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世界女王は、彼にだけ勝てない  作者: てへろっぱ


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30/42

第三十話 戻る場所ではなく、次の一歩を



三十分間。


試合のことを考えない。


NoNameから出された指示は、この日で一番難しいものだった。


星野ミカは控室のソファに座り、二つ目のチョコレートを口に入れた。


甘い。


先ほど食べたものと同じ味。


けれど、今度はゆっくり味わえた。


目の前のモニターには、別の試合が映っている。


音量は切られている。


画面を見れば、また戦術を考えてしまう。


だからミカは、意識して視線を外した。


代わりに見るのは、自分の靴。


何度も結び直した靴紐。


手元のノート。


閉じたままの表紙。


そして、隣で辛いスナックを食べているレナ。


レナは一枚食べるたび、少しだけ顔をしかめていた。


ミカ。


辛すぎませんか?


レナ。


辛い。


ミカ。


では、なぜ食べるんですか?


レナ。


勝った後だから。


ミカは少し考えた。


答えになっているようで、なっていない。


反対側では、ユイが紅茶を飲んでいる。


いつもなら、すでに次の相手について資料を広げているはずだ。


だが今日は、何も開いていない。


両手でカップを持ち、静かに湯気を見ている。


レナ。


ユイ。


ユイ。


はい。


レナ。


今、Aegisのこと考えてる?


ユイは少しだけ黙った。


ユイ。


二割ほど。


レナ。


考えてるじゃん。


ユイ。


残り八割は、考えないようにしています。


ミカ。


それは成功なんですか?


ユイ。


通常よりは。


三人は少し笑った。


完全に考えないことはできない。


次の試合まで、一時間。


相手はAegis。


言葉を使わず。


迷わず。


感情が動く前に盤面を終わらせる三人。


頭から消す方が難しい。


それでも、三十分だけは離れる。


勝ったこと。


疲れていること。


甘いものが美味しいこと。


辛いものが辛いこと。


紅茶が少し冷めてきたこと。


そういう普通の時間へ戻る。


ミカは、ふと思った。


戻る場所。


それはゲームの中では固定しない方がいい。


Aegisには先に奪われる。


でも、ゲームの外なら。


こういう場所があってもいい。


三人で何も考えずに座る場所。


戦術も。


勝敗も。


肩書きも。


少しだけ置いておける場所。


レナが三枚目の辛いスナックを食べて言った。


レナ。


ミカ、チョコ一個ちょうだい。


ミカ。


辛いものを食べているのに?


レナ。


口の中が痛い。


ミカは一つ渡した。


レナは受け取り、すぐに食べる。


レナ。


甘い。


ミカ。


チョコレートなので。


ユイ。


当然ですね。


レナ。


二人とも冷たくない?


三人はまた笑った。


その時。


控室の時計が、ちょうど三十分を示した。


ディスコードに通知が来る。


NoName。


戻りました。


三人は、ほぼ同時にスマホを見た。


ミカの胸が少し温かくなる。


約束通り。


三十分後。


NoNameは戻ってきた。


レナ。


時間ぴったり。


ユイ。


おかえりなさい。


ミカ。


おかえりなさい、師匠。


NoNameの返事は少し遅れた。


NoName。


ただいま。


三人が黙った。


レナの手に持っていたスナックが止まる。


ユイのカップも。


ミカも画面を見つめた。


ただいま。


NoNameが、自分から言った。


今まで、三人に言われて返したことはあった。


だが今回は違う。


戻りました。


おかえりなさい。


ただいま。


普通のやり取り。


それなのに。


NoNameが自分の戻る場所を認めたように見えた。


レナ。


ノー、今ただいまって言った。


NoName。


言いました。


ユイ。


自覚的に?


