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世界女王は、彼にだけ勝てない  作者: てへろっぱ


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6/41

第六話 勝った試合の中にある負け

翌日、星野ミカは朝から機嫌が悪かった。


理由はわかっている。


眠れていない。


世界大会で優勝した翌日なのだから、本来なら寝不足でも仕方ない。

祝福のメッセージは山ほど来ていた。

スポンサーからも、チームからも、ファンからも、家族からも、学校時代の友人からも。


おめでとう。


すごかった。


感動した。


世界一だね。


その言葉は嬉しかった。


嬉しかったはずだった。


でもミカの頭の中に残っているのは、NoNameの一文だけだった。


明日は、勝った試合の中にある負けを見ます。


勝った試合の中にある負け。


嫌な言葉だ。


ものすごく嫌な言葉だ。


だって、勝ったのだ。


世界大会決勝で。


最終ラウンドで。


前年王者を倒して。


十万人の観客が見ている前で。


公式記録にも、優勝者として星野ミカの名前が残った。


なのにNoNameは、その勝利の中に負けを見ると言った。


ミカはベッドに座ったまま、枕を抱きしめて小さく唸った。


嫌だ。


隣の机で資料を整理していた七瀬さんが、顔を上げる。


何が?


今日の検証です。


じゃあ断る?


それはもっと嫌です。


じゃあやるしかないね。


七瀬さんは淡々と言った。


マネージャーとしては、今夜の謎の検証会より、昼の公式会見の方を心配してるけど。


ミカは枕から顔を上げた。


わかってます。余計なことは言いません。


昨日から何回目かな、それ。


今度は本当に。


七瀬さんは半眼で見た。


NoNameさんに関する質問は確実に来る。

個人情報は知らない。

相手に迷惑をかけたくない。

競技者として尊敬している。

答えるのはそこまで。


はい。


師匠に勝ちたいです、とか言わない。


ミカは黙った。


七瀬さんが眉を上げる。


言う気だった?


少しだけ。


駄目。


でも本当のことです。


本当のことを全部言う場じゃないの。


ミカは枕に顔を埋め直した。


世界一になったのに、怒られてばっかりだ。


七瀬さんは少しだけ笑った。


世界一だから怒ってるの。

普通の選手より言葉が大きくなるから。


ミカはその言葉を聞いて、少しだけ黙った。


言葉が大きくなる。


それは、昨日から嫌というほど実感していた。


自分の一言で、NoNameの名前が世界中に広がった。

月城ユイと黒瀬レナまで巻き込んだ。

知らない人たちが勝手に考察し、勝手に物語を作っている。


NoNameが何を考えているのかはわからない。


でも、迷惑をかけたかもしれない。


そのことだけは、少し胸に刺さっていた。


ミカはスマホを手に取った。


ディスコードを開く。


NoNameのアイコンはオフラインになっている。


昨日の最後のメッセージが残っていた。


明日は、勝った試合の中にある負けを見ます。


ミカは小さく息を吐いた。


やっぱり嫌だ。


でも、見たい。


その夜、二十一時。


ミカはホテルの部屋でノートPCを開いていた。


公式会見はなんとか乗り切った。


NoNameについての質問は何度も飛んだ。


師匠とは誰なのか。

本当に存在するのか。

コーチなのか。

プロなのか。

男性なのか。

どういう関係なのか。

今後、表に出る予定はあるのか。


ミカは七瀬さんに言われた通り、ほとんど同じ答えを繰り返した。


個人情報は知りません。

相手に迷惑をかけたくありません。

競技者として尊敬しています。

今の私があるのは、その人に負け続けた経験が大きいです。


最後の一文で七瀬さんの目が少しだけ怖くなったが、ギリギリ許された。


ネットはさらに燃えた。


だがもう、それは夜の検証が終わってから考えることにした。


ディスコードには、すでに二人がいた。


月城ユイ。


黒瀬レナ。


少し遅れて、NoNameが入った。


四人の名前が並ぶ。


Hoshino_Mika

Tsukishiro_Yui

Kurose_Rena

NoName


ミカは指先を軽く握った。


よろしくお願いします。


ユイがすぐに返す。


よろしくお願いします。

試合映像と、公式のリプレイデータは確認済みです。


レナ。


見た。

最後かっこよかったじゃん。


ミカは少しだけ顔が熱くなった。


ありがとうございます。


NoName。


では、始めます。


余韻も何もない。


ミカは思わず画面を睨んだ。


レナが打つ。


早いな。褒め時間ないの?


