーム盤の上なんだ。AIが、見てる。


夕飯の時、メニューが増えてた違和感を思い出す。嬉しい、けど、怖い。


でも――今は、その怖さより、達成感のほうが大きかった。


「よし。その挑戦、受けてやる」


椅子の背にもたれて、完成したモデルをぐるぐる回しながら、今日のことを振り返る。


昼は失敗した。ドローンを暴走させて、泣きそうになった。というか泣いた。


でも諦めなかった。マニュアルを読み直して、自動撮影モードを見つけた。


そして成功した。完璧に。


「ドルフィン桟橋は2回流されても、3回目を作った」


「私も、1回失敗したくらいで諦めちゃダメだ。まだまだいける」


そのまま、解説資料を開いた。今日の達成感が、この島のことをもっと知りたいという好奇心を掻き立てる。


2度も台風に壊されて、それでも3度立ち上がったドルフィン桟橋。諦めない心。執念。


「今日の私なんて、ドローンが暴走しただけで、もうダメだって諦めかけたのに」


この島の人たちの強さ、私の想像を遥かに超えてる。次元が違う。


働くことの意味なんて、考えたこともなかった。コンビニのバイトは、推しのライブグッズを買うためのお金稼ぎでしかなかったし。時給いくら、って計算して、何時間働けばグッズが買えるか、そればっかり。お母さんは「ちゃんと働きなさい」って言うけど、正直ピンと来なかった。


でも、この島の人たちは、日本の未来のために、家族のために、誇りを持って働いてたんだ。お金だけじゃない、何か別の大きなもののために。


ファインダー越しに見た錆びた鉄骨が、急に彼らの汗と情熱の結晶のように思えてきた。一本一本に、物語がある。


完成した3Dモデルは、時間を封じ込めた『時間の化石タイム・フォッシル』だ。


「なんか、じーんとくるなぁ」


私は、その化石にそっと触れた。マウスをなぞる。


画面の中で、桟橋が静かに佇んでいる。60年前、ここから何千人もの人が島に降り立った。家族が、希望が、夢が、この桟橋を通ってこの島にやってきた。そして、またこの桟橋から去っていった。


「ありがとう。あなたの記憶、ちゃんと残したから」


【残り日数:28日】


朝のちどり荘、昼のドローン暴走、午後の挽回、そして夜の完成。今日は、大きく前に進めた日だった。


「あと28日。頑張るぞー!」


PCの電源を落とす前に、もう一度3Dモデルを見る。ドルフィン桟橋と海底水道取込口。今日の成果。


「おやすみ、ドルフィン桟橋。おやすみ、海底水道取込口」


今日も長い一日だった。失敗もあった。泣きそうにもなった。でも、確実に前に進んでる。


明日はどんな建物と出会えるんだろう。楽しみだ。


でも、胸の奥に小さな不安が残る。


誰かが見てる。私の成果を、私の努力を。


ベッドに横になって、目を閉じる。


明日も、きっといい日になる。


そう思いながら、静かに眠りに落ちていった。

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