NoName。


はい。


ミカは少しだけ笑った。


師匠が戻ってきた。


三十分間。


映像を確認し続けず。


一度離れて。


三人との通話に戻ってきた。


それだけで、今から始まる確認が少し違って感じられる。


NoName。


では、Aegis戦の確認を始めます。


レナ。


急にいつものノー。


NoName。


残り二十分なので。


ユイ。


お願いします。


三人はテーブルへ集まった。


ミカはノートを開く。


レナは辛いスナックを横へ置く。


ユイは紅茶を飲み切り、端末を起動した。


モニターにAegisの直前試合が表示される。


六分間。


ほぼ完勝。


相手へ考える時間を与えない。


NoNameは、最初に映像を止めた。


Aegisの三人が、同時に中央へ入る場面。


NoName。


Aegisが速く見える理由を確認します。


ユイ。


事前共有量です。


NoName。


はい。

ただし、それだけではありません。


ミカは画面を見る。


Aegisの一人が左へ射線を置く。


一人が中央。


一人が右。


まるで最初から、相手の動きがわかっているようだった。


NoName。


Aegisは、相手を見てから最善手を選んでいるわけではありません。


レナ。


見る前に動いてる。


NoName。


はい。

一定の条件が見えた時点で、三人とも同じ答えへ入ります。


ユイ。


条件反射に近い共有。


NoName。


はい。


Aegisは迷わない。


相談しない。


誰かの指示を待たない。


相手が左高所へ入る。


その瞬間、三人が決まった動きをする。


射線を切る。


退路を閉じる。


中央を取る。


判断が速いのではない。


同じ条件に、同じ答えを持っている。


NoName。


CrownlessがAegisの真似をすれば、負けます。


レナ。


共有量が足りないから。


NoName。


それもあります。

もう一つは、三人の強みが違うからです。


ミカ。


違う答えを持っていることが、私たちの強み。


NoName。


はい。


ミカが撃ちたい。


ユイが整えたい。


レナが殴りたい。


三人は、同じ場面でも違うものを見る。


これまでは、それを弱点だと思っていた。


判断が割れる。


噛み合わない。


誰かの正しさを証明したくなる。


だがRogue戦で、三人は違う判断を託し合った。


違うものが見えているからこそ。


一つの勝ち筋だけに縛られなかった。


NoName。


Aegisは、見えている状況が正しい間は非常に強いです。


ユイ。


状況が変われば?


NoName。


対応します。

それも速いです。


レナ。


弱点なくない?


NoName。


あります。


映像が進む。


相手チームの一人が、中央へ行くと見せて右へ変える。


Aegisは、その瞬間に全員の配置を変えた。


速い。


ほとんど遅れがない。


だがNoNameは、そこをもう一度再生した。


NoName。


今、Aegisは全員が同時に答えを変えました。


ミカ。


はい。


NoName。


つまり、一人だけ別の答えを選びません。


ユイの目が少し細くなる。


ユイ。


全員が同じ正解へ動く。


NoName。


はい。


レナ。


それが弱点?


NoName。


状況によります。


NoNameは映像を止める。


Aegisの三人が、全員同じ方向へ重心を移した瞬間。


NoName。


Aegisの三人へ同じ状況を見せれば、同じ答えが返ってきます。


ミカ。


その答えを読める。


NoName。


はい。


ユイ。


偽の状況を見せる?


NoName。


いいえ。


ユイが少し驚く。


NoName。


嘘を見せようとすると、Crownless側が遅れます。

三人で嘘の形を完成させる必要があるためです。


レナ。


じゃあどうするの。


NoName。


本当の状況を見せます。


ミカ。


本当の?


NoName。


はい。

ただし、その状況を一秒後まで維持しません。


三人が黙る。


NoNameは続けた。


NoName。


ミカさんが左高所へ行く。

それは本当です。


ミカ。


はい。


NoName。


Aegisは左高所への対応を始めます。


ユイ。


その瞬間、ミカさんが戻る?


NoName。


戻りません。


レナ。


じゃあどこ行くの。


NoName。


まだ決めません。


レナ。


決めないの?


NoName。


はい。


ミカは少し混乱した。


左高所へ行く。


Aegisが対応する。


その後、どこへ行くかは決めない。


本番で、その場で選ぶ。


Aegisの速さへ対抗するのに。


事前に決めない。


逆のように思える。


ユイは、少しずつ理解したようだった。


ユイ。


Aegisは、ミカさんが左高所へ行ったという事実に対して動く。


NoName。


はい。


ユイ。


その事実が一秒後に消えても、最初の一歩はすでに出ています。


NoName。


良いです。


レナ。


こっちは、その一歩見てから次決める?


NoName。


はい。


レナ。


遅くない?


NoName。


Aegisよりは遅いです。


レナ。


駄目じゃん。


NoName。


最初の判断は遅いです。

ですが、Aegisは一度全員で同じ方向へ動いています。


ミカ。


動き直す距離が長くなる。


NoName。


はい。


Aegisは、事前共有によって最初の一歩が速い。


だが全員が同じ正解へ動く。


その正解が一秒後に変われば。


全員が同時に動き直す。


Crownlessは最初の一歩で遅れる。


代わりに、三人が別々の場所を見ている。


だから、変化した後の選択肢が多い。


ユイ。


Aegisより先に答えを出すのではなく、Aegisが出した答えの外へ進む。


NoName。


はい。


ミカはノートに書く。


Aegisより速くならない。

Aegisの答えの外へ進む。


レナ。


それで、戻る場所じゃなく進む先?