NoName。


必要なら後で。


レナ。


必要でしょ。優勝したんだから。


ユイ。


精神的な安定のためにも、成果の確認は必要です。


NoName。


星野ミカさんの優勝は素晴らしい結果です。

決勝最終局面の判断も、勝利に値します。

その上で、負け筋を見ます。


ミカは固まった。


褒められた。


けれど、すぐ刺された。


ミカは返信する。


ありがとうございます。

でも、もう少し余韻が欲しかったです。


NoName。


余韻は試合後に十分ありました。


レナ。


この男、ほんとこういうとこ。


ユイ。


進めましょう。


ミカは画面共有を始めた。


世界大会決勝、最終ラウンド。


マップは都市型。

崩れた商業施設と、その周辺道路。

高低差が多く、射線が複雑。

残り人数は、ミカ側一人。

相手も一人。


体力はミカが少し不利。

弾薬は互角。

投げ物はミカが一つ残している。

相手の位置は、おおよそ把握済み。


実況音声は切った。


観客の歓声もない。


ただ、試合の音だけが流れる。


足音。

リロード。

遠くで崩れる壁の音。

ミカのキャラが、壊れたショーウィンドウの奥で息を潜める。


画面の中のミカは、待っていた。


相手が動く。


ミカは音を置く。


右側に小さな音を出し、相手の意識をそちらへ寄せる。


次に、左側へ影を見せる。


相手がわずかに角度を変える。


ここまでは、ミカの狙い通り。


レナが打った。


この音の置き方、嫌だね。

相手からすると見たい場所が増える。


ユイ。


ただし、この時点で相手の選択肢はまだ三つ残っています。

右確認、左確認、中央維持。


ミカは頷いた。


自分でも、そこまではわかっている。


NoName。


ここで止めてください。


ミカは映像を止めた。


画面の中で、ミカのキャラはまだ動いていない。


NoNameが打つ。


ここです。


ミカ。


ここ?


NoName。


はい。

ここで、星野ミカさんはすでに勝ちに行く準備をしています。


ミカは眉を寄せた。


それは、悪いことですか?


NoName。


悪くありません。

ただし、準備が一つしかありません。


ユイがすぐに反応した。


勝ち筋が単線になっている、という意味ですか。


NoName。


はい。


ミカは画面を見つめた。


自分の中では、十分に選択肢を持っていたつもりだった。


相手が右を見れば左から刺す。

左を見れば中央を通す。

中央維持なら投げ物で動かす。


そう考えていた。


だから、単線と言われるのは少し納得がいかなかった。


私は三択持っていたつもりです。


NoName。


形は三択です。

でも、目的は一つです。


レナ。


どういうこと?


NoName。


全部、最終的に自分が撃って勝つ形に向かっています。


ミカは息を止めた。


当たり前だと思った。


FPSなのだから。


最後は撃って勝つ。


それの何が悪いのか。


NoName。


星野ミカさんは撃ち勝つ力が高い。

だから、最後に撃ち合う形へ持っていくのが上手い。

ですが、この場面では撃たずに勝つ形も残すべきでした。


ミカは黙った。


撃たずに勝つ。


レナが横から入る。


相手を動かして自滅させるってこと?


NoName。


近いです。


ユイ。


相手の残り時間と安全地帯の位置を考えると、ミカさんが無理に詰めなくても、相手に先に動かせる選択肢があったはずです。


NoName。


はい。


ミカは映像を巻き戻し、マップを拡大した。


残り時間。


安全範囲。


相手の位置。


自分の投げ物。


今なら見える。


確かに、自分から刺しに行かなくてもよかった。


相手に先に動かせる形はあった。


でもあの時は、見えていなかった。


いや、違う。


見えていたのに、選ばなかった。


撃って勝つ形が、一番自分らしいと思ったから。


ミカは唇を噛んだ。


NoName。


続きを。


映像が動き出す。


ミカは右に音を置く。


相手が反応する。


左に影を見せる。


相手がほんのわずかに硬直する。


その瞬間、ミカは前に出た。


会場が沸いた場面。


世界中が息を呑んだ場面。


レナが短く打つ。


ここ、速い。


ユイ。


踏み込みの角度も良いです。

相手からすると、見えた瞬間には照準調整が必要になる。


ミカは少しだけ安心した。


やっぱり、この動きは悪くない。


そう思った直後、NoNameが言った。


ここが遅いです。


ミカは画面を止めた。


遅い?


