表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女装探偵  作者: 相澤 沁
5/72

守護者として3

事務所のインターホンが鳴ったのは、夕暮れ時の6時過ぎだった。

佐藤健一はデスクで書類を整理中。

高木悠斗は隣の部屋でコーヒーを淹れている。

ドアを開けると、そこに立っていたのは片桐仁。

いつもの穏やかな表情だが、今日はスーツの襟が少し乱れ、目元に疲労の色が濃い。

「突然すみません。…少し、時間をもらえますか?」

健一は椅子を勧め、仁を座らせた。

高木が無言でコーヒーを置く。

仁は深く息を吐いてから、切り出した。

「由香の件、本当にありがとうございました。あの後、警察が本腰を入れて動いてくれて、背後の組織もかなり摘発されたそうです。由香も今は普通に大学に通えてる。…全部、貴方達のおかげです。」

健一は軽く手を振った。

「依頼料はちゃんと振り込んでもらったし、それで十分ですよ。趣味でやってるだけですから」

仁は小さく首を振った。

「いや…十分じゃない。私は中規模とはいえ、大手製薬会社からの委託を受けてる会社、片桐ファーマシーの社長です。資金力はある。それに、娘を、由香を守ってくれた貴方達に、ただの依頼料で終わらせるのは…どうしても納得がいかない。」

健一の眉がわずかに上がる。仁は鞄から一枚の封筒を取り出した。

中には、簡潔にまとめられた提案書。

「探偵事務所『Guardean』のスポンサーになりたいんです。毎月の固定支援金を出させてください。金額は…これくらいでどうでしょう?」

封筒を開くと、そこに書かれた数字は、健一の予想を遥かに上回っていた。

100万円。

事務所の家賃、光熱費、人件費(高木の給料も含めて)を余裕で賄える額。

さらに、これが毎月ともなれば、装備の更新や車両の購入までカバーできる金額。

高木が後ろから覗き込んで、思わず口笛を吹いた。

「…片桐さん、これは本気ですか?」

仁は真剣な目で健一を見つめた。

「もちろん本気です。私はこれまで、警察や弁護士に頼っても、『証拠が足りない』『動けない』と言われ続けてきた。でも、あなたは違った。由香を守るために、女装してまで、危険を顧みず動いてくれた。そんな人に、ただの金で恩を返せるなんて思ってません。これからも…由香を、私の家族を守ってほしい。そして、あなたの『趣味』を、もっと自由に続けられるように協力したい!」

健一は封筒をじっと見つめ、しばらく黙っていた。やがて、ゆっくりと口を開く。

「…正直、嬉しいですよ。事務所を維持するのも楽じゃない。でも、条件があります。」

仁は身を乗り出した。

「スポンサー、つまり内部の人間となるなら、俺の『本当の姿』を誰にも言わないでください。表向きは『Guardean』は普通の探偵事務所。美穂の存在は極秘。それを厳守してください。」

仁は即座に頷いた。

「約束します。由香にも、絶対に口外しないよう言い聞かせてあります。彼女はもう、美穂さんを『特別な友達』として慕ってるだけです。」

健一は小さく笑った。

「じゃあ、決まりですね。これからも、よろしくお願いします。」

仁は立ち上がり、深く頭を下げた。

「こちらこそ。これからも…よろしくお願いします。」

仁が帰った後、事務所は静かになった。高木がニヤニヤしながら近づく。

「これで装備が豪華になるな。隠しカメラの最新型とか、ドローンとか…あと、美穂ちゃんの衣装も増やせそう。」

健一はデスクに肘をつき、ため息混じりに呟いた。

「…スポンサーか。なんか、急に本格的になっちまったな。」

高木は肩をすくめた。

「でも、悪くないだろ?由香ちゃんみたいな依頼人が増えるかもよ。」

健一は窓の外を見た。

夕陽が沈み、街の灯りが点り始める。

「…そうだな。次はどんな依頼が来るかな」

クローゼットの奥で、青いリボンが静かに揺れていた。

いつものように、健一の次の「趣味」を待っている。

佐藤美穂は、心の中で小さく微笑んだ。

可愛い顔で、少しだけ、未来を楽しみにする目で。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