NoName。


はい。


画面にマップが表示される。


左。


中央。


右。


地下。


高所。


資源端末。


NoName。


Crownlessは、これまで戻る位置を共有してきました。


ミカ。


左高所。中央後方。右入口。


NoName。


はい。

Aegisは、その位置へ入る前に道を潰します。


ユイ。


だから、固定した戻り場所は作らない。


NoName。


はい。


レナ。


じゃあ、何共有する?


NoName。


次の一歩です。


ミカは画面を見る。


次の一歩。


NoName。


今いる場所ではありません。

最終的に行きたい場所でもありません。

次にどちらへ一歩動くかだけを共有してください。


ユイ。


左。中央。右。前。後ろ。


NoName。


その程度で構いません。


レナ。


一歩だけ?


NoName。


はい。

二歩先を決めると、Aegisに読まれます。


ミカ。


三人とも違う一歩でもいいんですか?


NoName。


違う方が良い場面もあります。


三人が同じ方向へ進む必要はない。


一人が左。


一人が中央。


一人が右。


ただし、ばらばらになるのではない。


互いの次の一歩を知っている。


その一歩の後。


また次を決める。


戻る場所ではなく。


進む方向を、小さく共有し続ける。


ユイ。


Aegisは一つの状況に対して、三人で同じ答えへ進む。


NoName。


はい。


ユイ。


Crownlessは、一つの状況に対して、三つの一歩を置く。


NoName。


良いです。


レナ。


その中から、噛み合うやつ使う。


NoName。


はい。


ミカ。


でも、判断が遅れませんか?


NoName。


遅れます。


NoNameは否定しなかった。


NoName。


なので、言葉は一つだけです。


ミカ。


次。


NoName。


はい。


誰かが次、と言う。


その後、三人が一語だけ出す。


左。


中央。


右。


前。


後ろ。


止まる。


戻る場所を作るより短い。


理由も説明しない。


Aegisが最初の答えを出した後。


Crownlessが次の一歩を出す。


NoName。


重要なのは、最も良い一歩を選ぶことではありません。


ユイ。


三人の一歩が、互いに見えていること。


NoName。


はい。


レナ。


変だったら止める?


NoName。


止めません。


レナ。


止めないの?


NoName。


一歩だけなので。

間違っても、次で変えられます。


ミカは少し驚いた。


今までは。


危険な判断を止めた。


撃ち急ぐミカを。


整えすぎるユイを。


突っ込むレナを。


でも次の一歩だけなら。


完全に止める必要はない。


一歩進ませる。


その一歩を見て、次を合わせる。


失敗しても。


戻るほど遠くへ行かない。


ユイ。


間違えないための共有ではなく、間違えても離れすぎないための共有。


NoName。


良いです。


ミカはその言葉も書いた。


間違えても、離れすぎない。


レナ。


練習できる?