レナも反応する。


これ遅いの?かなり速くない?


NoName。


操作は速いです。

決断が遅い。


ユイ。


動き始める前の迷いですか。


NoName。


はい。


ミカは映像をコマ送りした。


自分のキャラは、ほんの一瞬だけ止まっている。


本当に一瞬。


普通の人なら気づかない。


実況も、解説も、誰も触れていなかった。


でも、NoNameはそこを見ている。


ミカ自身にも覚えがあった。


あの瞬間。


行くか。


まだ待つか。


相手は釣れているか。


この角度で足りるか。


ほんの少しだけ迷った。


その迷いを、世界大会の相手は咎められなかった。


だから勝った。


でもNoNameなら。


その一瞬で撃ち抜かれる。


ミカは背筋が冷たくなった。


NoName。


あなたは正しい判断を探してから動きました。

本来は、動きながら正しさを作る場面です。


ミカ。


動きながら、正しさを作る。


NoName。


はい。

最初から正解を選ぶのではなく、動いた後に相手の不正解を増やす。


ユイが打つ。


盤面の固定ではなく、移動中に相手の選択肢を濁らせる、ということですね。


NoName。


そうです。


レナ。


難しい言い方だけど、要は殴りながら相手の選択肢を壊せってこと?


NoName。


黒瀬レナさんの場合はそれが近いです。


レナ。


私の場合はって何。


NoName。


人によって理解しやすい表現が違います。


ミカは画面を見つめた。


動きながら正しさを作る。


それは、今までの自分に足りなかった感覚だった。


ミカは撃つのが上手い。


それは自覚している。


だから、撃つ前に勝てる状況を作ろうとする。


撃ったら勝てる。


そこまで持っていく。


でもNoNameは、もっと前を見ている。


撃つ前に勝てる状況を作るのではない。


撃つために動く過程で、相手の負けを増やす。


ミカはノートに書いた。


動きながら正しさを作る。


レナが打つ。


今ミカ、メモしてそう。


ミカは驚いた。


してます。


レナ。


やっぱり。


ユイ。


私もしています。


レナ。


真面目組。


NoName。


良いことです。


レナ。


私も今からする。


ミカは笑った。


少し緊張が抜けた。


でも映像はまだ終わっていない。


最後の瞬間。


ミカが撃つ。


弾は相手の頭部を捉える。


勝利。


画面が白く光る。


世界大会を決めた一撃。


ミカは何度見ても、少しだけ胸が熱くなる。


レナが打った。


やっぱここはかっこいい。


ユイ。


撃つ精度、タイミング、角度は素晴らしいと思います。


ミカは嬉しかった。


素直に嬉しい。


NoNameは少し間を置いた。


最後の射撃は良いです。


ミカは画面の前で固まった。


師匠に褒められた。


ちゃんと。


最後の射撃は良いです。


短い。


でも、NoNameの言葉としては最大級に近い。


ミカは思わず返信した。


ありがとうございます。


NoName。


ただし。


レナ。


出た。


ユイ。


来ますね。


ミカ。


来ましたね。


NoName。


勝った瞬間、あなたは相手を見なくなっています。


ミカは眉を寄せた。


勝った瞬間?


映像は勝利表示で終わっている。


相手は倒れている。


見る必要はないはずだ。


ミカ。


どういう意味ですか。


NoName。


弾が当たった瞬間、あなたの意識は勝利に移っています。

相手の最後の選択、敗因、次に同じ相手がどう修正するかを見ていません。


ユイが少し間を置いて打った。


勝利後の情報回収が浅い、ということですか。


NoName。


はい。


レナ。


勝った後くらい喜ばせてやれよ。


NoName。


喜ぶことは否定していません。

ただ、強くなる人は勝った瞬間にも情報を拾います。


ミカは何も言えなかった。


勝った瞬間。


ミカは確かに、すべてが終わったと思った。


世界一になったと思った。


歓声が聞こえた。


手が震えた。


頭が真っ白になった。


でもNoNameは、その瞬間にも相手を見ると言っている。


勝った相手が、なぜ負けたのか。


次にどう直してくるのか。


同じ状況になった時、今度は何を選ぶのか。


そこまで見る。


ミカは自分が世界王者になった瞬間を思い出した。


あの時、自分は勝利に飲まれていた。


それは悪いことではない。


でも、NoNameに勝つには足りない。


ミカはノートに書いた。


勝った瞬間にも相手を見る。


ペンを持つ手が少し震えた。


ユイが打つ。


これは、私にも刺さります。

勝った後、盤面の完成度に意識が向いて、相手がなぜそこへ誘導されたのかを見落とすことがあります。


レナ。


私もある。

勝った時、相手が折れた顔を見るの好きだから、次の修正までは見てない。


ミカ。


レナさん、言い方。


レナ。


事実。


NoName。


黒瀬レナさんは、相手が折れる瞬間を見るのが強みでもあります。

ただし、それを楽しんだ後の情報整理が遅いです。


レナ。


また刺してきた。


ユイ。


公平に全員刺されますね。


ミカは笑った。


本当にそうだ。


NoNameは誰か一人を特別扱いしない。


ミカだけでもない。

ユイだけでもない。

レナだけでもない。


全員を見ている。


全員に厳しい。


全員を、まだ強くなる相手として扱っている。


それが少し悔しくて、少し嬉しい。


検証は続いた。


最終ラウンドだけではない。


その前のラウンド。

準決勝。

グループステージ。

ミカが危なかった場面。

逆転した場面。

勝ったけれど、内容が悪かった場面。


NoNameは細かく止めた。


ユイは盤面を言語化した。


ミカさんはこの地点で相手の侵入経路を二つに絞っていますが、三つ目を捨てる理由がやや感覚的です。


レナは感情と圧を見る。


この相手、ここで嫌がってる。

ミカが前に出た瞬間、守りたいって顔してる。

そこ押したのは正解。


ミカは自分の試合なのに、知らないものを見せられている気がした。


自分の強み。

自分の癖。

自分の迷い。

自分が勝った理由。

自分が負けかけた理由。


全部が剥がされていく。


恥ずかしい。


悔しい。


でも、面白い。


気づけば一時間の予定は、二時間を超えていた。


七瀬さんは途中で諦めて、ソファで資料を読んでいる。


たまにこちらを見ては、世界王者って大変だな、という顔をしていた。


NoNameが言った。


今日はここまでです。


レナ。


まだいける。


ユイ。


私も、あと一試合分なら。


ミカ。


私も大丈夫です。


NoName。


全員、判断の質が落ち始めています。


レナ。


またそれ。


NoName。


ここから先は、疲れた状態で自分の弱点を見て、必要以上に落ち込みます。


三人は黙った。


妙に具体的だった。


ユイが少し遅れて返す。


経験があります。


ミカ。


あります。


レナ。


……ある。


NoName。


なので、ここまでです。


ミカは反論できなかった。


悔しいけれど、正しい。


NoNameは最後にまとめた。


星野ミカさんの課題は三つです。


一つ。

撃って勝つ形に寄せすぎないこと。


二つ。

正しい判断を探して止まるのではなく、動きながら相手の不正解を増やすこと。


三つ。

勝った瞬間にも、相手の次を見続けること。


ミカはその三つを、ノートに丁寧に書いた。


撃って勝つ形に寄せすぎない。

動きながら相手の不正解を増やす。

勝った瞬間にも相手の次を見る。


書き終えた時、胸の中が少し軽くなっていた。


世界大会の勝利が否定されたわけではない。


むしろ逆だ。


勝ったからこそ、次の負けを見られる。


勝利をゴールにしないために。


NoNameは、勝った試合の中に負けを見せてくれた。


ミカはディスコードに打った。


師匠。


NoName。


はい。


ミカ。


私、まだ強くなれますか。


送ってから、少し恥ずかしくなった。