NoName。


五分だけ。


レナ。


短い。


NoName。


残り時間がありません。


簡易練習ルームが開かれる。


相手はAegis型BOT。


Rogue型BOTのように煽らない。


開始と同時に、最短の正解へ動く。


一回目。


ミカが左高所へ向かう。


Aegis型BOT三体が即座に反応。


一体が射線を切る。


一体が中央。


一体がミカの退路。


速い。


ミカが高所へ入る前に、道が狭くなる。


以前なら。


戻る。


あるいは、無理に高所を取る。


NoName。


次。


ミカ。


中央。


ユイ。


右。


レナ。


前。


三つの一歩。


ミカは中央へ一歩。


ユイは右へ。


レナは前へ。


ばらばら。


一瞬、不安になる。


だが。


Aegis型BOTは、ミカの左高所へ対応する形を作っていた。


中央へ動いたミカの前が空く。


右へ動いたユイは、ミカの次の戻り道を見られる。


前へ出たレナが、BOTの一体を急がせる。


三つの一歩が繋がる。


ユイ。


次。


ミカ。


止まる。


ユイ。


中央。


レナ。


右。


ミカが止まる。


ユイが中央へ入り。


レナが右へ動く。


Aegis型BOTが再び同じ答えへ動く。


ユイへ対応。


その瞬間、止まっていたミカの射線が通る。


撃つ。


BOTが下がる。


レナが右から圧。


形が崩れる。


完璧ではない。


三人の位置も少し遠い。


だが、Aegis型BOTに最初から完成した答えを置かせなかった。


NoName。


良いです。

ただし星野ミカさん、最初の中央が二歩になっています。


ミカ。


すみません。


NoName。


謝罪は不要です。

次から一歩にしてください。


ミカ。


はい。


二回目。


ユイが中央後方へ行く。


Aegis型BOTが支援位置を潰す。


NoName。


次。


ミカ。


左。


ユイ。


止まる。


レナ。


後ろ。


ユイが止まる。


支援を置かない。


ミカが左へ。


レナが後ろへ。


一見、弱い。


前への圧が消える。


だがAegis型BOTは、ユイが中央を作る前提で動いている。


ユイが何もしないことで、三体の初動が過剰になる。


ミカが左から見える。


レナが一度下がり、別の入口を取る。


ユイ。


次。


ミカ。


前。


ユイ。


左。


レナ。


中央。


三人が進む。


今度は場所が入れ替わる。


ミカが前。


ユイが左。


レナが中央。


誰の役割か、一瞬ではわからない。


だが、それぞれ一歩だけ。


離れすぎない。


Aegis型BOTは答えを変える。


全員がレナの中央へ反応。


ミカが前から射線。


ユイが左へ支援。


レナは中央で殴らず、止まる。


BOTの判断が初めて遅れた。


ほんの一瞬。


だが、Aegis戦ではその一瞬が必要になる。


三回目。


レナが右地下へ向かう。


Aegis型BOTが入口を潰す。


NoName。


次。


レナ。


前。


ユイ。


前。


ミカ。


前。


三人とも前。


同じ一歩。


レナが笑った。


レナ。


揃った。


三人が一斉に前へ出る。


Aegis型BOTも対応。


正面衝突。


Crownlessが不利。


NoName。


中断。


ルームが止まる。


レナ。


駄目だった。


NoName。


一歩が同じことは問題ありません。

三人とも、同じ理由で前を選んだことが問題です。


ユイ。


Aegisと同じ答えになった。


NoName。


はい。


ミカ。


三人とも、入口を取り返そうとしました。


レナ。


前行けば押せると思った。


ユイ。


私も、同じです。


NoName。


それではAegisの方が速いです。


三人が同じものを見て。


同じ答えを出した。


それは、Crownlessの強みを消す。


NoName。


次の一歩を共有する目的は、揃えることではありません。


ミカ。


違うものを見たまま、離れすぎないこと。


NoName。


はい。


練習終了。


わずか五分。


完璧ではない。


むしろ、不安が増えた。


次。


一歩。


違う方向。


揃えない。


戻る場所は作らない。


本番直前に使うには、あまりに未完成。


だがNoNameは言った。


NoName。


完成させないでください。


ユイ。


はい。


NoName。


完成させようとすれば、Aegisの劣化版になります。


レナ。


未完成のまま行くんだ。


NoName。


はい。


ミカ。


怖いです。


NoName。


正常です。


残り十分。


三人は立ち上がった。


機材調整。


移動。


ステージへ。


控室を出る前、ユイが一度だけ振り返った。


テーブル。


空になった紅茶のカップ。


ミカのチョコレート。


レナの辛いスナック。


三人が休んでいた場所。


戻る場所。


だが、次の試合ではそれを持ち込まない。


ユイ。


行きましょう。


ミカ。


はい。


レナ。


行く。


三人は会場へ向かった。


廊下の先から、観客の声が聞こえる。


Crownless。


Aegis。


次の対戦を待つ熱。


ステージへ出ると、すでにAegisの三人が座っていた。


無駄な会話はない。


表情も静か。


機材確認も終わっている。


こちらを挑発しない。


Rogueのように笑わない。


ただ、準備ができている。


ミカは席に座った。


ユイも。


レナも。


ヘッドセットを付ける。


ディスコード。


四人の表示。


Hoshino_Mika

Tsukishiro_Yui

Kurose_Rena

NoName


NoName。


見ます。


ミカ。


はい。


ユイ。


お願いします。


レナ。


今度も逃げずに見てろ。


NoName。


見ています。


試合前。


実況が両チームを紹介する。


Rogueとの激戦を制したCrownless! 対するは、圧倒的な完成度で勝ち上がったAegis!