前にも似たことを聞いた気がする。


でも、今聞きたかった。


NoNameの返事は少し遅れた。


強くなれます。


ミカは息を止めた。


その後に、もう一文。


ただし、世界一になった自分を守ろうとしなければ。


ミカは画面を見つめた。


世界一になった自分を守る。


それは、怖い言葉だった。


優勝した自分。

称賛された自分。

世界女王と呼ばれる自分。


それを守ろうとすると、弱くなる。


負けを見られなくなる。


ミスを認められなくなる。


勝った試合の中にある負けを、なかったことにしてしまう。


ミカはゆっくり息を吐いた。


わかりました。


本当にわかったかどうかは、まだわからない。


でも、少なくとも逃げたくはなかった。


レナが打った。


次は私の番な。


ユイ。


その前に、私のレイドログも共有予定です。


レナ。


順番決めよう。


ミカ。


明日はユイさんで、その次がレナさんとか?


NoName。


良いと思います。


レナ。


じゃあ明日はユイ。

明後日は私。

その次はNoNameの負け試合。


チャットが止まった。


ミカも止まった。


ユイも、たぶん止まった。


NoNameの負け試合。


その発想はなかった。


レナが続ける。


私たちだけ晒されるの不公平でしょ。

あんたの負けも見せなよ。


ミカは画面を見つめた。


NoNameの負け。


あるのだろうか。


ユイが静かに打つ。


興味があります。


ミカも、少し迷ってから打った。


私も、見たいです。


NoNameからの返事は、すぐには来なかった。


一秒。


二秒。


三秒。


昨日よりも長く感じた。


そして、返事が来た。


あります。


ミカの心臓が跳ねた。


NoNameにも、負け試合がある。


当たり前だ。


当たり前なのに、想像できなかった。


レナ。


じゃあ見せて。


NoName。


今はまだ駄目です。


レナ。


なんで。


NoName。


三人には、まだ見ても意味がありません。


レナ。


腹立つ。


ユイ。


つまり、見るために必要な前提があるということですね。


NoName。


はい。


ミカ。


いつか見せてくれますか。


また少し間があった。


NoName。


必要になれば。


レナ。


絶対見せろよ。


NoName。


必要になれば。


レナ。


言い方。


ミカは少し笑った。


でも胸の奥には、新しい火が灯っていた。


NoNameの負け試合。


それは、NoNameにも届かなかった相手がいるということなのか。


それとも、NoNameが今のNoNameになる前の記録なのか。


わからない。


でも、見たい。


NoNameを知りたい。


勝つために。


追いつくために。


そして少しだけ、それ以外の理由でも。


NoNameが最後に打った。


今日は解散です。

星野ミカさんは、会見と検証で疲れています。

月城ユイさんは、昨日の睡眠が足りていません。

黒瀬レナさんは、感情がまだ高いです。


レナ。


最後の何。


NoName。


事実です。


レナ。


腹立つ。


ユイ。


私は否定できません。


ミカ。


私もです。


NoName。


では、休んでください。


三人は渋々了承した。


ユイが退出し、レナが退出し、最後にNoNameがオフラインになった。


ミカはしばらく画面を見つめていた。


七瀬さんが近づいてくる。


終わった?


終わりました。


どうだった?


ミカはノートを見た。


びっしりと書かれた文字。


自分の弱点。

NoNameの言葉。

ユイの分析。

レナの感覚。


そして最後に、自分で大きく書いた一文。


世界一になった自分を守らない。


ミカは小さく笑った。


世界一になったのに、昨日より課題が増えました。


七瀬さんは少し呆れたように笑う。


それ、嫌じゃないんだ?


はい。


ミカはトロフィーを見た。


昨日は、そこに到達したと思っていた。


今日は、それがスタート地点に見えた。


世界大会優勝。


それは確かに大きな勝利だ。


でも、その勝利の中にも負けはあった。


それを見つめられるなら、まだ強くなれる。


ミカはノートを閉じた。


明日は、月城ユイの番。


盤面の女王が、どんな負けを持ってくるのか。


その時、自分は何を見ることができるのか。


少し怖い。


でも、それ以上に楽しみだった。


星野ミカは世界一になった。


けれど今夜、彼女は初めて、自分の勝利を疑うことを覚えた。


それは敗北ではない。


もっと強くなるための、最初の一歩だった。

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