解説。


非常に対照的です。Crownlessは試合中に役割を変え、崩れても戻る。Aegisは事前共有された判断で、崩れる前に相手を終わらせます。


ミカは深く息を吸った。


戻る場所を作らない。


次の一歩だけを見る。


試合開始。


三。


二。


一。


開始。


ミカは左高所へ向かった。


いつもの初動。


Aegisは即座に動く。


一人がミカの射線を切る。


一人が中央へ入る。


一人が左高所からの退路を潰す。


速い。


練習のBOTより速い。


ミカが高所へ届く前に、道が消える。


同時に。


ユイが中央後方へ支援を置こうとした場所へ、Aegisの射撃が入る。


レナが右地下へ向かう入口には、すでに相手がいる。


三人の初動が、すべて止められた。


試合開始から、わずか四秒。


実況が声を上げる。


Aegis、完璧な初動! Crownlessの得意位置をすべて先回りしています!


ミカの胸が冷える。


速い。


わかっていた。


でも、想像以上。


戻る場所を作る時間はない。


危険ワードを出す時間すら惜しい。


ユイが言った。


ユイ。


次。


ミカ。


中央。


ユイ。


止まる。


レナ。


前。


三つの一歩。


ミカは中央へ。


ユイは止まる。


レナは前へ。


Aegisが即座に答えを変える。


今度はミカの中央へ二人。


レナの前へ一人。


ユイは止まっている。


支援なし。


ミカ。


次。


ミカ。


右。


ユイ。


左。


レナ。


止まる。


三人がまた動く。


右。


左。


止まる。


Aegisもまた変わる。


速い。


一歩ずつ。


Crownlessも崩れてはいない。


だが。


中央制圧率が、すでにAegis側へ上がり始めている。


十パーセント。


十五。


二十。


Crownlessは、次の一歩を選んでいる。


Aegisは、その間に勝利条件を進めている。


レナ。


速すぎる。


ユイ。


まだ戻らないでください。


ミカ。


戻る場所はありません。


ユイ。


はい。


二十五パーセント。


Aegisは、Crownlessの三つの一歩へすべて対応してくる。


同じ答えだけではない。


誰がどこへ動いても。


最も正確な一手を置く。


NoNameは何も言わない。


試合中だから。


三人で見る。


ミカはAegisの動きを見る。


速い。


正しい。


無駄がない。


だが。


三人とも、同じ瞬間に動いている。


ユイ。


次。


ミカ。


止まる。


ユイ。


止まる。


レナ。


止まる。


今度は、三人とも止まった。


会場がどよめく。


実況。


Crownless、全員が停止! 中央制圧を許している状況で、動きません!


Aegisは動いた。


ミカの次へ対応する一人。


ユイの次へ対応する一人。


レナの次へ対応する一人。


三人とも。


存在しない次の一歩へ向かって、一歩を出した。


ほんの一瞬。


Aegisの三人が、空いた場所へ動いた。


ミカの前に、射線が一本通る。


ユイの前に、中央へ入る道ができる。


レナの前に、誰もいない近距離が生まれる。


ユイ。


今です。


ミカ。


前。


ユイ。


前。


レナ。


前。


三人が同時に踏み込む。


今度の前は。


同じ理由ではない。


ミカは射線へ。


ユイは中央へ。


レナは相手の判断の隙へ。


三つの違う前。


Aegisが初めて、動き直した。


一瞬だけ遅れる。


ミカが撃つ。


足元。


一人を動かす。


ユイが中央へ支援を置く。


完成させない。


一秒だけ居られる場所。


レナが前へ出る。


殴らない。


Aegisの一人へ、次の判断を急がせる。


中央制圧率が止まる。


Aegis、二十八パーセント。


Crownless、ゼロ。


大きく負けている。


それでも。


初めて止めた。


実況が叫ぶ。


Crownless、ここでAegisの進行を止めました! 三人全員が一度止まり、Aegisの先回りを空振りさせています!


解説。


ただし、まだAegisが大きく有利です。Crownlessはこの形を続けられるか!


Aegisの三人は表情を変えない。


すぐに次の正解へ入る。


一人がミカの射線を切る。


一人がユイの未完成を潰す。


一人がレナの圧から下がる。


再び。


正確な三つの動き。


ユイ。


次。


ミカ。


左。


ユイ。


後ろ。


レナ。


中央。


Crownlessも動く。


一歩。


次の一歩。


また一歩。


戻る場所はない。


完成した形もない。


間違えない保証もない。


ただ。


三人がどこへ進むかだけは、互いに知っている。


Aegisは速い。


Crownlessは遅い。


Aegisは正しい。


Crownlessは未完成。


それでも。


正しい答えの外側に。


まだ、Crownlessの進める一歩が残っていた。


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